エレクトリック・ヴァイオリンは、クラシック・ヴァイオリンのように繊細で表情の豊かな音響よりも、大音量で太くて、どちらかというと金属的な音響を得意としている。大音量で鳴り響くロック・サウンドにおいて、クラシック・ヴァイオリンは音がかき消されてしまいがちになる。特にライブにおいては、エレクトリック・ヴァイオリンは効果的だ。
音の大きさだけでなく、シンフォニック・ロックにおいて、エレクトリック・ヴァイオリンは震えるような情感を表現する有効な手段となりえている。
・ 曲 バンド アルバム
�� McDonald's lament（悲しみのマクドナルド） / Darryl Way's Wolf [Canis-lupus 1973 UK ]
ロック界にヴァイオリン曲は数あれど、これ以上の曲はない。カーブド・エアを脱退したヴァイオリン奏者ダリル・ウェイが結成したウルフ。イアン・マクドナルドをプロデューサーに迎えて、何があったのか知らないが、メンバー全員が霊感に打たれてしまっている。情感に満ちて、むせび泣くヴァイオリンとは、この曲のことだ。ロックが表現しえた美の極致であり、それは、42年経った今も、ほかの誰にも到達することができない。
�� Buddha and the camel / Makajodama [ Makajodama 2009 Sweden ]
スウェーデンのマカジョダマは、4人編成のインストルメンタル・バンド。4人のうち、2人がヴァイオリン奏者とチェロ奏者だ。このほか、6人のゲストを迎えて、基調としてはスウェーデンらしい暗黒でへヴィーなシンフォを演奏する。しかし、この曲は別だ。「悲しみのマクドナルド」に肉薄するほど美しいメロディーと優美な弦の舞が、明るくてたおやかな風のようだ。チェロとヴァイオリンの2重奏に加えて、フルートも登場。更には小鳥のさえずりが効果音として加えられている。「仏陀と駱駝」という曲名からは、東洋的なものへの憧れも感じられる。
�� Young mother / Curved Air [ Second 1971 ]
カーブド・エアを特徴づけたのは、ミュージカル出身の女性ヴォーカリスト、ソーニャ・クリスティナもさることながら、王立音楽院出身でクラシック界に行くべきだった２人であった。しかも、ダリル・ウェイはエレクトリック・ヴァイオリンを弾くし、フランシス・モンクマンはモーグ・シンセサイザーを弾く。こんな音楽は、誰も聴いたことがない。かくてカーブド・エアは、レコード・デビュー前から驚異的な予約数を獲得した。その期待に、彼らはみごとに答えた。セカンド・アルバムのこの曲では、間奏のヴァイオリンが震えるような幻想性を描いている。
�� The martyr / Wally [ Wally 1974 UK ]
ウォーリーは、６人編成で、基本の５人に加えて専任のヴァイオリン奏者がいる。ヴァイオリンは、ピート・セージ。リック・ウェイクマンがプロデューサーを務めていて、話題となった。当時、ミッシェル・ポルナレフの前座として来日している。この曲は、冒頭からヴァイオリン弾きまくりの曲。明るめの牧歌的なヴォーカルもよく伸びる声だ。この曲のようにヴァイオリンを前面に押し出した曲がたくさんあったら、ウォーリーはもっとメジャーなプログレバンドになれたのではないだろうか。
�� Rocket roll / FM [ Surveillance 1979 Canada ]
カナダのＦＭは、プログレ・ハードのバンド。エレクトリック・ヴァイオリンの専任奏者がいるバンドとしては、３人編成と小粒である。しかし、音は結構分厚い。それは、キャメロン・ホーキンスが、ヴォーカル、キーボード、ベースと１人３役をこなすからだろう。ヴォイオリンは、ベン・ミンク。この曲は、ストレートなロックン・ロールを基調とする軽快な曲。ヴァイオリンもスピードとテンポを崩すことはない。
�� Prologo / Quella Vecchia Locanda [ Quella Vecchia Locanda 1972 Itary ]
イタリアのヴァイオリン・ロックを代表するクエラ・ヴェッキア・ロカンダ。６人編成で、ドナルド・ラックスがヴァイオリン専任。このほか、ヴォーカリストはフルートも吹くし、キーボード奏者はメロトロンも弾く。メロトロン＋フルート＋ヴァイオリンの数少ないバンドの１つだ。これに加えて、乾いたジャジーなピアノも得意で、次々とめまぐるしく曲調が変転する。イタリア７０年代の「叙情的なクラシック・ロック」と称されて、８０年代日本で再発されるまでは、幻の名盤として扱われていた。
�� The distance / Asa De Luz [ The link 1999 Brazil ]
ブラジルのアサ・デ・ルズは、６人編成。ギルヘルム・フォンタンは、生とエレクトリックのヴァイオリンを弾く。男性ヴォーカルに続く女性ヴォーカルが夢見るようだ。そして、ブラジルらしい泣きのギターのソロ。それに続いてドラマチックなヴァイオリン。短いが泣きの極致である。
�� White bird / It's A Beautiful Day [ It's A Beautiful Day 1968 USA ]
アメリカ西海岸のイッツ・ア・ビューティフル・デイは、デヴィッドとリンダのラフレイム夫妻が中心のバンド。デヴィッド・ラフレイムがヴァイオリンを弾く。1960年代後半、アメリカ西海岸にフラワー・ムーヴメントが吹き荒れ、先進的なバンドが次々と誕生していた。エレクトリック・ヴァイオリンを使用した最初のバンドだと言われる。男女ヴォーカルに続く、後半のヴァイオリンがたおやかだ。
�� Kinetic / Lost World [ Awakening of the elements 2006 Russia ]
ロシアのロスト・ワールドは、３人編成だが、いずれもマルチ奏者らしくて、様々な楽器をこなす。モスクワの音楽院で、クラシック界に行くべき人たちだったらしい。このため、ともかく楽器演奏が抜群にうまくて技巧的。ヴァイオリンのアンドリー・ディドレンコは、ギターも弾く。スリリングなスピードを落とすことなく、優雅なヴァイオリンの調べが展開する様は、曲芸のようだ。
�� Flying denture / Midas [ Midas �� 1996 Japan ]
ミダスは、４人編成の日本のバンド。ウトウ・エイジ氏が５弦エレクトリック・ヴァイオリン、ヴォーカル、ギターを担当する。英語の曲と日本語の曲があるが、私は英語の曲の方が好きなので、この曲を選出した。ヴァイオリンが弾きまくりで、扇情的だ。
[次点] Asas / Sagrado Coracao Da Terra [ Sagrado Coracao Da Terra 1988 Brazil ]
サグラド・コラソン・ダ・テラは、ブラジルを代表するバンド。その代表的なアルバムなのだが、楽器クレジットの欄にメンバーはなんと１４人も書いてある。しかもフルート奏者だけで２名もいる。ポルトガル語なのでなんだかわからない楽器奏者も２人いる。別のアルバムを見ると、曲ごとに演奏メンバーが書いてある。有名なバンドではあるが、プロジェクトなのだろうか。この曲は、男女ヴォーカルのバックにヴァイオリン。今回の１０選では、男女ヴォーカルのバンドが多いのが不思議。
[番外] Free folk / Zao [ Kawana 1976 France ]
ジャズ・ロックから番外で１つ。フランスのザオは、マグマから分派したサックス奏者ヨシコ・シェファーが作ったバンド。マグマでヴァイオリンを弾いていたディディエ・ロックウッドが参加した。マグマよりもジャズ・ロック寄りであり、スリリングでわかりやすいサウンドとなった。マグマのライブでは、生ヴァイオリンを弾いていたロックウッドは、ここではエレクトリック・ヴァイオリンを弾いている。危機感に満ちていて、鬼気迫るサウンドだ。
○メロトロン＋フルート＋ヴァイオリンの曲１０選（２０１２年２月２６日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1825342973&owner_id=9666295
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