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2017年10月15日18:06

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10月歌舞伎座・昼「マハーバーラタ戦記」

17年10月歌舞伎座(昼/新作歌舞伎「マハーバーラタ戦記」)


「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」は、初演の新作歌舞伎。日印友好交流記念という。世界三大叙事詩の一つ、「マハーバーラタ」を元に初めて歌舞伎化された。新作歌舞伎ながら、歌舞伎の定式の演出を可能な限り踏襲する。それでいながら、照明、音響などの効果は、現代の技術をフルに使う。時に、澤瀉屋風の、つまり三代目猿之助風の、スーパー歌舞伎演出も取り入れている、というのが、全体を見終わった後の私の印象であった。

今回の場割り(場面構成)は、以下の通り。
序幕第一場「神々の場所」第二場「ガンジスの川岸」第三場「迦楼奈(かるな)の家」第四場「五王子の宮殿」第五場「修験者の庵」第六場「競技場」第七場「祭りの町の別邸」。二幕目第一場「パンチャーラ国」第二場「鶴妖朶(づるようだ)王女の屋敷の庭」第三場「鶴妖朶の屋敷」第四場「密林」第五場「ガンジス川のほとり」。大詰第一場「象の国の陣営」第二場「開戦」第三場「バガバッド・ギーター」第四場「迦楼奈と汲手(くんてぃ)姫」第五場「戦場」。

主な出演は、神々の世界では、大黒天(楽膳)、梵天(松也)、帝釈天(鴈治郎)、那羅延天(ならえんてん。菊五郎)、太陽神(左團次)、シヴァ神(菊之助)、多聞天(彦三郎)。以下、注意! 人間界の配役については、読みにくいので漢字の名前をカタカナ書きとする。太陽神、次いで、帝釈天と契って子をなした汲手姫(くんてぃ。若い頃:梅枝、その後:時蔵)、姫と太陽神の子・迦楼奈(かるな。菊之助)、迦楼奈の育ての父親(秀調)、母親(萬次郎)。迦楼奈の師匠となる修験者(権十郎)。那羅延天(ならえんてん)の化身・仙人「クリシュナ」(菊五郎)。王権争いをする百人兄弟グループの長女・鶴妖朶王女(づるようだ。七之助)、弟の王子「ドウフシャサナ」(片岡亀蔵)。対立する五王子の長男「ユリシュラ」王子(彦三郎)、次男「ビーマ」王子(坂東亀蔵)、三男「アルジュラ」王子、実は汲手姫と帝釈天の子、つまり、迦楼奈の異父弟(松也)、四男「なくら」王子(萬太郎)、双子となる五男「さはでば」王子(種之助)。三男「アルジュラ」王子と婚約したパンチャーラ国の「ドルハタビ」姫(児太郎)、その父親・国王の「ドルハタ」王(團蔵)。次男「ビーマ」王子と契った森の魔物の娘「シキンビ」(梅枝)、「ビーマ」王子と「シキンビ」の子・「ガトウキチャ」(萬太郎)、「シキンビ」の兄「シキンバ」(菊市郎)ほか。

初演なので、コンパクトながら、あらすじを書いておこう。
序幕第一場「神々の場所」。両花道の演出。場内暗転の中で、定式幕が、ゆっくりと小刻みに開き始める。歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の幕開きのようだ。ガンジス川の源流、ヒマラヤ山中の雲の上が神々の場所。舞台はお堂の中のようである。全身が金箔のような神々。後光もきんきら。那羅延天(菊五郎)、シヴァ神(菊之助)、梵天(松也)、大黒天(楽膳)ら神々が居並び、微睡んでいる。さらに、「仮名手本忠臣蔵」の「大序」の幕あきのような演出は続く。神々は床の出語りという伝統的な演出の竹本の語りに合わせて、一人ずつ目覚め始める。まず、シヴァ神。彼は「この世の終わりが始まる」と宣言する。人間が始める戦争により世界が滅ぶという。本花道より顔が砥粉塗りの太陽神(左團次)が現れ、世界の終わりを止めたいという。これが、この芝居のテーマだ。象の国の汲手姫との間に子をもうければ、その子が人間たちの争いを止めるという。仮花道から現れた顔が白塗りの軍神・帝釈天(鴈治郎)は、圧倒的な武力を持った者が力で世界を支配しない限り、争いは止まないという。いわば、アメリカのトランプ大統領のようなことをいう神様だ。自分が汲手姫との間に子をなすという。神々と姫の三角関係に、神々のなした子どもたち、異父兄弟の争いが重なる。長老の那羅延天は、汲手姫にまず、太陽神の子をなし、それがうまくいかなければ、次に、帝釈天の子をなせという。舞台は回る。

同 第二場「ガンジスの川岸」。険しい山々。ガンジス川上流の岸辺。花道から現れた赤姫の衣装を身にまとった若い汲手姫(梅枝)が、舞台下手にて、お告げに従って太陽神との奇跡を願うと、上手の川面には、雲に乗った太陽神が現れて、汲手姫は身ごもる。処女懐胎である。生まれ出た赤ん坊の耳には、輝く耳飾りが付いている。恋愛もセックスもしたことがない姫は、怖くなって、赤ん坊を川へ流してしまう。やがて、定式幕で閉幕。歌舞伎の「妹背山」の舞台下手側にある妹山の後室定高の娘・雛鳥がお雛さまを吉野川に流すシーンを思い浮かべた。

同 第三場「迦楼奈(かるな)の家」。16年後。汲手姫が流した赤ん坊(姫と太陽神の間に生まれた子)は、迦楼奈という名の青年になっている。育ての親は、御者夫婦(父が秀調、母が萬次郎)。舞台上手に設定されたパーカッションの演奏に合わせて、暴れ馬が一芝居。花道から現れたのは、その迦楼奈(菊之助)。暴れ馬を放った矢一本で鎮めてしまう。おとなしくなった馬は花道から退場。ついで、花道すっぽん(独特の小さなセリ)に不意に現れた太陽神が、人間たちの戦乱を止めることが青年の使命だと諭す。耳飾りがある限り青年は不死身だ、と言われ、迦楼奈は戦士になる決意をする。戦うために故郷を出て行く息子に母は、青年の出自の真相を告げる。パーカッションの演奏に合わせて舞台が回る。伝統の回り舞台と現代のパーカッションの演奏が不思議ではないところが、おもしろい。

同 第四場「五王子の宮殿」。名君のパーンドゥ王が治める象の国には、5人の王子(双子を含む)がいた。王子たちの母は、汲手姫(時蔵)だが、4人の父親は皆違う。五王子は、歌舞伎の「白浪五人男」を連想させる。このうち、帝釈天との間に生まれたのが、三男「アルジュラ」王子。パーンドゥ王は、呪いでセックスが出来なくされていた。その王が亡くなり、王位継承がお家騒動となる。パーンドゥ王の兄の子供たち(「百人兄弟」という)のうち、鶴妖朶王女(づるようだ。七之助)と弟の王子「ドウフシャサナ」(片岡亀蔵)もお家騒動に加わり、五王子たちと対立する。パーカッションの演奏に乗り、二人の姉弟は、花道から現れた。後継者は、武芸の力量で決めようということになった。舞台中央の宮殿の御簾が降り、二人は、両花道から退場する。パーカッションを除けば、芝居は伝統的な演出を踏襲している。

同 第五場「修験者の庵」。修験者(権十郎)の下で弓の修業に励んでいた迦楼奈(菊之助)は、身分を偽っていたことが発覚し、破門されてしまう。師匠を怒らせたことから、師匠の修験者に呪いをかけられてしまう。舞台展開は、引き道具に書割。修験者は、舞台下手へ退場。森をさまよっていた迦楼奈は出会った行者(團蔵)にも聖なる牛を殺したとして、呪いをかけられる。行者は仮花道から退場。花道すっぽんから太陽神が現れ、自分が迦楼奈の父親だと告げる。太陽神は、力で人の世を支配しようとする「アルジュラ」王子を止めるのは、お前しかいないと迦楼奈の背中を押す。迦楼奈も仮花道から退場。幕。
同 第六場「競技場」。武芸大会の競技場。幕が開くと、舞台中央に御座所。那羅延天の化身・仙人「クリシュナ」(菊五郎)、迦楼奈の実母・汲手姫(時蔵)らが上手より現れる。御座所へ。五王子、鶴妖朶王女と弟の王子「ドウフシャサナ」のほか、上下手の見物席に庶民らも入り、全員が見守る中、本戦に残った迦楼奈と「アルジュラ」王子の対決の時を迎えた。両花道から弓の的が登場、舞台中央に停止する。力量伯仲、激闘の末、勝負がつかない。仙人は、勝者を決めずに試合終了とする。町中の絵が描かれた道具幕振りかぶせで、幕。

同 第七場「祭りの町の別邸」。祭りの町、ヴァラナヴァタ。両花道から踊る人々。本舞台上・下手から遊女の舞踊団(しのぶら女形たち)登場。町には鶴妖朶王女と弟の「ドウフシャサナ」王子の別邸がある。五王子を招いてもてなす。別邸で火事が起こり、たちまち炎上。炎に包まれる別邸。大道具がセリ下がる。逃げ遅れる五王子たち。幕。

二幕目第一場「パンチャーラ国」。美女の誉れが高いパンチャーラ国の「ドルハタビ」姫(児太郎)は、五王子の一人、「アルジュラ」王子と婚約していたが、五王子は火事で死んだということで、改めて婿選びをすることになった。宮殿の広場に婿候補たちが集められた。象に乗って上手より「ドルハタビ」姫登場。パンチャーラ国の国王の「ドルハタ」王(團蔵)と「ドルハタビ」姫は、婿候補たちの前に立った。多数の候補たちは、皆、仮面をつけている。王の問いに答えられた者が婿になれると呼びかけた。3人が残った。仮面をとると、3人とは、迦楼奈(菊之助)、鶴妖朶(づるようだ。七之助)、「アルジュラ」王子(松也)であった。「アルジュラ」王子が自分たちを焼き殺そうとしたのは、鶴妖朶だと訴えたため、「ドルハタ」国王は、鶴妖朶と迦楼奈を追放した。二人は、下手から退場。「ドルハタビ」姫と「アルジュラ」王子は、婚礼の儀に向かった。舞台は回る。

同 第二場「鶴妖朶王女の屋敷の庭」。パンチャーラ国で受けた恥辱を雪(すす)ごうと、花道より現れた「ドウフシャサナ」王子は、サイコロ賭博で五王子の財産を取り上げようと提案する。サイコロの目を自在に操れる特技があるという。婚礼を祝う余興として、サイコロ賭博をすることになった。幕。

同 第三場「鶴妖朶の屋敷」。鶴妖朶は、五王子を屋敷に招き、サイコロ賭博で饗応する。五王子の長男・「ユリシュラ」王子(彦三郎)は、負け続け、すべてを失う。鶴妖朶は、五王子と「ドルハタビ」姫が向こう12年の間、森をさまよって暮らすことなどを条件に彼らを追放する。幕。

同 第四場「密林」。五王子の次男「ビーマ」王子(坂東亀蔵)も一人で森をさまよっている。新作歌舞伎らしくスポットを使う演出。森の魔物の娘「シキンビ」(梅枝)がせり上がりで現れ、伝統のぶっかえりの演出で本心顕しの末、王子への恋心を告げる。次いで、「シキンビ」の兄「シキンバ」(菊市郎)が「鏡獅子」を連想させる衣装で現れ、「ビーマ」王子を食おうとする。「ビーマ」王子と「シキンビ」は力を合わせて、「シキンバ」を討ち取る。兄は本舞台奥に消え去る。「ビーマ」王子と「シキンビ」は結ばれ、子をなすが、ほかの兄弟と合流する「ビーマ」王子は森の外へ出なければならない。「シキンビ」は森の中で暮らすことしかできない。二人は、13年後の再会を約して、別れる。幕。

同 第五場「ガンジス川のほとり」。舞台下手、川のほとりで修行を続ける迦楼奈(かるな。菊之助)に通りかかった旅の僧(鴈治郎)が象の国の現況を伝える。五王子が追放され、鶴妖朶(づるようだ。七之助)の治世になってから乱れている、という。13年経ったら、鶴妖朶を倒してほしいという民の声があふれている、という。これから断食の行に入るので、迦楼奈の耳につけている耳飾りを施してほしい、と願う。躊躇したものの最も大事なはずの耳飾りを渡すと、パーカッション演奏で、旅の僧は、たちまち正体を顕し、帝釈天の姿となり、迦楼奈を咎める。苦行僧に求められれば、なんであれ、差し出すのが、自分の法であると、答えると、帝釈天は、迦楼奈にこの世で最強の武器「シャクティ」を授ける。一撃でなんでも壊すことができるが、一度しか使えない、という。幕。

大詰第一場「象の国の陣営」。暗転の中、開幕。スポットを使う演出。五王子追放から、丸13年が経った。明日からは、五王子軍も象の国と戦えるようになる。蛇の紋を染めた幔幕の陣営は鶴妖朶軍。鶴妖朶軍では、弟の「ドウフシャサナ」王子が、明日を前に、夜襲を仕掛けよと姉に進言する。迦楼奈の援軍を待っている鶴妖朶は聞き入れない。空が白み始めた。舞台下手からやってきた迦楼奈とともに、鶴妖朶は、出陣して行く。

同 第二場「開戦」。夜が明け、五王子軍と鶴妖朶軍の戦いが始まる。本花道に五王子たち。仮花道に鶴妖朶たちと迦楼奈。回り舞台が回ったり、戻ったり、さらに細長い花道も加えての立ち回り。劇場空間を活用しながらテンポよく戦場の場面を描く。戦国の屏風絵展開。パーカッション。両軍の大きな旗が舞台を縦横に移動する。どこかで見た光景。澤瀉屋のスーパー歌舞伎「三国志」の演出そっくり。両花道から馬が曳く戦車が登場する。舞台をくるくる回る戦車。

同 第三場「バガバッド・ギーター」。戦いを前に、五王子の一人、「アルジュラ」王子(松也)が躊躇している。花道すっぽんからせり上がってきた那羅延天(ならえんてん)の化身・仙人「クリシュナ」(菊五郎)が諭す。人間の肉体は滅んでも「我(が)」は、滅ばない。戦士は戦士としての義務を果たせ。義務とは、勝利という結果ではなく、ひたすら戦うということだ。「アルジュラ」王子は迷いを捨て戦場へ赴く。

同 第四場「迦楼奈と汲手姫」。汲手姫(時蔵)が、戦場の迦楼奈(菊之助)を訪れ、「アルジュラ」王子と争うのを止めてほしいと懇願する。母・汲手姫は、父親の違う兄弟の争いを止めたいのだ。太陽神の子・迦楼奈。帝釈天の子・「アルジュラ」王子。だが、迦楼奈はそれを拒む。汲手姫は、迦楼奈の母親だと名乗りだせないまま、去って行く。

同 第五場「戦場」。戦が始まる。迦楼奈は、「ビーマ」王子と森の魔物の娘「シキンビ」の子・「ガトウキチャ」(萬太郎)に追い詰められて、最強の武器「シャクティ」を使ってしまう。鶴妖朶(七之助)は、「ビーマ」王子に討たれてしまう。異父兄弟、迦楼奈と「アルジュラ」王子の争い。結局、弟の「アルジュラ」王子が勝ちを収めるが、二人は互いの係累としての真相を知り、和解する。

暗転の中、舞台が回って、さらに、舞台中央にせり上がってきたのは神々たち。那羅延天(ならえんてん。菊五郎)、シヴァ神(菊之助)、梵天(松也)、太陽神(左團次)、帝釈天(鴈治郎)、多聞天(彦三郎)ら神々は、人間たちの戦いとその後を眺めていた。人間の世を滅ぼすことを留まり、暫くは、人間に任せてみようということになった。神々は、再び、微睡む。最後は、新作歌舞伎らしく、緞帳で幕。カーテンコールがあり、一回だけ幕が上がって、終演。

芝居は、神々の三角関係とそれを反映した人間たちのお家騒動の果ての戦争。演出は、照明、音響、音楽などは新作歌舞伎流。随所に古典歌舞伎の伝統的演出も顔を出す。新旧の歌舞伎の演出をふんだんに盛り込んでいる。菊五郎劇団の挑戦心。劇団の座長役も菊五郎から息子の菊之助へと重心を移動させたようだ。こういう演出の歌舞伎、好きか嫌いかは、観客の気持ち次第。まあ、そういうところだろうか。
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