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2018年09月17日13:32

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9月国立劇場(人形浄瑠璃)・第二部「夏祭浪花鑑」

18年09月国立劇場(人形浄瑠璃)・第二部「夏祭浪花鑑」


通しで観る人形浄瑠璃の「夏祭浪花鑑」


人形浄瑠璃「夏祭浪花鑑」で、今回、団七を操る桐竹勘十郎は、団七のキャラクターを描くとともに、「上方の、べたっとした暑さ」を表現したい、という。そうなのだ、この演目は、やはり団七とともに、「夏祭」の暑さが、表現されなければならない。

「夏祭浪花鑑」は、1745(延享2)年、大坂・竹本座初演。並木千柳(宗輔)、三好松洛、竹田小出雲の合作による全九段の世話浄瑠璃。当時実際にあった舅殺しや長町裏で初演の前年に起きた堺の魚売りによる殺人事件などを素材に活用して、物語を再構成した。合作3人組は、翌年から、3年続けてヒット作(「菅原伝授手習鑑」1746年、「義経千本桜」1747年、「仮名手本忠臣蔵」1748年、というように人形浄瑠璃・歌舞伎の時代ものの史上3大演目)を生み出すことになる。その直前の世話ものの大作が、この「夏祭浪花鑑」。私は、歌舞伎では6回観ているが、人形浄瑠璃で観るのは、12年9月に続いて、今回で、2回目。

今回の場立ては、次の通り。「住吉鳥居前の段」、「内本町道具屋の段」、「道行妹背の走書(はしりがき)」、「釣船三婦内の段」、「長町裏の段」、「田島町団七内の段」。歌舞伎では、私は観たことがない場面が、幾つかある。

歌舞伎では、「住吉鳥居前の場」、「釣船三婦内の場」、「長町裏の場」が、みどり(いわば、抄録のこと)で上演されることが多いので、どうしても、歌舞伎では、義父の義平次殺しの団七九郎兵衛が、最後まで主役となるが、今回の人形浄瑠璃では、義平次が、団七九郎兵衛のライバルとして競い合うように見えた。題して、粗暴犯(連続殺人)・団七九郎兵衛対常習的な知能犯(詐欺、誘拐)・義平次のバトルである。

人形浄瑠璃では、「内本町道具屋の段」で、田舎侍に扮して、騙りをする義平次が、クローズアップされる。義平次は、団七女房お梶の父親だが、絶えず、団七に敵対する関係にある、という因縁ぶりが浮き彫りにされる。歌舞伎では、演じられない場面は、今回で言えば、「内本町道具屋の段」、「道行妹背の走書(はしりがき)」、「田島町団七内の段」である。

贅言;歌舞伎でも、たまには、「夏祭浪花鑑」を通しで上演することがある。例えば、14年7月の歌舞伎座。この時の場の構成は、以下の通り。参考までに記録しておこう。

序幕第一場「お鯛茶屋の場」、第二場「住吉鳥居前の場」、二幕目第一場「難波三婦内の場」、第二場「長町裏の場」、大詰第一場「田島町団七内の場」、第二場「同 屋根上の場」。

さて、今回の人形浄瑠璃「道行妹背の走書(はしりがき)」では、女性にだらしない、というか、モテモテ男の磯之丞の行状が強調される。道具屋の手代清七として勤めに入った磯之丞は、店のお嬢さんと恋仲になり、逃避行の道行を演じる。「田島町団七内の段」では、義父殺しで捕り方に追われる団七を逃す徳兵衛との、男の友情が描かれる。

歌舞伎の場合、物語の主筋は、玉島家の嫡男だが、軟弱な磯之丞と恋仲の傾城琴浦の逃避行だけが描かれる。ただし、この主筋は、それと判れば、それで済んでしまう。追うのは、琴浦に横恋慕する大鳥佐賀右衛門。

磯之丞と傾城琴浦の逃避行を3組の夫婦が手助けする。釣船宿を営む三婦(さぶ)と女房おつぎ、堺の魚売り・団七九郎兵衛と女房お梶、乞食上がりで、一旦は大鳥佐賀右衛門に加担していた一寸徳兵衛と女房お辰。

そこへ、副筋として、団七の義父・義平次が、登場する。舅の立場を利用して義平次が、琴浦の逃避行の手助けをする振りをして、琴浦を大鳥佐賀右衛門の所に連れて行き、褒美を貰おうとする。その挙げ句、婿と義父との喧嘩となり、弾みで、団七は、舅を殺してしまう。

ところが、人形浄瑠璃のように、「内本町道具屋の段」が加わることで、副筋の「助演」と思えていた義平次が、主筋に躍り出て来たように思えた。義平次は、玉島家の嫡男・磯之丞を巡る「お家騒動」を利用して、なにかとうまい汁を吸おうとする常習的な知能犯だった。義平次の足跡を追ってみれば、それが浮き上がってくる、というわけだ。ヤクザ者の義平次と任侠(男伊達)の団七。団七には、強さと気遣いが共存する。

「内本町道具屋の段」:手代・清七の名前で磯之丞が奉公している内本町道具屋で、田舎侍が香炉(「浮牡丹」という銘)を探し求めて店先に来る。仲買の弥市から清七が預かった香炉が気に入ったらしい。55両なら購入したいと言う。番頭の伝八が上客と見て侍を奥に案内する。それを見計らったように弥市がやって来たので、清七は弥市に香炉を売ってくれるように頼む。金額でもめるが、清七が伝八から店の金(公金の為替)を借りて作った50両で買い上げる。清七は、5両の利ざやを胸算用している。

やがて、店の奥から出て来た田舎侍に清七が香炉を売ろうとすると侍は、買うなどと言った覚えはないと言い出す。あせる清七に伝八は、先ほど貸した50両を返せと迫る。50両は既に弥市に支払っているので、無い。

この騒ぎを聞きつけて、奥から出て来た道具屋店主の孫右衛門と道具屋に魚を売りに来ていた団七が、田舎侍の正体に気がつく。田舎侍は団七義父の義平次だったのだ。偽侍に化けた義平次、清七に店の金を貸した番頭の伝八、仲買の弥市が組んで、「お坊ちゃま」で世間知のない手代の清七こと、磯之丞を騙していたのだ。件の香炉は、実は、贋の香炉・浮牡丹。贋の香炉を使って手に入れた50両は、小悪党3人で山分けする積りだ。義平次は、団七登場では、勝ち目がないと悟り、そそくさと逃げ出す。清七こと、磯之丞と琴浦は、三婦の家に預けられることになる。

引き道具が、上手側に引かれ、道具屋の下手に番屋が現れる。ビジネスに失敗した清七は、夜更けに道具屋に忍び込むため戻って来て、経緯があって、番屋に入ってきた弥市を殺してしまう。

「道行妹背の走書」:弥市を殺した清七こと、磯之丞は、お中を連れて逃げ出す。松屋町筋から長町裏、寺町を経て、安居の森へ。清七は、武士の磯之丞に戻って、ここで書き置きを残して切腹しようとする。そこへ三婦が現れ、暫く身を隠せという。お中に横恋慕の伝八が追ってくる。お中は、伝八を欺き、首の吊り方を伝八に伝授させる。首を吊る真似を演じてみせる伝八。後ろからそっと近づいた三婦が伝八の足元を払って、自死させてしまう。清七が書いた書き置きを伝八の身近に残して、三人は逃げて行く。

ちょっと引き返して、「住吉鳥居前の段」から「釣船三婦内の段」へ。
団七は、磯之丞の恋人・琴浦に横恋慕する大鳥佐賀右衛門の家来と喧嘩をして暴行した挙げ句、殺してしまった(傷害致死か、殺人か)という廉(かど)で牢に入れられていて、芝居冒頭の「住吉鳥居前の段」では、団七女房お梶の主筋に当たる玉島家の尽力で出牢し、三婦らが出迎える場面がある。解き放ちが、住吉大社の鳥居前ということだった。団七には性格的に粗暴な部分があるのだろう。それが、「長町裏の段」では、衝動的な義父殺しに発展する。殺人、出獄、義父殺しとなってしまう。

「釣船三婦内の段」:田舎侍に化けてまでの犯罪。詐欺不成立で内本町道具屋から逃げ出した義平次は、「釣船三婦内の段」では、団七が不在なのを見抜いたように、団七に依頼されたので、預けている琴浦を引き取りに来たと三婦の女房のおつぎを騙して、琴浦を駕篭に乗せて、連れ去る。この後、団七と徳兵衛、三婦の3人が帰ってくる。琴浦と磯之丞が不在なので不審に思うと、磯之丞は、徳兵衛女房のお辰が、同道して国元に帰ることになっていて出かけたということで不審はない。琴浦は、団七に依頼されたと言って義父の義平次が、連れて行ったとおつぎは言う。義平次にそんな依頼をした覚えのない団七は、義平次が、また、琴浦を大鳥佐賀右衛門のところへ連れて行くためにおつぎを騙したと悟り、義平次の後を追って行くといういつもの場面が展開される。

こうして観てくると、義平次が、歌舞伎で描かれる舅の立場を利用して琴浦を連れ出しただけではなく、義平次は、玉島家の嫡男・磯之丞を巡る「お家騒動」を利用して、隙があれば、なにかとうまい汁を吸おうとする常習的な知能犯だったことが、より明確になる。「夏祭浪花鑑」とは、小悪党・義平次対衝動殺人鬼・団七の対決だ、ということがよく判る。

「長町裏の段」:浅黄幕の振り被せで、場面展開。「長町裏の段」は、リアルでありながら、様式美にあふれる殺し場が展開される。盆が廻って。竹本の太夫は、団七が織太夫。人形遣は、勘十郎玉女。義平次が三輪太夫。人形遣は、玉男。下手黒御簾からは、祭り囃子。歌舞伎では、団七を視覚的にも男の美学で磨き上げるが、人形浄瑠璃では、知能犯・義平次と粗暴犯・団七との悪知恵か暴力かという対比をより鮮明に見せてくれる。

歌舞伎では、泥の蓮池と釣瓶井戸という大道具を巧く使い、本泥、本水で、いかにも、夏の狂言らしい凄惨ながらも、殺しの名場面となる。本泥、本水も、人形遣いの吉田文三郎が工夫した趣向だというが、今回もそうだが、最近の人形浄瑠璃では、本水も、本泥も無し。振り被されていた浅黄幕が、上に引揚げられる。舞台下手から繋がる土手の上には柵で囲われた畑。畑には、夏の野菜が実る。中央に釣瓶井戸。畑は、下手から上手へ塀の内に広がる。上手手前には、蓮池。やがて、塀の外を通り過ぎる祭りの山車の頭が見えてくるだろう。高津神社の夏祭り。鐘と太鼓のお囃子の音。そういう背景の中で、人形ふたりの殺しの立ち回りが続く。倒れた義平次の身体を跨いだまま、前と後に身体をひねりながら、飛んでみせる団七など、立ち回りは、歌舞伎も人形浄瑠璃も同じ。こちらが、原型だろうな。

背景は、黒幕から町の夜景の遠見へ。塀の外を提灯をつけた山車が通る。ただし、歌舞伎に比べて、暗い。当然ながら、池に落ちただけで、未だ死んだ訳ではないから、やがて、蓮池から玉男に操られる義平次が出て来る。三味線方・鶴澤清志郎の演奏。竹本無言。三味線の音のみ。舞台では、ナレーション無しで、人形ふたりの死闘が続く。

団七も、最後は、井戸水を桶に入れて身体に掛けて洗い、帷子を着直す。そこへ、舞台下手から出て来た祭りの神輿(4人で担ぐ)が通りかかる。この辺りは、歌舞伎も人形浄瑠璃も同じ。

竹本の文句。最後の場面で、短く「悪い人でも舅は親、南無阿弥陀仏」。最後の語り収め、「八丁目、指して」が、「八丁、目指して」に聞こえた。幕。

舅殺しの一瞬、団七は全身から力を抜く。そして、憎しみを込めて舅を刺し殺す。勘十郎の話。人形遣いは、「人形に手を入れた瞬間、男でも女でも役になっている感触がある」という。三人遣いが生身の一人の役者とは違う何かを発するエネルギーとなる、ともいう。

そして、舞台は、「田島町団七内の段」。人形浄瑠璃で見るのは初めて。歌舞伎では、14年7月、歌舞伎座で一度観ている。

「田島町団七内の段」:田島町。長町からさらに東へ。今はコリアンタウンになっている鶴橋の南東に当たる。生野区だ。殺人事件から数日後。舅殺しはまだ発覚していない。一寸徳兵衛が旅姿で団七宅にやって来る。義平次殺しの現場、長町裏の野菜畑で雪駄を拾ったという。雪駄には団七の紋がある。一緒に備中へ逃げようと誘いに来たのだ。団七は、白を切る。怒って上手の障子の間に篭ってしまう。障子の間は、夏らしく、紙の障子では無く、簾を張り付けてあり、涼しそうだ。いまなら、網戸か。

代わりに奥から出て来たお梶が徳兵衛の着物のほつれに気付いて、旅に出る前に繕うと持ち掛ける。着物を脱ぎ下着姿になった徳兵衛がお梶にちょっかいをかける。お梶は徳兵衛を撥ねつける。しかし、これを見た団七が怒り、徳兵衛と以前にかわした義兄弟の誓い(「住吉」の場面)としてきた片袖を投げ捨てる。義兄弟解消でふたりは喧嘩を始める。そこへ、外から三婦が駆けつけて来て、喧嘩を止める。団七は、不義をしたとして、お梶を許さず、離縁状を突き付けてお梶と息子の市松を追い出す。

突然の離縁要求に、訳がわからないお梶に三婦が、団七の義父殺しを打ち明ける。団七とお梶が離縁をすれば、義父殺しは、普通の殺しになり、罪が軽くなるという三婦と徳兵衛の考えた苦肉の策だった。徳兵衛は、全て計算尽くであったことが判る。

しかし、捕方の手は迫って来た。徳兵衛は、三婦にお梶と市松を託し、やって来た捕方頭には、自分が団七捕縛をするので待って欲しいと持ち掛ける。

人形浄瑠璃には、珍しく、団七内の屋台が、せり下がり、屋根上の場面となる。団七宅を含めた町内の屋根の上。団七宅の屋根にある引窓から団七は出て来る。多数の捕方たちに追われて逃げて来たのだ。暫く、屋根の上での立ち回り。そこへ、徳兵衛が現れ、団七を取り押さえるふりをして、縄の代わりに路銀の銭を輪にしたものを団七の首に掛けて、逃亡を促す。徳兵衛の侠気が伝わって来る。男の友情に感謝しながら、団七は、屋根から飛び降り、花道を通って逃げて行く。

贅言;ついでながら、「住吉鳥居前の段」で見えるもの。下手に石灯籠が二基。緋毛氈を掛けた床几、立札(六月三十日大抜祭 住吉社)。中央に髪結処「碇床」の小屋。小屋には、芝居の番付(木の板に竹本座の紋が大きく書いてある。板の上手側にある演目は、「曾根崎心中」。大夫は、竹本筑後掾。ここまで大きな字。板の下手側に場立て案内。観音巡り道行、太夫・竹本筑後掾、ツレ・竹本頼母、三味線・竹沢権右衛門、作・近松門左衛門とある。竹本座全盛時代の顔ぶれの名前が目白押し)。そして、同じく緋毛氈を掛けた床几。立札(六月十四日御田植祭 住吉社)。上手に石の大鳥居がある。鳥居には、「住吉社」の看板。鳥居奥に太鼓橋が見える。全体として、住吉大社の大鳥居前の体。髪結処の贔屓から贈られた形の大きな暖簾の図柄は、熨斗。暖簾には「碇床さん江」「ひゐきより」とある。
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