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2018年08月12日12:28

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8月歌舞伎座/納涼歌舞伎(1部)

18年8月歌舞伎座(1部/「花魁草」「龍虎」「心中月夜星野屋」)


納涼歌舞伎は、3部制


北條秀司作の新作歌舞伎は、「北條歌舞伎」と呼ばれる。「花魁草(おいらんそう)」は、1981(昭和56)年、歌舞伎座で初演された北條秀司作・演出の新作歌舞伎。私が観るのは、2回目。前回は、11年8月新橋演舞場で観た。この演目は、今回で、本興行、4回目の上演である。

1855(安政2)年10月に江戸を襲った大地震の被災者の物語。明日への希望の物語に年の離れたカップルの純愛をダブらせた構成。飛躍する年下の男と病み行く年上の女の接点の数年間に心温まる物語があった、という趣向。短編小説の味。戦時中、ハルビン(中国東北部)で出会った女性から作者が直に聞いた身の上話を幕末期の江戸周辺に設定し直した芝居。

場面構成は、次の通り。
序幕第一場「中川の土手」。同 第二場「日光街道栃木宿の農家」(秋、1年後)。第二幕第一場「日光街道栃木宿の農家」(夏、6年後)。同 第二場「巴波(うずま)川の橋の上」。

今回と前回の主な配役は、次の通り。表示は、今回、前回。
お蝶:扇雀、福助。幸太郎:獅童(前回とも)。栃木宿の農家・米之助:幸四郎、勘太郎時代の勘九郎。米之助の女房・お松:梅枝、芝のぶ。達磨問屋主人・五兵衛:市蔵(前回とも)。猿若町の座元・勘左衛門:彌十郎(前回とも)。座元の妾・お八重:高麗蔵(前回とも)。芝居茶屋の女将・お栄:萬次郎、扇雀ほか。

序幕第一場「中川の土手」。安政大地震の翌朝。舞台は、暗転。真っ暗な中で幕が開く。上手が江戸方面。まだ燃えている。夜空が赤い。上手が日光方面。夜空は、暗い。夜明け前、日光方面に通じる中川沿いの街道。舞台手前は、中川。奥が、日光街道の土手。薄明かりの土手をシルエットの人々が通る。江戸からの避難民たちのようだ。段々、明るくなって行く。河原で一夜を明かした職人が起き上がって、被災のことを話題にしながら連れだってどこかへ行く。上手の薄の中から起き上がった青年は、江戸の芝居町、浅草の猿若町の大部屋役者・幸太郎(獅童)。楽屋着のまま逃げて来た。楽屋口で、地震に襲われた、という。中川の水で、喉を癒す。江戸に戻ろうとして下手の草むらで寝ていた吉原の女郎・お蝶(扇雀)の足を踏んでしまう。こちらも部屋着姿のままで、いかにも「女郎」という格好。ふたりとも着の身着のまま江戸から逃げて来たと判り、意気投合する。当時の江戸の芝居街と吉原遊郭は、近間であった。

そこへ、栃木宿の百姓・米之助(幸四郎)が、下手から小舟で中川を上って来る。お蝶は、持ち前の愛嬌で、栃木宿までと、幸太郎共々、舟に乗せてもらうことになる。前回の舞台では、福助が愛嬌のある遊女を演じていた。5年間、病気休演中の福助が、来月、歌舞伎座の舞台に復帰する。お蝶は、福助には、ぴったりの役どころ。扇雀は、福助とは一味違う。

幸四郎は、滑稽味を滲ませた、人の良い百姓を演じる。獅童も、科白廻しが優しい。年上の女性に気使いの出来る青年を演じる。登場人物が善人たちという芝居が始まる。以下、新作歌舞伎らしく、暗転、明転で、緞帳の上げ下げで、場面展開。メモが取りにくい。

序幕第二場「日光街道栃木宿の農家」。震災から1年後の秋。日光街道近くの農家。お蝶と幸太郎は、米之助の母屋の裏にある農具置き場をリホームした住まいを借り、ふたりで暮している。幸太郎は、地元の名産品の達磨作りの内職をしている。お蝶は、幸太郎より年が上なのを恥じて、「おば」と称している。舞台下手に赤い実を付けた柿の木。住まいの床下には、薪の束が仕舞われている。上手は、米之助の住む農家の裏手。物干がある。洗濯物が干してある。農家と幸太郎らの住まいとの間に、小さい祠がある。庭先に塗った達磨や収穫した唐辛子が干してある。

宿場の芝居小屋「栃木座」で興行をする嵐重蔵一座が、「チンドン屋」風に、宣伝に来る。近くの豪農の娘・お糸(新悟)が、若い幸太郎に栃木座の芝居や羽生のかさね祭りに行こうと誘いに来たり、幸太郎に仕事を世話している江戸の達磨問屋の主人・五兵衛(市蔵)が立ち寄ったりする。お蝶は、幸太郎に好意を寄せる豪農の娘で若いお糸に嫉妬する。幸太郎は、お蝶の気持ちも忖度せず、貰って来た花魁草(おいらんそう)を祠の前に植える。お蝶は、幸太郎に江戸に戻って、舞台に出たくないのかと尋ねるが、幸太郎は、お蝶とふたりで、「ここで暮したい」と言う。年下の男への慕情を秘めながら、心の中でホッとする年上の女。

幸太郎が仕事で外出すると、母屋の米之助が、訪ねて来て、お蝶に「祝言をして、ふたりは正式の夫婦になれ」と勧める。お蝶は、嫉妬心から、昔裏切った男を殺したという過去を持つ。お蝶の母親も、同じ犯罪を犯しているという。母と同じ、殺人者の血が流れていることを怖がっていると米之助に告白するお蝶。お蝶の意外な告白に驚きながらもお蝶を慰める米之助。米之助と入れ替わりに上手から出て来た米之助の妻・お松(梅枝)が、物干に干していた衣類を取り込む。前回は、お松の役を芝のぶが演じていた。脇役の中堅女形・芝のぶも良かった。

街道では、猿楽町の芝居茶屋の女将・お栄(萬次郎)、座元の勘左衛門(弥十郎)、座元の妾・お八重(高麗蔵)が、日光詣の帰り道に通りかかる。お栄は、幸太郎らしき男を見かけたと騒いでいる。立ち寄った農家が、その米之助宅。女房のお松から、見かけた男が、「幸太郎」という名前だと聞かされて、幸太郎の帰りを待つことにする。お栄は、「まるで芝居みたいな話だね」などと言って、場内の笑いを誘う。

帰って来た幸太郎は、「もう一度、舞台を」。座元から江戸の芝居への復帰を誘われて舞い上がる。「旦那様」と万感を込める。傍らで話を聞いていたお蝶は、そっと奥へ引きこもる。お蝶も一緒に江戸に戻ることになったが、お蝶は、幸太郎を江戸まで送ったら、一人で栃木へ戻って来る決心だと米之助には話す。

過去に殺人を犯して、心を汚し、女郎の暮らしで、身を汚したゆえに、前途ある若者の人生に汚点は付けられないと身を引く覚悟の年上の女。この場面、百姓夫婦の米之助とお松、ふたりの生活に馴染んでいるお蝶と幸太郎を包み込む栃木宿の雰囲気。それに対して、江戸者の芝居茶屋の女将お栄、座元の勘左衛門と妾のお八重の一行の雰囲気の違いが、見せ場という場面だ。お蝶と幸太郎ふたりの人生をゆすぶった長い一日。照明は、昼間から夕景へと照明で時間経過を表して行く。

第二幕第一場「日光街道栃木宿の農家」。6年後の夏。序幕第二場の農家と同じ大道具だが、前の舞台で黄色く色づいていた木々は、いまは、緑も濃い。祠の前には、花魁草が、ピンクの花を多数咲かせている。幸太郎らが住んでいた住まいには、女按摩(蝶紫)の施療場になっている。客が、宿場の芝居小屋「栃木座」で興行する江戸の歌舞伎役者淡路屋・中村若之助を話題にして、盛り上がっている。裃袴姿もきりりとした人気役者、若之助(獅童)は、幸太郎の6年後の晴れ姿だ。お蝶を訪ねて、かつての住まいを訪れる。花魁草が目印だ。米之助とお松は、幸太郎の出世振りを喜ぶが、幸太郎が逢いたいお蝶の姿が見えない。病気の療養で、山の上の湯場に行くと言って出て行ったまま、行方不明だという。獅童は、姉を慕うような、純朴な青年役者若之助を印象づける。

贅言;当時、関東地方には、栃木宿のように街道の宿場には、いくつか芝居小屋があったようだ。高崎、甲府などの記録が残る。甲府では、亀屋与兵衛座などが知られる。亀屋座には、江戸の歌舞伎役者七代目市川團十郎なども訪れ、滞在した。江戸の市村座などの出し物を先に上演し、亀屋座で当たれば、市村座でも当たるなどと言われたという。江戸の文化のセンサー役を甲府の人々はしていたのではないか。

第二幕第二場「巴波(うずま)川の橋の上」。宿場の巴波川に架かった橋の上には、歌舞伎役者・若之助の「舟乗り込み」(舟に乗って、芝居小屋入りする)を見ようという人たちで、ごった返している。舟乗り込みは、客席からは見えない。「淡路屋」「淡路屋」と屋号が飛び交う。舟が通り過ぎると橋の上にいた見物人たちも、ひとりふたりと去って行く。その後に、頭巾を被った女ひとりが橋の上に取り残される。頭巾を取ると、女は、病み上がりのお蝶。お蝶は、立派になった幸太郎の姿を見て、喜び、涙を流し、幸太郎を見送る。「幸ちゃんに逢いたい……」。お蝶は一人で屋号を叫ぶ。「淡路屋!」。暗転の中で、扇雀の泣き声が、何時までの続くうちに、緞帳が降りてくる。幕。


「龍虎」は、3回目の拝見。前回は、4年前、8月の歌舞伎座で観ている。今回含め、3回の配役は、次の通り。

龍が、八十助時代の三津五郎、獅童、今回は、幸四郎。虎が、染五郎時代の幸四郎、巳之助、今回は、染五郎。

1953(昭和28)年初演の新作舞踊劇。「龍吟ずれば雲起こり、虎嘯けば風となる」(易経)。龍虎が、天に雲を起こし、地に風を起こす。雷や風雨を呼ぶ中で、聖獣同士が相争う様を舞踊に仕立てた。

波が逆巻く渓谷の岩場。中央の大セリで龍虎がせり上がって来る。能がかりの白装束の両雄。頭の飾りや袴は、金は龍。銀は虎。途中、ふたりとも、黒毛の龍、代赭毛の虎。それぞれ隈取の「面」を活用して、早替り。勇壮な毛ぶりを披露する。背景は、海の大波へ。衣装の引き抜きでは、通常の着物だけでなく、大口袴も同時に引き抜き、そっくり早替りとなる。引き抜きの特別な演出。両雄は秘術を尽くして挑み合う。拮抗する力。そのため、雌雄は、決しない。袴も白、清新な装いに変わる。背景の波も静寂へ。やがて、山頂に満月が上って来る。そして、緞帳が下りてくる。


「心中月夜星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)」は、古典落語「星野屋」を歌舞伎化した。今回が歌舞伎座初演の新作歌舞伎。落語の「星野屋」は、1698(元禄11)年、刊行の「初音草噺大鑑(はつねぐさはなしおおかがみ)」所収の「恋の重荷にあまる知恵」という一編をベースにしている、という。

今回の場面構成は、次の通り。
第一場「稽古屋塀外の場」。第二場「稽古屋座敷の場」。第三場「吾妻橋の場」。第四場「元の稽古屋座敷の場」。

第一場「稽古屋塀外の場」。定式幕が開くと、三味線指南のおたかの家。黒板塀に見越しの松。典型的な妾宅の佇まい。花道をやってきたのは、蔵前の青物問屋・星野屋の主人、照蔵(中車)。稽古帰りの娘ふたりと花道で出会う。娘の潔癖感が、センサーとして師匠のおたかと関係する中年男を感じ取り、嫌う。「虫の好かない男」などという。それを耳に挟んだ照蔵は、素の虫愛好家の中車、というか香川照之に戻り、「俺は虫が好きなのだ」と呟き、観客を笑わせて、上手に入る。舞台は、大道具の「煽り」などで居処代わり、場面展開。

第二場「稽古屋座敷の場」。下手より、再び、中車の照蔵が登場。家の奥から出てきたのは、おたか(七之助)。照蔵は、女房の七回忌を済ませている。ふたりは男女の仲という関係だが、相場に手を出し、しくじった照蔵が別れ話を切り出す。これに対して、おたかは、手切れ金より、一緒に死のうと言って欲しいと、言う。喜ぶ照蔵。「今宵九つ(午前0時)、吾妻橋から一緒に身投げしよう」と告げて、花道を帰って行く。中年男と心中する気のないおたかは、母親を呼ぶ。奥から出てきた母親のお熊(獅童)。お熊は、心中するように見せかけて、照蔵ひとりに身投げをさせようと、提案する。ふたりは、そのための稽古を始める。やがて、舞台が廻る。

第三場「吾妻橋の場」。雨上がりの吾妻橋。やってきたのは、照蔵とおたか。約束通り、身投げ心中しようという照蔵。なんやかやと身投げを避けるおたか。
ふたりの様子を見守っていたお熊が間に入り、3人が闇の中で探り合ううちに、橋の欄干に乗っていた照蔵だけが、川の中へ。

贅言;橋の大道具は、「花魁草」の第二幕第二場「巴波(うずま)川の橋の上」の場面で使用していたのと同じ。

第四場「元の稽古屋座敷の場」。舞台が、廻る。上手に蓙で上半身を隠した男が現れる。上手からおたか(七之助)、自宅に戻った。花道からやってきた和泉屋藤助(片岡亀蔵)に、照蔵の後釜紹介を依頼しようとするが、藤助は、枕元の照蔵の幽霊が現れると、不安がる。その話を聞いたおたかは、恐れ慄く。どうしたら良いか。下手からお熊(獅童)。藤助は、おたかに「尼になれ」と勧める。おたかは、躊躇していたが、最後には、自慢の黒髪を切ることになる。上手、座敷の障子の間から照蔵(中車)が姿を見せる。おたかには橋から身投げをして見せたが、実は、下に舟を待たせていた、という。照蔵は、手切れ金(20両?)を取り戻す。おたかは切った黒髪は、かもじで地毛ではない、と嘯く。呆れて照蔵は花道から帰って行く。お熊は、手切れ金から三両掠め取った、という。おたかは、さらに自分は五両掠め取った、ということで、どっちもどっちの騙し合い、ということでオチがつく。欲がこの世を支配する。定式幕が閉まり、幕。
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