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2022年01月06日12:11

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久々のグランドスラム熱

 本年もよろしくお願い申し上げます。
 新年早々、超高熱を出したわけではない。平林直哉という人がいる。「盤鬼」(ばんき)とも呼ばれている(名乗っている)。
 クラシック音楽雑誌の編集者出身。現在は「グランドスラム」という自前のレーベルで、CDを製作・販売している。
 何が「盤鬼」か。
 「盤」というのはCDか? SP盤やLPレコードのことで、それを「鬼」のように蒐集している様子だ。
 SP盤というのは、LP=ロングプレイが発明されるまでの蓄音機用レコードを指す。音がひどく悪い上に、録音可能時間が5分程度と極端に短い。1920年代から戦中ころの演奏家の多くの録音はこの方式であった。

 古いSP盤や昔のLPを集めているだけであれば、ただの収集マニアだが、平林氏、著作者の死後や公表後50年経過し著作権保護が切れた音源を、合法的にCD化し、一般市場で販売している。
 例えば、名指揮者フルトヴェングラーは1954年に死没したので、初期LPからの音源であれば、2004年以降、無料で適法に商品化できることになる。こういう行為を「板起こし」と呼ぶようになった。
(細かい話だが、正規のレコード会社が新たに製造した商品は、古い音源であっても、無断コピーは違法となる。このため、「板起こし」できるのは、初期に発売された古いレコードや当時の愛好家が保有したオープンリールのテープからとなる。)

 これだけ聞くと、歴史的名演を「ただ取り」した何やら「うさんくさい」商売のように思われる。
 ところが、レコード会社の正規商品より、平林氏のグランドスラム(GS)盤の方が音質がよいという宣伝文句?が目に入る。こうなると、音楽ファンは一度は聴いてみたくなる。それで、古トヴェングラーの古い音源を買ってみたりする。まあ、もとの音質がよくないので、「改善された」「迫真に迫る」と言ってもよくわからない。
※ 画像は、1943年、戦時下ベルリンでのブラームス4番CD
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 そんなこともあってしばらく買わずにいたが、年末年始に平林氏の『クラシックの深淵』(青弓社)という新刊本を読んだ。雑誌出身で文筆も本業、いつもながら音盤批評やGS盤制作記であるが、さすが「盤鬼」と言われるマニアックな熱意が伝わる。

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 壊れたCDプレーヤーを昨年末に買い替えたので、保有するカラヤン「惑星」やデュプレのエルガーなどのGS盤を久々聴いてみる。公表後50年となると1960年代の録音のよい商品も発売されている。正規CDで不満はないが、そう言われていると、LPレコード当時の質感や温かみが感じられる気もしてくる(これは鰯の頭も信心からの類だろう)。

 もちろん本来の古い音源の制作もつづけていて、ちょうどタワーレコードで1枚1315円のセール中だったので、かのジネット・ヌヴーとミシェル・オークレールというヴァイオリニストのCDを注文した。
 だまされたと思って、興味があれば1枚お買い求めになって、まただまされてみるのも一興だ。保証はしない。https://tower.jp/article/campaign/2021/12/16/03

 その平林氏の新刊本、日本のTPP参加により著作物の保護期間が死後50年から70年に延長されたと怒っている。
 1958年生まれ、今年64歳。古い音源通なのでもっと年寄りかと思っていたが、意外に若い。20年後になって解禁された音源をまだ「板起こし」していそうだ。
 セール品以外にも多数「銘品」がある。手作りの解説書に、録音当時の体験記や珍しい写真を掲載しているのは価値がある。https://tower.jp/search/item/Grand%E3%80%80Slam

※デュプレのエルガーCD。録音当時の髪の短い貴重な写真ジャケ。
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