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http://ameblo.jp/nirenoya/entry-10103583270.html
〓だいぶんに旧聞となりゃーすが、
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2008年4月4日 千葉マリンスタジアム
千葉ロッテ マリーンズ vs 福岡ソフトバンク ホークス
結果 = 6 ― 3
勝ち投手 シコースキー
負け投手 ニコースキー
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という試合がありました。パリーグ・ファンのあいだでは、そこそこ話題になったようです。
〓まあ、それだけと言えば、それだけのハナシなんすが…… いや、それだけじゃろうかね……
【 「イ・ビョンギュ」 は言いにくい 】
〓5月の20日だったか21日だったか、交流戦の 「巨人 vs ロッテ」 をラジオで聴いていたらですね、
ピッチャー 越智大祐 (おち だいすけ)
バッター オーティズ
という場面になったのですよ。実況中継は、こういう具合なんす。
「オチ、セットポジションから投げました。オッティ空振り。
さあ、オチ、2球目投げた、おっと、オッティ、ファール……」
〓思わず笑ってしまいましたがな。言語中枢がコトバを映像化するにあたって、脳の中に住んでいる小さいヒトたちが大混乱を起こすわけですね。まさか、オーティズがピッチャーズマウンドに立つわけはないんですが、越智がバッターボックスに立つ可能性はあるわけで……
〓それとね、昨年、中日に移籍した韓国人選手、
イ・ビョンギュ 이병규 [ i bjɔŋgju ]
選手の名前ね。自分が名前を言うわけじゃないのに、ラジオで聴いていると、言語中枢の中の小さいヒトがいちいち反応して、ナンと言うか、シチテンバットーする感じなのね。なぞらなくてもいいのに。
〓これはね、TVではそれほど気にならないんですよ。選手の名前を連呼したりしないし……。ラジオでは、ほぼ、一挙手一投足に “主語” をつけないと、誰がナニをしたのか、リスナーに伝わらなくなるでしょ。だから、「イビョンギュ、イビョンギュ」 の連発になる。
〓実況中継のアナウンサーの苦しみみたいのがヒシヒシと伝わってきて、ノドのあたりを掻きムシリたくなるのね。
〓漢字では、
李炳圭
と書きます。「圭」 (ケイ) という字は、日本でも人名用漢字として使うことができます。しかし、「炳」 (ヘイ) という字は人名に使うことはできません。というか、常用漢字にも含まれていません。
〓韓国人の男子名には、たいていの場合、非常に奇妙な漢字が含まれています。日本では、常用漢字としても人名用漢字としても使用しない文字です。ならば、中国人の名前と比べてどうか?というと、やはり、
中国人の名前と比べても、韓国人の男子名に使われている漢字は奇妙な字が多い
のです。
〓これは、朝鮮には “本貫” (ほんがん=氏族の出身地) を同じくする一族で、同じ世代の男子が、名前の1文字に同じ漢字を使う、という伝統があるためです。この文字を 「行列字」 (こうれつじ/ハンニョルッチャ) といい、世代ごとに、
→ 木 → 火 → 土 → 金 → 水 (→ 木 → 火 →……)
→ 甲 → 乙 → 丙 → 丁 →……
→ 子 → 丑 → 寅 → 卯 →……
→ 一 → 二 → 三 →……→ 十
といった文字素を含む漢字を使用します。
〓イ・ビョンギュ選手の場合は、興味深いことに 「火」、「丙」、「土」 が名前に含まれていて、どれが行列字なのか、よくわからないんですね。
〓こういう場合は、男きょうだい、父親、祖父などの名前がわかると、どれが行列字なのか、すぐにわかります。
〓行列字というのは、大親族会議で、何世代も先まで決定されているものなので、日本の親が子どもに名前をつけるときに 「どんな漢字を使おうかな?」 と考えたスエに、「どうだ! この名前!」 という感じで名付けるのとチョッと勝手がちがいます。
〓イ・ビョンギュ選手のお父さんの名前は、けっきょく、ハングル表記のものしかわかりませんでした。つまり、行列字は不明です。だから、行列字ではない、両親が選んだ文字が、どちらなのかもわからない、ということですね。
〓「行列字」 (こうれつじ) については、昨年まとめたものがありますので、近いうちにアメブロに採録しましょ。
【 ボカチカ打ってオーキニー! 】
〓今期から西武ライオンズに入団した、もとメジャーリーガーの “マシュー・キニー” 投手は、3月30日の対ソフトバンク戦に初勝利すると、ヒーローインタビューで、
「オーキニー!」
言うて球場のファンをわかせたようです。デーブ大久保 “一軍ダジャレコーチ” の入れ知恵ではないでしょうか。
〓「オーキニー」 は置いておくとして、Kinney [ ' kɪni ] [ ' キニィ ] という姓じたいは、それほど変わったものではないです。これは、
McKinney [ mə ' kɪni ] [ マ ' キニィ ] マッキニー
というスコットランド系の姓の Mc- が落ちた語形です。
〓同じくライオンズの 「ボカチカ」 選手は、ヒーローインタビューで、
「アシタモ ボカチカ ウチマス!」
みたいなことは言わないようです。大久保コーチはナニをしているのか。いや、コーチは 「言え言え!」 のサインを出しているのに、ボカチカ選手が言わないだけかもしれない。
〓ボカチカ選手は “米国人” です。出身は、米国領の “プエルト・リコ”。
〓プエルト・リコ Puerto Rico は、もともと、スペインの植民地でした。1898年 (明治31年) にキューバ (当時、同じくスペイン領) のハバナ港で、米国の戦艦メイン号がナニモノかによって爆破されたことをキッカケに、米国とスペインのあいだで戦争が起こりました。
〓すでに国威の衰えていたスペインは、新興国家アメリカ合衆国に敗れ、結果、
フィリピン、グアム、プエルトリコ → 米国領
キューバ → 事実上の米国の保護国
という図式が成り立ちました。半世紀後のキューバ革命、そして、キューバと米国の対立のお膳立ては、このときにできあがったものです。
〓プエルトリコは米国領で、英語とスペイン語が公用語でありながら、島民の母語は、ほとんどがスペイン語という状態です。つまり、ここはスペイン語圏なんです。ですから、プエルトリコの出身者の名前はスペイン語です。
〓ハリウッド俳優の
ベニチオ・デル・トロ
はプエルトリコ出身です。ですから、彼の名前もスペイン語です。
Benicio del Toro [ ベ ' ニースィオ デる ' トーロ ]
「ベニーシオ・デル・トーロ」
ですね。どこかのスカタンが、彼の名前を 「ベニチオ」 にしてしまったんです。Benicio を “ベニチオ” と読むとしたらイタリア語ですが、イタリア語だとしたら 「ベニーチョ」 にならないとおかしい。
〓彼が来日したとき、インタビューに答えて、
「ボクの名前は、“ベニチオ” じゃなくて “ベニスィオ” だよ」
と言っていたハズですが直りませんね。
〓日本語版のウィキペディアは “Benicio Del Toro” としていますが、スペイン語では、通常、名前に現れる de を大文字にはしません。イタリア人の姓では大文字になることがありますが……
〓 Benicio という名前は、スペイン語圏でも、さほど多い名前ではありません。
〓カトリック、正教会の聖人に、ベネディクトゥス Benedictus がいます。西ローマ帝国が崩壊した直後の5〜6世紀のイタリアの人物で、修道院をつくり、修道士の戒律の基礎をととのえました。
〓 Benedictus という名前は、benedico [ ベ ' ネディコー ] 「よい言葉をかける」、「よい言葉で話す」 という動詞の “完了分詞” で、単純に英語に置き換えるならば、
well-spoken
です。すなわち、これは、
「祝福された」 ← 「よい言葉をかけられた」
という名前です。bene- は英語の benefit の bene- と同じもの、dict- は dictionary の dict- と同じものです。
〓英語では、ラテン語から借用した Benedict 「ベネディクト」 という男子名を使っていますが、イタリア語では、ラテン語に近い Benedetto 「ベネデット」 と、さらに崩れた Benito 「ベニート」 が使われます。ムッソリーニの名前ですね。スペイン語では Benito 「ベニート」 が使われます。フランス語では、さらに訛って Benoît 「ブノワ」 です。
〓おそらく、民衆語に影響された中世ラテン語では、Benitus [ ' ベニトゥス ] という語形だったんでしょう。この名前に、
-ius [ 〜イウス ] 形容詞をつくる接尾辞。また、父称辞 (〜の息子) の意味も持つ
をつけると、
Benitius [ べ ' ニティウス ] 「ベニトゥスの息子」
ができあがります。
〓当時の民衆のロマンス語では -tius を 「ティウス」 とは発音せず、イタリアなどの東ロマニアでは -cio 「チョ」、フランス・スペインなどの西ロマニアでは -cio 「ツィオ」 と発音しました。
〓スペイン語では、[ ts ] が [ θ ] に転じて -cio [ 〜すぃオ ] となりました。つまり、
Benicio 「ベニースィオ」 = 「ベニート (ベネディクト) の息子」
ということです。
〓スペインで、比較的有名なカトリックの聖人、
San Felipe Benicio サン・フェリーペ・ベニーシオ
の名前から取った名前かもしれません。
〓また、あぜ道で、草をかっくらってしまった……
〓「ボカチカ」 選手は、プエルトリコ出身です。
Hiram Colon Bocachica [ ' イーラム コ ' ろン ボカ ' チーカ ]
「イーラム・コロン・ボカチーカ」
という名前でしょう。「ボカチカ」 と読むから、オモシロな名前になっちゃうんです。Hiram は 『旧約聖書』 に登場するティルス (レバノン) の王の名前。
〓 Colon は 「コロンブス」 に由来するものでしょうか。Colón と綴るべきですが、当人もそうは書かないようです。しかし、Colon だと、「結腸、大腸」 になってしまうのだが……
〓 Bocachica は、
bocacha [ ボ ' カーチャ ] 「大口、ほら吹き」
に、指小辞 -ica が付いたものでしょう。「ほら吹きさん」 というアダ名です。
【 -sky と -ski 】
〓さあ、ドアタマのハナシにもどりまっせ〜。シコースキーにニコースキー。
〓今の日本のプロ野球の助っ人外国人選手を見回すと、もうひとり 「スキー」 がいるんですよ。広島東洋カープの
コズロースキー
ですね。
「だからなんだ」
〓「まあ、あわてないあわてない」
Brian Patrick Sikorski 「ブライアン・パトリック・シコースキー」
ミシガン州デトロイト出身
Christopher John Nitkowski 「クリストファー・ジョン・ニコースキー」
ニューヨーク州サファーン出身
Benjamin Anthony Kozlowski 「ベンジャミン・アンソニー・コズロースキー」
フロリダ州セントピーターズバーグ出身
〓何か気づきますか? まず、全員、米国生まれである、ということです。移民一世ではない。固有名詞を洗うとき、こういう作業は重要ですよ。
〓もうひとつ、
全員、姓が -ski に終わっている
ということです。「だから?」 などと言ってはいけない。全世界的に言って、「〜スキー」 という姓は -sky が主流なのであって、-ski は、むしろ、稀 (まれ) なのです。この姓を持つヒトは、だいたいにおいて、
先祖は、キッスイのポーランド人
と言っていいのです。
〓日本人は、「〜スキー」 というと “ロシア人” だと思いがちですが、
「〜スキー」 は、そもそも、ポーランド貴族の称号
です。
〓もともと、ヨーロッパに 「姓」 というものがない時代から、フランス貴族は “de + 領地名”、ドイツ貴族は “von + 領地名”、英国貴族は “of + 領地名” を称号としていました。
〓のちに、フランス、ドイツでは、それぞれ、“de 〜”、“von 〜” が貴族の姓となりました。
〓いっぽう、英国では、“Prince of Wales”、“Duke of Kent” のように 「爵位は爵位、姓は姓」 というように、貴族の称号とは別に、姓も名乗るようになりました。たとえば、「サンドイッチ」 の語源となった、“サンドイッチ卿” のフルネームは、
John Montagu, 4th Earl of Sandwich
であり、姓が 「モンタギュー」 で、「サンドイッチ伯爵」 は “称号” であることがわかります。
〓よく、
“サンドイッチ” は “サンドイッチ伯爵” の名前にちなむ
というウンチクがありますが、これがマチガイであることがわかりますね。名前は 「ジョン・モンタギュー」 なんですから。「サンドイッチ伯爵」 は “称号” であり、
“サンドイッチ” は 「領地名」
なのですよ、ハイ。
〓こうした西ヨーロッパの貴族にならったポーランド貴族の名乗りが、
「領地名」 + -ski
なのです。-ski (女性形は -ska) は形容詞をつくる接尾辞で、要するに 「〜という土地の、〜という土地を治める」 ということを意味します。なぜ、形容詞を使うかというと、
スラヴ語には、西ヨーロッパの諸言語のような、
所有をあらわす 「〜の」 (of, de, von) という前置詞がなかったから
です。
〓西ヨーロッパの諸言語では、格変化が消滅したり、貧相になったため、所有を意味する前置詞が発生しました。フランス語では、もはや、de を使う以外に所有を表現する方法がありません。英語やドイツ語では、〜's や二格を使う方法と、of や von を使う方法が並行して存在しています。
〓スラヴ語では、所有をあらわす格が十全に機能していて、「所有関係をあらわす前置詞」 が必要なかったんですね。そのため、西ヨーロッパの貴族の称号をマネようとすると、「領地名」+ -ski しか方法がないのです。
〓現在、ロシア、ウクライナ、ベラルーシに分かれている三国は、本来、1つのルーシ人の国でした。現在のウクライナの首都、キエフを中心として、9世紀の終わりごろに成立したのが 「キエフ・ルーシ」 です。
〓現在の国名 「ロシア」 というのは、後世になって、「ルーシ」 のギリシャ語名を採り入れたものです。ロシア語で、「ロシアの」 という形容詞は、
русский russkij [ ' ルースキイ ]
ですが、これは、まさしく 「ルーシ Русь Rus' の」 という形容詞なんですね。つまり、国名はギリシャ語でも、形容詞のレベルでは、「ロシア」 も 「ルーシ」 も同じものです。ギリシャ語を使うのは、この国が、ギリシャ正教を採り入れたからで、文字や文法など、ロシア語はギリシャ語から多くの影響を受けています。
〓しかし、キエフ・ルーシは、13世紀なかば、チンギス・ハーン (ジンギスカン) のモンゴル帝国によって征服され、滅びます。
〓16世紀なかばから、ウクライナとベラルーシは、ポーランド・リトアニア連合王国の支配下に入ります。だいたい、今のウクライナがポーランド領で、ベラルーシがリトアニア領でした。
〓これが何を意味するのか、日本に置き換えてわかりやすく書きますと、
古都 京都を含む西日本全体が、他国の領土になり、
日本は、江戸を中心とする東日本だけになる
という状況です。どうです? 一大事でしょ?
〓こうした状況の中で、ウクライナ、ベラルーシと、ロシアとのあいだで、言語・文化・宗教のちがいが少しずつ増幅していきます。そして、現代の 「ルーシが、三国に分裂した状態」 に至ります。
〓極端に言ってしまえば、
「ロシアとは、本来、ウクライナのことであり、
ロシア語も、本来は、ウクライナのコトバである」
と言えます。
〓この時期に、ウクライナ、ベラルーシでは、領地をポーランド貴族が支配し、また、ウクライナ貴族もポーランド語化してしまいました。そうした、ウクライナ貴族・ベラルーシ貴族もポーランド語式に、〜ski という称号を名乗りました。
〓のちに、民衆や、この地域にたくさん住んでいた 「アシュケナージ系ユダヤ人」 も、この方式の姓を名乗るようになりました。これが、現在の、
ベラルーシ語 -скі -ski
ウクライナ語 -ський -s'kij [ -ɕkɪj ]
※ [ ɕ ] は、日本語 「シ」 の子音と同じもの
になります。
〓のちに、ベラルーシ、ウクライナが、ロシア領になったときに、これらの地域で 「〜スキー系の姓」 を名乗っていたヒトたちが、ロシア語の正書法に従って、
ロシア語 -ский -skij [ -skij ]
を名乗りました。だから、
「〜スキー」 はロシア人の姓ではなく、ウクライナ人、ベラルーシ人の姓
なんですね。
〓その証拠に、-ский -skij に終わるロシア姓は、その9割9分までが、
後ろから2番目の音節にアクセントがある
のです。その理由は、
ポーランド語のアクセントは、後ろから2番目の音節にアクセントがある
からです。
〓本来のロシア語彙では、-ский -skij に終わる形容詞のアクセントが “固定” である、というようなことはありません。
Выборгский Vyborgskij [ ' ヴイバルスキイ ] 「ヴイボルクの」
петропавловский pjetropavlovskij [ ピェトラ ' パーヴろフスキイ ] 「聖ペトロと聖パウロの」
орфографический orfograficheskij [ アルファグラ ' フィーちぇスキイ ] 「正書法の」
〓18世紀の後半に入ると、弱体化したポーランド・リトアニア連合は、周囲の三大国、
ロシア帝国、プロイセン王国、オーストリア大公国 (ハプスブルク家)
に、寄ってたかって分割されました。これを 「ポーランド分割」 と言います。
〓この結果、ベラルーシとウクライナは、“数百年ぶりにロシアに戻ってきた” 形になります。これらの国の住民で 「〜スキー姓」 だった者が、ロシア語で -ский -skij 姓を名乗ったのは、先に書いたとおりです。
〓「ポーランド分割」 の際に、ポーランド貴族の多くはフランスに亡命しました。そして、彼らは、フランスで -ski 姓を名乗ります。パリというのは、ポーランド貴族にとっても、ロシア貴族にとっても、「文化的中心」 でした。ロシア貴族は、ロシア語を放棄してフランス語を使用していたほどでした。
〓ロシア人 ── というか、ロシアに帰属することになったウクライナ人、ベラルーシ人、アシュケナージ系ユダヤ人は、フランスで -sky を名乗っていました。この使い分けは徹底していて、ロシア帝国に属する者は、決して、-ski を名乗らなかったんですね。
〓この使い分けは、最初から意図的だったのか、途中から徹底されたのか判然としないのですが、とにかく、
-ski はポーランド人だけが名乗る姓
になったわけです。ウクライナ人、ベラルーシ人の姓も、もとは -ski であっても、フランスでは -sky でした。
〓ポーランド貴族の亡命したフランスでは -ski という姓は珍しくありませんでしたが、他の国では、「〜スキー」 と言えば -sky が一般化したようです。ですから、移民の多い米国などで、-sky という姓を持つヒトたちの先祖は、
ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人、
アシュケナージ系ユダヤ人、チェコ人、スロヴァキア人、
そして、一般的な表記法に従うことにしたポーランド人
などがいるわけです。
〓そうした幾重 (いくえ) もの障碍 (しょうがい) を乗り越えて、-ski という綴りにこだわったポーランド移民だけが、米国などで -ski 姓を名乗っている、と言えます。「ウチの先祖はポーランド人なんだぞ」 という主張のこもった綴りなんですね。
Sikorski [ ɕi ' korskʲi ] [ シ ' コルスキ ]
は、Sikora 「シコラ」、Sikory 「シコルィ」、Sikorzyce 「シコシツェ」 といった土地の出身者が名乗る姓です。これらの地名は、
sikora [ シ ' コラ ]、sikorka [ シ ' コルカ ] 「カラ」 (シジュウカラ属の小鳥)
※英語では tit あるいは titmouse という
に由来するものです。ポーランド人には、そのものズバリ、Sikora 「シコラ」 という姓も多く見られます。これは、ヒトを 「カラ」 という鳥に見立てたアダ名かもしれません。
〓ロシア姓としては、Сикорский Sikorskij [ シ ' コールスキイ ] が見えます。
Nitkowski [ ɲit ' kofskʲi ] [ ニト ' コフスキ ]
〓日本では、なぜに、「ニコースキー」 なんでしょう。英語では、
[ nɪt ' koʊski ] [ ニト ' コウスキィ ]
と発音するようです。
〓この姓は、
nitka [ ' ニトカ ] 「糸」
に由来します。「糸を扱う商人」、あるいは、「繊維物を扱う商人」 の姓でしょうか。
〓ロシア語の нить nit' [ ' ニーッチ ] 「糸」 と同源です。英語の knit は他人のソラ似ですね。Nitkowski はポーランド人の姓として、それほど珍しくないようですが、不思議なことに、ロシア姓として Нитковский Nitkovskij はまったく見当たりません。
Kozłowski [ koz ' wofskʲi ] [ コズ ' ウォフスキ ]
〓ポーランド語では、l が ł となり、若干、発音がちがいます。この姓のもとになっているのは、
kozioł [ ' koʑow ] [ ' コジョウ ] 「雄ヤギ」
です。斜格 (しゃかく=主格以外の格) で ł のあとに変化語尾が付くと、zio の io が落ちます。ポーランドには、この 「雄ヤギ」 という名詞からできた、
Kozłów [ ' kozwuf ] [ ' コズウゥフ ] 「コズウフ」
という地名が多いようです。そうした土地の出身者が Kozłowski 「コズウォフスキ」 を名乗りました。
〓あるいは、また、「雄ヤギの群れを飼っている者」 とか、「雄ヤギのように向こう見ずな男」 に Kozłowski という名が付く場合もあったようです。
〓ロシア語でも、ほとんど変わらず、「雄ヤギ」 を
козёл kozjol [ カ ' ジョーる ] 「雄ヤギ」
と呼び、この名詞からつくられる姓が、
Козлов Kozlov [ カズ ' ろーフ ] 「コズローフ」
です。「雄ヤギを飼っている人」、「雄ヤギみたいな人」 という姓ですね。ロシア人には、ひじょうに多い姓です。
〓これに対して、
Козловский Kozlovskij [ カズ ' ろーフスキイ ] 「コズローフスキイ」
という姓もあります。つまり、「コズローフ」 が本来のロシア姓で、「コズローフスキイ」 がウクライナなどから流入してきた姓である、というワケです。
〓というわけで、「勝ち シコースキー、負け ニコースキー」 は、単に、ゴロがオモシロイだけではないゾ、というハナシでござんした。
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