10代というのは、不安と無能感・自己卑下、希望と万能感が交錯して、感受性が極端に鋭敏にまで研ぎ澄まされる時期である。そういう時期だからこそ、10代が創造した音楽は、時に前例のないほどに優れたものになる。「10代であるにもかかわらず天才的」なのではない。「10代だからこそ天才的」なのだ。
・ 曲 ミュージシャン アルバム
�� Whatevershebringswesing /Kevin Ayers ( Mike Oldfield )[ Whatevershebringswesing 1972 UK ]
マイク・オールドフィールドは、15歳でサリアンジーに参加し、ケヴィン・エヤーズのホールワールドに参加したのが17歳。本作の時点で19歳である。今年2023年は「チューブラー・ベルズ」から50周年になるのだというが、半世紀以上にわたって衰えることなく天才性を発揮し続けていられるのはすごい。ケヴィン・エヤーズは初めて会ったとき「自分よりギターが上手い」と見抜いたのだと言うが、この曲でのマイクのギター間奏はロック史上他に聴いたことのない美しいもので、まるで１つ１つの音色が宝石となって空間に飛び散っていくようだ。歌詞はケヴィン流の優しいラブソング。「悲しいなんて馬鹿げてると君は言うけど、僕ははらぺこで、君といえばよく食べてふっくらしたレディ。ワインを飲んで楽しい時間を過ごそう」
�� Euterpe / Cervello [ Melos 1973 Italy ]
イタリアを代表する神話と混沌に満ちた1枚チェルベロの「メロス」を創り上げたのは、10代だったコンラッド・ルスティチだった。神話の女神をテーマに、曲はフルートに導かれて静かに始まり、神秘的なヴォーカルが出てくるが、それに続く爆発的なブラスと、まるで破滅的であるかのような超高速ギターは、狂気と眩暈が交錯する瞬間だ。この後、ルスティチは兄であるオザンナのダニロ・ルスティチとともにノヴァを結成。超絶技巧のスリリングさはノヴァでも健在だが、チェルベロの持つ神秘性は影を潜めている。
�� The barbarian / Emerson Lake & Palmer [ Emerson Lake & Palmer 1970 UK ]
エマーソン・レイク＆パーマーは、この曲「バーバリアン」をもって全世界に登場した。この年1970年、カール・パーマーは19歳。年上のキース・エマーソンやグレッグ・レイクは20代だった。ヘヴィなハード・ロックから始まり、ピアノによるバルトークのようにアグレッシブなソロ、そして再びヘヴィなロックへと、3人の若い力が緊迫感たっぷりにせめぎ合っている。後半でのパーマーのドラミングは、この曲の白眉であり、終盤では機関銃のように早くて正確・パワフルなドラミングを聴くことができる。
[追記]カール・パーマーは、1950年3月2日生まれとのことですので、1970年6月のＥＬＰ結成時には、20歳になったばかりでした。すみません。ちなみに、その前の年1969年にアトミック・ルースター、更にその前の1968年には、クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウンに参加していることもあり、10代の曲としての選曲はこのままとさせていただきます。
�� Il dono della vita / Latte E Miele [ Passio secundum mattheum(受難劇) 1972 Italy ]
「受難劇」を発表した時点のラッテ・エ・ミエレは3人とも10代だったというが、教会オルガンや男女混声合唱を配置した壮麗な音楽に仕上がっている。そのクライマックスである「カルバリオの丘」は最近10選で取り上げたので今回はアルバム・ラストのヴォーカル曲にした。清らかな生ギターとピアノに乗せたヴォーカルであり、当時の若い肉声を伝えるとともに、これに続く合唱がキリストの復活を告げる最終局面の大団円である。男女混声合唱によって聖堂内のような荘厳さ・神聖さを描き出している。
�� Kohntark / Magma [ Live 1975 France ]
1975年、絶好調だったマグマは、当時10代だった天才ヴァイオリニスト、ディディエ・ロックウッドの加入を得て、サウンドも大きくヴァイオリンを取り入れたものにした。ロックウッドはビジターズに参加したのが16歳だから、この年、17歳。本作は ライブ・アルバムであるにもかかわらず、マグマの最高傑作の１つとされているのは、空中を飛び回るカミソリのように鋭角的で危険なヴァイオリンによるところが大きい。男女の呪文による暗黒の儀式を切り裂いていくのは、ロックウッドの畏れを知らぬ攻撃的で戦闘的な音響であり、16分ある長い曲が一瞬も気を緩めることのできない緊張感に満ちたものになっている。特に後半8分過ぎからの鬼気迫る演奏は背筋が寒くなるほど凄絶であり、完全にステージの主役となっている。
�� A volte un instante di quiete / Locanda Delle Fate [ Forse le lucciole non si amano piu （妖精）1977 Italy ]
1977年に1枚だけアルバムを出して消えたロカンダ・デレ・ファーテの「妖精」は7人の技巧者が一糸乱れぬ完璧な演奏を見せるが、これはその一曲目のインストルメンタル曲。7人のうちキーボード奏者は17歳だったというから、おそらくピアノではなくて、幅広い空間を作っているキーボードの方だろう。タイトでスピーディーな演奏が、一転してゆったりとしたフルートとキーボードによって、紺碧に暮れなずんで行く浜辺の夢のような情景が描き出される。悲哀に満ちた本アルバムの中でも、安らぎと至福のひとときである。
�� Lady of Shalott / Atomsphera [ Lady of Shallot 1977 Israel ]
イスラエルのアトモスフェラは3人組で、このアルバムを制作した1970年代当時、メンバーは10代だったという。レコードが出せず本作はお蔵入りになり、 1990年代に至ってCDで発売されることとなった。若者らしいハイトーンのみずみずしいヴォーカルが優美なメロディーを歌い、キーボードの広がりも幻想的な雰囲気を醸し出す。16分以上にわたる堂々たるシンフォニック・ロックの曲であり、それを一挙に弾きまくる演奏力はなかなかのものだ。イエス・タイプのバンドの1つと言えるだろうが、曲によっては無調的な部分が続くアヴァンギャルドなものもある。
�� Gudrun / Pierrot Lunaire [ Gudrun 1974 Italy ]
イタリアのアヴァンギャルドなプログレッシヴ・ロックを代表するピエロ・リユネールの「グドルン」を創り出したとき、中心人物のアルテュール・スタテッリは、10代だったという。女性スキャットに次ぐのはリコーダー。そしてヴォーカル、ハープシコード、更にキーボード、子供の語り。クラシックと古代神話世界という2つのイタリアの伝統がみごとに昇華されて、変幻自在の自由なスタイルを創造した。もはやこれはロックという範疇では語りきれない音楽ではないだろうか 。「YS」・「 チェルベロ」と並んで語られるべき神話性を帯びたロック音楽の地平を切り開いた作品。
�� Uno zoo di vetro / Semiramis [ Dedicato a Frazz 1973 Italy ]
蒼ざめて病的な青年像をジャケットにしたセミラミスのサウンドは、ジャケットの印象通りに暗いものだ。リーダーのミケーレ・ザリッロは当時実に15歳。 不安な通底音を奏でるキーボードの上を、ソリッドでハードなギターが駆け回る。暗雲の立ち込めている空を背景に現れるやや上ずった感じのヴォーカルも、 憂鬱な情感をいっぱいに込めたものだ。途中かき鳴らされるシロフォンの音色も刺激的だ。
�� Tristan & Iseult / Skryvania [ Skrybania 1978 France ]
フランスのスクリバーニャが「トリスタンとイゾルデ」に挑戦したこの自主制作作品は、学園祭で一発録りされたものだったようだ。そのこと自体驚異とも言える演奏力だが、サウンドがまた実に複雑で緩急自在。演奏のスピード感はイエス的で、ヴォーカルの演劇性はジェネシス的だ。ファズで潰れたギターも月並みでないが、駆け回る粘着的なキーボードの技巧は特筆に値する。
[次点] London is behind me / Justin Hayward [ The Moody Blues 2006 UK ]
ムーディ・ブルースのジャスティン・ヘイワードの1965年、19歳のときの作品である。2006年に出たムーディ・ブルースのDVD・CD3枚組セットのCDの方 に収録。1960年代当時はビート・ポップの全盛期だったので、この曲も軽快でノリノリなポップ・ソングだ。しかも バンジョーの音に乗せて、ウエスタンの味わいがある。しかしメロディーは豊かで、後のメロディ・メイカーとしてのヘイワードの才能がすでに現れている。
〇他に候補とした作品
Fleance/Third Ear Band,
Magical power/ Magical Power Mako
Air cut / Curved Air ( Edie Jobson )
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