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2022年08月08日10:08

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7月の。

7月に観たのは『パンク侍、斬られて候』『プラットフォーム』『モールス』の3本。

●『パンク侍、斬られて候』
辺境の藩にめっぽう腕は立つがちゃらんぽらんな1人の浪人がやって来る。彼がもたらした『腹ふり党』なる脅威の噂。それを利用し政敵の追い落としを謀る家老。彼の巡らす謀略、欺瞞はやがて暴走し現実と化し、藩全体を混沌の淵に陥れてゆく……。
予想以上に面白かったな。原作のあの全体的に『ワケ判らなくて、ゴチャゴチャして居て、ちょとめんどくさい』感じを、上辺をなぞるだけでなく作品世界の空気感にちゃんと落とし込んで居たと思う。キャストも皆、めっさ大袈裟でコミカルな所作でありながらあの世界だとそれもあり、一人一人がシッカリとあの世界を呼吸して居る感じで好感が持てる。浅野忠信とかとても印象的でしたよ。顔だけでなく。
映画化の話を聞いたトキは「……どうするのアレ……可能なの?」て思ったけど杞憂でした。原作に沿って、そしてそれ以上のパワーを持った怪作に仕上がって居た。テンポもめっさ良かったし。でも僕は『ああ云う話』だと知って観たからアレだけども、普通の映画だと思って観たヒトはどうだったんかな。少し気になる。「…………何?これ……」てなったり、したのではないかなぁ。そう云う映画です。
正論しか云わない融通の利かない殿、反目し合う二人の家老。藩内はそれぞれの派閥に分かれてまっぷたつ。財政は逼迫し……辺りはまぁ、まともな時代劇に聞こえなくもないのだけどね。わはは。
多分アレだよね、原作を知らずに多少イカれた時代劇と思って観たヒトはさるまわ奉行のトコで「ん?」て思い、喋る巨大猿の出現で「え?」てなり、気弱侍の腹が膨れて宙に浮く辺りで悟りを開くのじゃないかなと思う。そして気づけばもう映画は終わり虚空に放り出される。そう云う話なので仕方ない。
穏やかなサルと『完』に「一体何を見せられて居たのか……」とちょとした放心と共に思うけど心地よい放心なので問題なしだ。割と満足でしたよ。町田康に慣れて居ないヒトがどう思ったかは知らん。
町田康原作は『けものがれ、俺らの猿と』は観たけど、アレも良かったけどでもこっちのが好みかな。観るヒトを何処かに連れてって呉れるパワーがより強かったと云うか。因みに『人間の屑』も映画化されて居るけど観たのか観て居ないのかよく覚えて居ないのだよね。多分未見なので見つけたら観る。彼の作品の中ではアレが一番好きな話なのでね。じゃ何でハッキリしないんだって話だけど、何でだろう。

●『プラットフォーム』
男が目覚めたのは縦にコンクリの部屋が連なった空間。中央に吹き抜けがあり、1日1回上階からプラットフォームが各階に止まりつつ降りて来る。其処には食事があり、下階の人間は上階の人間の食べ残しを食べなくてはならない。そんな施設で彼は……。
CUBE系映画。ソリッドシチュエーションスリラー?て云うの?上階の人間は下階の人間を蔑む。現代社会の醜悪なパロディ。こっちは1箇月毎に階層がシャッフルされるだけまだマシか。マシなのか?
上層なら好きなもノを食える。ただ閉鎖空間で楽しみがなく、空腹感もないため余計なコトを考えて仕舞う。そう考えると『1人ひとつ許される所持品』に主人公が選んだ本は割といいチョイスかも。
主人公と同室になった老人トリマガシ。彼の持ち込み品は切れ味の落ちない包丁『サムライ・プラス』。主人公の本を通じて主人公と打ち解けるが下層に移されると……がまぁリアルよね。怖いけど。
2番目の同室者イモギリ。此処の職員だった彼女は「1人1人が最低限だけ食べれば全員に食料が行き渡る」と理想を語り上下階に呼び掛けるが衣食足りて礼節を知るのコトバ通り、荒んだ住人は誰も受け入れず、ただ主人公の脅しだけが下階に向かってのみ効力を発揮する。この辺もイヤな感じにリアル。
息子と巡り合うために毎月同室者を殺してはプラットフォームに乗り自ら下へ降りてゆくミハル。結局彼女も狂って居たようだけど、主人公を助けて呉れたのは何故だろう。敵意や殺意ではない感情を向けて呉れたからかな。何にせよちょと助け合い的な流れになって居たね。それだけに残念なアレだった。
主人公が『取り込んだ』二人の同室者。その幻影が主人公に取り憑き、揶揄したり示唆を与えたりして来る。まぁピノキオのコオロギだよね。ケッコウ好物のシチュエイションではあります。基本的に鬱陶しいけどラストの主人公の行動を決めて呉れた導き手なのも確かで、云わば主人公の伴走者でもあり。
プラットフォームが去ったアトの最下層の暗闇に幽霊とふたりで佇むラストは空虚な脱力感に溢れて居るような、それで居てやってやったぜ的な充足感をはらんで居るような不思議な余韻を残す。『アレ』で何かが変わるかどうか判らないがあの静謐な空間にそれはもう必要ない、関係ないような気もしたり。まぁでも子供は入れない筈のこの空間にあって、最下層に居た女の子は何だったのか。て云うのを考えるともしかしたらホントにアレが、あの行動が管理側の用意した『解答』だったのかも。知らんけど。
極限状況だけどさほど追い詰められず、いい感じに距離を保って観られたな。感情がすり減って少し乾いた感じがプラスに作用したんかもね。アレ没入して観て仕舞うとカナリ辛いと思うのでね。以上。

●『モールス』
雪に閉ざされた何もない田舎町。学校でいじめに遭って居る、母と二人暮らしの少年。或る日、彼の隣家に父と娘が越して来る。少年は夜の公園で娘と会話を交わし、ミステリアスな彼女に惹かれ交流を重ねていく。一方、街では凄惨な連続殺人事件が起こり始め……。
一言で云えば鮮血のボーイミーツガール。少女アビーの正体は30分でアッサリ割れる。アビーの『父』がひたすら悲しい。最初はアビーに支配されて居るのかと思ったけど、彼自身の意思で人生の全てを捧げ、そして命も捧げ切った。お互いにちゃんと『想い』があったワケで、だから別れのシィンは切ない。彼らの人生をメインで見てみたくもあったな。云わば出会いと別れだけを描いたような映画だから。
彼を『眷属』にする選択肢はなかったのかな……とも思うがまぁ『したくなかった』のだろうね。多分。世話する『人間』が必要と云うのもあるけどそれ以上に自分と同じ業を背負わせるコトになるから。
そう。彼女の負う『業』。獣のようなあの状態。呪いみたいなモノなのかしらね。アレを抱えながら人間社会の片隅にひっそりと生きて来た彼女の悲哀。て云う悲劇要素ではあるし必要なのだけど、好みを云えばアレはない方が、もっと冷静な方が良かったかな。ちょとだけ、ちょとだけね、興醒めした。
……あー。そうか。『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のラストで感じた興醒めと全く同質なのだな。多分。人間を完全に捨てた如何にもバケモノ然としたバケモノにしなくてもいいじゃんかって云う。多分、悲哀のようなモノが本質だと思って居るのだろうね。吸血鬼の。僕の勝手な印象として。
あと『モールス』はあまり絡んで来なかったね。ラストを飾ったからまぁいいけどでも原題の『LET ME IN』の方が合うかも。アビーに関わる伏線だし。吸血鬼の作法。だけでなく心情としても。
かくしてアビーの父は居なくなり、一度去ったアビーは約束を守って『自分で闘ったオーウェン』を助けて呉れて、そしてオーウェンは自らの意思で、自らの人生を選択する。アビーと共に歩む人生を。オーウェンもアビーの『父』みたくなるのかな。願わくば彼らに新たな地平がありますコトを。と、思い。
まぁイロイロ云っちゃったけどアビーと父の関係『だけでも』僕的には割と当たりな映画でしたよ。永遠の子供と、成長し年老い死んでゆく者。ちょと調べてみたらスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』のハリウッドリメイクらしく、そっちは未見なので見つけたら観てみようかと思います。

●●●
月間賞は……敢えて選べば『プラットフォーム』かな。
皆面白かったよ。
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