mixiユーザー(id:6002189)

2019年03月31日15:26

147 view

Russia

昨年書いた原稿です。
ーーーーーーーーーー


中ロ、合同軍事演習の「蜜月」演出で日米を牽制


 ロシア軍は今年9月11日から6日間にわたり、シベリアと極東地域で中国、モンゴルとともに大規模な軍事演習「ボストーク2018」を実施した。この演習の狙いはロシア・中国の対米関係が悪化する中、両国が「蜜月」を強調することによって日米を牽制することだった。ドイツのメディアはプーチンが9月12日にウラジオストクでの「東方経済フォーラム」で日本政府への事前通告なしに「年内の平和条約締結」を提案したことについて、「安倍首相に対する侮辱」と解釈している。


*過去最大規模の軍事演習?

 この演習には、米国の国防総省や欧州の北大西洋条約機構(NATO)をはじめ世界中の軍事関係者が注目した。その理由は2つある。
 1つは、参加部隊の規模がソ連崩壊後のロシアの軍事演習の中で最大だった点だ。ロシア国防省は、「ボストーク(東方)2018には中部軍管区と東部軍管区の29万7000人の将兵、3万6000両の戦車や装甲兵員輸送車、1000機の軍用機、80隻の艦艇が参加した。過去になかった規模だ」と説明している。ソ連軍(ロシア軍)の演習の中で最も規模が大きかったのは、東西冷戦がたけなわだった1981年にワルシャワ条約機構軍が東欧で実施した「ザパート(西方)1981」だ。この時には約15万人の兵力が参加したとされている。つまり今回のボストーク2018の参加兵力は、ザパート1981の約2倍になる。
 軍事専門家の間では、「29万7000人という数字は誇張されている」という見方が出ている。ロシア国防省の発表が事実とすると、ロシア軍の兵力の3分の1がこの演習に参加したことになるからだ。特に中部軍管区から多数の将兵や戦車を一度に列車や大型トレーラーなどでロシア東部に移動させようとすると交通が混乱する可能性があるが、そのような事態は起きていない。
 ソ連およびロシアの国防省は、過去においても軍事演習の参加人員数を実際よりもふくらませて広報してきた。たとえばある部隊から一握りの将兵が演習に参加しただけでも、その部隊の総兵力が演習に参加したと数えるのだ。したがって米英の外交官や軍事関係者の間では、ボストーク2018に参加した兵力は10万人から15万人だったという見方がある。
 だが仮に参加兵力が10万人としても、ボストーク2018がソ連崩壊以後最大規模の演習だったことは間違いない。ちなみに去年ロシアが東欧で実施したザパート2017の参加兵力は1万2700人だった。
 
*中国軍が本格的なロシアの軍事演習に初参加

 この演習が大きな注目を集めたもう1つの理由は、中国の人民解放軍(以下中国軍とする)の参加だ。中国軍はボストーク2018に3200人の将兵、900両の戦車・装甲兵員輸送車、30機の軍用機を参加させた。ロシア軍と中国軍は過去においても共同で小規模な演習を行ったことはあるが、その主要な目的は対テロ戦などに限られていた。今回のようにロシアが定期的に実施する大規模な軍事演習に中国軍が参加するのは初めてである。
 なぜ中国はボストーク2018に参加したのだろうか。その背景には、中国が今進めている軍の近代化がある。
 中国軍は1979年の中越戦争以来、実戦を一度も経験したことがない。これに対しロシア軍はシリア内戦やウクライナ内戦に介入することによって、実戦の経験を着々と蓄積している。このため中国軍は今回の演習に参加することによって、ロシアがこれらの戦場で集めたノウハウや戦訓を吸収しようとしているのだ。
 ロシアの兵器産業にとって、中国は極めて重要な顧客だ。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国は2017年にロシアから8億5900万ドル(945億円・1ドル=110円換算)相当の兵器を購入している。これはインド、エジプトに次いで世界で3番目に多い金額だ。
 もちろん今回中国軍が演習に参加させた将兵の数はわずか3200人であり、規模は小さい。ただしロシア軍は中国軍の参加について積極的に広報した。しかも両国は、今後も軍事交流を深化させる方向にある。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣は、9月13日に中国軍の魏鳳和副総参謀長とともにシベリアの射爆場での実弾演習を視察した際に、「我が国と中国は、今後もボストーク2018のような大規模な合同軍事演習を定期的に実施する」と発言している。

*中国との接近ぶりを強調するロシア

 さてロシアが「中国との初の本格的な合同軍事演習」を全世界へ向けて積極的に発信した狙いは何だろうか。ロシアが視野に置いているのは、米国だ。
 社会主義時代のソ連にとって、中国は「潜在的脅威」だった。ソ連東部で領土を侵略する危険性が最も高い国は中国だった。両国間の国境線は約4400キロメートルと長大だからである。実際1969年には極東のウスリー川にあるダマンスキー島(珍宝島)の領有権をめぐって、中ソ間で軍事衝突も起きている。
 だがロシアは21世紀に入って中国との関係改善に努めている。そのことは、2014年にロシアが中国に毎年約380億立方メートルの天然ガスを輸出する契約に調印したことにも表れている。ロシアは中国軍を大規模演習に参加させることで、「中国はロシアにとってもはや軍事的な脅威ではなくなった。両国は関係を強化する方向にあり、ロシアは孤立していない」というメッセージを全世界に送ろうとしている。
 逆にロシアと欧米との関係は、悪化する一方だ。欧米は2014年のロシアのクリミア併合やウクライナ内戦への介入を理由に、対ロシア制裁を実施している。NATOはロシアがバルト三国への圧力を高めていることを警戒し、去年これらの国々に初めて戦闘部隊を常駐させた。小規模な部隊とはいえ、かつてソ連領に編入されていた国にNATOが戦闘部隊を常駐させることの意味は重い。
 また欧州諸国の政府は、、ウクライナや欧州の多くの企業に膨大な経済損害を与えたランサムウエア「ノットペティア」などによるサイバー攻撃が、ロシアの諜報機関によるものだったという疑いを強めている。特にドイツ政府はロシアのサイバー攻撃を重大な脅威と見なしている。
 さらに米国では、ロシアの諜報機関による米国大統領選への介入疑惑についての捜査が続いている他、今年英国で軍用の神経剤ノビチョクによって英国市民1人が死亡し、元二重スパイらが重体に陥った事件では、欧米諸国はロシアの軍事諜報機関による犯行と断定して、ロシアの多数の外交官を追放した。米国は、ロシアからドイツに直接天然ガスを直接輸送するパイプライン・ノルトストリーム2の建設プロジェクトについても、批判的な姿勢を強めている。
 欧州ではロシアのクリミア併合以来「冷戦の再来」ともいうべき状態が続いているのだ。
 つまりロシアのプーチン大統領は、極東地域で「過去最大規模の軍事演習」を実施することで国力を誇示するとともに、中国との蜜月を強調することによって米国を牽制しているのだ。さらに中国軍を演習に招待する形を取ることによって、軍事に関してはロシアが中国に対して優位な立場にあることを印象付ける狙いもある。

*中国も日米を牽制

 一方中国も、米国との貿易紛争がエスカレートする兆候を見せていることから、米国に対する共同戦線を張るための「盟友」を必要としている。
 中国指導部は、当初トランプ大統領の制裁関税に関する恫喝を、単なる脅し(ブラフ)と考えていた。だが最近では、中国で「冷戦時代に米国がソ連に対して、ココム(対共産圏輸出統制委員会)などによって封じ込め政策を実施したように、トランプ政権は中国に対する包囲網を作り、中国政府の経済戦略『メイド・イン・チャイナ(中国製造)2025』や『一帯一路』などのプロジェクトを妨害しようとしている。制裁関税は中国封じ込め政策の一環だ」という見方が強まっている。このため、今後中ロは「反米陣営」を構築するために関係を急激に密接にする可能性がある。

*プーチン大統領の平和条約提案

 ドイツの保守系日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)は、「中ロ蜜月は、日本政府にとって頭が痛い事態であり、日本は今回の合同軍事演習を疑惑の目を持って眺めている」と論評している。将来尖閣諸島をめぐる日中間の対立がさらにエスカレートした場合、中国はロシアからの後押しを受けるかもしれない。日本政府は北方領土問題があるために、ロシアに対しては強硬な姿勢を取れない状況にある。その意味でも中国にとってロシアとの協調は重要だ。しかもトランプ政権が誕生して以来、日本政府はアジアでの有事の際に米国が積極的に支援してくれるかどうかについて、過去に比べると確信を持てない状況に追い込まれている。これも日本政府にとっては頭痛の種だ。
 FAZは「安倍首相は北方領土の早期返還を実現させることを望んでいる。しかしプーチン大統領が9月12日にウラジオストクで開かれていた東方経済フォーラムで、日本と前提条件なしに今年末までに平和条約の締結を安倍首相に提案したことは、悪い前兆だ。これは領土問題を解決した後に平和条約を結ぶという日本政府の方針に逆行するものだ。プーチン大統領は2日前に行った安倍首相との会談ではこの提案を伝えず、聴衆の前で公表した」と報じた。
 さらに同紙は「プーチンは自分のイメージを良くするために安倍首相を利用した」と論評し、安倍首相を「侮辱された男(der Gedemütigte)」と呼んだ。政治家に気遣いをする日本の報道機関とは違い、ドイツのメディアは歯に衣を着せない。
 このパネル・ディスカッションの映像を見ると、プーチン大統領は機関銃のように早口で自己の主張をまくしたてている。安倍首相は、「平和条約を年内に締結しよう」という提案を聞いても苦笑いを浮かべるだけで、自分の意見を言わなかった。
 日本国内ではこうした態度は珍しくないのかもしれない。だが外交の世界では通用しない。日本の外では、直ちに反論しないことは相手の意見を認めたと誤解される危険がある。首相は少なくとも、「まず領土問題を解決するのが先だ。平和条約の締結はそれから」と日本側の主張を繰り返すべきだった。米国の大統領やドイツの首相ならば、こういう発言を聞いてニコニコしていることはあり得ない。
 立て板に水のロシア大統領と、苦笑いをするだけの日本の首相。外交の舞台でのイメージをめぐる「戦争」でどちらが優勢に見えたかは、言うまでもない。

*独メディアは四島返還に悲観的

 FAZによるとロシアにとって北方領土は戦略的に重要な意味を持つ。その理由はこれらの島々が、オホーツク海と太平洋を区切る自然の防壁の役割を果たしているからだ。ロシアが択捉島と国後島に対艦ミサイルを配備しているのはそのためだ。ロシアが防衛拠点として使っている島を外国に譲渡するとは考えにくい。同紙は北方領土四島の返還について悲観的なのである。
 1956年の日ソ共同宣言は、「歯舞群島と色丹島の返還は、平和条約の締結後」と明記している。このため日本のロシア専門家の間では、「プーチン大統領の発言は、この二島の帰属についての協議は平和条約を締結してからという従来のロシア政府の立場を繰り返した物にすぎず、驚くべきことではない」という見方が出ている。
 だが日本政府にとっては、「平和条約の前にまず領土問題の解決」というこれまでの要求を覆すことは難しい。さらにもしも日本がロシアと歯舞群島と色丹島の返還を目指して平和条約を締結した場合、プーチン大統領は「自国の主張が通った」と宣伝し自分のイメージ強化に使うに違いない。条約締結後にロシアが歯舞群島と色丹島を返還するという保証もない。さらに万一ロシアが「歯舞群島と色丹島の日本への帰属権は認めてもよいが、ロシア軍の軍事施設は置かせてくれ」と要求してきた場合、日本政府はどう答えるのだろうか。
 プーチン大統領に対する支持率は、今年6月にロシア政府が年金支給年齢の引き上げを発表して以降、下がりつつある。そうした中で、プーチン大統領が北方領土問題で日本に譲歩するような態度を示した場合、支持率がさらに下がる可能性もある。欧州で東西冷戦が再来したかのようなムードが高まっている今、極東での「領土返還」は彼の愛国者としてのイメージに傷をつけるからだ。
 ドイツのメディアが「侮辱された男」と呼んだ安倍首相は、プーチン大統領の変化球をどう打ち返すだろうか。事態を静観するだけでは、膠着状態にある交渉を打開することはできない。
 

 




2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する