９億年前、地球が雪玉のように全球凍結し、生物が絶滅寸前だったとき、わずかな生物が生き延びたのは、温泉のようなホットスポットの中だった。
１９８０年代、地球規模でプログレが絶滅の危機に瀕したとき、日本は、ホットスポットだった。キングレコードのたかみひろし氏を中心として、小さなムーブメントが起こっていたのだ。そして、世界のプログレ市場の７割を日本のファンが支えていたのだと言う。
日本プログレのテーマには、少女マンガ的な幻想があった。１９８６年にテレビゲーム「ドラゴンクエスト」が発売される以前は、欧州ファンタジーと言えば、日本では少女マンガにしか存在しなかったからだ。
・ 曲 バンド アルバム
� 〔ハ之燹織離凜Д� [魅惑劇 1980]
ノヴェラは、６人編成。関西の人気バンド、山水館とシェラザードが合体して誕生したため、技術もルックスも選りすぐりのメンバー。ヴォーカルの五十嵐勝久は、奇矯なほどのハイトーン・ヴォイス。少女のスキャットに続いてメロトロンの轟音で始まるこの曲は、８０年代プログレの開始を告げる。ヴォーカルはもちろん、ジャケットの絵画、メンバーのファッションも耽美的に統一されていた。間奏では、生ギター、ビブラフォンの演奏が意外なほどにアコースティックだ。冒頭の声は、近くを歩いていた少女をスタジオに連れ込んで歌ってもらったのだという。
�� エピローグ／ページェント [螺鈿幻想 1985]
ページェントは５人編成で、ギターの中島一晃が中心人物だが、キーボードの永井博子のヴォーカルが迫力満点。永井の描く歌詞も怪奇な感覚で、夜の幻想を熱唱する。フルートで始まり、メロトロンが背景を覆い、それに女声スキャットが絡んで刺激的だ。加えて、間奏でのギターが徹底的に泣きまくり、感動的だ。シンフォニック・ロックの王道を行く名曲。ジャケットは、背中に羽のある少女。
�� 警告／美狂乱 [ 美狂乱 1982 ]
美狂乱は、静岡のバンド。ギターの須磨邦雄を中心とする３人編成だが、ゲストにヴァイオリン、リコーダー、キーボードの３人を迎えている。優雅なヴァイオリンで開始するこの曲は、少し脆弱だがメロディアスなヴォーカルによって、静寂に展開する。しかし、７分過ぎからキング・クリムゾン風の暴力的なサウンドに変化する。須磨は、ロバート・フリップのギター奏法を意識的に再現した。ジェケットは、般若の面。伝統日本的であって、少女マンガ的ではない。
�� 月の舞／夢幻 [ Sinfonia della luna 1984 ]
夢幻は、林克彦を中心とする４人編成。林の奏でるメロトロンがサウンドの核を成している。生ギターとともに細い声のヴォーカルが、「ジプシー・クイーン、魅惑の夜、踊り狂う月の舞」と、幻想を振り撒く。続くメロトロンの洪水がすごい。楽曲が非常にクラシカルなのは、林の嗜好と技術によるものだろう。そして、バンド名のとおり、最初から最後まで夢幻的で非日常的な空間を描いている。ジャケットは、竪琴を弾く乙女。
�� Marionette's lament / Outer Limits [ The scene of Pale Blue (ペール・ブルーの情景） 1987 ]
アウター・リミッツは、英語で歌う６人編成。キーボードが塚本周成、ヴァイオリンが川口貴。この曲は、ヴァイオリン弾きまくりが印象的で、疾走感がある。男性ダブル・ヴォーカルで、２人めに登場するヴォーカリストは、ハイトーンの少年声。この曲のようなスピーディな曲もあれば、男女合唱を入れた重厚でシンフォニックな曲もある。ジャケットは、妖精と少女。
�� 月に吠える／フロマージュ [ 月に吠える 1984 ]
フロマージュは、京都のバンド。基本編成は５人。ヴォーカルとフルートの東沢学が中心人物。フルートが特徴的だが、間奏の泣きギターもプログレの基本に忠実。「セレーヌ、お前は祈り。水のように燃える」と、幻想的だが、哀切なラブソングなのだ。東沢のヴォーカルはナルシスティックで、その点も少女マンガ的。ジャケットは精霊の老人と妖精の少女。
�� 心の壁（弱き者）／ジェラルド [ Empty lie, empty dream（虚栄の城） 1985 ]
ジェラルドは、キーボードの永川敏郎がノヴェラ在籍中に作ったバンド。やがてノヴェラを脱退して、パーマネントなバンドになり、現在も日本プログレ界の帝王として君臨している。このアルバムの編成は４人とゲスト１人。さすがにメロトロンを含むキーボードが空間を覆っている。日本語のヴォーカルに続く、多様なキーボードの洪水が快感。ジャケットは、水に浮かぶ乙女の死体。
�� A story of mysterious forest （組曲：妖精の森）/ Ain Soph [ A story of mysterious forest （妖精の森） 1980]
アイン・ソフは、山本要三をギターとする４人編成のインストルメンタル・バンド。ヴォーカルなしだが、安易なフュージョン的な展開をせず、きっちりと構築したファンタジーを見せてくれる。キーボードが多彩。ジャズ・ロック的なところもあるが、途中９分過ぎからのメロトロンの洪水と泣きギターがクライマックス。奥深い森の物語を紡ぎだす。ジャケットは、象徴派絵画の女王。
�� ホンタイジーテレフォン猟奇譚／カトラ・トゥラーナ[カトラ・トゥラーナ 1982]
カトラ・トラ―ナは、ヴォーカルの広池敦とベースの斎藤千尋を中心とする６人組で、ヴォイオリン専属とフルート専属のメンバーがいる。加えて、ゲストが６人。チェロ、トランペット、クラリネット、オーボエ、ファゴット、ホルンと、まるで室内楽だ。アヴァンギャルドであり、チェンバー・ロックの元祖の一つと言えるだろう。ヴォーカルは女性的な美貌をしていて、女装。シャンソンを基礎としていると思われるが、猟奇的な歌い方であり、男声、女声、効果音の声を１人で出す。
�� Go on / Black Page [ Open the next page 1986 ]
ブラック・ペイジは、４人編成で、キーボード、ヴォーカル担当とギター担当の２人が小川兄弟。スピーディなロックと英語のヴォーカルは、ブリティッシュな感覚であり、ＵＫを思い出させる。ヴォーカルもちょっとジョン・ウェットンと似たところがあるかも。ジャケットは、月を抱く男。
[次点] Deja Vu / Deja Vu [ Baroque in the future 1988 ]
デジャ・ヴュは、４人組でキーボードの桜庭統を中心とする。この人は、後にゲーム音楽で有名になる人だ。ファンタジーという１本の糸に導かれて、少女マンガからプログレが生まれ、プログレからゲーム音楽が生まれて行った。これが日本の現代文化の１つの系譜なのだ。この曲は、ライブから収録されたものだが、力強い男性ヴォーカルが歌い上げられる中で、キーボードが幅広い奔流を生みだしていく。ジャケットは、神殿と卵の中の炎。
○その他候補にしたバンド
Mr. Sirius, Negasphere, Sagittarian, Sense Of Wonder, Starless, Teru's Symphonia, Vienna
○プログレ／７０年代日本の黎明の曲１０選（２０１４年５月１１日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1926311155&owner_id=9666295
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