テクノロジーとコンピュータの進歩により１人で音楽が作れるようになったと言っても、シンフォニック・ロックは複雑なので作るのはなかなか大変だ。しかし世界には１人でシンフォを構築してしまったミュージシャンがたくさんいる。マイク・オールドフィールドやヴァンゲリス、ボストンらはその先駆けだが、今回はもっとバンドっぽくてシンフォらしい、多種類の楽器を駆使するマルチ・ミュージシャンに焦点を当ててみた。
曲 ミュージシャン アルバム
�� Rose in the sand / Accept [ Apogee 2021 Japan ]
マイミクS.O.W.(田中久雄)氏のアクセプトによる傑作「Apogee」の１曲め。私にはイエス・タイプに聴こえたが、本人にはそんなつもりはなくて、ジャズを学びリズムとビートを強化した結果だという。確かにマイケル・ジャイルズばりのドラムスによって、バンド的なグルーヴ感が向上した。細部まで丁寧に構築されたシンフォだ。しかしイエスのようにひたすら明るいのではなくて、時に暴力的だったり翳りが深いのが特徴的。
�� Toward the stars / Chris [ Snow stories 2012 Holland ]
オランダのクリスは、クリス・ブルインによる1人シンフォ。楽曲によってチェロ・ヴァイオリン・ギターで4人のゲストが参加している。壮麗で分厚い音の層で、シンフォを展開。特にコーラスの分厚さがすごい。オランダらしいメロディの豊かさが胸にしみる。ヘヴィネスも十分で、ドラムスもうまい。この後、ブラック・コーデックスと称してもっと壮大なシンフォに変わったが、ピンク・フロイド風にもっさりしているので、私はクリスの方が好みだ。
�� Tiger in the butter / Tiger Moth Tales [ Cocoon 2014 UK ]
タイガー・モス・テイルズは、現代音楽家だったピート・ジョーンズによるシンフォ。虎が咆哮するミュージック・コンクレートやシタールなどで異国情緒を醸し出す。そしてすかっと爽やかなリズムにハイトーン少年声のヴォーカル。リズムの切り返しが何度も起こり、複雑な構造の楽曲だ。膨らみのある延々たるコーラスを含めて、１人で演じているのだから驚きだ。
�� Blacksmith’s hammer / Cosmograf [ When age has done its duty 2011 UK ]
コスモグラフは、ロビン・アームストロングによる１人シンフォ。アームストロング自身がマルチ・ミュージシャンなのだが、ドラムスはゲスト２人が演奏している。他にヴォーカル・コーラス・ギターなどで一部にゲストが参加。この曲はアコースティック・ギターから始まるＥＬ＆Ｐ「ラッキーマン」のような曲。ヴォーカルもグレッグ・レイク似ていて、低いがシャウトすると高い声が出せる。途中から炸裂するギターとドラムスも刺激的。コーラスはキーボードが出しており、だんだんと分厚い音の層となっていく。
�� Embrace / Lo-Fi Resistance [ A deep breath 2010 USA ]
アメリカのローファイ・レジスタンスは、ランディ・マクスタインによる1人シンフォ。ドラムス、フルート・サックスなど４人のゲストが参加。ちょっとくぐもったハイトーンの声が翳りを感じさせるが、暗く静寂なピアノに乗せたヴォーカル・メロディーが美しい。能天気な曲も悲哀感の高い曲もある。
�� On and on / Gungfly [ Please be quiet 2009 Sweden ]
スウェーデンのガングフライは、ビアード・フィッシュのヴォーカル・キーボード奏者リカルド・ㇲジョブロムによる1人シンフォ。ゲストは5人で、ドラムス2人が何曲かに参加しており、こうなるとバンド形態にも近い。ブルージーな鳴きギターで始まってコロコロ転がるピアノ。古いタイプのオルガンが鳴ったりして懐かしい音。コーラスが何重にも重ねられて膨らみ、広がりを見せている。
�� Intentions letting go / Giannotti [ The great unknown 2014 USA ]
アメリカのジアノッティは、ロバート・ジアノッティによる1人シンフォ。ゲストはヴォーカルを含め7人。バックがアコースティックで、カントリー的な軽快さ。1人シンフォにはメロディーの良いものが多いが、アメリカ的大らかさ・軽快さの中に少しだけ悲哀感を滲ませる。また1人シンフォにはギターがうまくてそれを聴かせたい人が多いが、ここでも泣きのギターワークが聴ける。
�� The tide can’t hld us / Tired Tree [ Changing sides 2002 Sweden ]
スウェーデンのタイアード・ツリーは、マティアス・ホルムグレンによる1人シンフォ。曲の多くは4分程度で短くてポップ。大げさにドラマチックにならない素朴な感じの曲だ。1人シンフォとしては、ボストンのサウンドに近いかもしれないが、やや音が薄いのはキーボードの音響が控えめだからだろう。
�� I see paradise / Sonic Music [ The prisoner 2005 USA ]
アメリカのソニック・ミュージックは、ロリー・ベニグノの1人シンフォ。ゲストは1曲でギターのみ。非常に早いテンポの曲もあるが、この曲はずっとスローテンポで「エピタフ」型。哀感をたたえているが短い曲で、コーラスがリード・ヴォーカルにずっと付随する。全体に軽い印象のシンフォである。
�� The hidden Path / Apogee [ Waiting for the challenge 2012 Germany ]
ドイツのアポジーは、アクセプトの新作名と同じバンド名。アルネ・シャフェルによる1人シンフォで、ドラムスはゲスト２人による。ヴォーカル重視でやや高めの声にオーケストラが背景となっている。声を重ねて輪唱風又は掛け合い風になる。生ギターにオーケストレーションが被さっていくが、この曲ではドラムスがないので、カナダのアルモニウムのようになる。ドラムスなしで作れるのも1人シンフォの特徴かもしれない。
[次点] Lovely stranger / Van Otterdyke [ The syrens 1994 Holland ]
オランダのファン・オッテルダイクは、多数の楽器のほかにドラム・プログラミングもできるが、ゲストにもトラム・プログラミングが1人加わっている。エド・ファン・オッテルダイクによる1人シンフォ。様々なパーカッション音に加えてチェロ音とかフルート音が登場する。朴訥とした暗めのヴォーカルのゆっくりとした静かな曲で、愁いがある。1人シンフォだけあって、この曲も内面世界に深く沈潜するような雰囲気だ。
〇その他候補にしたミュージシャン
Benko Laszlo(Hungary),Black Codex(Holland),Cross(Sweden,The Crossとは別ミュージシャン),Cannata(USA), Gandalf(Austria),
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