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2015年05月14日08:38

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『桃次郎』阪田寛夫

 北村薫が取り上げていた阪田寛夫の短篇「桃次郎」を見つけました。
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 『桃次郎』阪田寛夫(一九九一年九月二○日楡出版)装幀は安西水丸。図書館にありました。

 「夏休みのうちに桃次郎の話を書く」約束をしてしまったわたしは、「駅のきびだんごの売店で聞けば、桃太郎の弟のことだって教えてもらえるにちがいない」と、岡山駅のプラットホームの売店のおねえさんにたずねたら、「それならクラシキへいかなくちゃ」と云われ、倉敷に行きます。そこで、桃次郎の歌にあわせて踊る人たちにあいます。

  兄きに 似てない 桃次郎
  よわむし 寒がり
  ひねくれや
  よいやさ きたさ

  大きくなったが 桃次郎
  鬼にうなされ
  しっこたれ
  よいやさ きたさ

  兄きと じいさんに しかられて
  おだんご持たされ
  追いだされ
  よいやさ きたさ

  鬼が島へと 近よれば
  きこえるなき声 
  うめき声
  よいやさ きたさ

  風ふき 波立ち 荒れた島
  ため息 きこえど
  すがたなし
  よいやさ きたさ

  桃次郎 のぞいた 岩のあな
  中から ぼろ着た
  鬼おんな
  よいやさ きたさ

 よくみると、踊りの先頭で歌っているのは、きびだんご売りのおねえさんです。こわくなって逃げだすわたしをおねえさんは追っかけてきます。「ごめん」といって走りますがつかまってしまいます。「桃次郎がやってきたとき、島には桃太郎に殺された鬼のこどもと、おくさんと、恋人しか残っていなかったの。だのに桃次郎は、こわくてつい口ぐせで」「ごめんなさいといってにげだしたばかりに、みんなに追いかけられてつまかってね。」と歌の続きを教えてくれます。

  ごめんとにげだす 桃次郎
  鬼の子どもに
  おさえられ
  よいやさ きたさ

  村の広場に すえられて
  おしりをぶたれて
  なきじゃくる
  よいやさ きたさ

  そのとき こしから コロコロと
  ころがる 黄色い
  まるい玉
  よいやさ きたさ

  うさぎの糞かと つまみ上げ
  ためしに 食べたら
  こりゃうまい
  よいやさ きたさ

  鬼はもらった きびだんご
  お礼にお返し
  鬼の殻
  よいやさ きたさ

 おねえさんは「わたしたち、鬼の首の代わりに、この鬼がらを桃次郎に上げたのよ。こわがりがなおるおまじないにね」と「ぎざぎざの木の実」をくれます。おねえさんはオニだったのです。「鬼を殺すのも、鬼をこわがるのも、どちらもひどくまちがってるわ」とおねえさんは云います。
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 少女がおでこに当てているのが「鬼がら」です。
 阪田寛夫にはもう一冊『桃次郎』という本があります。それはまた。

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