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2008年07月03日21:56

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にれのや式に解説する 『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』。

ドア あめぶろどあ↓
http://ameblo.jp/nirenoya/entry-10112500083.html






〓『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』 を見てきました。

   “Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”

ですね。いかにもデッチアゲっぽい邦題も、実は、原題のママなのでした。

〓日本では 「インディ・ジョーンズ」 で通ってますけど、

   Indiana Jones [ ˌ ɪndi ˈ ænə ˌ ʤoʊnz ] [ , インディ ' アナ , ヂョウンズ ]
       インディアナ・ジョーンズ

が正当ですよね。アッシは、なぜか、「インディアナ・ジョーンズ」 と言うクセがあって、昔、ものすごくコケにされたことがありまして…… それをネにもってコーデーしておるわけです。
〓本名は、

   Henry Walton Jones, Jr. [ ' ヘヌリィ ' ウォるトゥヌ ' ヂョウンズ , ヂュニヤ ]

です。先だって亡くなった米国のSF的作家 カート・ヴォネガットも

   Kurt Vonnegut, Jr. 「カート・ヴォネガット・ジュニア」

でした。
〓基本的なことですけど、父親と子どものフルネームが 「そっくり同じ場合」、これを呼び分けるために、父親に Sr. (シニア Senior)、息子に Jr. (ジュニア Junior) をつけます。
〓あるいは、ファーストネーム+ファミリーネームが同じになる場合にも使う例が見られます。

〓三代以上、まるっきり同じ名前が続く場合は、III (the Third)、IV (the Fourth) となります。米国の黒人歌手、アッシャーの本名は、

   Usher Raymond IV 「アッシャー・レイモンド4世」

です。彼の家系では、代々、Usher という変わった名前が受け継がれてきているんですね。

〓「ルイ14世」 Louis XIV (de France) のごとき、ヨーロッパの王族・貴族などの代数表記がその起源と言えますが、これは、

   個人を特定する名前が、過去の人物と同一である場合に付けられるもの

なのです。だから、

   山田ルイ53世

という名乗りは不合理ではありません。フランス貴族の de France などは、以前にも書いたように、「領地を示す称号」 で、のちに 「姓」 に転じます。なので、

   山の中の田んぼに領地を持つ、数えて53代目のルイ

であれば、「山田ルイ53世」 で、いっこうにかまわない。ただ、大貴族というより、田舎の地主という感じですが。

〓逆にオカシイのが、

   ルパン三世

なんですね。つまり、Lupin [ りゅ ' パん ] というのはフランス語の姓であり、「個人を特定する名前」 ではありません。だから、これに III (the Third) を付けては理屈に合わないのです。
〓“ルパン三世” が、海外で、

   Arsène Lupin III

と書かれるのは、ヨーロッパ系の文化を受け継いだ社会では、

   III が付くなら、姓も名も同じなのが常識

だからです。


〓ハナシを戻しますぜ。
〓ジョージ・ルーカスの本名は、

   George Walton Lucas, Jr.

です。インディアナ・ジョーンズは、

   Henry Walton Jones, Jr.

でしたね。
〓インディアナ・ジョーンズは、子どものころ Junior と呼ばれるのがイヤで、飼い犬の名前である Indiana を名乗りました。この Indiana というのは、ジョージ・ルーカスが実生活で飼っていた犬の名前でもありました。

   「Junior と呼ばれるのがイヤだった」 というのはジョージ・ルーカス自身の経験

だったかもしれません。
〓 Indiana というのはラテン語で “インド人 (インディアン) の土地” という意味です。terra [ ' テッラ ] 「土地」 が女性名詞なので、ラテン語では地名に 「形容詞の女性形」 を使っていました。それが、現代ヨーロッパのほとんどの言語の慣用になっています。
〓ジョージ・ルーカスの飼っていた 「インディアナ」 は、“チューバッカ” のモデルにもなったそうです。


〓ところで、Indy という略称は、Indiana を縮めたものですね。なぜ、縮めるか、と言えば、

   名前が長いと呼ぶのにメンドウだから

です。つまり、日本では当たり前の

   Indy Jones 「インディ・ジョーンズ」 という呼び方はオカシイ

のです。つまり、

   Indiana Jones 「フルネーム」
     ↑
     ↓
   Indy 「略称」 (愛称)

ということでしょ? 実際、映画の中で、“Indy Jones” という言い方は使われていないハズです。
〓米国・英語限定で Google 検索してみましょうか。

   Indy Jones               327,000件
   Indiana Jones             2,680,000件
   ――――――――――――――――――――
   Indy "Indiana Jones" ―"Indy Jones"  1,290,000件

〓どうでしょう。米国でも “Indy Jones” と呼ぶ例は多いようですが、1ケタ少ない。日本語で言えば、「清水ミチコ」 さんを

   清水ミッちゃん

と呼ぶようなものです。ありえなくはないが、若干ヘンでしょ。


〓と、なんか、ものすごく遠回りしてきましたが、ケイト・ブランシェットの 「イリーナ・スパルコ」 について書きたかったのです。あのね、

   アッシは、パンフレットを読むまで、ロシア人による吹き替え

だと思ってたんです。ところが、事実は、彼女じしんがセリフをしゃべっているんです。

〓もともと、ロシア語のセリフはそんなに長くないです。それでも、母音がハッキリしていて、アクセントのある母音が強く、長く響くロシア語の特徴がよく出ていました。
〓それと、ロシア人のロシア語もなかなかでした。ロシア人のロシア語の特徴は、ナンと言っても、

   巻き舌の R

です。これをやらないロシア人は、あまりいないでしょう。英語の r は、巻き舌の R でも通じるので、直す必要を感じないんだと思います。

〓だいたい、ソ連邦が消滅する以前の 1980年代までは、普通のロシア人で英語が理解できるヒトはほとんどいませんでした。政治的にも、経済的にも、海外旅行をするのがむずかしかったソビエト市民にとって、英語ができたところで 「それがナンになる?」 みたいなところがあったハズです。
〓それと、英語の [ w ] を [ v ] にしてしまうのもロシア語話者の特徴のひとつです。

   vonce [ ' ヴァンス ] ← once
   vont [ ' ヴォント ] ← want

〓ところが、語末の [ v ] となると、今度は、無声化して [ f ] にしてしまいます。

   haf [ ' ハフ ] ← have


〓ところがところが、ウクライナ人の場合は、事情がちがいます。ウクライナ語は、ロシア語と違って、“語末の子音が無声化する” という現象を発達させなかったので、ウクライナ語話者は、語末の [ v ] を [ ʋ ] と発音します。

   [ ʋ ]

〓これは、[ v ] の閉鎖がゆるんだ子音です。日本人が、英語を学ぶときに、[ f ]、[ v ] の音を 「前歯を、下くちびるに付けて発音しなさい」 と言われますが、この発音の

   前歯が、下くちびるから離れてしまった音が [ ʋ ]

です。聴覚的には、[ v ] と [ w ] の中間のような音。この子音を持つ有名な言語はオランダ語で、w の字で記されるのが [ ʋ ] です。ちなみに v で記されるのが [ v ] なので、たとえば、ゴッホの名前を日本人が正確に発音しようとするなら、相当に、こんがらがります。

   Vincent Willem Van Gogh [ ' vɪnsɛnt ' ʋɪləm vɑn ' ɣɔx ]
      [ ' ヴィンセント ' ウィらム ヴァン ' ごふ ]
      ※現代アムステルダム音では、[ v ] は無声化して、[ f ] に近く響き、
       また、[ ɣ ] も無声化して [ x ] に近いらしい。
      ※しかし、v ― w ― f、g [ ɣ ] ― ch [ x ] は音素として区別されている
       ようなので、v が f とまったく同じ音になった、というようなことではないらしい。

〓困ったもんですが、英語のように [ w ] と [ v ] を区別する言語はあっても、[ ʋ ] と [ w ] を区別する言語はないようなので、[ ʋ ] は [ w ] だと覚えたほうが得策かもしれません。

〓で、ウクライナ人が、ロシア語を話すと、語末の -в -v が [ ʋ ] になるワケです。また、少し専門的になりますが、「子音の前にある в」 も [ ʋ ] になります。

   все [ ' ʋsɛ ] [ ウ ' セー ] ロシア人なら [ ' fsʲe ] [ フ ' シェー ]
   вовк [ ' vɔʋk ] [ ' ヴォウク ] ロシア人なら [ ' vofk ] [ ' ヴォーフク ]


――――――――――――――――――――
Indiana Jones: You're not from around here, are you?
インディ・ジョーンズ 「アンタァ、ここらのニンゲンじゃないね?」

Irina Spalko: Where is it you imagine I am from... Doctor Jones.
イリーナ・スパルコ 「じゃあ、どこだと思うの? ドクター・ジョーンズ」

Indiana Jones: Well the way you're sinkin' your teeth into those v-ouble-u's, I should think Eastern Ukraine.
インディ・ジョーンズ 「ダブリューのときの歯と唇のぐあいから言うと、そうだな、東ウクライナだと思うが」
――――――――――――――――――――


〓これは、冒頭の米軍の倉庫での会話ですね。これは、インディがウクライナ人の発音のクセを知っていて、イリーナ・スパルコの出身地を言い当てる、という凝った設定なのです。つまり、イリーナ・スパルコが、英語の w [ w ] を [ ʋ ] で発音している、ということを言っているんでしょう。
〓「東ウクライナ」 というのは、コサックの揺籃 (ようらん) の地です。ウクライナ東部は、土地が肥えているにもかかわらず、古い時代に、チュルク人がこのあたりを蹂躙 (じゅうりん) し、略奪や奴隷狩りをおこなったために、一時、無人の地だったことがあります。
〓のちに、

   チュルク人に対抗できるだけの自衛力を備えた “逃亡農民” が住み着く

ようになりましたが、この人たちが 「コサック」 となります。
〓ウクライナは、ポーランド領だったとは言え、コサックが隆盛をきわめた時代、東ウクライナにはポーランドの支配は及ばず、実質的な独立地帯でした。
〓このような歴史から、東ウクライナには、民族そのものが勇猛果敢な戦闘集団であるという、独特の 「コサック」 というエスニシティが生まれました。
〓こうした東ウクライナのコサックの代表的集団が 「ザポロージエ・コサック」 です。

   запорожские казаки  zaporózhskije kazakí
      [ ザパ ' ローしスキイェ カザ ' キー ] ザポロージエ・コサック

〓「ザポロージエ」 というのは、

   за- za- [ ザ〜 ] 接頭辞。「〜の向こうの」
    +
   порог porog [ パ ' ローク ] 「川瀬、早瀬」
    +
   -ье -'je [ 〜イエ ] 接尾辞。「〜の地域」
    ↓
   запорожье zaporózhje [ ザパ ' ローじイェ ] 「早瀬の向こうの地域」

〓“早瀬” というのは、ドニエプル川の早瀬のことで、ドニエプル川の向こうにはポーランドの実権が及ばなかったことを示しています。



つづく↓
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=858139703&owner_id=809109
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