1975年にカリフォルニア大学のハーバート・ボイヤーの研究室に加わった、フランシスコ・ボリバルもそんな気が遠くなりそうな研究の1つに遭遇しました。特定の遺伝子の単離と操作を目的とした研究には、研究室のたいへん優秀なメンバーが精力的に取組んでいたのですが、その進展ははかばかしくありませんでした。ボリバルの見たところでは、クローニングベクターの使いにくさと、制限酵素およびT4 DNA Ligaseの純度の低さがボトルネックになっていました。そこで、ボリバルのほかその研究室に所属する何人かが新しいベクターを開発しようとしました。
そこで、ボリバルたちはpMB9にアンピシリン耐性遺伝子を導入することにしました。アンピシリン耐性遺伝子を導入すれば、テトラサイクリン遺伝子内部の制限酵素サイトも使えるようになります。しかし、上司のボイヤーは前述のように既存のpMB9を置き換えようという試みには難色を示していましたので、ボリバルたちは新しいプラスミドの構築を研究の空き時間に進めるしかありませんでした。そんな内職の成果として、pMC9にアンピシリン耐性遺伝子を組込んだベクター、実際に構築した2人、ボリバルとロドリゲスのイニシャルをとってpBR313ができあがりました(従って、pBRはplasmid constructed by Bolivar and Rodriguezといった意味になります)。
pUCの意味ですが、UCについては明らかです。1982年の論文で、「プラスミドの研究はカリフォルニア大学デービス校に滞在している間に始めたので、その初期のプラスミドから派生したプラスミドはpUCと名付けた」と書いています。従って、UCはUniversity of Californiaの略であることは間違いありません。pは普通に考えればplasmidのpだと思われますが、ウィルソンとウォーカーの生化学と分子生物学の教科書(Principles and Techniques of Biochemistry and Molecular Biology)によると、pUCは「produced at University of California」の略だそうです。
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