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2018年08月16日17:22

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8月歌舞伎座/納涼歌舞伎(2部)「東海道中膝栗毛」ほか

18年8月歌舞伎座(2部/「東海道中膝栗毛」「雨乞其角」)


当代の猿之助版「東海道中膝栗毛」を観るのは、16年8月、17年8月、今回、18年8月、いずれも歌舞伎座で、3回目になるのだが、3回観て感じたことは、毎回、筋立てが違う上、弥次郎兵衛・喜多八のコンビが主軸というだけの、それぞれは独自の新作歌舞伎風の演目なので、過去の演目内容を参考にしても仕方がないのではないか。

ということで、十返舎一九原作を元に、杉原邦生構成、戸部和久脚本は同じで、異なるのは、市川猿之助「脚本・演出」。今回は、市川猿之助「演出・脚本」となっていて、前回までの2回と「演出」ぶりが違うのかもしれない。猿之助の演出が、今回は優先されているということか。とりあえず、今回を新しい舞台として記録しておこう。

今回の場の構成は、以下の通り。全九場構成。第一場「相馬山大鼻寺門前の場」、第二場「神奈川茶飯屋の場」、第三場「箱根旅籠五日月屋店先の場」、第四場「箱根旅籠五日月屋大座敷の場」、第五場「箱根旅籠五日月屋廊下客間の場」、第六場「富士川渡しの場」、第七場「洞穴の場」、第八場「地獄の場」、第九場「岩場の場」。

初演同然なので、粗筋もコンパクトながら記録しておこう。

第一場「相馬山大鼻寺門前の場」。弥次郎兵衛(幸四郎)の相方、喜多八(猿之助)が、歌舞伎座で大道具のアルバイトをしていて不慮の事故で亡くなったとか。開幕前、暗転の暗闇の中で、弥次郎兵衛の嘆きの声が聞こえる。明転すると、舞台中央に喜多八の大きな遺影が飾られている。相馬山大鼻寺門前。遺影の上手側には、ふたつの花環。ひとつは贈り主は、トランプ・デイビットと書いてある。もうひとつは、長屋一同。明転しても、というか、ますます、弥次郎兵衛の嘆きの声は大きくなる。

嘆き悲しむ弥次郎兵衛を慰める面々。困惑の態(てい)。長屋の大家(錦吾)、その女房(宗之助)、町名主(寿猿)、歌舞伎座の舞台番(竹松、虎之介)、お園(千之助)ら。弥次郎兵衛は、聞く耳を持たない。次いで、花道から次々と弔問客らが来る。まず、葬儀導師の住職(門之助)、伊勢奉行の大岡伊勢守(獅童)、木挽町の監察医(七之助)、歌舞伎座座元(中車)。「東海道中膝栗毛」の通しで出てくるコンビ・伊月梵太郎(染五郎)、五代政之助(團子)。続いて、油屋お染(七之助)、丁稚の久松(獅童)、母の貞昌(中車)。さらに、将軍家斉(獅童)、御台所(七之助)、老中水野忠成(中車)。花道から舞台上手へ、また、花道へ。早替りの趣向。獅童、七之助、中車は、それぞれ5役ずつ。次々と早替りで、出てくるのがミソという演出。

喜多八は生前の行いが悪いので、きっと地獄へ落ちるだろう。弥次郎兵衛は一緒に地獄へ行きたい、という。伊月梵太郎と五代政之助は、喜多八の供養と極楽行きを祈念するためにお伊勢参りに行こうと提案する。3人は、伊勢に向かうことになる。

幽霊となった喜多八(猿之助)の前に、父親の北六(獅童)、母のお照(中車)、兄の一九七(七之助)の幽霊が現れる。先輩幽霊の3人が、地獄極楽行きの分かれ目を伝授してくれる。さらに、獅子堂極之助(獅童)、鬼塚波七(七之助)、暗闇の中治(中車)が引き続き早替りで現れる。弥次郎兵衛たちの後を追ってゆく。獅子堂極之助ら怪しげな3人の後から喜多八も追いかける。皆々、伊勢参りへ。

第二場「神奈川茶飯屋の場」。先行の弥次郎兵衛たちは一休み。茶屋娘お稲(新悟)と再会。盗人一味から茶屋娘へ、「更生」したのだという。そう言えば、前々回(16年8月歌舞伎座)の劇評には、「茶屋娘(新悟)は、実は、女盗賊」とあった。

それはさておき、そこへ、花魁道中の一行。赤尾太夫(猿之助)、太鼓持ち(獅童)、新造(七之助)、遣手(中車)。弥次郎兵衛は、赤尾太夫を見初めてしまったらしい。花魁道中も弥次郎兵衛も箱根の旅籠五日月屋へ向かう、という。さらに、怪しの3人組も後に続く。気をもむ幽霊の喜多八(猿之助)にむく犬(弘太郎)と三毛猫(鶴松)が、話しかける。犬猫は、幽霊の姿も見え、話もできるらしい。同伴することになる。

第三場「箱根旅籠五日月屋店先の場」。前々回(16年8月歌舞伎座)の宿泊時に幽霊騒動のあった旅籠。当時の番頭・藤六(廣太郎)が出世して亭主となった。除霊効果で幽霊もいなくなった、という。おかげで宿は繁盛している。皆、ここに泊まることにした。ただし、幽霊の喜多八(猿之助)は、除霊のお札で阻まれて、宿の内へ入れない。同伴の犬猫が札を剥がしてくれたので、入場もオーケーになる。

第四場「箱根旅籠五日月屋大座敷の場」。座敷では、女将のおさき(米吉)、赤尾太夫(猿之助)らが、弥次郎兵衛たちを接待している。赤尾太夫を気に入った弥次郎兵衛が身請けしたいと言い出す。そこへ、赤尾太夫の馴染み客の阿野次郎左衛門(片岡亀蔵)が現れ、身請け話は自分の方が先だと怒り出す。獅子堂極之助ら怪しの3人組(獅童、七之助、中車)も加わり、花魁の身勝手に不満の女将のおさき(米吉)、阿野次郎左衛門(片岡亀蔵)の5人が、弥次郎兵衛と赤尾太夫のふたりを殺そうと謀議する始末。

前々回(16年8月歌舞伎座)の劇評。「夕食時は女役者(壱太郎ら)をあげての宴で遊ぶ。離れに泊まっているという女役者に夜這いをかける弥次喜多」とある。本当に懲りない面々。毎回同じようなことをしているんだ。この連中は。

第五場「箱根旅籠五日月屋廊下客間の場」。夜半、一間では、弥次郎兵衛と赤尾太夫が情事の最中。亭主の藤六(廣太郎)、女将のおさきが廊下でぶち当たり、手燭を落とす。辺りは、真の闇。多くの宿泊客も加わって、第五場出演者全員? というような、大規模な「だんまり(暗闘)」となる。花道から、舞台上手まで続くだんまりの行列。皆々、闇を探り合う。弥次郎兵衛たち3人は、なんとか、だんまりの輪から抜け出す。

第六場「富士川渡しの場」。翌日。弥次郎兵衛たちは、富士川の渡し場へ。舟には定員六名と書いてあるが、もう既に多数乗っている。梵太郎(染五郎)、と政之助(團子)のふたりを先に乗せる。弥次郎兵衛と幽霊の喜多八は、次の舟に乗ることになる。地獄極楽の分かれ目とも知らずに。

この舟には既に先客が3人いる。後ろ姿で身動きしないというのも、なんとも胡散臭い。と思っていたら、やはり、彼らは怪しの3人組だ。3人は、実は、地獄の使者。死者たちの勝ち。舟は、幽霊の喜多八と弥次郎兵衛を乗せて、地獄の底へ真っ逆さまに落ちて行く。

第七場「洞穴の場」。先に川を渡った梵太郎(染五郎)と政之助(團子)。幽霊の喜多八と伴してきたむく犬、三毛猫が追いつく。鳴き立てる犬猫。様子がおかしいと気づいたふたりは、大事に持参している薫光来の名刀を抜き放つと、犬猫の言葉が判るようになる。幽霊の喜多八と弥次郎兵衛が、地獄に落とされたと知る。犬猫は、富士山の洞穴があの世に繋がっているという伝説をふたりに教える。ふたりは、洞穴に飛び込む。

第八場「地獄の場」。地獄の閻魔庁。年に一度の地獄祭り。宴会中。閻魔大王(右團次)、泰山府君(片岡亀蔵)、閻魔の妻(新悟)が見守る中、赤鬼(橋之助)、青鬼(中村福之助)、黄鬼(歌之助)、大鬼(鷹之資)、中鬼(玉太郎)、小鬼(市川右近)、女歌舞鬼(千之助)らが、舞い踊る。そこへ書記官(廣太郎)が弥次郎兵衛を追い立ててくる。閻魔大王の御下問に弥次郎兵衛は、喜多八を追ってきたと答える。まだ、裁きを受けていない喜多八は、閻魔庁には記載されていない。そこへ、も一人の書記官が喜多八を引き出してくる。宴の余興に弥次郎兵衛をなぶり殺しにしようと盛り上がる。梵太郎(染五郎)と政之助(團子)が、助けに現れる。皆、洞穴から、逆にこの世に戻る。

第九場「岩場の場」。この世に戻った弥次郎兵衛だが、頭を打っていて、大怪我、瀕死の状態。岩場には、基督(門之助)、日光天使(染五郎)、月光天使(團子)が現れ、皆、救済する。舞台中央で踊る基督。花道の上を宙乗りで進む4人組。弥次郎兵衛(幸四郎)、喜多八(猿之助)、日光天使(染五郎)、月光天使(團子)の面々。めでたし、めでたしの大団円。はちゃめちゃな大喜劇。出演する役者は多いけれど、……。何回か、うとうとしてしまった。目が覚めたら、そこは、「……」か。猿之助の演出は、とにかく、役者が大勢出てきて、賑やかなだけの舞台だった。

前々回(16年8月歌舞伎座)のまとめ批評。「ストリーを追うだけで、芝居としての余韻は少ない。猿之助の演出で、染五郎、猿之助ほか澤潟屋一門が『軸になっている割には、おもしろくなかった。演出が、もうひとつなのだろう』と、書かざるをえないのが、残念」とある。今回も、概ね一緒。

贅言;猿之助は、8月は、歌舞伎座近くの新橋演舞場の夜の部(午後4時半開演)で「NARUTO ~ナルト~ 」に出演。主役は、巳之助、隼人。若い役者に主役を譲り、猿之助演じる「うちはマダラ」役は、愛之助と交互出演。掛け持ちで、澤瀉屋も熱中症にならないように。


立役の総踊り


「雨乞其角」は、今回初見。1924(大正13)年、初演。1978(昭和53)年、宗家藤間会でも素踊りで初演されたが、歌舞伎の本興行は、今回が初演、という。「雨乞其角」という外題の意味は、江戸中期の俳人・宝井其角のエピソードに由来する。1693(元禄6)年6月、其角が、雨乞の人々に代わって、「夕立や 田をみめぐりの 神ならば」という句を詠んで、献じたところ、実際に雨が降ったという。

「西も東も水無月の 雲さへ湧かぬ旱空……」。花道から其角(扇雀)の出。隅田川周辺を歩む。

舞台は、三囲神社。隅田川の内側(つまり河川敷側)からの光景。河川敷に舟。
船頭は歌昇。其角は舟に乗り込む。堤の向こうに埋もれたように見えるのは、お馴染みの三囲神社の鳥居。

書割などが動いて、大道具、居処替りで場面展開。舟は、大川(隅田川)に乗り出す。すると、川の中から、大きな舟がセリ上がる。芸者(新悟、廣松)を連れて船遊びをする大尽(彌十郎)の船と行き交う、という場面。大きな舟は廻り舞台の動きに連れて川面を廻る。こちらの船頭は、虎之介。河川敷にあった小さな舟は、黒衣ふたりの人力で大きな船と逆方向に廻る。やがて、二艘は横に並ぶ。

もう一つの大きなセリで、其角の弟子たち(橋之助、男寅、中村福之助、鷹之資、千之助、玉太郎、歌之助、鶴松他)10人がセリあがってくる。そのタイミングで、大道具居処替りで、堤の外の三囲神社へ。

神社の境内で其角を中心に10人の弟子たちが踊る。雨乞いの踊り。其角を含め、立役ばかり11人の男踊りの輪が広がる。男ばかりの踊りは珍しい。「……神ならば 夕立を降らし給へ」。やがて、神慮に叶って、雨が降り出す。男たちの総踊り。幕。

大川と大小の舟、廻り舞台を使った大道具のダイナミックな展開と珍しい男ばかりの踊りが、見もの。
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