滋賀県在住のヒサ（S.O.W.さん）をリーダーとするアクセプト(Ａｃｃｅｐｔ）の第4作「パーペチュアル・フロー（Perpetual flow)」が、いよいよ配信開始となった。発売は、6月20日頃からだという。
本作は、Hisa(vo,b,k), Taiki(consepts), Issey(g),Daik(d,per)の4人編成。陰影のある英国的メロディーの洪水によって、叙情美と幻想美をみごとに歌い上げたシンフォニック・ロックの傑作だ。
あくまでもメロディーを重視しながら、ヴィンテージのデジタル・シンセを用い、録音もアナログ機材にこだわって、ハード・ロックや電子音響までも含んだ豊かな地平を切り開く。
透明感のあるヴォーカルは、流れるように自然な英語で歌う。ちなみに私は、曲を選んで並べただけなのだが、プロデュースの欄にkaijakuと標記されており、非常に恐縮している。
埋もれた才能であるアクセプトの音楽が、多くの人々に届くことを願っている。
http://monstar.fm/acceptsilvermoon （試聴もできる）
�� Perpetual dance
キング・クリムゾンの「エピタフ」と「ポセイドンのめざめ」が対であるように、アクセプトのファースト・アルバムの「永遠の少年」とこの曲「パーペチュアル・ダンス」は、対を成している。轟音から始まるキーボードの奔流に乗せて、ピアノ、フルート音に続く重いドラムスというように、我々が聴きたいとおりの様式美が次々と展開する。その中で、永遠に少年にとどまっていることの悲哀と夢幻が、ヴォーカル・メロディーの切ない美しさとなって押し寄せる。ドラマチックなシンフォの名曲だ。
�� Bridge ( War song )
蝉の鳴き声、電話のダイヤル、笑い声、飛行機、爆撃音。ミュージック・コンクレートで始まるこの曲は、戦争をテーマにした急迫感の強いサウンド。危機を告げながらもあくまでもヴォーカルやコーラスは、メロディアスだ。そして、爆撃音とともに流れるケチャや赤ん坊の笑い声が、土俗的なものと機械的なものとの文明の対立を暗示している。映像的・視覚的な音楽であり、映画のような臨場感がある。
�� To the self
若々しくて、思いを込めたヴォーカルが泣き叫ぶ。しかしそれは、透明感を決して失わないブリティッシュなものだ。ブルースっぽくなったり、カンツォーネっぽくなったりすることはない。タイトなリズム隊に乗せて、泣きの極致のヴォーカルと泣きの極致のギターが叙情的に胸に迫る。くっきりとした夏の日差しとは対照的に、翳りは深い。
�� Hold on to your love
キーボードでドラマチックに幕を開ける甘美なラブ・ソング。星くずのようなキーボードの煌めきが、夏の終わりの黄昏のように、郷愁をかきたてる。ヴォーカルが優しくて、そしてどこかもの悲しい。メロディーのセンスというのは、訓練によって向上するものではないと言うが、この曲でも、ヒサのメロディー・メイカーとしての才能が全開だ。
�� Flashback
シリアスで現代音楽のようなインストルメンタル曲。電子音響が、歪んだ空間を描き出す。しかし、心臓の鼓動のようなドラムスが、あくまでもロックのフィールドであることを主張している。初期ドイツ・ロックのようなアヴァンギャルド。こういった作風も、アクセプトのサウンドの中で共存している。やがてドラムスの激しい爆音が、内なる旅の終わりを告げる。
�� Don't cry anymore
軽快なテンポに思いをたっぷり込めたヴォーカルが歌う。ヴォーカルの表現力が実に豊かで、ここでは男性的に力強い。それでいて透明でブリティッシュな感性を忘れない。サポートするベースも力強い。それに加えて、珍しくブラス音がかぶさって来て、印象的。愁いを秘めていて、イメージされる季節は秋だ。
�� When the night comes
和太鼓と笛の音で雅楽風のオープニング。エスニック用のキーボードを使っているという。暮れなずむ街角が浮かび上がる。ヴォーカルも低く這うように、夜の訪れを告げている。間奏でのキーボードは、這い寄る闇のように流れ込んでくる。ガムランの音響も取り入れているが、しつこいものではなくて、基本はあくまでブリティッシュ。
�� As time goes by
静かなピアノとハイトーンのヴォーカルが、秘めやかな晩秋を思わせる。我々はどこから来て、どこへ行くのだろう。そんなことを考えさせる郷愁に満ちたメロディーだ。やがてサウンドは、無調的に変転して行き、冬に向かう森の精霊たちが啼き交わす。凍てついた空間に透徹したギター。風の音とともに始まった冒険が、ギターによって幻想的な旅へと連なって行く。アクセプトの汎音楽的な多様性を1曲の中にみごとに表現しているが、最後は地上に戻ってきて、再び美しいヴォーカルとなる。
�� Snowflake
ヴァンゲリス風のインストルメンタル曲。この曲だけは、キーボード奏者ヒサの独奏によるものだろう。キーボードの澄み渡った短い音響によって、雪の片を表現する。ひらひらと舞う雪は、静かで暖かい。後半、リズムが転換して幾つものメロディーが重なると、純白の雪たちは少しずつ溶けて行く。
�� Beyond that hill
丘の上に立って、春の未来を遥かに見晴らす。最初はアコースティックに始まって、バークレイ・ジェームズ・ハーヴェストの「讃美歌」のように、だんだんとキーボードが重層的に重ねられていく。自然の描写の中から、心情が生まれて、明るい希望へとつながって行く。叙景と叙情が一体となる。ヒサが歌うのは、生命の讃歌なのだ。透明で、清澄で、希望に満ちていて、そしてやがて訪れるクライマックスでは、救済と天上的な光の渦が私たちを取り巻いていく。私たちは、存在することを許されている。感動のあまり、声を出すこともできない。
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