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2024年03月03日17:18

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(読書)『世界がわかる宗教社会学入門』(橋爪大三郎著:ちくま文庫)(その2)

『世界がわかる宗教社会学入門』は非常に面白かったので、この本についての読書感想文は、「その2」を書いておくことにする。

(5)本書の「講義7」における大乗仏教の解説で、大乗仏教の中心思想を成している「空(くう)」のことに触れている。これは分かりにくい思想のようだが、以前に、末木文美士著:『日本仏教入門』(角川選書)という本を読んだことがある。この本のP127に、「空」について次のような解説文が載っている。

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 思想的に見れば、仏教の無我=無自性=空はきわめて不安定な思想である。原始仏教の無記に見られるように、重要な哲学的な問題に対して解答が示されず、竜樹のように、否定の論法は鋭くても、積極的、肯定的なものが提示できていない。自らの思想の中核に否定を含むので、自分自身をも確定的なものとして主張できないことになる。
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我々現代人は、思想にせよ哲学にせよ信仰にせよ、こういったものに問題解決能力を求め、あるいは期待しているのではないだろうか。ところが、上に紹介した末木氏の解説を読む限り、「空」の思想に、問題を積極的に見いだし、これに解決を与えようという積極性はとても認定できない。本書(『世界がわかる宗教社会学入門』)の最初の読書感想文で、明治維新になって、イギリスなどの仏教学の成果としての「大乗非仏説」が日本に伝えられたのだが、それに対する日本の仏教界のリアクションは鈍かったことを紹介した。これには、仏教の思想自体がもつ積極性の欠如が背景にあるのではないだろうか。

(6)本書の「講義10 尊王攘夷とはなにか」では、非常にわかりにくい論理が展開されている。まず、江戸幕府は人民に儒教を押しつけたようだが、このような幕府の行為はグロテスクだとしている(P251)。なぜかというと、江戸幕府は武士の政権であり、武力で日本を制圧し、樹立した政権のはずだ。このように武力で支配を確立することを、朱子学では覇道(はどう)と言うらしい。つまり、江戸幕府は覇道の政権なのである。

ところが、儒教というのは、人民を教育によって啓発しこれを官僚に育成して政治を行わせる思想なのである。ということは、江戸幕府が武士の政権であり覇道の政権であることと、本質的にソリが合わないはずなのである。このようにソリが合わないものを漫然と混在させているために、政権の体制は、その統治能力に重大な欠陥を内包することになったのではないだろうか。実際、本書には、「幕藩体制」というものの奇妙さが記述されている。すなわち、幕藩体制は分権制度であるため、中央政府(江戸幕府)は政治をやらないのである。しかも、日本は鎖国を採用していたから、軍事外交もやらない。中央政府はないに等しい。なにか問題(特に国家的問題)が起こった場合の当事者能力もない。それが幕藩体制だというのである(P264)。

さらに、道徳(規範)の問題に関連して、元々儒教においては、本来官僚の道徳(官僚の行動規範)と家族の道徳とは区別されていた。ところが、江戸時代の幕藩体制における各藩の官僚機構は、家族制度を下敷きにしているため、官僚の道徳と家族の道徳との間に区別がないことが指摘されている(P265)。これは私の飛躍した連想かもしれないが、今の日本の職場環境において、ワークライフバランスの観念が欠如しているのは、この江戸時代における官僚の道徳と家族の道徳との間の区別の欠如が遠因として存在しているのではないかと思える。

(7)日本において、家族道徳が官僚道徳とは区別された形で確立していないことは、日本における「愛」の観念にも混乱をもたらしているような気がする。本書のP89には、「愛は混乱のモト」というコラムが掲載されている。その一部を引用してみよう。

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 日本の男性が、「愛している」となかなか口にしないのも、これと関係があります。外国映画を見ると、男女とも顔を見れば「愛している」と言います。「愛している」と言わないと、愛していないことになるからです。
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私は、『「愛している」と言わないと、愛していないことになるからです』という論理を否定する文脈から、日本の男性が、「愛している」となかなか口にしないことを説明しようとする著者の見解には賛同できない。むしろ、日本において、家族道徳が官僚道徳とは区別された形で確立していないことが背景にあると考えるべきだと思う。

【関連項目】

(読書)『世界がわかる宗教社会学入門』(橋爪大三郎著:ちくま文庫)

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