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2018年01月28日23:08

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本 ”言い訳だらけの人生”  平安寿子

”言い訳だらけの人生”  平安寿子(タイラ アスコ)

本屋で文庫の新刊をチェックしていたら、
一つ下の’65年生まれが主人公で、子供時代のアニメや秘密基地遊びなんかが
出てくるというのでお買い上げ。

田中修司、四十九歳。楽なサラリーマン人生ではない。
団塊世代の歪な価値観に翻弄され、部下からは、ネットに「バブル入社組はゴミ」
と書かれてしまう。家庭ではプレ更年期の妻からプチ虐待を受ける日々。
そんなおり、中学時代の旧友・和彦から徳市じいさんの訃報が入る。
修司、和彦そして二歳下の達也にとって、裏山にあったじいさんの庭は、
アニメや漫画を語り、泥だらけで遊ぶことができる夢の空間だった。
三人は、徳市じいさんの秘密の葬式を行うことにするが…。
鋭い人間観察から描かれる、今を生きる男のバイブル的小説。
<BOOK DATEより>

1 男は現実が苦手だ
2 男は説明するのを好まない
3 男の主食は「憧れ」である
4 男はバカと呼ばれたい
5 男はモテれば幸せになる、とは限らない
6 男は「大人向き」にできてない
7 男は夢の中で目覚めるのだ

まるでSPAやBIG TOMORROWの見出しに出てきそうな各章のタイトル、
大人になりきれないガンダム命の元・子供の”男”の本音が満載の物語、
楽しく読みました。

田中修司、今や斜陽の電機メーカーの中間管理職、勝気な妻、高二の息子、
中二の娘に遠慮しながら生きている。
菊池和彦、修司と中二の時にガンダムの話で気が合い無二の親友に。
しかし別の高校に行ってからは疎遠。代理店に就職後、独立して会社を興すが失敗、
自己破産し、離婚。生まれ育ったニュータウンに戻って痴呆の母を父と見守る。
高瀬達也、小学校6年の時、親が不仲の中、近所の二つ上の修司と和彦を兄と慕い、
一緒に裏山の徳市爺さんの庭で秘密基地ごっこをすることで現実逃避できた。
親の離婚後、挨拶もできずに二人と別れる。のちに地元のガス工事会社の娘と結婚、
家業を手伝い、子供もでき、担当地域も懐かしのニュータウンになる。

この三人が徳市じいさんを弔うために30年ぶりぐらいに集まる、
ただそれだけの話(章によって語り手が違います)。
徳市じいさんと熱い交流があって、何か特別な恩返しするわけでも、
三人が絆を深めたり、新しい人生を歩む、というドラマチックな話はありません。

それでも三人の本音にすごく共感して、物語に引き込まれていきます。
49歳の誕生日に早くも一年後の50歳という年齢にビビる(私もそうでした)。
友達は広く百人ではなく、深い五人でいい。
他人や自分に期待するから不満が溜まる、だから飄々と生きたい(ニュータウンの
大人から変人扱いされていた徳市爺さんのように浮世離れしていたい)。
30年振りなのにガンダムの話で一瞬にしてあの頃が蘇り馬鹿話で盛り上がり、
日頃どんな生き方や問題抱えているなんて関係なくなる、多分ジジイになっても同じ。
ガンダムもハイジもネロものび太も親との関係が希薄、
それは親より友達が一番ということを言いたいからでは。
親がいたら子供はいつまでも子供、親がいないところで強くなりたい、
何より仲間に認められたい。
破壊された世界で仲間と力を合わせて生き抜く、ガンダムのように。
現実的であることが、挫折しないことが勝ち残る方法だとは子供に教えたくない、
綺麗事だと言われても、小賢しいよりも、”当たって砕けろ”の方がいい。
ネタミ、ユガミ、キレツ、それが我々の世界、
少年よ、勝つためではなく、生き延びるために戦うのだ、命の炎を燃やせ!
と最後はもろガンダムチックに締めくくられます。

中間管理職としてのはざまの立場、そろそろ出世が頭打ちだったり
定年までの身の振り方、妻や子供との距離感、親の老後に悩んでいたりする、
多くの同世代の男なら、三人の悩む気持ちが我が事のように感じるのでは。
しかもそれをアムロやシャアなどのセリフやなんかで例えられたらなおさら。

ガンダムネタといっても、私は宇宙戦艦ヤマト派だったので、
そこまで思い入れはないものの、なんとなく頭に入っている知識だけでも
十分理解できる引用だし、好きな人ならもっと楽しめるでしょう。
従来のアニメに比べてヤマトもガンダムも脇役が魅力的で、
敵方にもドメル将軍、デスラー総統、シャア、ランバ・ラルを筆頭に
ザク?に至るまで、人間的な魅力や弱さに惹かれます。
敵も味方も戦うことの不毛さを考えながら戦うことなんかは、
大人になって社会の中で働き、家族との関係に悩むにつれて、
余計にその共感度が増して、この本の登場人物たちが、
それら脇役たちに自分の人生をなぞらえて
熱く語ってしまう気持ちはよくわかります。

他にもタッチ浅倉南vsうる星やつらラムちゃん、
めぞん一刻音無響子さん、ストップひばりくん大空ひばり、誰が理想か論争、
森雪、セイラさん(ミライさんも?)のシャワーシーンの健康的なエロさ。
スターウォーズC3PO、R2D2より日本のロボットアニメの方が
攻撃力と機能美があって良いとか、
同世代なら分かるネタがたくさんなのも楽しく読める所以であります。
あと、それぞれの嫁さんがすごく現実的なセリフを吐いて男三人を
追い詰めるのが、夢想がちな男との対比で面白さを際立てています。

作者は同世代かと思いきやなんと11歳年上、しかも女性。
初めて読む作家ですが、普段は同世代の女性の本音話しが得意とのこと。
でも男性心理もすごくよく描けていてなかなかの才能やし、
多分ガンダムも大好きなんでしょう。
文庫本を買ってから気づきましたが、’15年に単行本が発売された時に
興味を持って文庫が出たら買うリストに載せてました。

タイトルの”言い訳だらけの人生”、おそらく一握りの成功者以外、
誰もが自分の人生に何かしら言い訳して、妥協して生きていきます。
確かにこれから頑張っても勝てない。
でも、負けずに、生き延びる、それでもいいのだ、
言い訳しながらもしっかり前を向いて ”命の炎を燃やせ”! 

♪振り向くな アムロ ただ明日へと〜 明日へと〜 永遠に♪ ですな。


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