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2020年12月08日17:37

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小津安二郎 麦秋(1951) (国立映画アーカイブ)

 生誕100年、映画女優 原節子。3本目。

 Movie Walker Press https://movie.walkerplus.com/mv27154/

 今回の原節子特集では、小津と成瀬の映画が2本づつあったのだが、
普段、成瀬の方を選ぶことが多いので、今回は、改めて小津の代表作
を見ようと思った。

 「晩春」「麦秋」「東京物語」は、いわゆる「紀子3部作」と言われ、
ヒロインの原節子が、3本とも「紀子」と言う役を演じる。

 私は、「東京物語」があまり好きではなく、そのことが小津映画から
遠ざかる原因になっていたのだが、今回、「晩春」と「麦秋」を映画館
で観て、改めて小津映画にも感銘を受けた。

 今回のMovie Walker のあらすじは、ほぼ正しいので、あらすじは
そちらを参照していただくとして…

 「晩春」があくまで父(笠智衆)と娘(原節子)の、細やかな感情の
交流だったのに対して、「麦秋」は「東京物語」に通じる大家族の
物語である。

 北鎌倉に暮らす間宮家。両親と、医者の長男、康一(笠智衆)。その妻
史子(三宅邦子)と育ち盛りのわんぱく2人、婚期を逸しかけている
紀子(原節子)は、貿易会社の専務の秘書をしている。
 紀子は、現在の静かな家族の生活に満足しており、結婚を急ぐ気持ちが
ない。その紀子の結婚問題を中心に話はあくまで静かに進む。

 静かな生活を営む一家にも、小さな家族の問題は次々と起こる。
紀子と同級生アヤ(淡島千景)の友情、夫婦喧嘩をした同級生が転がり込ん
できたものの、それが夫からの電話1本でコロリと態度を変えて帰って行っ
たり、同級生の結婚式で、学生時代の親友同士が、既婚組と未婚組に分かれ
て、たわいない喧嘩をしてみたり。4人で泊りがけで紀子の家に遊びに来る
はずが、既婚組の二人はとうとう来られなかったり。結婚と結婚生活
が女性にとって人生の最大の選択だった時代を小さな事件の積み重ねで
表現していく。
 紀子の上司の佐竹は、自分の先輩、真鍋を紹介しようとする。彼は
財産もある名家ではあったが、28歳の紀子よりさらに一回り近く上の
40歳まで独身で、紀子も家族も二の足を踏む。
 一方、家庭を持っている兄の方は、医師の仕事が多忙で、わんぱく盛りの
男の子が、食べ物を足蹴にしたのをきつく叱ったところ、男の子二人が
プチ家出をしてしまったり。紀子と史子は義理の姉妹とはいえ、とても仲
が良く、二人で高いショートケーキをこっそり食べたり。紀子が結婚を
決めた後で、二人で鎌倉の砂浜を歩いて、しみじみと話し合ったり。

 しかしこの家族にも戦争の影が色濃い。次男の省二は南方に行ったまま
帰っておらず、母、シゲ(東山千栄子)は、戦後数年経った今でも、
「たづね人」の放送を欠かさず聴いていた。
 この小さな描写が、戦争というものが人々の生活に落とす影をあます
ところなく表現している。

 原節子演じる紀子は、暖かい家族に包まれ、とても明るい。
 一番驚いたのは、台所で立ったままお茶漬けを食べるシーンで、これが
ものすごく上品。お茶漬けをあんなに綺麗に食べる女優さんって初めて
見た。

 紆余曲折あった、紀子の結婚問題。紀子は意外にも、康一の部下で、
家族ぐるみの交際をしていた子持ちの男やもめ、矢部謙吉を選んだ。
 その選択を紀子は、「ずっと探していたハサミがすぐ目の前にあったよう」
と述べている。紀子はきっと、自らの選択を生かした形で幸せになるだろう。

 別れ別れになる前に、と家族はみんなで家族写真を撮る。

 物語のラストは、秋田行きを控えて、静かな家族の生活が、自分の結婚
により避けられない転機を迎えてしまったことを悲しみ、泣き崩れる紀子。

 大和に帰った両親の老夫婦と兄との静かな日々と、画面一面に広がる
麦の穂並の美しいシーンで終わる。

 「麦秋」この言葉ももう死語になりつつあるだろうか。大和の穏やかな
地形の丘陵と麦畑は、確かにそこにあった昭和の生活を思い起こさせて
くれる。
 


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