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2022年03月06日15:25

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2月の。

2月に観たのは『恋する遊園地』『人数の町』『博士と狂人』の3本。

●『恋する遊園地』
馴染みの小さなテーマパークの夜間清掃員として働き始めたジャンヌ。初対面からぐいぐい距離を詰めて来るマネージャのマルク。並の映画なら此処で紆余曲折の恋物語が始まるトコロだが、ジャンヌが恋したのはアトラクション遊具のムーブイットだった……。
メルヒェンかと思ったら『遊園地の遊具に恋した娘』と『それを理解出来ない母』の割かしガチにドロドロした葛藤劇だったでござるの巻。まぁそれはそれで見応えはあったし、何か知らんけど明るく笑って走って終わったので全然問題ないです。メルヒェンと云えばメルヒェンだしねあの終わり方。うん。
勝手に作動し、光と動きで語り掛けて来る彼に『ジャンボ』と名付け、光で会話するジャンヌ。針金で遊具の模型を造るのが趣味だし、元々構造物が好きではあったのだろうね。彼にどうしようもなく惹かれてゆくジャンヌは母に理解して欲しくて彼を紹介するけれど、母は娘を理解出来ず、頑なに拒絶する。
その母。娘に愛情はあるのだけど、自由奔放で少しだらしなくて、勝手にマルクを引き入れて「娘はあなたを好きみたい」とか思い込みでガンガン話を進めたりして、自分の認識を絶対視するタイプ。悪意はないのだけどそれだけにタチが悪い。なので自分の世界から外れた娘を理解出来ないのも、あるかな。
人間に対して恋愛感情が持てないのを自覚しながら、それはおかしいので何とか社会に歩み寄るべくマルクと肌を重ねるシィンが何とも必死で痛ましい。こんなの上手く行くワケなくて、結局上手く行かないのだけど。まぁ大体マルク、ただのナンパヤローにしか見えなかったし、実際その通りだったし。
途中でホラーに行きそうな感じもあって展開が読めなかったな。割かし奇妙な映画だった。ジャンヌにとっては家庭への闖入者であった母親の新恋人ユベール。実は彼がジャンヌの一番の理解者であり、母がワケの判らないまま、ワケの判らない娘に歩み寄り受け入れて終わるグッドエンドへとたどり着く。
エド・ウッドの『グレンとグレンダ』、未見だけどトランスベスタイトの主人公に恋人がアンゴラのセーターを譲り「何だかよく判らないけど頑張りましょう」て云うシィンがあるらしく、そう云うコトなのかもね。忌避するのでもなく、ムリヤリ自分のテキストに押し込めるのでもなく、判らないコトは判らなくていいから、判らないままただ寄り添う。難しいコトだけど、それをやって居るからこの作品のラストは『良い』と思えるのだろうね。ユベールが居なかったら其処には到底辿り着けなかったろうね。

●『人数の町』
借金取りに追われる主人公は、助けて呉れた男に誘われて『街』の住人となる。衣食住を与えられ、意味の判らない軽作業をこなしつつ、何も考えず享楽的に過ぎてゆく日々。そんな主人公の怠惰な日常は、行方不明の妹を探しに訪れた女の出現で変容してゆく……。
久々に観た邦画。意志が弱くモノを深く考えず、結果として社会に居場所を失った人間たちを集めて人里離れた施設に収容し、衣食住を与える代わりに戸籍を取り上げ首筋にチップを埋め込んで脱走出来ないようにして……て云うミニマムなディストピア。貧困ビジネスの大掛かりなヤツと思えばいいのかな。
与えられた枠組を踏み外さず、余計なコトを考えなければ与えられるモノを享受して楽しく暮らして行ける、ある意味パラダイス。差別と暴力の渦巻く外の世界には頼まれたって戻りたくない。そう考えてもまぁムリはないよね。こう云う環境が『ハマる』ヒトにとっては。低きに流れるのは容易いからね。
でまぁ御多分に洩れず主人公もこんな日々に染まる。此処に来てからあまり怒らなくなったと云うけれど、実はただでさえ薄かった感情が磨滅して来て居る。日々の暮らしに不満がなければ次第に思考しなくなり、思考が鈍れば云われたコトを素直に実行するだけのただの『人数』になる。それが街の目的。
そんな日々に投げ込まれる異物。妹を探すために来た『居場所がないワケでも困窮して居るワケでもない女』。ヒトコトで言うと『自立して居るつもりの他力本願』であまり好きになれなかったな。妹を『助ける』と力強く云い街から連れ出そうとする割に「どう助けるの?」て云う具体的なコトは何ひとつ云えずただ「頑張る」て繰り返すだけ。一番「コレはなぁ」て思ったのはラスト近く。主人公の異変に『気づいて居ながら』見ぬ振りをするのだよ。まぁ意味があってそう設定したキャラなのだろうけどね。
続くラストシィンもまぁ『驚き』はあって、それは仕掛けがうまく機能して居る証左なのだけどでも安直な取り込まれオチだったな。ホラーとかでホントによく見るタイプの取り込まれオチで少し残念。
でもまぁ、映画総体としてはそこそこ面白かったですよ。のどかで閑散として居て異様な感じがよく出て居た。ロケーションのチョイスと組み合わせも良かったのかな。寒々とした空間に意志薄弱なヒトたちがボンヤリ往来したり刹那の享楽にきゃあきゃあして居たりするの、単純に少し怖くて良かった。管理者である黄色いツナギのチューターたちも作り笑いで気色悪くてなかなか好みの雰囲気でした。以上。

●『博士と狂人』
全ての英単語とその歴史や変遷を網羅する狂気の企画『オックスフォード英語辞典』誕生秘話。単語や用例の収集に苦心するスタッフの元に或る日、大量の単語&用例が届けられる。奇跡だと大喜びする彼ら。その送り主は殺人を犯し、刑事犯精神病院に居た。
言語オタク2人の初対面の会話がね、門外漢には全く意味不明で本人たちだけがめっさ楽しそうで目ぇキラキラして居て非常に微笑ましかったな。正直、この狂気のプロジェクトを高い理想と熱意をもって推進し続けるマレーも、マイナーと同程度の狂人としか思えないのよね。いい意味でね。『博士と狂人』ならぬ『狂人と狂人』だね。その狂気が光に向かうモノかそれとも闇へと向かうモノか、不幸にも犯罪を形成して仕舞ったか否かの違いだけ。まぁ、改めて云うまでもなくコレは大きな違いだけど。でも。
言語は生きて居る。変化し続け、新しい言葉が日々生まれ続ける。全ての英単語を記載する仕事は、だから永遠に終わらない。それをどう終わらせれば?に対する支援者の返答。「君を道標に次の世代がそれを引き継ぐ。終わりなき道だ」コレがこのプロジェクトの狂気を正気に降ろして呉れる道なのだよね。
文字に残し、書物に残し、得た知識を次世代に、遥か時代を飛んだ未来にまで引き継いで行ける。それが人間の持つ一番の武器だから。そして「常識から外れた生き方も認めて欲しい。自分らしくあることを罰しないでください」て云う妻のコトバ。コレもまた彼らの狂気を正気の世界へと繋いで呉れる道標。
マイナーは自分で自分を許せない。被害者の妻が許しても。『傷つけた者への代償、償い、補償。加害者は被害者にその全てで償う。人生の全てをもって』と云う、マイナー自身が送った『償い』の用例。自分の犯した罪、殺して仕舞った男のコト、その妻との交流のコト。彼は『決して償い切れない』と結論し、やっと見い出した希望を自ら断ち切って仕舞う。その彼をどう救うかが後半の主流。理解者ぽかった院長が破壊的な方向に動くのは残念だったけど、でも看守のマンシーがひたすらいいヒトで救われる。
最後の方にちらっと内務大臣時代のチャーチルが出て来るのだけどコレも結構いいキャラで割と好みでしたよ。冷徹でめっさ有能な実務家って感じ。情では動かず理で動くタイプぽいけど、でもアポなしの話を聞いて呉れたのは部屋の様子を誉められたのが密かに嬉しかったりしたのだろうかね。知らんけど。

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月間賞は『博士と狂人』に。
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