“A View to A Kill” はそれ自体では意味をなさない。これは原作小説のタイトルが “From a View to a Kill” だったのを、映画化にあたって語呂が悪いと頭の From を取ってしまったため。ところが困ったのは、007シリーズでは「台詞の中で映画のタイトルを必ず一度は誰かが言う」という伝統があること。そこで飛行船に乗ったゾーリンとメイデイがサンフランシスコ湾を一望のもとに見下ろすシーンで、メイデイが「What a view!(なんて素晴らしい眺めなんだ)」とつぶやくと、横からゾーリンが不気味に「To a kill...(殺戮のね…)」とフォローするという、苦心の脚本になっている。 主題歌「A View to A Kill」は、これまでのボンド映画の音楽のほぼすべてを担当してきたベテランのジョン・バリーと、1980年代のロックシーンを一世風靡したデュラン・デュランのコラボレーションによる。そのため従来のボンド主題歌とは一風趣が異なり、ユーロロックやニューロマンティックの要素を取り入れたポップ調になっている。公開時は賛否両論だったが、様々な名主題歌がひしめくボンド映画の中で、全米ポップチャート第一位に輝いたのは意外にもこの「A View to A Kill」のみで、結果的にこの新しい試みは大成功となった。 オープニングのシベリアにおけるアクション・シーンは、実際はアイスランドと、スイスのピッツ・バリュ氷河で撮影された。 スキー・アクションを監督したのは、『女王陛下の007』、『私を愛したスパイ』、『ユア・アイズ・オンリー』のスキー・シーンにも携わったウィリー・ボグナー(Jr.)。 ボンドは、壊れたスノーモービルのスキーをスノーボード代わりに利用する。当時、スノーボードは前述の通りスノーサーフィンと呼ばれ、一般にはポピュラーではなかった。このシーンは、バックにギデアパークのカバーしたザ・ビーチボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』が流され、劇場では笑いが湧き起こった。 ボンドはオーベルジン探偵とエッフェル塔展望台のレストランで会食するが、エッフェル塔展望台には実際に「ジュール・ヴェルヌ」というレストランがある。 オーベルジンを殺害し、エッフェル塔からパラシュートでダイビングしたメイデイを、ボンドはルノー11のタクシーを奪い、セーヌ川沿いに追跡する。 メイデイは、アンヴァリッド橋を過ぎたあたりでバトー・ムッシュ(セーヌ川クルーズ船)上に降下。追いついたボンドは、アレクサンドル3世橋の上から、この船に飛び降りる。 ゾーリンのシャトーは、シャンティイ城で撮影。 ボンドとチベット卿の乗るロールス・ロイス・シルバークラウド?は、プロデューサー、ブロッコリの車が使われた。 ゾーリンの飛行船は、イギリスのエアシップ・インダストリー製、スカイシップ6000。終盤に登場する小型飛行船は、同じくスカイシップ500。 サンフランシスコに着いたボンドは、CIAのチャック・リーとフィッシャーマンズワーフで落ち合う。 ゾーリンの採油所は、サンフランシスコ近郊リッチモンドのシェブロン社の施設で撮影。ボンドは、後の消防車のカーチェイスで、シェブロンのガソリンスタンドの看板を破壊した。 ボンドとKGBスパイのポーラ・イワノヴァが入ったのは、「ニッポン・リラクゼーション・スパ」。隣は「レストラン都」。 ステイシーの屋敷は、オークランド近郊のダンスミュイール邸で撮影。 サンフランシスコの女性市長ダイアン・ファインスタインが大のロジャー・ムーアファンだったため、実際の庁舎を火災のシーン撮影に使用する事を快く承諾した。 市庁舎から脱出したボンドは、消防車を盗んでマーケット・ストリートを暴走。 クライマックスの廃坑は、サンフランシスコ・ベイエリアのサンラファエル近郊にあるバソールト鉱山と、イギリスのアンバーリー・チョーク・ピッツ博物館(現アンバーリー・ワーキング博物館)で撮影。 『私を愛したスパイ』より続いてきたセイコーとのタイアップは、本作で終了。今回は、特殊機能を備えた腕時計は登場しない。使用機種の詳細も不明[1]。 シャンパンのボランジェとタイアップ。 カルティエとタイアップ。 1985年7月27日、リドリー・スコット監督『レジェンド 光と闇の伝説』の撮影中、パインウッド・スタジオの007ステージが火災のため焼失。再建を待ったため、廃坑内の大セットの製作と撮影が大幅に遅れた。 ゾーリンの野望とは、シリコンバレーを壊滅させ半導体の世界市場を独占することであった。しかし、本作公開の1985年、現実世界では半導体の世界シェアの約51%を日本系企業が占めていた。しかも、供給過剰のためこの年から世界的な半導体不況が続いたのであった。 ボンドはゾーリンの陰謀を阻止した功績で、外国人で始めてレーニン勲章を授与される(受け取ったのか辞退したのかは不明)。ソ連の半導体研究は、シリコンバレーに頼っているからという落ち。