無名の若手イスラエル人監督オフィル・ラウル・グレイツァ作だというが、
ユダヤ人とドイツ人、宗教的慣習、ゲイなどを背景に、
夫を失った女性と、「恋人」を失った青年との、
出会いをほろ苦く甘く描いて見事だと思った。
「彼が愛したケーキ職人」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4621109
http://cakemaker.espace-sarou.com/
ベルリンのカフェのケーキ職人トーマス(ティム・カルクオフ)。
客のオーレン(ロイ・ミラー)はイスラエルから出張の度に寄る。
そしてトーマスと親密になるが、帰国して連絡が取れなくなる。
オーレンが事故で亡くなったと知ったトーマスは、
オーレンの妻アナト(サラ・アドラー)の
エルサレムのカフェを訪ね、雇われることになる。
ユダヤの宗教的な規則コーシェルのために、
外国人のトーマスはオーブンを使った調理はできない。
(なんと偏屈な…と思うが、そこが宗教なのだろう)
しかしトーマスの作るクッキーや「黒い森のケーキ」は、
アナトの店の客に喜ばれ、アナトも黙認していく。
トーマスを家に招いたオーレンの母親は、彼らの関係を
察知していただろうことも、さりげなく描かれる。
ほとんど口を利かないトーマスの静かな意思。
女手一つで息子を育てるアナトの奮闘ぶり。
夫を失ったアナト、恋人を失ったトーマス、
アナトはトーマスに心を寄せ、2人は愛を交わす。
色白でふくよかで傷1つないトーマスの体は、
彼が捏ねる生地のようになめらかで美しい。
穏やかに過ぎるトーマスとアナトの時間、
クッキーやケーキの香り立つようなシーン。
ユダヤ人のドイツ人への心象、宗教的な規則違反、
アナトがいつ、トーマスが夫オーレンの相手と気づくのか。
そうした緊張感が、底に絶え間なく流れる。
余韻の残るラストも美しく、静かで濃密な満ちたりた時間だった。
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