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小説書き込み自由コミュの死を告げる妖精?-S.E.D.S.-(2-4)

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第四話 ココロノタタカイ

 敵国首都まであと少し、というところでレーダーに敵性目標の反応があった。しかし妙だ。反応がひとつしか無い。民間機かとも思ったが、この戦時下にフォーリアンロザリオの傘下から離脱したイクスリオテ領内を飛ぶなどありえない。しばらくするとアラクネが敵機の機種を特定、ローレライ?らしい。コールサインは…「ペルディーネ」? また神話に登場する神の名前か…。
「オルトリンデ1より各機、敵迎撃機が一時方向より接近中。数は1。ローレライ?でこちらに向かってきます」
「一機だけ? 随分舐められたもんだな」
「待て、こいつは囮の可能性もある。ステルスが近くに潜んでいるのかも知れん。警戒は怠るな」
「了解! オルトリンデ1、俺たちの動きをしっかり記録しておいてくれよ?」
「ばぁか、しっかり記録されちゃお前の腕がお偉方にまで知られちまうってもんだろうがよ」
「んだとぉ!? てめぇ見てやがれ!」
「お前ら揃って黙ってろ! フォレスター1より各機、ちゃっちゃと片付けるぞ。続け!」
 隊長機のミカエル?が敵機に向かって加速すると、他の三機もそれに続いていく。今回、私は極力戦闘に参加せず情報収集に徹せよ、との命令だ。トリプルエースの主力はミカエル?なのだし、ゼルエル改が常に戦場にいるわけでもないため、ミカエル?だけでどれほど通用するかを検証する目的がある。
「敵機視認、本当に単機なのか? フォレスター1、エンゲージ」
「フォレスター2よりフォレスター1、仕掛けてみる。他にいれば出てくるだろう。カバーを頼む」
「了解した。気をつけろ、なんか不気味だぜ」
 一機のミカエル?が敵機に接近を試み、攻撃ポジションを取ろうと旋回する。しかし敵機はフォレスター2が後方に迫っても一向に回避しようとせず、ただ真っ直ぐ飛行している。
「な、なんなんだ? 戦う気が無いのか?」
「フォレスター2よりオルトリンデ1、攻撃してもいいんだよな? フォレスター2、シーカーオープン…」
 確かに戦う意思があるようには見えない。だけどそれなら、向こうから何らかの意思表示があってもいいはず。それにIFFはしっかりENEMYと表示されているのだ。攻撃してもなんら問題は無い。
「オルトリンデ1よりフォレスター2、攻撃を許可します」
「了解。シーカーオープン、ロックオン。フォレスター2、フォック…ス?」
 敵機の後方、ミサイルを放てば滅多なことがない限り外れないだろう絶好のポジションに位置しながら、フォレスター2は攻撃しない。
「? どうかしましたか? オルトリンデ1よりフォレスター2、トラブルですか?」
 呼びかけてみても、反応が返ってこない。どうしたのだろうと思っていたら…。
「う、うあ…うわぁあアあアァぁああアあアアあアっ!!!」
 鼓膜が破れるかと思うくらいの大絶叫が通信回線に響き渡る。
「な、どうしたんだフォレスター2!? 何があった!?」
「うわぁああ! やめろ、やめろやめロやメロヤめロヤメろヤメロっ!」
 フォレスター1の声にも聞く耳を持たず、フォレスター2はめちゃくちゃな機動を取り始める。何かから逃げるかのように、アフターバーナー全開であっちこっちに旋回したり上昇したり下降したり…。
「落ち着けフォレスター2! 高度が低すぎる、機首を起こせフォレスター2!」
「あ、ああ…あぁああああぁあぁぁああぁあぁあぁぁあああっ!!!」
 この世のものとは思えぬ叫び声をあげながら、フォレスター2は最高速度で地表に激突して爆発してしまった。
「フォレスター2が墜落した! くそ、なんだってんだよ!?」
「知るか! とにかく俺たちまで取り乱してちゃどうにもならんだろ!」
「その通りだ。フォレスター1より各機、どうやら本当に敵は単機で来たらしい。さっさと片付けるぞ!」
「了解!」
 残った三機が巡航速度で回避もせずにゆったり飛んでいるローレライ?に攻撃をしかけようと接近する。だが得体の知れないさっきの出来事は、私に警告を発していた。アラクネもわけが解らないらしく、さっきから黙ったままだ。何が起こっているのか…。戦闘は極力控えろとの命令だったが、私は敵機が視認出来る距離まで接近して状況を把握しようと敵機を睨んだ。

 ゲブラー地方、デュナミス基地では警報が鳴り響いていた。中隊規模の敵機がこの基地の迎撃ラインに侵入し、第一陣で出撃した一個中隊がほとんど手も足も出ず撃破されてしまったらしいのだ。
「君達は別命を受けて待機しているのは知っているが、今は腕利きのパイロットが欲しい。出てくれるか?」
 この基地を任されている司令官が申し訳無さそうな顔でそう尋ねてきたのは午後二時のちょっと前。敵首都へ威力偵察に向かったオルトリンデ1の援護要員としてこの基地で待機していたが、第二陣として出撃していった部隊も苦戦を強いられているようである。幸い敵部隊はこちらに向かって飛んできている。戦闘空域は遠くない。燃料を満載にすれば迎撃した後もオルトリンデ1の許へも飛んでいけるかも知れない。
「…解りました。メファリア司令にはそちらから話を通して置いてください。アトゥレイ、みんなに伝えてきて」
「おう!」
 元気な返事と共に部屋から走って出て行く背中を見送り、私はその間に現状の把握をするため司令室へと足を運ぶ。敵の情報が無ければ前線に言った後の対処に遅れが生じかねない。一瞬で戦況はめまぐるしく変化する。現状を把握しても数秒後には変化しているかも知れないが、それでも何も無いよりは予測が立てやすい。最悪の状況を予測してその対応をイメージしておくことも生き残るには重要なことだ。
「現在オリオン隊を中心とした第二派が食い止めてくれているが、戦況は思わしくない。敵機は無人機を中心に構成された部隊らしく、その機動は人知を超えているそうだ。ただしその機体はローレライやミカエル?などの旧式の機体も含まれているため、君達が加われば撃退は可能だと思われる」
「旧式の機体にミカエル?が追い立てられるなんて…いえ、新型機を追い立てられるほど高性能の無人機と思ったほうがいいわね。オリオン隊はエースも多くいたはずだし」
 それにそこまで高性能の無人機となると、確かに厄介だ。戦闘機の高性能化は機体性能に人間が耐えられないというある種の限界を迎える形となった。戦闘機は耐えられる負荷に、乗る人間の方が耐えられなくなってしまうのだ。だからゼルエル改はもちろん、第二次天地戦争以前から戦闘機にはエンジン周りを中心にリミッターがつけられることになっている。回転数を制御するシステムに人間が耐えられる範囲で抑えるようにプログラムを組み込んである。ファルは度々このリミッタープログラムを解除させているらしいが、あんなことをしていては体が持たない。再三注意はしているのだが…。
「大体状況は把握しました。ヴァルトラオテ隊及びシュヴァルトライテ隊、ただちに出撃して先行したオリオン隊と合流。敵航空部隊の迎撃に向かいます。ただしオルトリンデ1からの救援要請が場合、そちらを優先させますので悪しからず」
「それが君達の任務だ、致し方ないさ。では、よろしく頼む」
 敬礼して、司令室を出ると格納庫まで走る。耳を澄ますと、聞きなれたエンジン音が聞こえてきた。格納庫に近づくに連れて大きくなるそれは、ゼルエル改のカラヴィンカ−?エンジンの咆哮。いつでも出撃できるようにパイロットスーツを着ておいたのは正解だった。装備だけ手に取ると格納庫に入る。既に愛機は格納庫から外の駐機スペースに移され、そこで整備兵がミサイルの安全装置を解除しているところだった。その隣にいる同型機のコクピットからアトゥレイが顔を出しているのが見える。
「遅いぞカイラス! スクランブルなんだ、さっさと行こうぜ!」
「うっさいわね、あんたなんかに言われなくても解ってるわよ!」
 装備をスーツの上から装着し、コクピットに体を滑り込ませる。手順を省略して機体コンディションをチェックするとキャノピーを閉めながら周りにいる整備兵に離れるようにハンドサインを出す。
「管制塔よりヴァルキューレへ、事態は急を要する。滑走路に進入した機体から順次離陸せよ」
「ヴァルトラオテ1より全機、聞いた通りよ。時間が無いわ、状況の説明は空に上がってからする。全機発進。スクランブルかかってるんだから、もたもたしてると蹴っ飛ばすわよ!」
 僚機から「了解」の声が返ってくる。そうこうしているうちにも、二機から三機ずつ滑走路に入っては次々と離陸していく。ちょっとファルの方も気にはなるが、あの子のことだ。きっと上手くやる。万が一劣勢に立たされても今回はブリュンヒルデ1を使っていると言うことだし、アラクネが連れ帰ってくれるだろう。

 ふふ、ホント…人の心ってガラス細工のよう。どれほど輝いて見えても、それは抱いた傷が輝いてみせるだけ。そこをちょっと開いてあげれば、こんなにも脆く砕け散る。
「あ、あぁあ、うぁあああああああ!!!」
 今こそあなたに感謝のひとつでもしましょうか、女王陛下? 私のこの力がなければ、私はただの無力な少女だった。だが、今は違う。
「うあぁ、やめろ…やめてくれぇぇええええええ!!!」
 傷付かずに日々を生きぬ人間などいない。誰しも傷を抱え、誰もが弱く柔らかい部分を持っている。その傷を開かせるなどということは、この世の地獄を見てきた私はよくても、常人には耐えがたい苦痛…。
「フォレスター1よりフォレスター4! 正気に戻れ、何やってんだ!?」
「ああ、あうぅ、うわぁああああああああ!!!」
「な、ばか! なんでこっちに…くそ、回避不可能! ベイルアウトする!」
 二機の戦闘機が空中でぶつかり合い、派手に爆発する。鋼鉄の翼で空を舞おうと、気丈に振舞って包み隠そうとも、心の奥底に巣食う闇は誰にも拭えない。
「くそ、この化け物がぁ!」
 私に向かってきた部隊の隊長機らしい戦闘機が飛んでくる。だけど、人間など所詮敵ではない。

コメント(6)

(続き・1)

「シュヴァルトライテ1よりオリオン2、敵機がそっちにいった。後ろだ、ブレイクしろ!」
 オリオン隊と合流してみれば、なるほど厄介な相手だ。コブラやクルビットまで使い、こっちを翻弄してくる。
「この動き、ケイフュージュと戦ったときについてきた無人機と同じだな。まったく嫌な動きしやがるぜ!」
「だけど、オルトリンデ1のデータから作られた対策プログラムがさっそく役に立ったわね。シュヴァルトライテ1、私とあんたでオフェンスに出るわよ。他は三機単位で一機ずつ包囲攻撃!」
「了解!」
 真っ黒のミカエル?やローレライがごちゃ混ぜになった編隊に、俺とカイラス、ヴァルトラオテ隊、シュヴァルトライテ隊の三つに分かれて突っ込む。レーダーには「Marionater」というコールサインが並ぶ。こないだもこのコールサインだったが、なんて読むんだこりゃ? マリオネイター?
「…まあいいか。いつも通り往くぜ、カイラス! しっかりキメてくれよな!」
「無駄口叩いてないで仕事をしなさい!」
 相棒の相変わらずな反応に思わず笑いが零れる。カイラスのこういう態度は…そりゃ最初はすっげぇ抵抗あったけど、慣れてくるとなかなかどうして悪くない。こういう強気にものを言ってくれると、こっちもやってやらなきゃって気になるもんだ。俺はカイラスにお膳立てをしてやるべく、敵機に向かって鉛玉を撃ち込んでやる。案の定、それを回避しようと敵はバレルロールと呼ばれる翼を滑らせるようにして円を描く機動を取り始めた。
「ほらよ! 任せたぜ、カイラス!」
「あ〜もう、五月蠅いわね!」
 旋回しながら首を回して後方を見ると、カイラスが敵機とぶつかりそうなコースを飛びながら敵をバルカン砲で蜂の巣にして、ちょっとでも操縦をミスれば翼が接触してしまいそうなスレスレなところをすれ違う。
「まったく、陸でも空でも格闘戦のセンスはピカイチだな」
 いつも思う。俺には真似できない領域だ。
「お、おだてても何もでないわよ!」
 そう言いながら旋回中の俺の右側にぴたりとその翼を並べて次なる獲物を探す。この調子なら思いの外早く片付きそうだ。

 何度見ても何が起きているのか解らない。フォレスター4は敵機とすれ違った途端、フォレスター2のように突然発狂した。あの機体はコクピット周りに特殊なコーティングが施されていて、人間の脳に害を及ぼすほどの強い電磁波を出す装備でもつけているのかとも考えたが、アラクネはそれらしき電磁波を観測していない。
「な、なんだこれ…うゎ、うわあ、ああああああああああああああ!!!」
 遂にフォレスター1までが発狂。突然ふらつき始め、緩やかに高度が落ちていくが立て直す素振りは見えない。
「! オルトリンデ1よりフォレスター1、機体がバランスを失っています。立て直してください!」
「なんでお前らが…なんでいるんだよぉぉぉおおお!? やめろ、来るな来るな来るなぁぁあああああ!!!」
 意味不明の叫び声をあげながら、フォレスター1は眼下の山に激突し、爆発。なんだと言うのだ?
「…さて、これで邪魔者は消えたわね」
 無線からどこかで聞いた声がした。レーダーにはもう私と敵の二つしか表示されていない。声の主はこの不気味なローレライ?、ペルディーネに他ならない。敵は落ち着いた声で言葉を続けた。
「私はエルダ・グレイ。あなたを感じたときから、あなたと少し話がしたいと思ってたの」
「…イクスリオテ軍のトップが私に何の用ですか?」
「あなたはとてもキレイな心をしている。誰より輝いて、誰より深い傷を抱き、誰より純粋で、誰よりも気高く、そして誰よりも歪な心…。そしてあなたは、グリフィロスナイツを夫に持つ女性なのでしょう? ならば…私と同種の憎しみを抱いているはず、私たちは互いに分かり合えるはずよ」
 私に寝返ろというのか。女王を憎むならば、自分につけと…。私は操縦桿を動かし、敵機の後方へ回り込む。
「ふざけないでください。あなた方と馴れ合うつもりなどありません。あなたたちはあの人を…!」
 ヘッドアップディスプレイ内に敵機を捕らえ、ミサイルシーカーがそれを囲む。
(続き・2)

「あなたの愛する人に、我々は手を下してないわ」
「…この期に及んで、何を白々しい!」
「あなた自身、疑問に感じているのでは? あなたの夫は最高の戦闘機パイロットだったんでしょ? そんな人が、我々のパイロットに後れを取るなど考えられる?」
「…っ!」
 確かに、それは最初から疑問に感じていたことだった。胸の内を言い当てられ、引き金にかけていた指がその動きを止める。
「ならば何故あの人は…」
「女王の私兵、グリフィロスナイツは猟騎兵だけで10名、そのうちの何名かは今も尚軍内部に潜伏している。彼らが乗る機体が、あなたの愛しい人をその手にかけた…いえ、連れ去ったと私は見ているわ」
「…嘘です。そんな」
 ならばあの人は、本来味方であるはずの人間によって今の立場に…グロキリアのパイロットへ仕立て上げられたのか? 様々な憶測が脳裏に浮かんでは消え、果てない疑惑の連鎖が思考を鈍らせる。
「死んだと公言されているのに生きていると言われても驚かないところを見ると、あなたはまったくの無知でも無いようね。ふふ、そんなあなたには…とっておきの夢を見せてあげるわ」
「え? きゃっ!?」
 その時、突然視界が暗転する。今の今まで聞こえていたはずのエンジン音さえ聞こえない。眼を開けても何も見えず、腕を動かそうにもこれも動かない。椅子に何かで拘束されているような錯覚に陥る。
『く、やめ…』
 ふと懐かしい声が聞こえたような気がして、はっと顔を上げる。何も見えなかった闇の中に、何かがぼうっと浮かび上がって見える。青白く無機質な光に照らされた、病院の手術室に似た部屋…。手術台に似たベッドの上に手足と首を固定された姿で寝かされているのは…。
「フィリル…さん?」
 見間違えるわけが無い。そこへわらわらと数人やってきて、フィリルさんを取り囲む。
『さて、始めようか』
『まずは開腹して炭素フレームを埋め込む。筋肉の入れ替えはその後だ』
 フィリルさんを取り囲むそいつらは、何やら話している。
「カイフク? え、何を言って…?」
 するとそいつらは医療用のメスをおもむろに取り出したかと思うと、それをフィリルさんの体へと突き立てる。
『ぐぁあっ!』
 愛おしいその顔が苦痛に歪み、悲鳴が私の耳を劈く。
「フィリルさん!」
『本当に麻酔をしなくてよかったんでしょうか?』
『体のほとんどすべてを入れ替えるんだ。大した意味も無ければ、それだけ強力に麻酔をかけては術後の回復が遅れる。最悪目覚めない可能性もあるしな。…よし、ここだ。フレームをとってくれ』
 喉をからして叫ぶフィリルさんには眼もくれず、そいつらは細く黒い何かを取り出すとそれをフィリルさんの体内へ埋め込んでいく。それが体に侵入していくに従って、フィリルさんの空色の眼が見開かれ、声にさえならない悲鳴がその口から零れる。
 こいつらは一体何をやってるんだ? ここは何処なの?
『一番フレーム、設置完了。次だ』
 まだ…続くの? やめて…フィリルさんが、あんなに苦しんでるのに、あんなに辛そうなのに…! だがその手には再びメスが握られている。その鋭く輝く刃が、フィリルさんの体を切り刻み、血と悲鳴が噴き出る。
『あああああああっ!!!』
「いやぁあああああああああああ! フィリルさん、フィリルさん!!」
 どれだけ私が叫んでも、その声は届かないらしい。椅子に座らされ、固定されているらしい私の手は伸ばそうとしても動かない。足も同様だ。何も出来ず、ただひたすら眼前の耐え難い光景に眼を奪われ叫び続ける。
『出血が多いな。追加の輸血パックを準備しておいてくれ』
『はい』
 やめろ、やめろやめろやめろ…!
『二番フレーム、入れるぞ』
『あぐ、がぁあああああああああああ!』
「い、いや…やめて、やめてぇぇぇええええええぇえええぇええ!!!!」
 涙で霞んでいく視界と意識の中で、耳元で「また逢いましょ」と誰かが囁いた気がした。
(続き・3)

 灰色の曇天から雨が降り始めた頃、敵の首都へ威力偵察に向かった部隊はオルトリンデ1だけが帰ってきた。しかも帰ってきたときはアラクネの自律制御。そのコクピットには意識不明のファル中佐が横たわっていて即刻医務室送り。一応姉さんの指示で検査にもかけてみたそうだが、身体的な異常は見られないとのことだった。
「またこんな状況か…。何があったんだ?」とアトゥレイ大尉。
 話を聞きつけたヴァルキューレ隊の小隊長クラスが医務室へ集合している。いないのはイーグレット少佐か。
「ファル中佐、最近は大分心の傷も癒えてきていたように見えましたのに…」
 ソフィ大尉が心配そうに、ぽそっと呟く。
「涙の痕がありますよ。…本隊長、戦闘中に涙を?」
「…メルル、ちょっとアラクネに確認してきて。どっちにしろ戦闘データを報告しなきゃならないし、この子がこんな調子じゃ…ね」
 カイラス少佐に言われ、了解の意を伝えると格納庫へ向かう。だけど途中で、他のヴァルキューレ隊員たちに捕まってしまった…。
「小隊長、本隊長は大丈夫なんですか!?」
「意識不明で帰ってきたって…」
「それも随伴したミカエル?は全滅したって聞きましたけど…相手は誰なんですか!?」
 う〜ん、ありのまま伝えちゃったら余計心配しちゃうだろうし、最後の質問に関しては今から調べに行くところなんだけど…。
「小隊長!」
「中佐はここのところの連続出撃で疲れが出ちゃっただけだから安心しなさい。今日の相手についてはこれからアラクネが保存している戦闘データを解析して、姉さ…メファリア司令に報告しなくてはならないわ。みんなは他人の心配する余裕があるなら私たちから心配されないように、シミュレーターで腕を磨いておきなさい。いいわね? 解ったらさっさと動く! 行きなさい!」
 部下達はまだ後ろ髪引かれているようだったが、しぶしぶ私の指示に従って廊下を駆けていった。
「やれやれ…。しっかり者のくせに心配される人よね、ファル中佐は」
 頑張りすぎて周りが見えてないというか…見てるつもりなのだろうけど見えてないからホント質が悪い。私は溜息を吐くと、再び格納庫を目指した。
(続き・4)

 ぼくが基地に戻ってくると、ファルが医務室で寝込んでいるという情報が飛び込んできた。
「ファルが?」
「ああ、隊長の死を聞かされた時と同じだ。一体、今日の任務で何があったんだか…。連れてったミカエル?も全滅したって話だし、一人だけ生きて帰ってきたけど、わけわかんないこと言ってるらしい」
 アトゥレイ大尉から話を聞いていても、どうにも断片的でいまいち要領を得ない。ファルの性格上、そこまで精神的ダメージを負うなんて隊長に関すること以外に考えられないが、どうにもグロキリアがどうとかそういうことではないらしい。
 ここはメファリア司令にでも聞いたほうが早いかも知れない。そう思って司令室へ向かおうとすると、途中でメルルに会った。
「あ、イーグレット少佐。今帰ってきたとこ?」
「うん、ただいま。ファルが寝込んでるって聞いたんだけど…」
「そのことで今からカイラス少佐と姉さんたちに報告しに行くとこ。ついてくる?」
 まぁそれならその方が早いか。メルルと一緒に司令室へ向かう。

 よくもまぁフィリルがいなくなってから周りを騒がせてくれるものだ。
「…で、アラクネはなんて?」
 持ってきてくれたアラクネの戦闘データのコピーを司令室の大型ディスプレイに表示させながら、妹に事情の説明を促す。
「出撃して約一時間後、オルトリンデ1とフォレスター隊は敵国首都ゾーハルまでおよそ100kmのポイントで敵戦闘機、ローレライ?一機と交戦状態に入ります。その後フォレスター2が原因不明の錯乱状態に陥り、フルスロットルで狂ったように上下左右に舵を切り、最終的に地面へ激突。次にフォレスター4が同様に発狂。こちらはフォレスター3に空中で接触し、爆発。フォレスター3のパイロットは脱出し、救助されています。フォレスター1もその後錯乱してこちらも山の斜面へと墜落しています。…最後にファル中佐に関してですが、敵パイロットと数分会話した後に、先述のパイロット同様に発狂。アラクネシステムがコントロールを掌握して反転、そのまま帰還しています」
「敵パイロットと会話? その内容は?」
 気になるところと言えばそこだ。妹はリモコンを操作して「こちらです」と録音データを再生する。
『…さて、これで邪魔者は消えたわね。私はエルダ・グレイ。あなたを感じたときから、あなたと少し話がしたいと思ってたの』
 エルダ・グレイ? 敵のリーダー自ら出向いたというのか。しかも報告によれば単機で…。
『…イクスリオテ軍のトップが私に何の用ですか?』
『あなたはとてもキレイな心をしている。誰より輝いて、誰より深い傷を抱き、誰より純粋で、誰よりも気高く、そして誰よりも歪な心…。そしてあなたは、グリフィロスナイツを夫に持つ女性なのでしょう? ならば…私と同種の憎しみを抱いているはず、私たちは互いに分かり合えるはずよ』
『ふざけないでください。あなた方と馴れ合うつもりなどありません。あなたたちはあの人を…!』
『あなたの愛する人に、我々は手を下してないわ』
 え、あ、いや…これちょっと不味いんじゃ? そう思ってちらっとイーグレットを見るが、彼はいつも通りの表情があるんだか無いんだか解らない顔で再生される声に耳を傾けている。
(続き・5)

『…この期に及んで、何を白々しい!』
『あなた自身、疑問に感じているのでは? あなたの夫は最高の戦闘機パイロットだったんでしょ? そんな人が、我々のパイロットに後れを取るなど考えられる?』
『ならば何故あの人は…』
『女王の私兵、グリフィロスナイツは猟騎兵だけで10名、そのうちの何名かは今も尚軍内部に潜伏している。彼らが乗る機体が、あなたの愛しい人をその手にかけた…いえ、連れ去ったと私は見ているわ』
 一人だけすっごいテンパってる自分がいるのが場違いな気さえしてくる。それくらい平然としてるイーグレットにさっきから視線を送っているが、向こうはまるで気に留めていない様子だ。
『…嘘です。そんな』
『死んだと公言されているのに生きていると言われても驚かないところを見ると、あなたはまったくの無知でも無いようね。ふふ、そんなあなたには…とっておきの夢を見せてあげるわ』
『え? きゃっ!?』
 ファルの短い悲鳴と共に、しばらくの沈黙…。
『フィリル…さん? ……カイフク? え、何を言って…?』
 そして聞こえてきたのは、半信半疑といった感じにぽつぽつと零れる彼女の声。だがその声色が、突然変わる。
『フィリルさん! …、いやぁあああああああああああ! フィリルさん、フィリルさん!!』
 それまでの呟き声から一気に大きくなる彼女の悲痛な叫びに正直ビックリした。
『い、いや…やめて、やめてぇぇぇええええええぇえええぇええ!!!!』
『また逢いましょ』
 そこで録音は終わっていた。おそらくファルが失神したのだろう。
「この最後の声は、敵パイロットのもの…だな」
「それにしても、それまで普通だったのにこれだけ唐突に…それに“とっておきの夢を見せてあげる”って敵が言ってからだものね。状況から考えて、ファルやフォレスター隊のパイロットたちは敵から何らかの攻撃を受けたと考えるのが妥当かしらね」
 さっきからじぃっとこちらを見つめてくる妹の視線がとても痛い。嗚呼、愛しい妹よ。言わずとも解ってる、解ってるぞ妹よ。今聞いた録音内容にはあなたにとって聞き捨てならん部分が含まれてたわよね。うんうん解ってる。説明してあげたいけど言えないの。謝るからそのマジで突き刺さる眼光飛ばすのだけはやめて。
(続き・6)

「ということは、この娘が能力者だというのは本当らしいな。それが解っただけでもよしとしよう。次にこいつが現れれば私が出ればよいだけの話だ。私はザクラル、こやつがどんな力を使おうとも私には通用せん。データを見る限り、交戦後も敵機は巡航速度で飛ぶだけで戦闘機動を取っていない。能力の発動には集中せねばならぬらしいが、とはいえパイロットとして優秀ならば意識せずとも機体を自在に操れるはず。操縦に関しては不得手と考えられる。ラグドメゼギスの獲物としては物足りんが、紛争終結のためならば致し方ない」
「そうね。それならそんな方向で頼むわ。…だけど、ファルは」
 せっかくあの二人が生きているかも知れないという希望を得て、あの子は本来の調子に戻りつつあったと安心していたのに…。あの悲痛な叫びから察するに、相当ショックを受けているだろう。
「…彼女に関しては、ぼくに任せてくれないか?」
 視線を落としている私に、それまで身じろぎひとつせず、一言も言葉を発さなかったイーグレットがそう口を開いた。
「知り合いに腕のいいカウンセラーがいてね。さすがに今すぐ連れて行ける、とはいかないけど、きっと彼女の心も癒してくれるよ」
「へぇ、あんたにそんな知り合いがいたなんて意外ね」
 思わず本音が出てしまった。言ってからもうちょい言葉を選べばよかったかと後悔。
「だから、少しの間暇が欲しい。今日に引き続きで申し訳ないが、彼女をそのカウンセラーのいる場所に連れて行きたい。一週間以内に帰ってくるから、留守にしてもいいだろうか?」
 一週間か…。ブリュンヒルデ1はアラクネがいるから情報収集に支障は無いが、さすがにそれだけゲルヒルデ1を動かせないとなるとジャミングによる奇襲作戦が出来ない。…だが、これだけ国内の世論が騒いでいて兵の間にも混乱が広がっている。そんな現状でそこまで攻めを急ぐ必要も無い、かな。
「…解った。その代わり、必ず帰ってきたらあの子の元気な姿を見せてね」
「それは保障できないけど…最善は尽くすよ。それから車を使いたい。話を通しておいてくれると助かる」
 そう言い残し、なんとも扱いにくい守護騎兵様は部屋を出て行った。
「司令、いいのか? 女王直轄の兵だかなんだか知らないが、あいつとてヴァルキューレなら貴重な戦力だろう」
「いいのよ。その気になれば向こうはナイツとしての特権だって発動できるんだから、止めても無駄だし。そもそも今はそれどころじゃないわ。しばらく国内のごたごたを見守らないとね。今は攻め時じゃない」
 椅子の背もたれに思い切り背中を預けながら体を伸ばす。ちらっと妹を見ると、やはり鋭い眼光…。あはは、久々に泣きたいわ…。

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