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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精-S.W.B.F.-(5-4)

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 第四話 「生き残れ」

 今日ヴァイス・フォーゲルはいつもより少し早めに店を閉めた。というのも、今日はいつも来る近くの基地のフォーリアンロザリオ軍兵士たちが来なかったからで、夜の七時半を過ぎてもお客さんはまばらだった。
「ま、こんな日もあるわよね。今日は早めに切り上げて寝ちゃおっか?」
「うん、そうだね。最近フォオーリアンロザリオは忙しいんだろうし、今日はもう来ないよ」
 そんなことでドアの外側にかけられたOPENと書かれた木の札を引っ繰り返して、CLOSEを表にする。その日の残り物とかで夕飯を食べてすぐ歯を磨き、お風呂に入って部屋に戻る。
「あ、そうだ…」
 机の上に置いておいた一通の便箋を思い出す。夕方に一人の女の人が持ってきてくれた手紙だ。便箋の中から二通の手紙を取り出す。えっと…これはティクスさんからだね。
 ―――ティニちゃんへ。随分とご無沙汰になっちゃったね、まずはそれを謝っておこうかな。わたしたちは今また戦場にいます。それも最前線! でももうすぐ帰れるかも知れないの、そうなったらティニちゃんに会いに行くね? もちろん、フィー君も連れて! …あ、そうだ。フィー君といえばね、この間ウチの部隊の子に告白されちゃってたんだよ! シルヴィちゃんって言って、見た目は大人しそうで感情なんてあまり表に出しそうに無いのに…そのときはちゃんと恋する乙女になってたなぁ。バンシー隊にもいたから、ティニちゃんも覚えてるかも知れないね。はぅ…ゴメンね、これ急いで書いてるんだ。ホントはもっと書きたいことあるのに、そろそろ行かなきゃ。じゃあ、生きていたら会いに行くから…待っててね。…ティクスより。
 へぇ、お兄ちゃんにも春がきたんだね。…ううん、違うか。春はとっくに来てたのに、お兄ちゃんにはそれが気付けなかったのか。この手紙を読むと、ティクスさんの気持ちが判った。
「えっと、こっちはお兄ちゃんからのだね」
 ―――ティニへ。初めて女神に遭遇し、撃墜されて以来そっちの大陸に上がる機会が無くてな。長いこと会ってないが元気にしてたか? オレは…まぁ、悪くない。お前と別れて三日で戦闘機に乗せられ、飛び立ってすぐ空母に着艦し、それから先はずっと空母の中か戦闘機の中だ。だがおそらくそんな生活ももうすぐ区切りがつくだろう。もうすぐ大きな戦闘がある。生き残れるか自信が無いが、どっちにしろこんな戦ってばかりだった日々とはおさらば出来そうだ。今度の戦いが終われば、きっとお前の望む世界…戦争とは無縁の世界が待っているとオレは信じたい。もし戦争が終わって、オレが生きていたらヴァイス・フォーゲルで終戦記念パーティでもやりたいところだな。今はヴァルキューレ隊って部隊にいるが、隊員全員で行くからエリィにも言っておいてくれ。…さて、そろそろ行くか。こんな手紙ですまない。今度会って話せるときが来たらそのときにゆっくり…じゃあまたな。…フィリル。
「…お兄ちゃんの方がいっぱい書けてるっていうのは、ティクスさんより書くのが早いのかな?」
 ヴァルキューレ隊…確かニュースで言ってた。運命の三女神に打ち勝つための、フォーリアンロザリオ海軍のエースパイロット集団。最強のジョーカー、『死を告げる妖精』とも呼ばれてる。
「すっごいなぁお兄ちゃんは。片目見えてないのに」
 ここのところフォーリアンロザリオ軍が快進撃を続けている裏では必ずヴァルキューレ隊の名前が出てくる。いつもここに来る兵士たちもその名前を口にしていたし…。
「…早く帰ってきてね」
 窓の外に見える星空に向かって呟く。きっと辛い戦いになるだろうけど、お兄ちゃんは絶対帰ってくる。何も根拠なんて無いけど…でも、そう確信できた。

 時間は…午前二時半、か。大体五時間前、夕飯と仮眠をとる前に他の艦へ移動してブリーフィングを行うカイラス、アトゥレイ、ソフィ、メルルとはもう別れて、その他の部隊も移動し終わったようだ。着艦の衝撃も発艦する音も聞こえず静かだった。寝る前にブリュンヒルデ隊となったケルベロス隊の面々と通信して打ち合わせもしたし、後は作戦開始を待つだけとなった。残り一時間半…オレは朝食を食べておこうと食堂へ向かった。
 食堂もそうだったが、艦内は何処も嵐の前の静けさに包まれていた。誰も自分から会話をしようとはせずに、ただ時間の経過を待っているようだった。
「みんなしんみりだな。あんたらの活躍でこの重苦しい空気を吹き飛ばしてくれよ」
 給仕係はそんなことを言っていた。戦闘中ならそれも出来るが、今は生憎作戦前、どうにも出来ないし…同じ部隊でもないし。
「まあ、気持ちも判らんでないが…」
 戦友と何か話せば、その会話が最後になってしまうかも知れないから言葉選びも慎重になり、怖いのだ。もう目指す勝利は目前…だがこれまでとは比較にならないくらいの激戦となるだろう。自分が生き残れるか判らないのに、他人の心配なんて出来るわけも無く、まして会話なんて何を話せばいいのかも判らないに違いない。
「実際、オレも似たようなもんか」
 トレーに乗せられた食事も黙々と消化し、片付けた後でオレは格納庫に向かった。今回の戦闘では対地攻撃は攻撃機隊に任されるので、ブリュンヒルデに空対地ミサイルは積まれていない。コクピットを覗き込むと、ディスプレイにメッセージが表示された。
<What’s the matter? You have a time to beginning operation. > どうしたの? 作戦開始まで時間があるよ?
 一瞬驚いたが、何となくそのままシートに背中を預けてしまった。
「…別に、艦内うろついていても暇なんでな」
<…I see. > …なるほど。
 ふと機械であるこいつなら、この質問にどう答えるのか気になって訊いてみた。
「オレは生き残れるか?」
 答えはすぐに返ってきた。
<It hinges on you. Isn’t it? > それはあなた次第。違う?
「オレ次第…か。確かにな」
<But…> でも…。
 ん? なんか続くらしいが、なかなか表示されない。しばらく無言で待っていると、アラクネはこう続けた。
<I don’t wish your death. > 私はあなたの死を望まない。
 思わず笑った。機械が『望む』だと? こんな人間くさい機械は初めて見た。
<…What make your laughing? > 何がおかしいの?
「いや、別に…。ただオレは多分オレが死ぬとしたらそれはお前に殺されるんだと思うぜ?」
<…Yeah, maybe you right. > …ええ、そうかもね。
 簡単に言ってのけやがった。こういうとこはさすが機械…。
「オレが死んでもお前は飛んでそうだもんな」
<Of course. If I lost a wing, I absolutely come back to carrier. > 当然。翼を失っても母艦へ必ず帰ってくるよ。
「頼もしいね。もしオレに息があれば必ず帰って来れるわけだ」
<Right. So you’ll not become to a dust of sky. > そうね。だから空の塵にはならないね。
 きっつ…。やっぱ結構怖いな、こいつ…。オレはしばらくこうして機械相手に雑談をしていた。端から見ればかなり寂しい奴だと見えるに違いない。そんなときだった。
『オペレーション・アルマゲドン開始まで一時間です。第一波攻撃隊は出撃準備をして下さい。繰り返します…』
 そっか、もうそろそろか。オレはシートから体を起こした。
「ありがとな、いい暇つぶしになった」
<You’re welcome. > どういたしまして。
 格納庫が賑やかになりだした。この艦からはイーグレットが出撃予定になっている。空軍のミカエル?を引き連れて飛ぶため、今回僚機とは空で合流する。そのため一応機体脇に増槽タンクを取り付けられている。
「よし、オレもそろそろ準備しておくか。…ただ、その前に」
 格納庫を出て艦橋下まで歩き、階段を上って飛行甲板に出た。空はまだ星が輝く夜空で、朝陽はまだ遠く水平線の彼方だ。夜の空気は冷たく肌を刺した。息が白い。第三艦隊が南へ進んでいたのは第二艦隊との合流が目的だったらしく、オレとティクスが帰ってくる頃にはすでに進路を北へ向けて進撃中だった。ここは赤道から遠く、季節も秋の終わりだった。考えてみれば寒いのは当たり前である。
「…こんな寒空の下で、何をしてるんだい?」
 不意に声をかけられて驚いたが、振り向いてみるとイーグレットがパイロットスーツに身を包んで立っていた。
「な、なんだ。おどかすなよ」
「それはすまなかったね。お詫びしよう」
 ほとんど表情を崩さないイーグレットだが、たまにその表情を変える瞬間があった。ただしそういった時でもやはり笑ってるんだか悲しんでるのか、おどけているのか真剣なのかよく判らない表情だった。
「第一波はそろそろ発進だろ?」
「もしかして見送りに来てくれたのかい?」
「まあ、そんなとこだ」
 甲板の上ではスタッフが忙しく走り回りながら各部のチェックを行っている。
「嬉しいね、部下を想うその気持ち」
「結構な付き合いだからな。長く一緒に戦ってきた奴らに死んでもらいたくは無い」
「そうだね。一緒に本国の土を踏みたいものだ」
 飛行甲板の計四基あるエレベーターのうち一基が昇降し、格納庫から引っ張り出されたゲルヒルデが姿を現す。
「さて、そろそろ準備に入らないとね。ぼくはシルヴィ少佐みたいに手際よくないし」
「そうか。ECM周りだけでも大変そうだもんな。よし、じゃあ行ってこい」
「お互い、終戦のその時に飛んでいられればいいね」
 そう言ってイーグレットはパーキングスペースに運ばれた自分の愛機に乗り込んでいった。暗くて見えないが、80km離れた場所に浮かぶ二番艦メガエラの甲板上にもカイラスとアトゥレイの機体が格納庫から出される頃だろう。オレはもうしばらく見ていたかったが、第一波が発進して15分後に第二波も発進する。オレもそろそろパイロットスーツに着替えた方が良さそうだ。艦内に戻る。

コメント(7)

 第四話スタートで〜す!

 今回はちょと長いので3分割ですかね。もうすぐ始まりますよ〜w
 この戦争の終焉を飾る最後の戦いが!(`・ω・)b請う御期待!
あぁ、読むのが怖い。。。

でも、すごい楽しみ♪

フィリル、死ぬんじゃないぞ!!
(2)

 ………チサト、この長かった戦争もようやく終わります。作戦開始時刻が迫って一斉にせわしなくなる艦内の女性パイロット用ロッカールームの中で、私は彼女のドッグタグを握って祈っていました。唯々ひたすら、あの人の生還を。
「…今回も同じ空を飛ぶことは変わりませんが、別々の部隊です。私はあの人を今回護れないかも知れません。だから…あなたに頼みます」
 そして私は、握っていたドッグタグを自分のロッカーの中に入れて鍵をかけた。
「今回はあなたに頼らず飛ばせてください。独り立ちして見せます。それに…もし撃墜されて私が死んでしまったら、あなたのドッグタグも無くなってしまいますから」
 御守としてずっと持ってきたそれに頼らず…いいえ、私が持っていたらその効力は私だけに働いてしまいそうだったので、今回は持っていかないと決めた。装備一式を持ってロッカールームを出る。でも私の出撃は第三派、明らかに急ぎすぎ。休憩室で休んでいようと思い、装備を手に持ったまま休憩室へ向かう。
 休憩室でカップの紅茶を買い、ソファーの上に持っていた装備を置いてその隣に座る。目線を下に向けると、赤茶けた液体が湯気を立ち上らせている。その水面が…小刻みに波紋を作る。カップを持つ手が、震えていた。
「………」
 その様子を、ただじっと見つめる。怖い…。私は、恐怖していた。ヴァルキューレ隊の機体以外…隊長以外の人に背中を預けるのは不安だったし、第三派出撃後に合流するまで実際に会うことの無いパイロットでも、私のせいで死なせてしまうかも知れないと考えると怖かった。
「…やれやれですね。あの人を失うこと以外、何も怖れないと決めたのに」
 徐々に波紋が大きく波打つようになった。そうだ。今度は隊長と一緒に飛べない。隊長もヴァルキューレ隊の援護を受けるわけじゃない。私の手の届かない場所で撃墜されてしまうかも知れない。そんなの…!
「どうしたんだ? 冷めちまうぞ。飲まないのか?」
 ハッとして視線を跳ね上げると、隊長が不思議そうな顔をしてこちらを見ている。手には同じようにカップに注がれた飲み物を持っている。それを一口飲んで、また私に不思議そうな目を向ける。
「…とりあえずそれ飲んじまえよ。気持ちを落ち着けるにも、さ」
 隊長も既にパイロットスーツに着替え終わっていて、私のと同じ装備を床に置いて左斜め前に位置する椅子に腰掛けた。私はもう一度視線を幾分湯気が薄くなった紅茶に戻し、それを口に運んだ。しばらく二人とも黙ったまま時が過ぎ、お互いにカップが空になった頃隊長が口を開いた。
「…怖いか?」
 その言葉に私はやはり黙ったまま、小さく頷いた。
「面識は無くとも、自分に従い戦ってくれる人たちが死んでしまうかも知れないと考えると…怖いです」
「そりゃそうだよな。オレの場合は以前所属してた部隊の連中だから知ってる奴かも知れないけど、でも背中を預ける気にはなれそうにない。ファルもそうだろ?」
「はい…」
「でも大丈夫さ、ファルはヴァルキューレ隊が誇る最強の二番機だからな。これまで立派にオレの背中を護ってくれたんだ。君なら彼らも守れる」
「でも…」
 隊長の言葉は心に一筋の光を与えてはくれるが、私自身がまた不安という名の雲でその光を遮断してしまう。
「…なら無理に全機守りきろうなんて考えるな。オレもそんなこと考えちゃいない。僚機の一機や二機…むしろ全滅したってオレはいいと思う。君が生き残りさえすればな」
「隊長、それは…」
「悲しいがオレたちは神じゃない。万能でもなければミスも犯す。もう誰もが理解してるさ。今回は今までとは桁違いに激しい戦闘になることをな。だから君も、自分の命をまずは何としても護れ。生きることを諦めたら、誰であろうと戦場の狂気に喰われるぞ。いいな?」
「………それは、上官としての命令ですか?」
 生きることを諦めるな…。そうだ、パイロットは基本的に独りだ。操縦桿を持っているのも一人、機体に乗るのも基本的に一人。僚機を死なせても必ず生きて帰って来い、隊長は私にそう言っている。自分が生きるために味方を見殺しにしてもいいと、普段言っていることとは逆のことだ。
「上官としての命令であり、戦友としてのお願いだ」
「じゃあ、聞かないわけにはいきませんね」
 ああ、そうだった。また忘れそうになっていた。もう迷わない…そう決めたんだ。隊長についていく。部隊の違いなど些細なこと。私がオルトリンデ…ヴァルキューレ隊の二番機であることに変わりは無い。隊長も護る。私自身も護る。そのために、全力で隊長や隊長が帰ってくるこの艦を襲う敵を薙ぎ払う。それが私の役目だ。
「了解しました。最善を尽くします」
 すると隊長はふっと微笑んで、ソファーの背もたれに体を預けた。
『作戦開始時刻まであと30分、第一波出撃機パイロットは総員各搭乗機にて待機せよ。繰り返す…』
 オペレーターの声が響く。
「今頃はもうイーグレット、アトゥレイ、カイラスはカタパルトに接続されてるんだろうな」
「ええ、グリーダースやファウルハイトに駐機してる部隊もそろそろエンジンを温め始める頃でしょう」
 …あれ? 隊長、さりげなくディソール少尉を抜かした? そう思いながら私はふと、日中隊長とパロナール中佐がケルツァーク基地へ行っている間にイーグレット中尉に問いただした一件を思い返していた。

 軍では見つからず、中央政府の最深部までハッキングしてようやく見つけた「グロキリア」に関するデータ。グロキリアとはゼルエルやハッツティオールシューネを凌ぐ最強の戦闘機を作ろうという計画の究極の姿だった。全長がゼルエルの2倍はあろうかという巨体に高出力のエンジンを四基、3サーフェイスの翼配置に加えて垂直カナード翼を有し、ウェポンベイと主翼下・翼端のハードポイントにミサイルを合計20発搭載可能。そのフル装備の状態で増槽も付け、マッハ3以上で巡航する怪物的な戦闘機。それがグロキリアだった。
 しかしそこまではデータから知ることの出来た情報…人間でい続けることを諦めたパイロットが乗るという、あの時聞いた言葉の真意が判らない。そこでイーグレット中尉にこのデータを突きつけて訊いてみた。無論私が重大な法律違反を犯していることを知られるのも覚悟の上で。
「中尉、これは一体何なんですか? あなたとディソール少尉が話しているのを聞きました。中央政府はこんなものを作って、何をしようとしているのですか!?」
 イーグレット中尉は珍しく一瞬驚いたような表情をした後に、諦めたような溜息をついた。
「…話す必要は無い。君もそのデータは閲覧禁止のはずだ。どうやって手に入れたのかは知らないが、これ以上余計なことに首を突っ込むとギロチンの刃が落ちてくるよ?」
「隊長がこの機体のパイロット候補だと言っていましたね。どういうことですか? 隊長はこのことを…」
「知らないさ。多分、そいつと出会うまで聞かされることは無いだろう」
「あなたたちは、何者なんですか?」
 この質問に、イーグレット中尉はしばらく間を置いてから答えてくれた。
「ぼくたちはグリフィロスナイツ…女王の傀儡さ。………さあ、もういいだろう? 君は知り過ぎた。本来ならぼくは君を消さなきゃいけないが、ぼくも君と同様にこの計画にはあまりいい印象を持っていない人間だ。時が来たらまた話そう。今は誰にも口外せず、目の前の現実にだけ目を向けていてくれ」
 そう言って彼は口を閉ざした。私もそれ以上のことはあえて訊かなかった。何故これがパイロットを人で無くするのか判らないままだかったが、それでも時が来たら話してくれると言った彼の言葉と怒りさえ感じられる力強い瞳に強い意志が感じられたから…。
 中盤アップで〜す。

 刻一刻と迫る作戦開始の時…誰もが激戦を予想し、誰もが不安に押しつぶされそうになりながら過ごしている…そんな決戦前の風景はこんな感じだろうと思って書きましたw

 ではまた次回〜(・ω・ノシ
(3)

 回想に区切りをつけ、ふと横を見ると隊長がサバイバルポーチの中身を確認していた。
「なあ、今回やたら『元気ドリンク』多くねぇ?」
 市販されている栄養剤並の栄養と高濃度の興奮剤が混合された軍用ドリンク、兵たちの間では元気ドリンクと呼ばれている小さなビンに入った液体だ。サバイバルポーチの中身はその作戦ごとに渡される紙に入れる内容が決められているので、それに合わせてパイロットが自分でポーチに入れる。
「そうですね。いつもは一本入ってるか入ってないかなのに、今回は五本ですか。ゼリーも多いですし…」
 自分のサバイバルポーチの中身も確認する。市販されているものと大体同じ内容の、ストロー部分をくわえて手で中身を押し出しながら飲むタイプの栄養補給ゼリー。今回はそれも三個入っている。やはり多い。
「それだけ長期戦になると考えてんのか…。こりゃ厳しいな」
 隊長がそう言って溜息をついた直後、再びオペレーターの声が響く。
『作戦開始10分前。第一波攻撃隊、発進開始! 第二波攻撃隊は各搭乗機にて待機せよ!』
「おっと、行くか!」
 そう言うと隊長は両手の指を絡め、腕の筋肉を伸ばす。そしてテーブルの上に並べた元気ドリンクやゼリーをサバイバルポーチに戻して席を立った。
「じゃあオレはそろそろ行くが…。せっかくここまで生き抜いてきたんだ、ファルも死ぬなよ」
 大丈夫です…そう答えようとして、私の口はまったく違う言葉を発していた。
「…まだ、少し不安ですけど」
 私自身何故そんなことを口走ったのか判らず、私は自分で自分の口と耳を疑った。苦し紛れに「でも、頑張りますよ」と付け加えるのが精一杯だった。
「…やれやれだな。じゃあ絶対死ねないようにまじないかけるからドッグタグ貸してくれない?」
「え? あ、はい…。どうぞ」
 耐Gスーツの内側に首から提げていた自分のドッグタグを取り出し、隊長に手渡す。
「…あ、悪い。ちょっと眼閉じててくれるか?」
「? 判りました…」
 言われた通り眼を閉じる。でもすぐに「もういいよ」と声が聞こえ、実際眼を閉じていた時間は五秒も無い。
「これで、死にたくても死ねなくなったな」
 そう言って返されたドッグタグに、特にこれといって変化は無いように見え…あれ? このタグは…。
「これ、隊長の?」
 首から吊るすための長いチェーンが通された方のタグにはこれまで通りSilvy Rayerfalと彫られているのに、そのチェーンからもう一本の短いチェーンで通されてるもう片方のタグにはFerel F. Magnardと彫られている。
「そう。ファルのはオレが持っておくから、終戦後に返すな。そいつ持ったまま死んでくれるなよ? タグだけ見つかったらオレが死んだみたいになるからな」
 何というか、複雑な気持ちになった。つい先刻、今回は自分一人で飛ぼうと決めていたのに…泣きたいほどに歓喜する自分がいる。どちらかと言えば、絶対的に喜びの方が大きいのだけど…私の決心はここまで脆いのかと思うと情けない気持ちもある。
「…有難う御座います。あ、じゃあ私も…お礼におまじないしていいですか?」
「ん? ああ、ただ出来るだけ手早くな」
 そう言えば第二波の出撃まであまり時間も無い。
「大丈夫です、すぐ済みますよ。眼を閉じてくれますか?」
 隊長は床に置いてあった装備を持ってから眼を閉じた。私はすかさず隊長との距離を詰める。つま先で立って両手で隊長の襟元を掴み、私も眼を閉じながら隊長の頭を引き寄せる。直後、唇が触れるのを感じた。

 眼を閉じた二秒後に襟を引っ張られるような感じがした直後、唇に衝撃があった。驚いて思わず眼を開けようとしてコンマ何秒か躊躇し、それでもやっぱり気になって薄く眼を開けた時そこには微妙に予想通り、ファルの顔があった。ゼロ距離…それがこんなにも近いものだとは、いやむしろ近くで見るファルがこんなにカワ…ってオレは何を考えている!? だが何故だろう。何故…体が動かないんだろう。早く格納庫へ行って出撃準備しなきゃいけないとオレの頭は必死に警鐘を鳴らしてるし、この細い肩を突き放すことも出来るはずだ。ただオレの腕も脚も…指の一本すら動かせなかった。それはやっぱり…オレが………。
 一体どれだけの間そうしていたのか、やがてファルは顔を離した。離したといっても10cmと離れていない。
「こんな形で…申し訳ありません。生きて終戦を迎えられたら…先日の答えを聞かせて下さい。どんな答えでも、構いませんから」
 そう言うとファルは自分の装備を持って休憩室から出て行った。オレは言葉も発せず、ただ混乱する頭を落ち着けることだけで精一杯だった。顔が熱い。頭がボーっとする。心臓がトチ狂ったかと思うくらい高鳴っている。頭を無理矢理左右に二、三度振って正気を取り戻し、格納庫へ走った。…無論、全力で。

 走りながらどうにか装備を身に付け、格納庫に駆け込んでブリュンヒルデのコクピットヘ乗ろうとステップに手をかけた直後、横から声をかけられた。
「フィーくぅううぅぅん…」
 ティクスが捨て犬みたいな情けない声でこちらを睨みつけている。
「なんだ!? お前もうすぐ出撃だって…」
「シルヴィちゃんだけはずるいよう…」
 いつものオレなら多分相棒が何のことについて言ってるのか判るまでに時間がかかっただろうが、幸か不幸か今のオレには一瞬で理解出来た。理解出来てしまったから、若干嫌な胸騒ぎが顔を引きつらせた。
「お前…見てたのか?」
「わ、悪気は無かったんだよ? でも招集かかってもフィー君が来ないなんて珍しいから、どうしたんだろって探してたら…その……」
 しどろもどろに話すティクス。こいつのことだ。嘘じゃないことは判る。そして互いの付き合いの長さから、次に言いたいことが何かも…判っていた。格納庫内は騒然としていてこちらのことなど見ているどころではないらしい。
「わたしも、フィー君のこと好きだよ? それもずっとずっと前から、シルヴィちゃんにだって負けないくらい好きなんだよ? だから…フィー君ん!?」
 やるならさっさと済ませた方が賢明だと思い、オレは自分からティクスに唇を塞いだ。自分自身やけっぱちになっていたのも事実だが、それでも周りの目線が無いか気になるので二秒で離した。
「………これでいいか?」
「うぅ、なんだかロマンチックじゃないなぁ」
「知るか。ドラマみたいな展開なんざそうそうあるわけねぇだろ。ほら、出撃するぞ」
「フィー君の意地悪…。でも、ありがと」
 ティクスはそう呟くとすぐにヘルメットをかぶって表情を見えなくした。オレはコクピットに乗り込むとヘルメットをかぶって酸素マスクがちゃんと空気を送ってくれているか確認する。相棒もすぐ後席に乗り、ブリュンヒルデを起動させる。外部起動用電源コネクタが外された直後だった。
『第一波攻撃隊は間も無く交戦状態に入る。第二波攻撃隊各機、発進を開始せよ!』
 格納庫内を走り回っていた特殊車両に合図を送るとすっ飛んできて、ブリュンヒルデのノーズギアをアームで掴んで艦首右舷側エレベーターまで運んでいく。面倒なシステムチェックは既にアラクネがしてくれていたので、オレは最後に兵装と操縦系統の異常が無いかを調べた。HUDにもおかしな点は見られない。
「あ…」
 エレベーターが飛行甲板へ上げられる直前、正面にファルが軽く握った両手を胸の前でまるで祈るかのように合わせているのが見えた。オレは行ってくる、と心の中で呟き、敬礼した。その直後、彼女の口が微妙に動いたように見えたが、声までは聞こえなかった。ピピッと電子音が呼んだ。見るとディスプレイに<She said “Please early return…” >と表示されている。「御早いお帰りを…」か。
「ブリュンヒルデ1、発艦シークェンスを開始する。二番カタパルトに接続せよ」
 ああ、そっか。ブリュンヒルデ『1』って言わなきゃいけないんだったな。
「こちらブリュンヒルデ1、了解」
 艦首から二本設置されているカタパルトの内左舷側のカタパルトを目標にノーズギアを操作する。甲板要員も誘導してくれるし、問題なく射出機にノーズギアが乗っかる。最後に射出バー下ろせのサインを出してその場を離れる甲板要員。ノーズギアの射出バーがカタパルトと接続され、準備が整う。
「カタパルト、圧力正常! カタパルト要員は退避! バリアー上げろ!」
「ブリュンヒルデ1、システム最終チェック。全システム、グリーン!」
 ティクスがレーダーや万が一の脱出系統など、隅々までもう一度人間の手でチェックした。
「アレクトCICよりブリュンヒルデ1、発艦どうぞ! Good Luck!」
「ブリュンヒルデ1、往くぞ!」
 アフターバーナーを点火し、エンジンを最大出力にしてから数秒後にカタパルトが機体を引っ張り、空へ弾き飛ばす。自重で若干高度が下がる機体を焦らず上昇させ、ギアを格納して僚機との合流ポイントへ向かった。
 第四話の終盤アップで〜すw

 この戦争最後の戦場へ飛び立つブリュンヒルデ…かつてない激戦が、いよいよ次回! その幕を開けます!!!



 オレの考えうる、最悪の空中戦をお届けしたいと思います!
え、ズミさん、最悪のって・・・?

こ、怖い((((;゜Д゜)))アワワワワ…  

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