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2018年04月13日15:41

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4月歌舞伎座(昼/「裏表先代萩」の立ち位置)

18年4月歌舞伎座(昼/「西郷と勝」「裏表先代萩」)


「裏表先代萩」のおもしろさ


「西郷と勝」は、真山青果原作の新作歌舞伎の一部である。本来、真山青果原作は、総タイトル「江戸城総攻」という3部作の演目で、大正から昭和初期に、およそ8年をかけて完成させた新作歌舞伎である。『江戸城総攻』(第一部「江戸城総攻」、第二部「慶喜命乞」、第三部「将軍江戸を去る」)。

1926(大正15)年初演の第一部「江戸城総攻」(勝海舟が、山岡鉄太郎を使者に立てて、江戸城総攻めを目指して東海道駿府まで進んで来た征東軍の西郷隆盛に徳川慶喜の命乞いに行かせる)、1933(昭和8)年初演の第二部「慶喜命乞」(山岡が、西郷に会い、慶喜の助命の誓約を取り付ける)、そして1934(昭和9)年初演の第三部「将軍江戸を去る」(勝海舟が、江戸薩摩屋敷で、西郷隆盛に会い、江戸城の無血明け渡しが実現する)という構成である。江戸城の明け渡しという史実を軸に、登場人物たちの有り様(よう)を描いている。いずれも、初演時は、二代目左團次を軸にして、上演された。

歌舞伎では、必ずしも、原作通り演出されず、例えば、第一部の「江戸城総攻」では、「その1 麹町半蔵門を望むお濠端」、「その2 江戸薩摩屋敷」という構成で、青果3部作の、第一部の第一幕第二場と第三部の第一幕(「江戸薩摩屋敷」では、西郷吉之助と勝安房守が江戸城の無血開城を巡って会談する場面である)が、上演されることが多い。今回も基本は、これに従っているが、「明治百五十年」記念として、より西郷と勝という二人に焦点を合わせた芝居にしている。NHKの大河ドラマ「西郷どん」との相乗効果を狙ったのかどうか。

そもそも、2018年とは、1868年から150年ということだが、これを新国家建設の明治維新を起点とするか、徳川幕府崩壊を起点とするかで、趣が変わってくるだろう。新国家建設の末路は、日本近代史が示す通り。1945年の敗戦に繋がる。徳川崩壊150年を起点とすると、フィクションとしては、崩壊後の日本像として、いろいろなロマンが描けるような気がする。

贅言;新作歌舞伎なので、古典的な歌舞伎の演出と異なる部分が幾つかある。幕は、緞帳。このほか、例えば録音された効果音を積極的に使う。汽笛(あるいは 砲声か)、水音、馬の蹄の音、銃声、小鳥、官軍の進軍の音などもあった。

今回の舞台は、「その1 麹町半蔵門を望むお濠端」、「その2 江戸薩摩屋敷」で構成されている。「その1 麹町半蔵門を望むお濠端」は、いまの 国立劇場のあたりだろう。その1とその2の、間には、なんと「数日後の江戸薩摩屋敷」という字幕が、スライドで上映されるという、この「歌舞伎離れ」ぶり。江戸薩摩屋敷は、いまのJR田町駅近くだろう。

今回の配役は、以下の通り。西郷吉之助(隆盛)は、松緑。勝麟太郎(海舟)は、錦之助。山岡鉄太郎は、彦三郎。中村半次郎は、(坂東)亀蔵。村田新八は、松江ほか。

さて、今回の舞台。「その1 麹町半蔵門を望むお濠端」の場面は、幕府側の重臣、勝の慎重なやり方を生ぬるいと考える若い幕臣の血気が描かれる。濠端を通りかかった勝が若い幕臣に銃で撃たれる。幸い傷は、かすり傷。ここへ駕籠に乗った山岡鉄太郎が通りかかる。山岡は、駿府(今の静岡県)まで進軍してきた官軍の参謀西郷のもとに使者に立つよう勝から依頼される。山岡鉄太郎は、「無刀」主義(身一つ)で徳川慶喜の命乞いを西郷に頼むという。勝は、イギリスの公使に直談判で慶喜の亡命を取り付けたという。勝は山岡を見送る。

「その2 江戸薩摩屋敷」。1868(慶応4)年の江戸・芝の薩摩屋敷が舞台。江戸薩摩屋敷は、前年、幕府側による焼き討ちにあい、一部が焼けただれ、壊された跡がいまも残っている。屋根瓦、壁、襖、塀、蔵の白壁、庭の燈籠が、壊れたりしている。庭先からは、江戸湾が遠望され、軍艦2隻が、停泊しているのが、見える。あす、官軍は、江戸城総攻めを計画し、その準備に追われている。ここのハイライトは、幕府の海軍奉行・勝麟太郎が、官軍の参謀筆頭の西郷吉之助に面談に来る場面だ。皆、当時なりの洋装で、靴を履いている。

勝の面談の要旨は、慶喜の命と江戸の土地の保全。官軍の建前は、慶喜切腹と前の将軍に嫁いだ宮家の皇女和宮の保護である。西郷は、勝から、徳川家は、天皇の臣下であることを再確認し、江戸城を引き渡すことを認めれば、あすの総攻めを中止すると約束をする。列強各国が日本列島を取り巻く中で、官軍と幕府軍が、江戸城の明け渡しを巡って、戦争になれば、江戸は火の海になり、江戸に住む庶民も犠牲になるばかりでなく、まさに、日本は、「内乱」状態に陥り、そこにつけ込む列強に拠って、国が蹂躙されるのではないかという危機感が、両者の合意の根底にはある。「天下を動かす勢い」は、那辺にあるかを探る物語。

この場面、西郷は、薩摩弁でまくしたてる。勝は、寡黙で、腹芸で対抗する。徳川家は、天皇の臣下であることを勝に改めて、認めさせるが、松緑が演じる西郷は、雄弁である。錦之助の演じる勝麟太郎は、腹芸を隠して、「もちろーん」と大声で答える。西郷は、「実に戦争ほど、残酷なものはごわせんなあ」などと、持論を展開する。ここでは、西郷役者が、主役である。勝「日本は内乱の危機を免れた」。緞帳が下りてきて、幕。

贅言;この薩摩屋敷は、いまのJR田町駅近くの戸板女子短大のある地区ということで、庭の向こう側には、江戸湾が見え、軍艦も浮かんでいる。汽笛(時代の激変を告げる)は、これか。

いずれにせよ、花道を一度も使わず、額縁芝居に徹していた。新派より歌舞伎離れをしている演出。そもそも、真山青果劇の特徴は、科白劇である。松緑が初役で演じる西郷は、薩摩弁でまくしたてる。同じく初役の錦之助の勝は、寡黙で、腹の芸。その対照の妙が、この科白劇の特徴だろう。


「裏表先代萩」という演目の立ち位置


通し狂言「裏表先代萩」は、戦後、5回上演されている。私が観るのは、2回目。前回は、十八代目勘三郎の主演で観ている。11年前、07年8月、歌舞伎座。当代菊五郎は、この演目を2回演じているが、私が見るのは、今回が初見である。

歌舞伎の演出に、「テレコ」というのがあるが、異なる筋の脚本を交互に展開して上演することをいう。今回の「裏表先代萩」の場面構成は、以下の通り。
序幕「大場道益宅の場」、二幕目第一場「足利家御殿の場」、第二場「同 床下の場」、大詰第一場「問註所小助対決の場」、大詰第二場「控所仁木刃傷の場。

「裏表」で言えば、「表」が、「伽羅先代萩」で、「足利家御殿」「同床下」「仁木刃傷」の場面が、演じられる。一方、「裏」では、「大場道益宅」「問註所小助対決」の場面が、演じられる。典型的なテレコ上演である。表と裏は、「問註所」で、何故かクロスする。

「伽羅先代萩」では、「御殿」「床下」「対決」「刃傷」とある。つまり、「対決」が、「問註所」ということだ。「伽羅先代萩」では、「問註所」での、足利家乗っ取りを企む仁木弾正とそれを阻止しようとする渡辺外記左衛門の「お家騒動」の対決を細川勝元が颯爽と裁くが、「裏表先代萩」では、道益殺しの下手人裁定を巡る小助とお竹の対決を細川勝元の家臣である倉橋弥十郎が、「町奉行」として颯爽と裁く。つまり、「問註所」が、ボルトとナットで止められて、表の「伽羅先代萩」のお家騒動と裏の「大場道益殺人事件」が、「テレコ上演」されるというわけだ。道益は、足利家の若君・鶴千代毒殺という陰謀のために、毒薬を調合した医者という設定だ(「伽羅先代萩」でも、名前だけ出てくるが、舞台に登場はしない)。更に言えば、「表」が、時代狂言で、「裏」が、江戸世話狂言という趣向なのだということが判る。仕掛人は、三代目菊五郎の「仁木を世話物でやりたい」という希望を受け止めて、四代目南北が、1820(文政3)年に書いた「桜舞台幕伊達染(さくらぶたいまくのだてぞめ)」で、小助が登場した。さらに、河竹黙阿弥が、先行作品に手を加えて、1868(慶應4)年、幕末も、どん詰まりの年に「梅照葉錦伊達織(うめもみじにしきのだており)」という外題で書き換え、上演された。

通し狂言「裏表先代萩」は、松竹の資料によれば、戦後では、今回が、5回目の上演である。主役の小助を演じたのは、二代目猿之助、後の初代猿翁、つまり、当代の猿之助の祖父である。続いて、十七代目勘三郎、当代の菊五郎(今回含め、2)、さらに、亡くなった十八代目勘三郎となる。三代目猿之助が、演じても良さそうな演目だが、何故か、演じないままになってしまった。いずれ、当代、つまり四代目が演じるだろうか。十八代目勘三郎は、前回の菊五郎同様に、小助、政岡、弾正の3役をひとりで演じる。十七代目勘三郎は、小助、弾正のふた役を演じたが、政岡は、芝翫が演じている(十七代目勘三郎は、憎まれ役の八汐を演じている)。今回の菊五郎は、小助、弾正のふた役のみ。政岡は、時蔵が演じる。

定式幕が、開く。序幕の「大場道益宅」では、団蔵が、道益を演じるが、道益は、管領・山名宗全(因に、奥方は、「御殿」に登場する栄御前である)邸にも出入りを許された名医。従って、居宅も、立派。玄関に、山水画の衝立があり、いわば、今なら、「診察室」に当る部屋には、七言絶句を模様にした襖があり、薬箪笥、薬の材料を入れていると思われる袋の数々。薬研(やげん)も、2基あるという辺りに、その辺を滲ませている。

舞台下手、家の前には、井戸があり、門には、丸に井の紋が、描かれている。道益(団蔵)は、名医ながら、俗物で、下駄屋の下女・お竹(孝太郎)と情を通じたくて仕方がないという、セクハラ親父でもあるのだ。お竹は、下駄屋の若旦那に惚れていて、ということで、まさに、下世話な世話物だ。道益の下男が、小助(菊五郎)であり、ここは、いちばん、小助こそ、澤瀉屋の嵌(はまり)り役ともいうべきイメージの人物なのだろう。道益は、小助を連れて帰って来た弟の宗益(権十郎)と足利家の陰謀(若君毒殺)の相談をしていて、200両という足利家の刻印の入った小判の包みの受け渡しをしていると、それを小助に見られてしまった。これが切っかけで、悪事の200両の横取りを企む小助によって、道益は、殺されてしまう。

甥が使い込んだ金を返さなければ、と父親から頼まれて、2両の工面が必要
になったお竹が、夕方(行灯に灯が入り、時間経過が分かる)、再び、道益宅に現れると、小助は、お竹にその旨の手紙を書かせる。小助はなにか、よからぬ企みをしているようだ。小助は外出する。小竹は小助の企みに気づかない。書いた手紙を持ち、寝間に入り込んできたお竹は道益に掴まる。酔いから醒めた道益が、お竹の手紙を読み、2両を貸し与える代りにと、お竹に抱き着く始末。なんとも、どうしようもない、スケベ親父。お竹の手紙は、後に問註所での裁きの証拠に提出されるということで、まさに、罠に嵌ったことになるが、お竹は、そういうことは、露ほどにも思っていない。嫌なものは嫌。好きな女に金だけ貸し与えて、逃げられて、ざまのない道益をその後、襲ったのは小助である。

贅言;この場面、亡くなった十八代目勘三郎の小助は、薬缶から、盆に水を入れて、和紙を濡らして、顔に貼付け、鼻の穴だけ空ける。手拭で頬被り。いまなら、ストッキングを被った強盗のスタイルというところか。盆の水を鏡替りにして、顔を写し、人相が、ばれないかを確認している、忍び込む障子の間では、敷居に水を掛けて、すべりを良くするなど、勘三郎の藝は、細かく、小悪党の行状を叮嚀に演じていた。今回は、こういう演出はなかった。初めから、「堂々と」道益殺しを実行する。

金を脅し取ろうと、小助登場。小助は道益の持っていた薬研包丁を逆に奪い取って道益の腹を刺して殺し、198両を奪いさる。芝居では、「濡れ手に粟の二百両」で、200両と言っている。このまま、逃げては、疑われると、小悪党は、悪知恵が沸き上がり、奪われた片袖を取り戻して仕舞うと、そのまま、道益宅の奥に居残る。

贅言;前回の勘三郎は、金を奪った後の、この場面で、自分の破れた片袖に包んだ大金を床下に隠す。しかし、「天網恢恢疎にして漏らさず」で、大金は、床下の犬に奪われる。犬は、包みを近くにあったお竹の父親の花売りの花籠(天秤(びん)棒で担ぐ)に隠す。この辺りは、「表」の「床下」のパロディなのだろう(犬が銜えた金包み、鼠が銜えた連判状)。道益を殺して、遺体を置いたまま、買い物から戻って来たような振りをして、帰宅して奥に下がり、道益の遺体を発見した弟の宗益に初めて驚いてみせる小助であった。その後、床下から金を持ち出そうとしたが、金が、無くなっているのに気づく。しかし、後の祭り。という展開であった。今回は、こうして、今回の菊五郎と前回の勘三郎の舞台を比較してみると、勘三郎が、いかに細かな工夫を重ねているかがよく判る。ひとまず、幕。

二幕目「御殿」(第一場「足利家御殿の場」)、「床下」(第二場「同 床下の場」)は、「表」の通りに演じられる。しばらく無人の舞台に愛太夫の美声が響く。置浄瑠璃。やがて、御殿の御簾が上がると、政岡を演じる時蔵が立っている。子役の若君・鶴千代は、亀三郎(彦三郎の長男)。政岡の息子・千松も子役。「伽羅先代萩」で観て来た政岡は、いわば立女形格の女形しか演じない。時蔵も、「裏表先代萩」ながら、政岡を演じるのは、初役だろう。上手から八汐一行。憎まれ役の八汐を演じるのは、彌十郎。これも初役だろう。花道から栄御前一行。栄御前は、萬次郎。「伊達の十役」で栄御前を演じたことがあるという。八汐による千松虐殺の場面で、扇子越しに政岡の挙動を凝視し続ける栄御前。「八汐あっぱれ」と言う。

オーソドックスな「伽羅先代萩」での配役を本格的に演じることになるだろう役者たちが、その前に重要な役どころとしてデビューするのが「裏表先代萩」という演目の立ち位置なのだろう。因みに、「裏表先代萩」で、政岡を演じたのは、七代目芝翫、菊五郎、十八代目勘三郎、今回の時蔵、という顔ぶれ。皆々、引っ張りの見得で静止したところへ、御簾が下がり始め、御殿の床がせり上がってくる。場面展開。

続く、「床下」。これも「表」の通りに演じられる。今回は、荒獅子男之助に彦三郎、仁木弾正は、菊五郎。大鼠を取り逃がす男之助。スッポンから現れた後、花道をあたかも雲の上を滑るようにゆるりと逃げて行く弾正。いつも、そう思うのだが、本舞台から遠ざかるに連れて、向こう揚幕から差し込むライトの光が、引幕に弾正の影を映すが、これが、大入道のように大きくなって行く不気味さ。やがて、大きな弾正の頭の影が、引幕に大写しになる。これぞ、幻術。

大詰第一場「問註所小助対決の場」。世話物の対決。高足(たかあし、二重舞台のひとつ、2尺8寸、つまり、約84センチあり、陣屋などの床に使われる)の座敷、中央に裁き役が座り、上手に目安方(書記役)の侍が控えている。白州に跪く証言の関係者。黒羽織姿の同心ふたり。上手の出入り口からお竹(孝太郎)登場。縛られている。やがて、下手の出入り口から小助(菊五郎)登場。奪った金で小間物屋を営んでいる小助とお竹が、対決をすることになる。裁判長に当たる吟味役は、横井角左衛門(齊入)だが、横井は、足利家の乗っ取りを企む山名宗全派。小助からの賄賂もたっぷりもらっているようだ。初めから、結論ありきで、お竹を断罪しようと、お竹の書いた手紙などを証拠採用している。身に憶えのないお竹は、否定するが、聞き届けてくれない。ここで座敷奥より登場するのが、もうひとりの裁き役で、細川勝元の家臣、倉橋弥十郎(松緑)。近習を連れている。町方の事件を裁くので、「表」のように、細川勝元に捌き役を任せられない。倉橋は颯爽と次々に証拠を出して名奉行ぶりを演じる。

小助の小悪党と実直なお竹の対決。窮地に追い込まれているお竹。倉橋は、犯行時、行灯に架けられていた渋紙を取り出す。紙には、多数の足跡が残されていた。小助に足跡との照合をさせようとする。それまで余裕たっぷりだった小助も動揺する。さらに血潮の付いた襦袢の片袖。小助が着ていた襦袢には、片袖が無かった。お竹が、道益から借りた小判に刻まれていた足利家の極印も動かぬ証拠。小助の小判にも極印あり。これだけ証拠が揃えば、小助は、有罪。さまざまな証拠を突き付けられ、「さあ、それは」ばかりを繰り返していた小助は、倉橋弥十郎にやり込められ、その挙げ句、「恐れ入ったか」「恐れ入ったもんだ」となっての、一件落着で、「時計」の音。歌舞伎味が沸き上がる。道益の弟の宗益(権十郎)も、200両の出どころと若君暗殺の毒薬作りを暴かれてしまう。幕。

大詰第二場「控所仁木刃傷の場」。「国崩し」の極悪人・仁木弾正を菊五郎がたっぷり見せてくれる。今回は、まず、次の間か。無地で茶色に、黒い縁取りのある板戸の部屋。一人、肩衣をつけた渡辺外記左衛門(東蔵)が下手より入り、中央の小机の前に控える。そこへ、上手から、肩衣なしの弾正(菊五郎)が、そっと入ってくる。外記左衛門に斬りつける弾正。下手に逃げる外記左衛門。追う弾正。大道具が回る。

続いて、いつもの銀地に荒波の模様の襖と銀地に竜神の絵柄の衝立のある部屋へ。廻り舞台で、展開して見せる。足利家の家督相続を巡る評定の結果を待つ場面と弾正刃傷の立ち回りとなる。

「刃傷」では、渡辺外記左衛門(東蔵)が、弾正に腹を刺されて瀕死の重傷を負いながら、奮闘振りを見せる熱演が印象に残る。仁木弾正は、仇を討たれて、死ぬ。最後に登場する細川勝元(錦之助)は、裏と表を締めくくる。「テレコ」狂言は、これにて、拍子幕。

贅言:それにしても、重症で、苦しそうな外記左衛門に、勝元は、

「痛手を屈せぬ健気な振舞い。悪人滅びて、鶴千代の家は万代、不易の門出、めでとう寿祝うて立ちゃれ」ト謡になり、(略)

勝元、外記、交互に一節謡い、「めでたい、めでたい」というのは、いかにも、古怪な感じ(瀕死の怪我人に、なにをさせているのか)が、いつも、残る。昼の部は、空席が目立ったが、「裏表先代萩」は、もっと見られても良い演目ではないのか。最後に菊五郎の小助と仁木弾正のふた役は、世話物役者だけに小助に味があった。
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