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2020年07月18日18:01

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文人

 久しく晴れない梅雨の空というのは実に鬱陶しい。
 未だ天候の落ち着かないトコロであって、仕事上の事柄が増えて仕方ない。
 そんな中でも何とか本を買ったり読んだりしている。

 まずは感想文……

  「昭和史講義 戦前文化人編」 筒井清忠編
 結論を謂えば面白かった、ただまったく解し難い、というか知識の及ばないトコロが少なからずあり、全てを了解し切ったとは云えないか。
 しかしまたナンで文化人、とも思ったが、ふたつ計り、そうなのであろうか……と思われる点は理解したと思う。
 ひとつは、歴史を学ぶ上では、ただただ得意分野のみを掘り下げていくだけでは決して諒解し得ない領域が存在する、という事で、可能であれば深く掘り下げるべきであるが、而してそれが不可能というのであれば浅くとも知る努力をして、自らが及んでいない領域が或る事を理解しなければならないのであろう、ということ。
 私の様に近代史に踏み込むと必然、当時の政治家、軍人を論評せざるを得ない。
 そうして必ず、彼らの知識や態度が偏頗に堕している事を指摘するのであるが、この時には余程の注意を払ったとしても、後世者による神の視点を払拭する事は難しく、何処かで道理を欠いた指摘をしてしまっている場合がある。
 それは云ってしまえば、当時の空気や社会の成せる雰囲気、変化してしまった常識を理解していない為に起きる動揺であり、史家は常にこれが存在している事を理解しつつ、またその理解が現実には及ばない事を知っていなければならないのだと思う。
 0.9の下にどれだけ9を書き連ねても1として極まる事は無いが、それでもひとつ書き連ねる度に1に近付き、より精度を高める事は可能であり、その姿勢と態度が本筋として目指す近代史への正当な理解に繋がるのであろう、ということか。
 それからもうひとつは、近代史において政治、軍事という分野はまさに花形であり、文学や芸能、大衆文化についての研究は、ぶっちゃけ個人の趣味レベルに留まっている、という事のようだ
 勿論、左右の思想史に画(かぎ)れば多少の積み重ねが存在するし、特定個人を紹介する目的の文章であれば枚挙に暇もない、とも言い得るのだがそれ等が歴史に対して、或いは歴史からどういった影響を相互に与えたのかについての研究は不十分。
 その結果……他国の事は知らぬが……現状、日本に於いて、テレビ等で知識人と呼ばれる人間が出てくる。
 だがこういった知識人は主にテレビメディアの視聴率のために登場する場合が多く、肩書きを持ったモブ以上の存在として認められている程度であるのが普通であろう。
 勿論、本物の知識と態度で登壇する人もある事は追記しておくが、メディアとそれを喜ぶ人達が持て囃すのはモブのリーダーとして振る舞える人物である必要があるようだ。
 そうした、笛吹きに踊って流水にする身投げを避くためにも、社会全体が理性と知性への感受性を養うべきであり、そのための研究と理解が求められている。
 ってぇ感じで理解した……まぁ、コロナ関係に関連した政権批判が、どう考えても正当な態度に見えないからね、そういう私のストレスもこの見解には影響を与えているダローとの自己分析。
 取り敢えず、史家の文章に慣れている身の上には、幾つかのセンセイの文章は読み難く感じたのは事実、ただ山田耕筰を論じていた片山杜秀氏の筆は白眉であると感じた。

  「幽囚回顧録」 今村均著
 陸軍大将今村均の著書で、ラバウル、ジャワ、マヌスの各国軍刑務所を巡る中で遺していった本人の記録である。
 彼個人の事績、記録については既に詳しいモノが出来上がっているので私の駄文で説明する必要はないと思うので特に紹介はしない。
 それで感想であるが、面白かったがその方向性がちょっと違ったのに驚いた。
 と云うのも、大戦時の陸軍高官が書いた本について幾つか読んだ事があるのだが、大抵が資料的価値は高いが、悪く云えば読みにくい内容である場合が多い。
 勿論、文才が無い、というのではなく、正確ではあるものの面白味に欠いている、という印象になる。
 それで今村大将だが、陸軍高級官僚出身であり、大将まで上り詰めた人物であるのだが、真面目な人柄の中に、所謂、ユーモア的な感覚が表出するのか、肉体的にも精神的にも、それなりに過酷な環境下であった筈であるにも関わらず、ゆったりとした柔らかく読み易い文章であった。
 それで思い出したのが、阿川弘之のエッセイであったか、岡田貞寛氏との対話に於いて、成績優秀であった軍人の書は記録的価値は高いが難しい、しかし海軍大尉から戦後作家として幾つかの文書を遺した松永市郎氏等、幾人かの作家について、成績があまりおよろしくない人達の文章はまた違う味わいがある、という趣旨の事を話している(だから、あまり成績のおよろしくない岡田貞寛主計少佐に対して、きっと面白い作品が書けるから書いてみようよ、と薦めている……考えれば失礼な話しであるが、結果として「父と私の二・二六事件」という名著が生まれるワケであるのだが……)。
 とまれ、それでナンの話しがしたいかと云うと、今村大将って、成績がおよろしくない側の文章なんですよね、って話し。
 ちなみに今村自身の学業成績は、士官学校は上位5%くらい、陸大はトップだった筈だからアッチよりの筈なんだけど、生来の読書家であり敬神家であり、また中学出身者だけの19期という特殊な環境が良くも悪くも平らかな感性を保たせたのかも知れない。

 こっからは上の今村大将の本と一緒に買ったヤツ、未読。

  「真珠湾までの経緯」 石川信吾著
 まさかの石川信吾である。
 少々古典に類するが、秦教授の著書「昭和史の軍人たち」というモノがあり、その中に石川の名が挙がるが、その肩書きは「日米開戦の推進役」である。
 本書は先の今村大将の著作と同じく、復刊本であるのだが、先に書いたようにアッチ側、つまり高級官僚側の書物になるのでドーなる事カナー、と思っている。
 ただ前書きで、(本書発刊当時での)従前の生き残った将軍達の回顧録の類いは言い訳や間違いがあるから、私が正確な記録を残すぞ……との意気込みで当たっている。
 この頃の出版のこの手の本にありがちな批判と自己弁解から始まっている辺りに何ともいえない感じを受ける。
 ちなみに「昭和史講義・軍人編」にも石川が紹介されている、そちらと併せて、改めて本人の声とやらに耳を傾けてみようと思うところである。
 まぁ、第一委員会とかの関係で過大に評価されているとは思っているし、困ったことに本人がそれらに対して開き直っているトコロすらあるのがね、まぁ、そもそも好きな人物ではない(昭和前半期の青年将校運動にも関わっているしナァ……)。
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