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2015年01月19日03:16

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メイド斡旋所の風景


 シンガポールの東部に加東(カトン)という住宅街がある。この一角の大衆的なショッピングセンターで、私は異様な光景を見た。

この建物には家政婦(メイド)の斡旋所が多いのだが、斡旋所の壁際に赤いエプロンと制服を着たメイドたちがずらりと座って、客を待っているのだ。

彼らはフィリピンやミヤンマー、マレーシア、インドなどから出稼ぎに来ている女性たちだ。背が低く痩せているので、子どものように見えるメイドもいる。まるでメイドたちが陳列されているかのような印象を与える。

 これらの斡旋所の中には、ショーウインドーに「メイドを至急お届けします」とか「メイド1人あたりの料金は1シンガポール・ドル」という看板を出している店もあった。これらの斡旋所がインターネットに公開している検索ポータルに条件を入力すれば、好みのメイドを瞬時に見つけることができる。

サイトにはメイドの顔写真と年齢も掲載されている。私は人身売買を連想した。ある外国のテレビ局が「メイドが商品のように扱われている」と今年夏に報じたために、シンガポール労働省は斡旋所に書簡を送って「非人間的な看板を使わず、メイドを人間らしく扱うように」と要請した。

 私はシンガポールで働いている知人の家で、メイドが以前住んでいた部屋を見た。彼はメイドを使っていないが、以前ここに住んでいたインド人の家族は、物置のような小部屋に2人のメイドを住ませていた。それは、ベランダに付け足したような部屋で、クーラーがない。

しかもメイドたちは狭いトイレに付けられたシャワーで身体を洗わなくてはならなかった。窓がない部屋に住まわされるメイドもいるという。湿度が高く、気温が35度になることもあるシンガポールで、窓も冷房もない小部屋に住むメイドたち。

彼らは仕事があるだけ幸せなのかもしれない。だがドイツでは家政婦をこのような狭い部屋に住まわせることは、法律で禁止されている。

 かつてアジアに植民地を持っていた西欧諸国は、現地の使用人をこのように扱っていたのだろうか。

そうした伝統が、現代のアジアに受け継がれている。シンガポールの摩天楼やブティック街、常夏の太陽とは対照的な、寒々とした光景だった。

(文と絵・ミュンヘン在住 熊谷 徹)

筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

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