暴力が支配するこの地上にあって、音楽や文化は無力なのだろうか。私はそうは思わない。戦争を始める怒りや欲望が人間の感情なら、戦争に反対し平和を希求する悲しみや願いもまた人間の感情だからだ。真に感情に訴えることのできるものは音楽や芸術しかないのだと、私は信じたい。
・ 曲 バンド アルバム
� �For no one / Barclay James Harvest [ Everyone is everybody else 1974 UK ]
「どうかピストルやライフルを降ろしてほしい。平和に暮らせるように神に祈りを捧げよう」轟々たるメロトロンに乗せて歌うバークレイ・ジェームズ・ハーヴェストの曲。ＢＪＨの第5作にしてヒット作である本アルバムには、ジョン・リーズの世界に対する切なる願いが込められていて胸を打つ。「誰のためでもなく」 という曲のタイトルには、「誰でも人は、すべての人のためにある」というアルバムの思想を表している。
�◆�Farewell to arms / Emerson, Lake & Palmer [ Black moon 1992 ]
1990年代に再結成したエマーソン・レイク＆パーマーは、すでに大人の男たちとなっていた。湾岸戦争を批判した本アルバムで、グレッグ・レイクが叙情的ながら骨太な声で歌う。アルバム・タイトル「黒い月」は、石油まみれで黒くなってしまった月だ。月とはおそらくイスラム教の暗喩でもあるのだろう。最後に奏でられるキース・エマーソンのモーグも感銘を呼ぶ。「武器よさらば。安らかに眠れ。自由の地が再び訪れることを願う。ここを去ることはない。この地をともに有しているのだから」
�� New world / Strawbs [ Grave new world 1972 UK ]
ストローブスはキリスト教と社会批判の目を持ったバンドだった。爆音のようなメロトロンで始まる。デビット・カズンズの独特のしわがれ声は、北アイルランド紛争に対して、深い悲嘆と怒りを込めて泣き叫ぶように歌い、感動的だ。 「町の真ん中に兵士の死体。子供達は死体を運んで遊ぶ。憎しみに満ちたお前の目。願わくば朽ちさせたまえ、新世界という墓地の下で」
�ぁ�Sad rain（嘆きの雫） / Anecdoten [ Vemod（暗鬱）1993 Sweden ]
1991年、アネクドテンが登場する2年前に湾岸戦争が始まった。ファースト・アルバムは、反戦的な気分に満ちている。メロトロンの瀑布で始まるこの曲は、日本盤ボーナストラックとして追加された曲だが、その後バンドを代表する曲となった。戦争への批判をこめて降り注ぎ続けるメロトロンが、彼らの怒りと悲しみを表現している。「来るはずのない一日が始まった。星を探そうと彼女は、凍りついた海辺を歩く。水平線の彼方に黒い雲が湧き上がり、風が彼女の体を引き裂いていく」
�ァ�The emperor in his War-room/ Van Der Graaf Generator [ H to he who am the only one 1970 UK ]
ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーターの音楽は、ピーターハミルの強烈でドラマチックなヴォーカルに凝縮されている。この曲でも複雑なリズムに乗せて、ヴォーカルとユニゾンっぽいキーボード、ベースが怒涛のように迫ってくる。「戦争室の皇帝」とは、まるで現状を暗示するかのような曲名ではないか。鬼気迫る破壊と平和の静寂が交互に訪れて、ＶＤＧＧならではの境地を描き出す。「お前の手は、血の匂いに汚れる。それがお前の唯一の道。自分を破壊し、死神に接吻される。剣に生きる者は、死ななければならない。力ではなくて死こそ、お前が得たものなのだ」
�Α�War is over / Collage [ Moonshine 1994 Poland ]
世界で最も盛んなシンフォ・シーンの１つを築いたポーランド伝説のバンド、コラージュ。幾重にも重なった奥深いキーボード・オーケストレーションのもとで、中世東欧の幻想を描き出す。しかしこのような反戦の曲もあるのだ。何度も戦争によって国土を引き裂かれたポーランドのことなので、説得力もひとしおだ。 「緑の牧場で、君に心を打ち明ける。青い海で波が君の唇に触れる。山々を越えて飛ぶ。空は澄んで、恐れるものはない。何も僕らを引き裂くものはない。だって今夜、戦争が終わるから」
�А�Lay down your arms / Asia [ Aqua 1992 UK ]
ジョン・ウェットンが去って、ジョン・ペインが歌っていた頃のエイジアにも、反戦の曲がある。この時期のエイジアは、男性的な低い声のヴォーカルそのものよりも、それに続く膨らみの豊かなコーラスが魅力的だ。「かつてはもっと良い世界だった。空と水は自由だった。でも指をかけて銃を撃ってしまった。それで良かったのかい。武器を捨てて諦めろ。どこにも行くことはできない。忘れるな、武力を使わず武器を置け」
�─�In love and war (war) / Different Light / The burden of paradise 2016 Malta ]
ディフェラント・ライトは、小国・マルタ共和国の4人組。メロディーが豊かで 透明感のあるヴォーカルとコーラスが身上だ。キーボードが 優しい雨のように降り注ぐシンフォニック・ロック。マルタは地中海の要衝であり、２つの世界大戦での戦場となった地だ。しかし曲調は、爽やかなヴォーカルと明るいギターによって、とてもメロディアスに展開する。「平原に夜が来て、兵士は時が来たと知る。心臓は早鐘を打ち、家に帰りたいと願う。しかし戦いは始まった。復讐のために戦い、貪欲は飽くことを知らない」
�� Soon the war is over / Zingale [ Peace 1977 Israel ]
イスラエルのジンガーレは、アルバムの全体で平和を訴えている。数十年に渡り パレスチナや中東諸国と紛争にさらされてきたイスラエルのバンドであるので、危機感に満ちている。早回しで手数の多いドラムスをはじめとして、演奏力も高い。この曲では アコースティックな始まりから、やがて陰惨な叫びのようなヴォーカルとなり、そして後半は穏やかなメロディに繋がっていく。背景に細く流れるヴァイオリンも印象的だ。「Heroica」「Help this lovely world」「Lonely violin crying for peace」といった曲もある。
�� War games / Morgan [ Nova Solis 1972 UK ]
モーガンはキーボード奏者モーガン・フィッシャーを中心としたバンドで、縦横無尽に疾走するピアノやキーボードが刺激的。ヴォーカルは上ずり系のハイトーンで、メロディも含めて一級品の魅力がたっぷりだ。モーガンは確かその後、日本女性と結婚して日本に住んでいたのではないかと思う。走り回るドラムスも技巧的だ。「目の前に掲げた自分の手が見えない。死に覆われた空に雲が湧く。戦車を発進する時は来た。救いの主は苦しみ、私たちは 彼が死ぬのを目撃した」
[次点] War / Henry Cow & Slapp Happy [ In praise of learning 1975 UK ]
ダグマー・クラウゼを女性ヴォーカルとするスラップ・ハッピーとクリス・カトラー、ティム・ホジキンソンなどによる前衛ロック集団ヘンリー・カウが合体して作ったこの作品。両バンドとも、もともと社会的な意識が高い。その後、合体して作ったアート・ベアーズでは、左翼思想とアヴァンギャルド・ロックの結合を実現した。クラウゼの声は魔女の呪文のような低音ヴォーカルで、バックに変則的なギターやブラスが咆哮している。
〇その他候補にした曲
The war is over/Anecdoten, Winter.war/Art Bears, Lay down your guns/Emerson,Lake&Powell, 21st century schizoid man/King Crimson, Peace/King Crimson, Question/Moody Blues, 爆弾行進曲／人間椅子, Four ego one war/Parallel or 13 Degrees, War/Pentwater, Dear little sister/Savage Rose, This is war/Twelfth Night,
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