撃たれた本人は、まさか遠く離れた祖国で外来ロックバンドが3万人に向かって、自分の追悼を呼びかけるとは思わなかっただろう。
「テツ・ナカムーラ! テツ・ナカムーラ!」
男は何度も名前を叫んだ。
本人を知らなくても、その日のネットニュースを見た観客は誰のことだかわかる。
「Bad」 悪いことはいつか過ぎていくと歌った後に、「Pride」という曲。
愛の名の下に、現れた一人の男
男はやって来て、そして、去っていく
4月4日の早朝 メンフィスの空に銃声が響き渡る
最後に手に入れた自由 彼らはあなたの命を奪ったけど
あなたの誇りを奪うことはできない
キング牧師への賛歌が、残念ながらそのまま追悼歌になった。
スマホのライトを点す会場の写真(ネット記事が消える前にどうぞ)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191206/k10012204821000.html
デビュー時からの熱烈なファンが多い日本でU2が公演を行うのは実に13年ぶり。
59歳になったボーカルのボノが、長き不在を詫びた。
抱いていた清潔なイメージと異なり、経済力で企業や不動産を買いまくり、海外で戦争に協力し、米国の乱雑な文化に染まる日本に嫌気がさしたと推測された時期もあった。
最近はそういう近親憎悪はなくなり、実際のところは、巨大なツアーセットを運ぶコストと高額のギャラと招へい元の入場料収入が釣り合わないことが主な要因だと思う。
今回のツアーは、1987年に発表した「ヨシュア・トゥリー」(JT)アルバムを完全再現。全世界で2500万枚売れたそうだ。いやもしかしたらU2にとって、世界規模のツアーは最後ではないかという見方もある。そういうわけで日本公演が実現した。
1曲目「サンデー・ブラッディ・サンデー」を始めるドラムに一気にしびれる。
「グロリア」「ニューイヤーズデー」と20代前半の3曲から始まったが、巨大ホールの音響のせいか前日公演の疲れか、出だしのボノの声は正直、絶好調とは言えない。(4曲目のBadあたりからGoodになった)
冒頭の「プライド」まで花道前方の特設ステージで演奏した後、JTアルバムへ。
「Where The Streets Have No Name」の壮大なイントロ、広く乾いた大地をひたすら走る一本道の映像。
次々と進む曲の内容に合わせて「Expensive!」(エッジ)なアントン・コービンが制作したいくつかのフィルム。舞台いっぱいに設置された巨大な8K LEDスクリーンの映像美に圧倒される。「Thank you, Technology!」(ボノ)
A面の有名曲に比べ、あまり演奏機会のないB面の曲も、完ぺきに再現された演奏と美しい映像によって、1曲1曲が壮大な物語となる。これはツアー映像が商品販売されたら、もう一度楽しみたい。
U2が20代後半でこれだけの作品を作り、30年以上たってもまったく色あせていないどころか、より重要な意味合いを増しているのは、改めてすごいことだと思う。
アンコールは、JTアルバム後の作品から8曲。
終盤、「Ultraviolet(Light My Way)」では、多くの日本人を含む女性の先駆者たちの肖像を次々と映し、「私の進む道を照らしてくれる」彼らへの敬意を表した。
順不同、市川房枝、緒方貞子、オノヨーコ、田部井淳子、川久保玲(コムデギャルソン)、草間彌生、伊藤野枝、紫式部の他、伊藤詩織さん、クーツーの石川優実さん、グレタ・トゥンベリさんの写真もあり、最後に「人は全員が平等になるまで誰も平等ではない」という日本語メッセージが表示された。
次は、曲名の和訳を画面に流した。「愛は行く手を遮る全てを凌駕する」(Love Is Bigger Than Anything In Its Way)
全25曲、あっという間の2時間半。その夜は、興奮さめやらず午前3時まで寝付けず、あれこれ曲を聴き直した。
次の日は演奏曲順のプレイリストを作り、聴きながら歩いたら、夜中、職場から自宅まで歩けてしまった。(自宅まで歩いたのは、3・11の日以来)
メッセージ性の強いU2の公演を「政治集会だ」「宗教の集まりだ」と冷笑する人もいる。
いや、それでもいいじゃないだろうか。
世界じゅうで毎晩毎晩、3万人に向かって「愛」を叫びつづけずにはいられない普通の善人の心の渇き、葛藤は、どれほど大きいのだろうか。
この辛く厳しい現実の中で、「愛」と「理想」を語り、実践する人が多くいれば、世界は少しだけ幸福になる。
「テツ・ナカムーラ!」 そう叫んだボノは、自分と同じ魂を感じたのだろう。
U2の「愛」は「全てを凌駕する」。U2を聴きながらなら、どこまでも歩いていける。
(参考)3・11が起きる前だった13年前の日記
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=280833709&owner_id=5455321
8K LEDスクリーンだけでなく、写真画像も進歩したことがわかります。
(追記)U2をはじめ、海外アーティストは、コンサート中のファンの写真・動画撮り放題です(プロ仕様のカメラ・商業利用ビデオは除く)。
当日の撮影によるものがすぐに適法にアップされていました。
Where The Streets Have No Name (もっと全体の絵を写してほしかった)
https://www.youtube.com/watch?v=i6go6CyY8_8&list=RD5wvaGZS9B7c&index=6
With Or Without You
https://www.youtube.com/watch?v=Cbk6KwZ0BOQ&list=RD5wvaGZS9B7c&index=2
HISTORYが「HER」STORYに変わったUltra Violet
https://www.youtube.com/watch?v=brFAjLgpKok
2年前の他の場所ですが、完成されたプロの映像と音質によるJT公演
https://www.youtube.com/watch?v=gvqSdYB045Y
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