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2021年09月02日17:38

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進化する落語 春風亭昇吉師匠の『柳田格之進』を聴く

フォト


※画像は春風亭昇吉師匠(左)とその師匠の昇太師匠

※昇吉師匠に弟子がいるかは知りませんが、東京では真打ちになると「師匠」と尊称で呼ぶので憲さんもそうします。

参考

「真打になると『師匠』は東京のルール? 落語家・春風亭一之輔が悩み吐露」
https://dot.asahi.com/wa/2015121800028.html

※今回の落語随筆は相当マニアックです。

落語『柳田格之進』。

この噺はいわゆる「釈ネタ(講釈から来た噺)」である。

憲さんは高校生の時に古今亭志ん朝師匠ので聴いた。

憲さん、今でもやはり高校生の時に聴いた志ん朝師匠の『文七元結(もっとい)』はその内容も演者も落語の最高傑作であるとの評価は不動である。
これについてはいつか随筆で書きたいと思っている。

参考

【文七元結】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E4%B8%83%E5%85%83%E7%B5%90

しかし、同時期に聴いた志ん朝師匠の『柳田格之進』は当時はっきり言って高校生の憲さんにはその良さがわからなかった。

それはそうであろう。

落語『柳田格之進』とは、武士の気高い矜持と市井の町人の誠実がギリギリのところで切り結ぶ美しい話なのである。

また、父格之進の名誉のために苦界に身を沈める覚悟をする娘の潔さ、身の潔白が明らかになった柳田格之進が両替商の万屋源兵衛と番頭徳兵衛主従を許すまでの葛藤など聞きどころは多い噺なのだが・・・。

当時10年そこそこの人生経験のない若輩が聴いても、そもそも「武士とはなんぞや?」「人としての誠実とは?」と、世間のそして人間との何たるかがわかっていない者には到底理解し、味わうことなど出来ない奥深い内容の噺なのである。

なので、それ以降『柳田格之進』の落語はその題名を見ても憲さん、あまり興味を示さなくなっていた。

そしてその噺をはじめて聴いてから30年以上も齢を重ね、人生経験を積み、改めて『柳田格之進』を聴いたときはじめてその良さが身体の芯にじ〜んと、伝わってくる。そんな噺なのである。

参考

【柳田格之進】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E7%94%B0%E6%A0%BC%E4%B9%8B%E9%80%B2

http://sakamitisanpo.g.dgdg.jp/yanagidakakunosinn.html

https://toyokeizai.net/articles/-/324134?page=4

しかし、この噺には以下のような評価も散見される。

以下、引用。

娘が吉原で客を取らずに済んだ「文七元結」はまだ良いが完全に身を沈めてしまった「柳田格之進」はどうも苦手だ。どんなに落語家さんが大団円にしようと努力しても娘が吉原に出た時点で幸福な結末にはどうしてもならないように感じる。あと女性はこの手の根多をどんな気持ちで聴いているのか知りたい。

以上、引用終わり。

参考

「落語『柳田格之進』と『業の肯定』と」
https://togetter.com/li/667844

確かにそうなのだ。

この噺の主人公の柳田格之進の娘おきぬは父親にかけられた嫌疑のために父親との縁を切った上に吉原に身を沈めて金子(きんす)を工面するのである。

少なくとも現代の日本では考えられない話である。

しかし、上記の指摘にもあるように『文七元結』でもこの『柳田格之進』でも、さらには郭噺の『お直し』でも愛する家族や父親、または連れ合いのために金を工面するため犠牲になるのは女性であり、またその方法は苦界(女郎屋)に身を投じるしか方法はなかったのである。

参考

【お直し】
https://rakugo.xyz/koten-vol66/

しかし、『お直し』での女房は元花魁であるから、そう言う意味では「昔とった杵柄」である。

また、『文七元結』の左官長兵衛の娘お久は吉原までは行ったが女将の計らいで客を取らずに済んでいる。

しかし、この『柳田格之進』の娘おきぬは間違いなく吉原に身を沈め客をとったのである。

それもいとも気高き武士の娘がである。

これはまさしく悲劇でなくして何であろうか?

そしてまた、この噺は結構いろいろなところで「矛盾」が生じているのだ。

最大の矛盾が以下である。

前出のサイトから引用する。

以下、引用。

最大の矛盾は、柳田格之進にあらぬ嫌疑をかけた揚げ句、娘を身売りさせてしまうという大禍をもたらした番頭徳兵衛が、その娘と一緒になる、という大団円だ。いくら改心して詫びたからと言って、父娘の運命を大きく変えてしまった元凶である番頭徳兵衛を、許すことなどできるのか?

以上、引用おわり。

確かにその通りであろう。

また、憲さんの抱く大きな矛盾はこうである。

柳田格之進は身に覚えのない金子を娘を吉原に売って拵(こしら)えて、万屋源兵衛の番頭徳兵衛に渡すのだが、そのあと逐電してしまう。

しかし、その後すぐに帰藩が叶い江戸留守居役に三百石で取り立てられたという。そして雪の湯島の切通で万屋源兵衛の番頭徳兵衛と再会したときは蛇の目傘をさし、宗十郎頭巾を被った身なりのいい格好までしているのである。

参考

【宗十郎頭巾】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E5%8D%81%E9%83%8E%E9%A0%AD%E5%B7%BE

だったら、いくら親子の縁を切ったとはいえ、三百石で取り立てられたというのであれば、まずはとりもなおさず娘のおきぬの身請けにいくのが筋であり、人情であろう。

しかし、柳田格之進はそうしていない。

これは最大の矛盾である。

と、このようにこの『柳田格之進』という噺はよくよく考えながら聴くと結構「穴」のある噺なのである。

そして、その「穴」すなわち矛盾は柳田格之進の娘がおきぬが苦界に身を沈めることから発生しているのである。

これを前提に話を進めたい。

と、ここまでがいわゆる「マクラ」である。

(´Д`)=*ハァ〜

疲れた!

先日、何気なく千葉テレビの「浅草お茶の間寄席」を観ていた。

すると、この『柳田格之進』が根多(ネタ)にかかっていた。

演者は憲さんの知らないまだ若い噺家であった。

憲さん「こんな若造にこんな大ネタがこなせるのか?」と訝(いぶか)しげに一応テレビを観ていた。

憲さんにとっても『柳田格之進』は久しぶりに聴く噺である。

憲さん、最後まで聴いて拍手をしながら唸ったね!

「う〜ん!上手い!」

この『柳田格之進』という噺は相当難しい噺である。

簡単に言えば「冤罪事件」の疑いを晴らすというシビアな内容なのである。

そして、特にこの柳田格之進に嫌疑の目を向けた万屋源兵衛の番頭徳兵衛の描き方が要所であろう。この男は根は真面目であり、主人思いである。そして、誠実なのだが、やはり人間的には料簡が少し曲がっているところがある。しかし、やはり根はいい者なのだ。
相当難しい演じどころである。

そして、この「お茶の間寄席」の若い噺家はそれを演じ切っている。

また、この堅物の柳田格之進は武士の矜持を持った、凛とした姿で描ききった。

いい、噺家である。

憲さん、番組が終わってから早速調べた。

春風亭昇吉・・・

1979年生まれの41歳である。
岡山県出身
師匠は春風亭昇太
落語芸術協の噺家である。

参考

【春風亭昇吉】
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%98%A5%E9%A2%A8%E4%BA%AD%E6%98%87%E5%90%89

そして、彼にまつわる最近の話題がこちらである。

「東大卒初の真打ち・春風亭昇吉 母校・東大安田講堂で昇進披露『夢がかないました』」
https://www.daily.co.jp/gossip/2021/08/18/0014602825.shtml

「春風亭昇吉、東大出身初の真打ち『山ほど』賢い逸話」
https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202102150000356.html

現代の噺家は大学の「落研」出身者が多くほとんどがインテリである。

昇吉師匠の師匠、昇太師匠も東海大学の落研出身である。

それだけ噺家とは頭が切れなくては出来ない商売なのである。

しかし、東大出身者は今までいなかった。今回がはじめてである。

安田講堂で真打ち披露するとは少し嫌味であるが、昇太師匠がはしゃいでいる姿が目に浮かぶ。

しかし、この昇太師匠は「新作」の名手であるが、古典の持ちネタは少ないのではないだろうか?

いわんやこの『柳田格之進』などは、昇太師匠は演るのであろうか?もし、演るのであれば是非聴いてみたい!

昇吉師匠は東大の落研出身らしい。

東大落研はあまり有名ではないがそこで相当研鑽したのであろうか?

東大で総長賞もとったらしい。

彼は岡山大学を卒業してから東大に入学して卒業してから噺家になっている。

相当遠回りした感じではある。

昇太師匠も言っているが「噺家に東大の肩書は必要ない」ので「東大出身の噺家」という一発屋的な肩書ではなく、本格的な噺家としてさらに高みを目指していただきたいと思った。

その上で、この昇吉師匠の『柳田格之進』今までのそれとはちょっと違うのである。

聴いた後の気持ちがどこか軽く清々しくなるのである。

憲さん「何でだろう?」とおさらいしてみて

Σ( ̄□ ̄;)ハッ!

とした!

この昇吉師匠の『柳田格之進』娘のおきぬが吉原に身を沈めないのである!

これは、憲さんのテレビを観た記憶だけがた頼りであるが、昇吉師匠のおきぬは確かに父親に吉原に身を沈めて金子を作ることを提案するのであるが、柳田格之進はそれを聴いて、おきぬにそれを思いとどまらせ先祖伝来の家宝である刀剣を曲げて金子を作るのである。

参考

【曲げる】ここでは5番の意味
https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E6%9B%B2%E3%81%92%E3%82%8B/

なので、おきぬは苦界に身を沈めることなく、しかし、それを提案するという場を設けることにより親子の情愛を際立たせるという演出を施しているのである。

そして、その後の噺を聴き終えた聴き手の気持ちもスッキリするのである。

確かにこの噺、特に娘を女郎屋に身売りさせなくても別に噺の筋は曲がることはない。

さらに、野暮なことを言えば現代における「女性の人権」や「家父長的親権に対する娘の自己決定権」等を考慮すればこの方が圧倒的にスッキリするのである。(この噺は江戸時代の話なのだからこんなこと言うこと自体野暮天だが・・・)

私はこの昇吉師匠の『柳田格之進』を断固支持します。

(もしかしたら、これは昇吉師匠のオリジナルではなくもう先に誰か違う噺家が改編した可能性もありますが、私はネットで調べましたがわかりませんでした。誰か知っている人がいたら教えてください。)

もとはと言えば、囲碁に夢中になりすぎて預かった金子を額の後ろにねじ込んで忘れてしまった万屋源兵衛が一番の原因であり、その主人に忠実だった番頭の徳兵衛も、それらに振り回された柳田格之進も考えようによっては「被害者」だったのかも知れません。

昇吉師匠のこの噺、最後に柳田格之進が碁盤を刀で割るところでさげている。

それもまた、好感が持てる。

このように、江戸落語も時代とともに進化しているのである。

春風亭昇吉師匠、将来が大変嘱望される噺家である。

(´Д`)=*ハァ〜

憲さんも東大入って落研入って噺家になればよかった!

どーよっ!

どーなのよっ?

※落語『柳田格之進』は動画があまりアップされていません。

観たい方は是非こちらの古今亭志ん朝師匠をどうぞ!
名演です。さげ前の一ネタがまた面白い!

https://youtu.be/AKUmFatxbU0

( ̄ー ̄)ムフフ

落語最高!\(~o~)/
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