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2021年11月06日16:44

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小説を作成しました!「きみの勝ち」

※ こちらの作品は小説ですが、朗読台本としても使用可能です。
 金銭が絡まなければ使用自由。
大幅な改変等はツイッター @annawtbpollylaまで要許可申請。

自作発言は厳禁です。 ※



また、本作品は「屑の価値(わたしのかち)」
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1971735363&owner_id=24167653
の続編となります。

もし良かったら、上記URLより先にそちらを読んでいただけると幸いです。




以下本編




「きみの勝ち」




 その日、彼はひどく疲れていた。



 彼の未来は事実、何も閉ざされたものではなかった。いくつかの失敗をした、いくつか上手くいかなかった。ただそれだけの事で、彼の可能性は何も途絶えてなどいなかった。しかし彼は自らの未来を、ほかならぬ自分で否定してしまっていた。全てがどうにもならないような気持ちに苛まれてしまっていた。

 自分がこんな自分である限りこれから先何があっても、何をしても、結局のところ何も果たす事はできない。そう思えて仕方のない、そんな気持ちだった。

 彼は寝室に入ると電気を消し、布団を被ってうずくまった。強く目を閉じ、両手で強く耳をふさいだ。



 しばらくの後、彼はふと思い立った。薄暗い明りを点け、それを頼りにタンスの引き出しを開けた。

 一番上の、向かって右側の引き出し。その中にはたった一枚の茶封筒だけがしまわれていた。

 切手も貼られておらず宛先住所も書かれていない、質素で寂し気な茶封筒。ただ、宛名だけは丁寧な文字で大きく書かれており、その文字は強い存在感を示していた。



 彼はその茶封筒から二枚の紙を取り出し、そこに書かれた文字にゆっくりと目を落とした。それは彼にとって何度も何度も読んだもの。時間にしておよそ10秒とかからず内容を把握、あるいは思い出す事ができた。

 それは静かな時間だった。

 彼はその手紙を数分間眺めた後、目を閉じ、天を仰いだ。そのまま少しの時間が過ぎた後、それを再び茶封筒に戻し何か一言だけつぶやくと、引き出しの中へとしまった。

 彼の気持ちは、真っ暗ではなくなっていた。



―以上―


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