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2018年07月30日18:58

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習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書) を読んで

習近平の中国――百年の夢と現実 (岩波新書)
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=18836655&id=4209130

(しばらくレビューは書かなかったが、ブログのほうで、このレビューを参考にその本を買う方もあるようで、再開することにした、ちなみにこれは半年前に読んだ本である)

新聞記者の中国駐在員だった著者が、「習近平」を軸にしながら、現代中国の政治情勢をまとめた本である。わかりやすくまとめてあったし、新聞記者の方らしい、事実を重んじた本だと思う。

まず、中国共産党の規模であるが、共産党員は、約9000万人おり、中国全人口の7%に当たる。日本の人口が1億2000万人であることを考えると、これは、結構な数である。このような巨大組織、「中国共産党」という組織に関する説明からこの本は始まる。この時点でも、中国の政治体制が、日本の政治体制とはだいぶ違うものだということがよくわかる。とにかく、「日本の常識的な考え方を通用できない」のだ。

また、この本を読むと、「新時代の中国の特色ある社会主義」思想、いわゆる「習近平思想」ができてきた流れも、把握できてくるし、中国の政治的采配の流れも把握できてくる。

その中でも、今、最も日本と関係のある話は、やはり、尖閣諸島も含めた「南シナ海問題」であろう。ネット上には、日本が中国の一部となり「日本自治区」として銘打たれた地図が流通しているが、あれは事実を反映していないと思われる。あんなものを真に受けていると、事実を見誤ることになる。

つまり、実際には、清代末期ころから流通した勢力図である「九段線」なる地図が、現在の中国の領土確定(希望)線であるのだ。清代末期〜第二次大戦までの中国と言えば、中国が日欧米からさんざんにやられていた時代であり、このような時代にナショナリズム発揚教育の一環として、この「九段線」が盛んに取り沙汰されていたらしい。このような歴史があるからこそ、中国は南シナ海から引くに引けない状況になっているのだと思われる。ちなみに、九段線には、沖縄が中国領土として記されている。この点は、実に日本としてよく考えておくべきことだろうと思う。

次に、本のタイトルにもなっている習近平氏の略歴などについても、しっかりと書かれている。共産党派閥としては小さい部類の「紅二代(第二次大戦直前に共産党入した人を親に持つ世代、昔からあるエリート家や名家ではない場合が多い)」という派閥に属する人らしい。
若い頃は、農村でしばらく研修をしていたらしいが、おとなしい性格で、夜遅くまで本を読んでいたそうだ。また、その農村を蹂躙したり軽視したりするようなエピソードも残っていない。目立たないが、農民側の主張を大切にするような若者だったらしい。

それで、こういった事実から浮き上がってくる習近平氏の人柄は、悪人と言うよりは、私に言わせれば君子である。しかし、忠臣でもある。「おい正気か」と思われる方もあるかもしれないが、習近平氏は、これだけの巨大組織で、若い頃からおとなしい性格であるにもかかわらず、トップになった人物だ。中国人は野蛮人ではない。改革開放が進んで、情報も入るようになった現代中国人は、強権的な悪人などにひれ伏すほどバカではない。つまり、習近平氏が悪人のように仕立てられるのは、仕える君主が「共産党」だからなのである。共産党に忠実すぎるのが、氏の悪評を買う所以であろうと思う。

それが証拠に、この本を読むと、習近平氏の取っている政策が、実は共産党でかなり昔から暖められてきた政策にキッチリ沿っているということが分かるのだ。氏は、思いつきに、また恣意的に、政策の舵を切っているわけではない。あくまでも「中国共産党」の路線を踏襲しているに過ぎないのだ。その大まかな路線を第一にして、民主主義国家からすると、理不尽と思われる対策を次々と繰り出しているのだと思われる。

最後、この本では、岩波ということもあると思うけど、いかにも中国国民が民主化を望んでいるようなことが書かれていた。しかし、新聞などを読んでいる限りでは、とてもではないけど、中国国民が民主化を望んでいるとは思えない。確かに、チベットやウィグル、内モンゴルなのどの自治区には、そういった機運があるのかもしれない。香港にもそういった事実はある。
けれど、「中国国民が民主化を望んでいる」ということは、所詮は民主主義国家の国民の「希望」でしかないのだと思う。つまり、「そうであってほしいと思いたいだけ」という幻想と思う。

というのも、人というのは、新しい下着を着けるまで、その良さが分からない生き物であるからだ。風呂に入って、新しい下着を着てみた人でないと、その良さはわからない。中国国民が共産党に満足するのは、ちょうど、風呂に入らず新しい下着を着たこともない人が、新しい下着の良さが分からないのと同じなのだと思う。
身近な例を出せば、「徳」という新しい下着を着たことがない人は、いつまでたってもその良さがわからず、嘘をつきながら古い下着を見せびらかして人前を闊歩する。しかし、自分がそんな恥ずかしいことをしていることに一向に気が付かない。わからない良さは一生わからないというのが、幻想のない事実ではなかろうか。
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