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2023年01月05日10:33

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12月の。そして昨年の。

12月に観たのは『イレイザーヘッド』『ライトハウス』『カオス・ウォーキング』の3本。

●『イレイザーヘッド』
閉塞的な自室に新妻と、いつの間にか出来て居た未熟児を迎えた男。ノイローゼとなった妻は早々に実家へ帰り、男は父としての実感も愛情も持てない、人間かどうかも判然としない児と2人きり。元々軋んで居た日常はますます現実感を喪失し……みたいな。
冒頭5分がまるっきり高熱吹いたトキに見る取っ散らかった悪夢で、やっとこさ現実に帰還したと思ったらさにあらず、こっちはこっちで別ベクトルの緻密で逃げ場のない悪夢でしたわよみたいな映画。
魚のようなぬめぬめしたハゲタカのような顔の未熟児と二人きりの閉塞空間。すぐ外が壁で塞がれた窓。かみ合わない感情と会話と沈黙。不安感と僅かな不快感をあおるコトを恐らく目的とした映像と音。
そう、音ね。日常の僅かな雑音を増幅して流して居るのかな?な割と耳障りなノイズ若しくは不協和音。それもまた観る者の不安感を掻き立てる大きなファクタになって居ると思うんだ。たくさんの仔犬が母親の乳を吸う音がちゅっくちゅっくちゅっくちゅっくと延々と流れるトコとか厭な感じに印象に残る。
映画て云うより『ヒトを不安にさせる計算が緻密に施された映像』て表現が合う。このカリフラワー頭の主人公の心理に同調させるための。社会に適応出来ない人間から見ると世間はあんな感じに見えるのかも。その辺は僕もあまり自信はなく、だからニュアンスとしては幽かに「あー」と思わんでもない。
部屋の隅のスチームの向こう側から光が差し、狭いステージが現れる。アレは面白かったな。♪何もかもうまくいく 何でも手に入る あなたの悦びも 私の悦びも♪と天国の歌を歌う女。あの歌手みたいなのが居たあそこが天国かと思いきやまたもや地獄で、それを更に通り越したラストのあの光の中にしか彼の安息はなかったのだろうね。最早この世でも、逃避先の夢の世界でもない、何処か。死の恍惚的な。
えー、解釈全く違うかもだけど僕はそんな感じを受けましたよって云う話。えー多分ね。アレだ、『マルホランド・ドライブ』何かはまだ優しかったのだなと云う、衝撃。それすらも勘違いかもだけど。

●『ライトハウス』
孤島の灯台に4週間の任期で置き去られた2人の灯台守。高圧的で支配的な老灯台守と、彼が押し付ける徒労のような仕事に不満が募り、幻覚に襲われる若い灯台守。いよいよ帰れると云う喜びの夜、嵐が島を襲い迎えの船も姿を見せず食料も泥水で失い……。
荒涼とした島の風景。灯室に決して若者を入れない老人。そして若者が見る人魚の幻。ほぼ正方形、しかもモノクロて云う特殊な画面。コレも閉塞感のための選択なのかも、て云うか多分そう。この異質な画角と色彩の欠落が、ほぼメイン2人きりの濃密な空間、まぁ厳密にはあと『人魚』が出て来るけど、濃密な空間と室内の狭さや圧迫感、そして灯台の高さとのしかかる重苦しさを際立たせて居るのは確かで。
その窮屈な画面内で2人の男が差し向かいで飯を喰い酒を呑み、笑い歌い踊り、秘密を語りそれを迷惑がり、罵り合い、そして殺し合う、極めて舞台的かつ液体の如くねっとりと重い空気。その中で『自分の作ったメシを貶した若者に、心底悲しそうに反論する老人』の姿なんかが日常的でとても印象に残る。
陰鬱な風景と閉鎖的な生活の中、次第におかしくなってゆく2人の灯台守。狂って居るのは若者か、老人か、それとも両方ともか。何が現実で何が妄想なのか。若者を「狂って居る」と云う老人。「わしもこの島もお前の空想の産物で、お前は今もカナダの森を彷徨ってる」て云う老人のコトバ。その彼こそ?その彼も?発狂して居るかも知れずもう正気が何処にあるのか、何処が水平な地平なのか判らない。
そして嵐が到来し暴風雨が吹き込み何もかも引っ繰り返し水浸しの中、二人きりの感情は煮詰まり飽和し沸騰する。その大渦巻の中にあって、人魚は『狂気の正気』的なモノだったのかもね。知らんけど。
割と好みのタイプの映画でしたよ。ラストで若者が覗き込んだライトハウスのフルネルレンズの中には何があったのか。それが怪奇の中心かも知れないし、そうじゃないかも知れない。いずれにしろこの島の主は彼らではなく灯台と、そして人魚の幻影であったのだろうね。多分。任期の最後、4週間目の夜のバカ騒ぎがホントに楽しそうな、とうとう狂気に飲み込まれたような、不思議な空気だったな。

●『カオス・ウォーキング』
男の思考が『ノイズ』の形で他者にダダ洩れになる入植地。女は全員死んで仕舞って居ない。皆、己のノイズを必死で制御しながら暮らして居る集落。其処に地球から到達した第二次入植隊のシャトルが事故を起こし、女が一人だけ落ちて来る……。
皆、他人に知られたくない思考は雑多な脳内言語でグチャグチャに上書きして遮断し、そうして何とか保たれて居る歪な社会。首長はそれが人一倍巧みで心のウチは他人には殆ど判らない。また他人の思考をノイズにして引きずり出すための会話も上手く、恐らくこの世界向けに最もカスタマイズされた男。
其処に空から降って来た思考の漏れない女は明確な異分子であり、特に一番年若いトッドにとってはあらゆる面で初めての存在。彼女を確保し、第二次入植隊を制圧してこの星の主権を握ろうとする首長。彼から逃げるヴァイオラと同行するトッドの逃避行。そして次第に明らかになる彼の居た集落の異常性。
相手はこちらの思考が読める。こちらは相手の思考が読めない。普通に考えてこれは相当キツイ世界よね。トッドが基本善人で、若いせいもあり思考を遮断するのが下手でめっさ不器用で、おろおろする犬のように少し可愛いからまだ良かったけど、これが上手く収まったのはメルヒェンかも。まぁいいけど。
この星の先住民族が女を皆殺しにしたと云う『欺瞞』。当時まだ赤子だったトッドと、もしかしたら同年代の首長の息子、以外は皆その真相を知って居て、そしてトッドに隠して居た。首長はともかく、この世界で良く皆コレを隠しおおせたなと云うアレ。考えないように意識の底深くに沈めたのだろうね。
首長が女たちを殺したのは『本当の自分を知られたから』。それまでは立派なリーダーだったのかもね。ノイズさえなければ、この世界にさえ来なければ、その役割に自分を沿わせて立派なリーダーで居て呉れたのかも。人格は与えられた役割によっても構築されてくモノだから。そう思うと少し悲しい。
ラストに現れた女たちはトッドが創ったヴィジョンか、それとも首長が創り出したのか。トッドは彼女らの姿を知らないから、だから後者だね多分。罪の意識にずっと圧し潰されて居たのだろうね。
牧師がまぁ敵なんだけど哀れな存在でもあり。首長と共にヴァイオラを執拗に追い掛けるけど、目的は首長とは違って居て。ノイズを神の声と誤認し女たちを殺したコトを悔い、天から来た神の使いに殺されるコトで清められたかった。鬼気迫る追跡は『罰して欲しかった』から。そう思うとひたすら悲しい。

●●●
月間賞は『ライトハウス』かな。

●●●
そんでこの1年で観たのは24本。
そん中で『今、も1回観るなら』で選んだのはこんなん。
『バンカー・パレス・ホテル』
『恋する遊園地』
『人数の町』
『博士と狂人』
『来る』
『オールド』
『パンク侍、斬られて候』
『プラットフォーム』
『3022』
『シン・エヴァンゲリオン』
『ライトハウス』
この中から年間賞を1本選ぶと……うーん。
今日の気分だと『博士と狂人』かなぁ。
『パンク侍、斬られて候』『プラットフォーム』『ライトハウス』辺りも捨てがたいけど。
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