豊後では建武から貞和にかけてのころ、角違(かくちがい)一揆が結成されました。清原・橘・大神(おおが)などその地方の平安末期以来の在地豪族、狭間(はざま)・木付(きつき)・一万田(いちまだ)・吉弘・田原など大友の庶流、そのほか群小の土豪ら計七名にも及ぶ人びとがこれに加わりました。これはむしろ守護大友の働きかけで結成された国人・土豪の結集組織でありましたが、合戦奉行・内談衆(ないだんしゅう)などの執行組織をその内部にもっていました。
こうしたいくつかの事例からもわかるように、惣領(そうりょう)に率いられた同族団としての「家」の動揺は、一族が敵味方、北朝南朝に分れての対立をひきおこすこともまれではありませんでした。しかし、それよりももっと根源的な問題は、武士たちのあいだに。血縁よりも地縁という関係や意識をひろく生みだしたことであります。それにつれてかれらの軍事力も、従来のような一族郎従という族縁的な構成から、本拠地やその周辺の弱小の武士、農民上層など、周縁の人びとを被官化(ひかんか)する封建的主従制の拡大方面にすすみました。同時にかれら自身も、一国の公権力としての性格を強めつつあった守護の被官となることが多かったのです。
しかし守護と国人の関係は、一面反発、一面結合というのがふつうであり、安定した主従制的結合にまではなかなか到達しませんでした。「朽(くち)たる索(つな)を以て六馬を繋(つない)で留るとも、只慿(ただたのみ)がたきは此比(このごろ)の武士の心なり」「五度十度敵に屈し御方(みかた)になり、心を変ぜぬは稀なり」という『太平記』の指摘は、武士と南朝という関係だけでなく、武士相互のあいだにおいても広くみられたのでした。そうした意味では、武士の地縁結合はまだ本格的な展開を示すところまでいっていないといわなくてはなりません。所領の所有における散所所職(さんじょしょしき)の知行から領域的一円知行へという動きと、同族団型の「家」の解体。血縁的族縁結合から地縁的主従制結合へ、というのが内乱期の社会構造の変化の大きな流れでおりました。(この項おわり)
次回からは荘園制がどのように崩れていったのかを見ていきたいと思います。
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