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2022年08月25日17:18

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夏のヴィム・ヴェンダース祭り(その2の後半)

3.夢の涯てまでも(1994年)
 (英語題 Until the End of the World)

 以前から、この映画を観てみたかった。
 ヴェンダースは終わった、とまで言われた失敗作。よかったのは映画ではなく、主題歌を歌ったU2、ルー・リード、パティ・スミス、エルヴィス・コステロ、REMその他の人気ミュージシャンによるサントラ盤と酷評された。
 見終えてみて、これは、とてつもない映画と思った。
 ここでクイズ。この作品の長さは、何分くらいかわかるだろうか。

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 288分・・・
 4時間48分。1994年の封切公開時には、配給会社との契約上の都合により2時間半から3時間以内に編集された。ヴェンダースは、世紀末叙事詩がぶつ切りのダイジェスト版になってしまったと後悔している。それでは、評判が悪かったのも致し方なしと思う。
 ディレクターズ・カットした4時間48分。ブルーレイ1枚では入りきらず、延々つづくお話に、私は途中で休憩をはさんだ。さらにさらに、話は終わらず、最後まで観ず、残りは日を改めた・・・やはりドイツ人、長大なワーグナーを生んだ国だけのことはある。

 肝心のお話はというと、近未来SF、1999年、核衛星が地球に墜落することになり世界じゅうの人々が滅亡を恐れる中、クレアという女性(ベルリン天使の詩のソルヴェーグ・ドマルタン)が、銀行強盗が盗んだ大金を預かり運ぶこととなったが、途中で出会った男性トレヴァー(蜘蛛女のキスのウイリアム・ハート)にそのお金を盗まれ、それを取り返すために、ベルリン、リスボン、モスクワ、中国、日本、サンフランシスコ、最後はオーストラリア北部のアボリジニ集落へと、元の恋人や賞金稼ぎの探偵らも含め、延々追いかけつづける(9か国20都市。ここまで2時間くらい)。なんとも荒唐無稽、はちゃめちゃ感がある。
 世界各地を巡るきれいな映像の撮影にNHKのハイディフィニションというデジタル映像が世界で初めて使われ、近未来の利器(小型テレビ電話、インターネット、検索エンジン、変わった車など)の発案制作は日本の有名企業が協力したそうだ。(このころの日本が先進技術開発世界一の国だったことを思い出した。衣裳デザインには友人となった山本耀司も協力)
 ヴェンダースお気に入りの日本部分では、カプセルホテル、パチンコ屋、箱根ロマンスカー、竹林が見事な日本旅館を見ることができる。小津映画の笠智衆、三宅邦子が出演、若き竹中直人と藤谷美和子が端役で出ていた。

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 そこからさらに長くて、トレヴァーの父(マックス・フォン・シドー)は、盲目の妻(ジャンヌ・モロー)に、トレヴァーが録画してきた親族の顔や各地の景色を、脳波の信号化を通じて見せる画期的なコンピュータ装置を開発していた(SFです)という「感動」の話。
 では終わらずに、人が見た「夢」の映像化にも成功したその装置を使ったクレアとトレヴァーは、その後どうなるかというと・・・映像中毒になり、感情と人間性を喪失してしまう。それは、まるでスマホ画面しか見なくなった現代社会の人々を言い当てているようだった。
 映像作家であるヴェンダースは、最後に残るのは「映像」ではなく「文字」だと指摘する(制作から30年たった今はその考えも変化している)。核の危機、環境破壊、哲学的な思索も多く、聖書や黙示録(まさにタイトルはエンド・オブ・ザ・ワールド)の理解が深ければ、いろいろなことが読み取れるだろう。
 それから、最後は、観てのお楽しみ。この長大な映画を観る機会のある人もほとんどいないだろうけど。

 見終わったときには、最初の方や途中はすっかり忘れてしまったが、なんともとてつもない20世紀末の叙事詩を見せられた思いになる(ミレニアムという言葉もあった)。長大な映画全体のテーマは「時をこえる」ことを表現したかったとヴェンダースは語る。
 ウィキによれば、制作費は当時のアート系として破格の2300万ドル(25億円)、これに対し米国での興行収入は83万ドル(1億円弱)。スポンサーにサントリー、アスキー、三菱商事、電通と書いてある。有名監督の新作でひと儲けとの企みは大赤字、大損したことだろう。以後、日本でヴィム・ヴェンダースの名前が商業ビジネス上で賞讃されることは激減したように思う。
 ヴェンダースの集大成と言うべき、類を見ない、とてつもない映画・・・につきあいたい人は、単売のブルーレイかサブスク等で観ることができる。

下は主題歌を含む、U2がベルリンで制作したアルバム「Achtung Baby」

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