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2022年09月06日12:31

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夏のヴィム・ヴェンダース祭り(その3・終)

 一人の映画監督の主要作品(9作)を順に見つづけたのは初めてだった。
 フィクションの合間にドキュメンタリーを撮るスタイル(しかも日本関係)だったので、作風に飽きず、むしろ監督の考え方を感じながら観ることができた。

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1.時の翼にのって/ファラウェイ・ソー・クロース!(1993年)
 「to be continued」とエンド表記されたベルリン天使の詩(1987年)の続編。
 友人天使のカシエル(オットー・ザンダー)が主役。
 前作のブルーノ・ガンツ、ソルヴェーグ・ドマルタン、ピーター・フォークも出演し、今回はナスターシャ・キンスキー、ウィレム・デフォーらが共演。本人役で、ロック歌手のルー・リードと、先日亡くなった旧ソ連のゴルバチョフ氏も出てくる。
 前作で人間になったダミエルが仕事を楽しみ家族と暮らす様子を見て、カシエルもまた人間になるが・・・そこで体験するのは、人間の悪意、生活の厳しさから、犯罪に加担していく。
 天使の視点ではモノクロだが、人間の視点となるとカラーになるのは、前作と同じ。オットー・ザンダーも、ブルーノ・ガンツも、カラーの実物より、モノクロ映りの方がすっきり男前だ。そうなると、天使役のナスターシャ・キンスキーはさらに美しい。

 前作と違うのは、ベルリンの壁崩壊後の作品ということ。カシエルは人間界でカール・エンゲルという共産主義の始祖を足したような名前を名乗る。
 仕事も家族もいるダミエルが西ドイツの人を象徴し、仕事も家族もいないカシエルは東ドイツ出身者の生活苦を描いてるという見方は、図式的すぎるだろうか。
 それでもそこはヴェンダース。悲惨すぎず、ユーモアあり、希望あり、ファンタジーと言ってよい終わり方だ。

 映画の雰囲気がわかるU2「ステイ(ファラウェイ・ソー・クロース!)」のミュージックビデオ(監督ヴィム・ヴェンダース)
https://www.u2.com/media/player/112/5

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2.ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ(1999年)
 「パリ・テキサス」の音楽を担当したギタリスト、ライ・クーダーがCD録音したキューバの老ミュージシャンを再訪し、彼らの半生やキューバの日常を描いた音楽ドキュメンタリー。当時知らなかったが、ライのCDもこの映画も世界でも日本でも相当売れたらしい。

 かつて「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」という店で演奏していた彼らには音楽演奏を離れていた者もいて、援助国ソ連崩壊後、米国による経済制裁の結果、不況になったことも一因のようだ。音楽を取り戻した彼らの喜びあふれる姿と哀愁に満ちた半生に引き込まれる。
 「あこがれの国」米国ニューヨーク、カーネギーホール公演が収められている。現在も存命者はいるが、多くはその10年以内に亡くなっている。
 歴史に忘れられた音楽家が、人生の最後に、光り輝いた瞬間をヴィム・ヴェンダースは見事に記録化している。

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3.ミリオンダラー・ホテル(2000年)
 U2のボノ原案であり、これも観たくて観る機会がなかった映画。
 ジェレミー・デイヴィス、ミラ・ジョヴォビッチ(ヨヴォヴィッチ)、メル・ギブソンらが出演。
 ロサンゼルスに実在する、その名のとおり「億万長者ホテル」は、今は生活困窮者、変わり者、知的障害者、娼婦ら社会からこぼれ落ちた人々の定宿となっている。
 ユダヤ人メディア王の家出息子の死亡事故が起き、メル・ギブソン演じる刑事(原発事故の放射能汚染地区で先天的奇形児だった設定)が捜査を始めると・・・という設定。
 ストーリーは、ミステリー映画、アートの映画、ラブストーリーの要素を含み、なかなか面白い。被疑者でもある各登場人物のキャラクターも秀逸で、いつしか愛着を覚えていく。
 ネタバレは避けるが、熱心なキリスト教徒であるボノの原案だけに、無償の愛がテーマであるとわかる。ミラ・ジョヴォヴィッチの役はマグダラのマリアということなのだろう。
 映画冒頭でU2の「ファーストタイム」、エンドロールで「ザ・グラウンド・ビニース・ハー・フィート」(The Ground Beneath Her Feet=彼女の足下の大地。サルマン・ラシュディの詩)が使われ、美しい余韻を残す。

 金持ちミュージシャンが有名監督を起用した駄作との悪評もあり、この映画もまったく売れなかった(制作費9億円、米国興行収入700万円)。アイルランド人とドイツ人が見た米国社会、貧困、薬物、売春、社会的弱者は、力と富を好む米国人にとって、見たくない暗部だったのだと思う。

 映画シーンを使ったミュージックビデオ(作詞者も出てくる)。
https://www.u2.com/media/player/1484/211

 本当は、この後、初期4作品に戻りたいが、経験を積み重ねてきた後、すぐに初期作品を見ると「アラ」の方に目が行きそうなので、それはまた別の機会のお楽しみに。おつきあい、ありがとうございました。
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