ウクライナに隣接していて混迷を増す東欧だが、今回の３か国はいずれもEU 加盟国。オーストリアは永世中立国だが、ルーマニアとブルガリアはＮＡＴＯに属し、黒海に面する。オーストリアはクラシックの国のせいか、かえってプログレは少なくて、プログレ・バンドが少ない辺境３か国だが、サウンドはなかなか魅力的なものが多いのだ。
・ 曲 バンド アルバム
�� A spaceman came travelling（宇宙帰還）/ Eela Craig [ Hats of glass 1978 Austria ]
トリプル・キーボードでツイン・ヴォーカルとして、レコード時代から邦盤が発売されていたイーラ・クレイグ。７人組で、３人のキーボード奏者に加え、ヴォーカリストもピアノを弾く。ヴォーカルは、１人はブルースっぽいしわがれ声だが、もう１人はこの曲のようにマイルドな青年声。宇宙飛行士が帰還し宇宙船が開くと、突然美しい音楽が流れ、地球は平和で満たされるというお伽話。何重にも張り巡らされたキーボードが、夢のように透明な幻想であたりを包む。メロディーがこの上なくポップで美しい上に、コーラスに女声も加わって、楽園的な心地よさだ。
�� Farewell to a golden heart / Virtual [ Conception of perception 2013 Bulgaria ]
ブルガリアのヴィルチュアルは３人組。私がこのバンドを特に好きなのは、ローゼン・アンゲロフのヴォーカルがジョン・ウェットンによく似ているためだ。知らずに聴いていると、「ウェットンのどのアルバムだったかな」と思ってしまう。しかしよく聴くと、声はウェットンよりも少しくぐもっていて、むしろメロディー・センスが似ているのではないだろうか。演奏はエイジアやジョン・ウェットン・バンドよりもハードで、ギターのエッジが立っている。この曲では、一貫して弦楽器がバックに流れる。
�� Nu-mida tot intro zi / Celelalte Cuvinte [ Vinil Collection 1996 Romania ]
セレラルテ・キュビンテは、ルーマニアの至宝と言ってしまいたくなる可愛らしい少年声のヴォーカル。５人組のヴォーカリストは、カリン・ポプ。メタル色はないもののギターがかなり激しいハードロック風なのだが、この声でメロディアスに歌われると、限りなく愛らしい。この曲ではコーラスも入って、スピード感もあり、少しイエスっぽくなる。
�� Out of dimension / Kyrie Eleison [ The fountain beyond the sunrise 1977 Austria ]
オーストリア７０年代のキリエ・エレイソンは、５人組のジェネシス・タイプのバンド。それもピーター・ガブリエル時代の特に空想的だった頃のジェネシスの擬態バンドである。ヴォーカルのミカエル・シュベルトは、仮装もしていて、うねうねと長い歌詞を歌う。バックの演奏はゲスト2人が加わると、ツイン・ギター、ツイン・ドラムスだが、あまり強いヘヴィネスはなく、こちらもうねうねと細かく切れ切れになった音を踊らせる。この曲では冒頭から出現するメロトロンが、あちこちでゆるゆると流れている。ピーター・ガブリエル擬態のバンドはこの世に多いが、このバンドのヴォーカルは、十分研究し尽くしていると言えるだろう。
�� Sled deset godini / Allegro [ Bio 2000 Bulgaria ]
ブルガリアの５人組アレグロも、ヴォーカルはハイトーンで、やや思春期風の声が魅力的だ。現地語で歌うサウンドは、ドラムスがどっしりとした骨格を描き出していて、その上でキーボード・ソロが駆け回る。シンセサイザーによるテクノ風の音も聴かれる。この曲では、ヴォーカルが長く引っ張る泣きのメロディーを聴かせる。サウンドはギターとキーボードが一体となってかなりハードなものだ。
�� Pesen / FSB(Formation of Studio Balkantan) [ �� 1978 Bulgaria ]
古くからその名が知られていたＦＳＢは、ブルガリアの国営レーベル、バルカントン・スタジオに属する。バンド名は、「バルカントン・スタジオのフォーメーション」の略。3人組で、メロトロンがツインで配置されている。空間に広がり続けるメロディーに乗せて、清流のような女性スキャット。この曲はドラムレスのこともあって、虚空に吸い込まれていくような浮遊感がある。バックの演奏もほとんどキーボードとシンセサイザーの組み合わせのみなのではないだろうか。
�� Lancelot / Indigo [ A collection of tales ..From past to present 1984-1991 Austria]
オーストリアのインディゴは6人編成で、ドラマーの他にパーカッション専任がいる。空間に広がるキーボードが夢想的で、典型的なシンフォニック・ロックである。アンゾーのヴォーカルは、やや上ずり気味のミドルからハイトーン。歌い方はジェネシス・タイプということだろうが、ややポップ寄り。バックでオルガンが太い音を立てている。ピアノやフルート音など何重にもキーボードが張り巡らされており、キーボードの表現力を中心としたバンドだが、技術的には超絶なものはなくて、サウンドのまとまりを重視しているようだ。
�� Negru voda / Phoenix [ Cei ce ne-au dat nume 1972 Romania ]
70年代ルーマニア・バンドのフェニックスは、ヴァイオリンをフィーチャーした独自色の強いプログレを聴かせる。ヴォーカルは、シャウトするとハイトーンの音域まで達する。何しろ当時は共産圏であり、現地語で歌われる地を這うようなメロディーが、土着的な雰囲気を醸し出している。ギターはかなりサイケデリックで、60年代末風の雰囲気。間奏で男性によるジャズ・ヴォーカル風の長いスキャットが入る。あまり似たサウンドがないという意味で、今回のバンドの中では最もプログレッシブではないだろうか。
�� Mierea / Sfinx [ Zalmoxe 1978 Romania ]
こちらも70年代ルーマニアの4人組、スフィンクス。リズム感のある軽快なプログレを聴かせる曲もあるが、この曲はゆったりとしたメロディーだ。やや低いものの透明感のあるヴォーカルが歌う。現地語で歌っていることもあって洗練されていないが、当時の東欧らしい素朴な味わいがある。リズム隊はおとなしいもののドラムスは堅実だ。そして長く引っ張るサイケデリックな泣きのギターとシンセサイザーのソロがいかにも古めかしい雰囲気である。
�� A dream / Echo [ The dream 2010 Romania ]
ルーマニアの5人組、エコーは、ピンク・フロイド擬態の確信犯だ。このバンドがピンク・フロイド・タイプのバンドの中でも独特なのは、バンド名が「エコー」というだけでなく、メロディーを「エコーズ」に似せた曲が何曲もあるということだ。だからといって本物の「エコーズ」のように、アヴァンギャルドで無調的な部分はない。むしろデヴィッド・ギルモアに似せたギターが、ぼわーんと宇宙的な音を聴かせているところがフロイド風。しかし間奏部ではむしろ泣きのギターっぽくなる。オルガンも、リック・ライト風。
[次点] The path of love / Lanvall 1996 Austria ]
オーストリアには、マイク・オールドフィールド・タイプの１人シンフォ・マルチ・プレイヤーとして先輩格のガンダルフと後輩に当たるランヴァルの２人がいるが、２人とも１人で演奏しているのでなくて、ゲスト・ミュージシャンや合唱隊を入れて壮大な演奏となっている。私はランヴァルの方が好きなのでこちらを選出したものの、このアルバムにはガンダルフもギターで参加。ランヴァルを含め5人のバンド編成と32人もの合唱隊となる。泣きのギターの弾きまくりを基本とするサウンドなのだが、男女混声合唱が途中から加わって、荘厳なまでに盛り上がる。
〇他に候補にしたバンド Akata(Bulgaria), Gandalf(Austria)
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