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2022年01月07日00:51

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12月の。そして昨年の。

12月に観たのは『黒猫・白猫』『オッド・トーマス』『レザボア・ドッグス』『ウィッシュ・ルーム』『6+』の5本。

●『黒猫・白猫』
ドナウ川流域の小さな村。賭け事好きのクズ男が馴染みの新興マフィアに陥れられて借金を負い、息子を彼の妹の結婚相手に差し出す。息子には相思相愛の想い人が居て、妹の方も彼と結婚する気はまるでなし。なのに新興マフィアの強硬な一存で式は決行され……。
エミール・クストリッツァ作品、観たのは3本目だけどコレは文句なしのハッピィエンド。ドナウのほとりの小さな村で展開する基本的には陽気で若干猥雑な喜劇。全て上手く纏まって力強く心のままに歩み出す若者たちと、それを穏やかに見送る老人たち。エネルギッシュな生命の輝き、そして音楽。
彼の作品、特にこの話には悪人は居ても悪役は居ない。悪事を働くキャラも『滅ぶべき存在』『誅されるべき存在』として描かれては居ない。誰もが全力で必死に『自分の人生を生き抜いて居る存在』として描かれ、彼らにも等しく慈愛が注がれて居る。主人公を苦しめるダダンでさえ何処かしら愛らしい。てのは妹の結婚を強要する動機が『墓の下の父親と先祖への情』に起因するからと云うのも大きいよね。
主人公の父のマトゥコがまた『借金のカタに息子を売り』『自分の父親が死んでも「金が掛かる」と文句を云い』『その死を隠蔽して妹の式を強行しようとするダダンに逆らえない』て云うどうしようもないダメ人間なのだけどコレまたギリ憎めない。ラストでダダンがトイレに落ち、それをマトゥコがホースで水をかけてぞんざいに洗ってやるシィンなんか友情すら感じさせて。まぁそれを見て居たゴッドファーザーのコトバ、『カサブランカ』のラストシィンから引用したセリフによる印象も大きいと思うけど。
ムリヤリ結び付けられそうになったカップルがドタバタの末にはらりとほどけ、めでたく2組のカップルとなって大団円を迎える流れなんか少しシェイクスピアぽい伝統的な喜劇を感じさせて。四半世紀振りに再会したゴッドファーザーと主人公の祖父の穏やかな友情も孫たちの門出に渋く花を添える。変わらず続いて来たモノと新しく生まれたモノ、そしてその双方を貫いて継がれてゆくモノへの温かい眼差し。
彼の作品に付き物の生命力溢れる数多の動物たちは今作でも画面狭しとひしめき合い、メルヒェン色を高めて居るのと同時に映画全体のエネルギッシュな混沌をより一層盛り上げる。道端に打ち捨てられた車の外装を大きな豚がもりもり喰って居たのだけどあれトラバントかな。幾ら何でも鉄板は食わんわな。

●『オッド・トーマス』
死んだ人間の霊が見えて仕舞い、その訴えを放っておけないせいでずっと変人扱いされて来たトーマス。或る日、惨劇を好む悪霊ボダッハが大量に取り憑いて居る男を目撃し、流血の事態を未然に防ぐためにその男を尾行し調べ始めるトーマスだが……的な。
霊が見える青年がヒーローになるまでを描く誕生譚、かな。この場合の『ヒーロー』て云うのは心根の問題ね。元から幽霊の告発を無視出来ず全力で首を突っ込んでは霊の見えない人々に変人扱いされるまぁ損な性分ではあったけど、この事件を通じてトーマスはそれを明確に『自らの使命』と定めてゆく。
まぁぶっちゃけ『霊の告発を受けるコトが出来る&ボダッハを知覚出来る』以外には何の特殊能力もない一般人だけど、そんでも自らの力の及ぶ限り頑張って、そんで命が尽きても彼は本望なのだろうな。胸を張って『会いに行ける』であろうから。力の限り戦う。それはもう立派なヒーローだよ。多分ね。
理不尽に殺された幽霊は自分の姿が見えるトーマスに縋る。自分を殺した犯人を捕まえて呉れと。死者たちは生前と何ら変わらぬ姿で見えるけど喋らない、声は聞こえない。と云うのが何かとても『それっぽかった』な。日本の古典の場合は『足』だけど、多分幽霊と云うのは何かが欠損して居るのだよ。
この幽霊の特性がラストの流れに繋がる。正直云えば特に目新しい展開ではなく「……あ」とは思ったのだけどもね、そんでも観客のミスリードを誘うよう上手く創ってあるコトに変わりはない、かな。
警察署長。トーマスの力を知り、変人扱いせずに味方になって呉れる父親的キャラクタ。こう云う存在て実は黒幕だったりするコトがあったりするけど、ウィレム・デフォーはグリーン・ゴブリンだったしな、先日観た『KITE』もそう云うキャラがアレだったしな、まぁそんなコトなくてよかったよ。
全体的にちゃかちゃかテンポよく進むマンガみたいな映画。シィンも割かしコロコロ切り替わる。『ボダッハが見えるヤツに出会い、そいつはボダッハが自分の姿を知覚出来る人間を必ず殺すと云うのを知らず……』みたいな回想がイキナリ挟まったり、すんのね。そのリズムはまぁ割と心地よかったかな。
何らかの恨みを残してこの世を去った幽霊が大半な中、特に何の恨みもないみたいだけど何だかタイヤ屋に入り浸り、通りすがる他人を笑わそうとして居る陽気な幽霊が良かったな。ちょと鬱陶しくて。

●『レザボア・ドッグス』
宝石店襲撃のため集められた6名の強盗。互いの素性も知らずコードネームで呼び合う彼らは作戦を決行するが警官隊と銃撃戦になり、生き残りが集合場所に逃げ込む。メンバーの中に警察への内通者が居た可能性が浮上し、即席チームは軋み始める……。
タランティーノ本人が出てんじゃん。て思ったらいきなり死んだ。カメオ出演だったのかヒチコックみたいな。楽しそうだったのでまぁいいや。冒頭のバカ話シィン、いいね。『パルプ・フィクション』にもあったけど、チーズロワイアル、ああ云う気の抜けた和やかシィンがあるからアトが生きるのだよな。
その冒頭と回想シィンを除けば殆ど倉庫内で展開する映画。そのセットや人物の出入りも含めて何だか舞台ぽいなと思う。割かしすんなり舞台に出来るよねコレ。てもうあるかも知れんけど。オレンジが寝かされて居た傾斜とかもそれっぽい。舞台だったらアレ作るよね。まぁ、その、予算が許せばだけど。
仲間思いのホワイト。いいヤツだよな。犯罪者だけど。オレンジと何だか馬が合い、瀕死の彼を終始気に掛け、彼をかばい続けてあのラストに至る。救われない、ちゃ救われないけどヒトをバカスカ撃ち殺した強盗が救われるのも何だしな。仕方ない。あのドン詰まりのやり切れなさは実は割と好き。種類としては『ミスト』ぽい締め方だけど後味が全然違うのはアレ何だろうな。コッチは大人だからか。そうか。
あぁまぁコッチはそもそもの切っ掛けから全て自分の行為の果て、純然たる自業自得って云うのが大きいな。多分。彼らの辿った顛末に少なくとも理不尽さはカケラもないからな。破滅はしたけどまぁ、でもやりたいようにやるだけやったんだもんね、仕方ないねって云う妙なスッキリ感があるのかも知れん。
ピンク。一度見たら忘れない顔のスティーヴ・ブシェミ。慎重な性格が功を奏したのか、結局ダイヤを独り占めした独り勝ちの彼だけどまぁもともと彼が命懸けで持ち帰ったダイヤだしな。いいんじゃね?
潜入捜査の心得。ヤクの売人の面白小話を自分の体験として話せってヤツで、リアリティのため「舞台であるトイレのディティールを脳内で細かく詰めろ」て辺りが普通に演技のテクニックだったな。メソード系の先生が云いそう。まぁ潜入捜査員に要求されるのは演技だもんね。アタリマエちゃアタリマエ。
全体的に見れば割と好きな映画でしたよ。『痛い』シィンがケッコウあるのでそれだけは注意だ。

●『ウィッシュ・ルーム』
若い夫婦が越して来た、長らく空き家になって居た田舎の家。片付けの最中に壁紙で封印された部屋を発見するが、それは『願ったモノが何でも出て来る部屋』だった。贅沢にも飽きた頃に夫が望んだ子供を、流産に怯える妻が部屋に願って仕舞い……。
要するにアレだ、猿の手だね。部屋の扉の造形、鍵のカタチ、システムの根幹ぽい地下の六角形のパネルや壁の中の大量の配線なんかのディティールは割と好み。ドラマの殆どが家の中だけで展開するのだけど、その雰囲気もなかなか良い。終盤の迷宮化した状態とかも良かった。ああ云うの好きなのだよね。
猿の手と云ったけどこの『部屋』は回数無制限、しかも代償も取られない。底なしに欲望を叶えて呉れる。ただし、家の中に納まる範囲で。この難易度設定が丁度気持ちよく1本の映画に収まるヴンダーカンマーを提供して呉れる。まぁ、中盤で部屋に出現する森林は無限の可能性を秘めて居るけど。
二度の流産にトラウマを抱える妻はショートカットと称し赤ちゃんを出して貰うがこんなモノが上手く現実に嵌るワケもなく、生まれたシェーンは御多分に漏れず愛を求め暴走。脅威だけどとても哀れな存在。家の中に閉じ込められ、父には気味悪がられて。まさにフランケンシュタインの怪物だね。シェーンの望みに応じ寝床で絵本を読んでやる父が、子と並んで寝て仕舞う姿は少し希望が持てたのだけどな。
部屋の中の森林に建つもうひとつの家の中で、何も知らなかった頃のシェーンと、彼のために新たに願い生み出した虚構の父と母の3人で何不自由なく暮らすコトが出来れば、もしかしたらそれがシェーンにとって一番マシな結末であったのかも。まぁ、それすらも近い将来に破綻する予感しかしないけど。
『部屋で手に入れたモノは家から持ち出すと消える』て云う法則が世界のバランスを保つ役を担う。人間を創った場合、抜け道がひとつだけあり……てのも『ひとつ失ってひとつ得る』て考えるとまぁ、バランスは保たれて居るのかな。ジョン・ドウが安定して居たのは愛を得て、それが全うされたからかも。
終盤のギミックに見事に混乱させられたけど違和感はあったのだよね。「……ん?」て引っ掛かる描写はあった。しかも2箇所。そう云うのはスルーしない方がいいね。まぁ騙された方が楽しいけど。
割と引き込まれた映画かな。部屋に誰かが入るたびに家中の照明が瞬くの、不気味なのと同時に『部屋に誰かが入った』コトを示すいいギミックだと思う。ラストの不気味な締めにも繋がったしね。好み。

●『6+』
古い友人が自殺し、葬儀で20年振りに顔を合わせた6人の男女。遺書で指定された場所へ行き、古い大きな木の箱を開けると見覚えのある玩具やガラクタの下から白骨死体が。帰路、誘い込まれるように廃墟に辿り着いた6人は地下室に閉じ込められて仕舞う……。
少しビミョウな映画だったかな。舞台装置や雰囲気、それに導入はなかなか好みだったので期待したのだけども、観終わっての印象は『思い切りの足りない凡百ホラー未満の何か』。説明し過ぎない感じも悪くはなかったけど、何かこう、ホラーとしては大したコトが起きなかったねって云うか見掛け倒しで。
忘れて居た昔の友達の霊に殺される話?でいいのかしら?600人の子供を集めた実験とか被験者は消息不明とか、サヴァンとか、ラストで言及された『別の実験』とか、カイルが死の間際に見つけた通路とか、思わせ振りなピースをバラ撒いてあるけど話には繋がらず、頭上に浮かぶ?とモヤモヤが残る。
彼らは全員被験者で、辿り着いた廃墟はその実験施設だった場所。メンバーは6人と自殺したブラックス、そしてカレンの計8人でクレイジー8と呼ばれて居て、彼らはカレンのコトをずっと忘れて居た。それは『罪の意識』から逃れるためで云々。こう書くとまぁ、筋立てとしても悪くないのよね。でも。
折角『古い友人の葬儀で久々に再会』て云う絶妙な関係の男女を6人も廃墟に閉じ込めたのだからもっとゴチャゴチャぶつかり合えばいいのに、ひとりひとりただ順序良く片づけられて行くだけなのだよ。彼らに害を為す存在とその思惑も早々に明示されるから、アトはもう淡々とした流れ作業だよね。
一人で行動しがちだったベス。元々少し精神を病んで居るぽい描写もあり、このヒトが中心かしら?て思ったけど彼女もすんなり死んで仕舞ったね。ブレントは非協力的で場を少しかき回しては呉れたけど、でもそんだけだったかな。他もまぁ同様。最後に残ったジェニファーもただ残っただけ、みたいな。
ちょと誉めとく。最初に云ったけど基本的なバックボーンや舞台装置や雰囲気はなかなか良かったよ。其処だけ見てればいいかもね。ブレントが延々と続く廊下に閉じ込められるシィンは割と好き。メインの6人も違ったタイプの人々を選んで呉れて居て、ヒトの顔の見分けが極めて弱い僕さんでもさほど困らなかったのも極私的なプラス。アトはえーと、えーと……。うん。何もないや。残念な映画だったな。

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月間賞は『ウィッシュ・ルーム』かな。
『黒猫・白猫』もめっさ捨てがたいのだけど。

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で昨年観たのはトータル35本。
そん中で『今もう一回観るなら』で選んだのが以下。
『千と千尋の神隠し』
『ジョーカー』
『インセプション』
『スピリッツ・オブ・ジ・エア』
『ミックマック』
『アンチグラビティ』
『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』
『ルーパー』
『アバター』
『ウィッシュ・ルーム』
『黒猫・白猫』
んでこの中から年間賞を選ぶと……『スピリッツ・オブ・ジ・エア』かしら。今日の気分だと。
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