「あめぶろどあ〜♪」
http://ameblo.jp/nirenoya/entry-10109499760.html
〓今、流れておる “サントリーフーズ” の 「なっちゃん」 のCMでげす。
〓ちょっとオッと思いましたね。筒井康隆 (つつい やすたか) ですもん。1990年代から2000年までのあいだに5本ほどのCMに出てはります。
〓21世紀になってからは出てはらしませんでした。今回は8年ぶりです。それも、堀北真希 (ほりきた まき) さんと共演ですから。ミョウな組み合わせですよね。
※「筒井康隆」 を知らない世代、「堀北真希」 さんを知らない世代、
両方のためにフリガナをつけております。
〓このCMの
筒井康隆さんの発音に “違和感” を覚えたヒト
いませんか。東京人で気がついたヒトがいたなら、あなたは耳がいいです。
〓筒井さんのセリフは 「なっちゃん、おひとついかがかな」 というものです。問題は、
“おひとつ”
のところなのね。
〓筒井康隆さんは、大阪生まれの大阪育ち。じゃあ、アクセントが違うのか。うんにゃうんにゃ。
“おひとつ” [ 低 - 高 - 高 - 高 ]
〓オカシクありません。東京方言の型で発音しています。ほな、どこがちがうん?
オヒトツ [ oç:tots: ] 東京方言話者の発音
オヒトツ [ oçitotsu ] 大阪方言話者の発音
〓「?」 というヒトがほとんどですね。
〓標準語として東京のテレビ、ラジオで聴かれる日本語では、多くの場合、東京方言の発音が使われています。この東京方言の特徴のひとつとして、
母音の無声化 (むせいか)
というものがあります。
〓「母音の無声化」 というのは、イ段 (イキシチニ……) やウ段 (ウクスツヌ……) の音節の母音 [ i ]、[ ɯ ] (東京方言の “ウ” をあらわす発音記号) が “声帯の震え” をともなわずに発音されたり、完全に脱落することを言います。
〓たとえば、
【 イ段の無声化 】
キク (菊) [ kʰi̥kɯ ] [ 低-高 ]
サキ (女子名) [ sakʰi̥ ] [ 高-低 ]
【 ウ段の無声化 】
クシ (櫛) [ kʰɯ̥ɕi ] [ 低-高 ]
クク (九九) [ kʰɯkʰɯ̥ ] [ 高-低 ]
※日本語の 「シャシシュシェショ」 の子音は [ ∫ ] ではなく [ ɕ ]。
中国語の x、ポーランド語の ś と同じ音で、英語などの [ ∫ ] より鋭く、
浅い子音で、舌が伏せたスプーンのように盛り上がるのが特徴です。
※英語などの [ ∫ ] 音は、舌が盛り上がらず、舌と口蓋 (口の中の天井)
との間に空間ができます。ここで少々こもった音がつくられます。
といった感じですね。[ i̥ ]、[ ɯ̥ ] というのが無声化した母音です。母音字の下に [ ̥ ] を付けて示します。
〓カ行音の場合、無声化には 「気息化」 (きそくか) がともなうようです。「気息」 というのは、中国語や朝鮮・韓国語などの 「有気音、帯気音」 にともなう “激しい息” のことです。
〓「気息」 は、日本語でも、「しゃべり始め」 とか、「強調する場合」、あるいは、個人差などでしばしば現れます。日本語では、「有気音/無気音」 のちがいが意味を持たないので、日本語を母語とする者は、気息の有無を気にしません。
※逆に言うと、「気息の有無」 を感知する習慣がないので、中国語や
朝鮮・韓国語をマスターするのに苦労するわけです。
〓英語でも、主に語頭で [ p ]、[ t ]、[ k ] などの閉鎖音が激しい気息をともないます。
time [ ' tʰaɪm ] 「時間」
〓「気息」 が意味を持たないのは、英語でも同じです。
〓こうした閉鎖子音は、語中では 「無気音」 となり、t の場合などは、流音 [ ɾ ] にさえなります。
water [ ' wɔɾɚ ] [ ' ウォラァ ] <米音> 「水」
〓無声化が起こるのは、ナニも母音に限ったことではないし、日本語に限ったことでもありません。
Jones [ ' ʤoʊnz̥ ] [ ' ヂョウンス ] 「ジョーンズ」。英語の姓
〓東京方言の無声化は、単に母音が無声化するだけでなく、母音が脱落し、先行する子音が代償として延長する例も多く見られます。
【 イ段の脱落 】
スシ (鮨) [ sɯɕ: ] ※アクセントが [ 高-低 ] の場合
チリ (塵) [ tɕ:ɾi ]
ミチ (未知) [ mitɕ: ]
ヒト (人) [ ç:to ]
【 ウ段の脱落 】
フシ (節) [ ɸ:ɕi ]
スシ (鮨) [ s:ɕi ] ※アクセントが [ 低-高 ] の場合
ミス [ mis: ]
ツキ (月) [ ts:ki ]
〜デス [ -des:: ]
※ [ ç ] は日本語の 「ヒャヒヒュヒェヒョ」 の子音。スペイン語の
ji 「ヒ」、ドイツ語の ich 「イッヒ」 の 「ヒ」、ロシア語の хи 「ヒ」
と同じ音。英語でも hue などは [ çju: ] と発音される。英和辞典で
[ hju: ] と書いているのは 「音韻表記」 (音の解釈) というもの。
※ また、露和辞典で、хи の音を [ xʲi ] とか [ ᶍi ] とか書いていれば、
これも 「音韻表記」 で、物理音は [ çi ]。
〓「〜です」 の語末の [ s ] はとりわけ鋭く長く続くことが多いです。
〓上の 「スシ」 (鮨、寿司) の例でわかるように、無声化しやすい音節が連続して現れる場合、アクセントが 「低」 の音節で無声化が起こります。むずかしい言い方をすると、
「アクセント核」 のある音節では無声化が起こりにくい
のです。
〓「スシ」 という単語は、標準語でも2通りのアクセントがあり、そのため、無声化の型も2通りあります。
〓どうです。東京人でも、自分では気づいていなかったヒトが多いんじゃござんせんか。ヒドイ例になると、
歴史的 [ ɾ̥kʲʰɕ:tekʲʰ: ] [ 低-高-高-高-高 ]
※ [ ɾ̥ ] は “無声化した” R音をあらわします。
[ kʲʰ ] は “イ” が発音されない、激しい気息をともなう K音です。
[ ɕ: ] は “イ” の代わりに長く発音される 「シの子音」。
※これは、いわゆる、「アクセント核のない」 単語です。
のような例もあります。母音が発音されているのは 「テ」 だけです。まず、「レ」 は [ e ] が脱落し、さらに r 音で声帯が振動せず 「無声化」 しています。そのあとの 「キシ」 はいずれも無声化し、「テ」 でやっと声帯が振動します。しかし、そのあとの 「キ」 では、また無声化が起こります。
〓まあ、そんなこんなで、東京人は、通常、「おひとつ」 を
オヒトツ [ oç:tots: ] [ 低-高-高-高 ] ※アクセント核なし
と発音します。
〓ところが、大阪方言を含む関西方言では、この 「母音の無声化」 がほとんど起こりません。筒井康隆さんは、大阪生まれ、大阪育ち。つまり、筒井さんが東京式アクセントで話しているときでも、「母音の無声化」 という点では、大阪式に発音しているのだということです。
〓ですから、
オヒトツ [ oçitotsu ]
となるのです。
〓これが、大阪弁を話しているのであれば、「母音の無声化」 が起こっていようといまいと気にならないわけですが、東京式のアクセントで、「オ “ヒ” ト “ツ”」 と発音しているとなると、東京人には、ナンかヘンだぞ、という感じがするんですね。
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