我が家で蜘蛛は殺さない

その昔、と言っても、どのくらいの昔か覚えていないんだけれど、たぶん25年くらい昔　会社の駐車場に止めておいた車の助手席に乗ろうとすると、後輩の同僚が運転席の窓を開け、中にいた虫を外に追い出そうとしていた　その虫が蜘蛛に見えたので「やめろ！」と叫ぶと、その後輩が怪訝な顔をして、動きを止めた　その隙に蜘蛛は何もなかったかのように、開いた窓から自力で外に出て行った
「どうしたんですか、大声出して」
私が説明すると、後輩は薄ら笑いを浮かべ、
「そういうの、迷信って、言いませんか？」
「信じる信じないはお前の勝手だけどな」

そんなことがあった日の深夜、そろそろ寝ようかという時間にその同僚から電話がかかってきた　元暴走族のお兄ちゃんだが、その声が震えていた
「スイマセン、車の前半分ペシャンコになりました」
その日私との昼間の仕事を終えたあと、後輩は出先での仕事が遅くなって会社の車で自宅に帰ったんだが、家の近くの信号のない交差点で車同士の衝突
「あと30センチで、オレ、潰れて死んでました」