夜の7時過ぎ、寝袋にくるまって眠りに落ちるのを待つ。
一刻も早く体に休養を与え、数時間後に出発予定のご来光アタックへ向けて体力を回復しておかなければならない。
疲労や寝不足も高山病の大きな原因になるからだ。
どんだけ高山病にビビってるんだと思われるかもしれないが、これは経験したことのある人でないと分からないかもしれないが、当たり前に超苦しい。
あの苦しみを避けたいというのもあるし、体調不良でチャンスを逃したくないという思いもある。
あああああ、は、早く寝なければというプレッシャーが余計に神経を高ぶらせ、そのせいか、とても寝つきが悪い。
普段はとても寝つきが良い私なのに、右を向いたり左を向いたり、寝袋をかぶったりはだけたり、もぞもぞもぞもぞモーウガガガガガ。
としているうちに、いつの間にか眠ってしまっていた。
何かの気配に気が付いて、目を覚ました後、あ寝てたんだなと分かった。
多分、深い眠りではなかったようだ。
腕時計のバックライトを光らせて時刻を確認すると、夜中の2時。
あと30分ほどで起床の時間だ。
ちょっと早く起きすぎたかなと思っていると、先ほどの目が覚める原因となった気配の正体が分かった。
周りに寝ていた人たちも、多くが既に目を覚ましていて、暗い中、ゴソゴソと出発の準備を整えているではないか。
そうかー、寝付けなかったり、眠りが浅くて早くに目が覚めてしまったの私だけではないらしい、皆も神経が高ぶってたんだな。
トイレを済ませたり、軽く朝食を取ったり、身支度を整えていたら丁度いい時間になりそうだから私も起きるとしようか。
午前3時、昨日と同じチームで9.5合目の山小屋を出発し、もうすぐそこまでとなった頂上を目指す。
写真で分かるだろうか。
明るい水平線よりも下の暗闇の部分、私の顔の横ぐらいに、登山者のヘッドライトの列ができている。
シーズン中の富士山は登山客の渋滞があって大変だ、なんて聞いたことがあるが、まさかその渋滞のピークが、ご来光タイム直前の頂上付近に集中するだなんて想像もしていなかった。
頂上はすぐそこなのに、登山道に並んだ人の列がゆっくりとしか前へ進まない。
なるほど、日の出の時間を狙うにしては、山小屋を早く出発し過ぎじゃないかと思ったが、この渋滞を予測してのことだったんだね。
ガイドさんによれば、下手をすると頂上まで登ってる途中で朝日が昇ってきてしまうこともあるんだとか。
なるほどねえ、経験しないと分からないものって、たくさんあるなあ。当たり前だけど。
だいたい午前4時、頂上に到着。小さくガッツポーズ。
やたっ、ここまで来た。ここまで来たらキッチリご来光を拝んで帰りたい。
幸い今日は天気も良く、頂上付近の気温もそんなに低くない。ほぼベストなコンディションだ。
そこでガイドさんは私たちのチームをそのまま剣ヶ峰に連れて行ってくれた。
剣ヶ峰とは、富士山頂上にある最高峰の地点であり、いわゆる日本の最高標高の場所だ。
そんな最高の舞台でご来光を待てるなんて、うをん、もういくつ最高が重なるのだろうか、ワクワク感が止まらない。
だいたい午前5時、周囲がだんだん明るくなってきた。もうすぐ日の出なんだろう。
さっきまで暗くてよく分からなかったが、富士山頂上はたくさんの人であふれかえっている。
人が侵入できる峰という峰には人だかりができて、こんな僻地なのに、こんなに混雑してるなんて不思議としか言えない光景が見えている。
そしてそこにいる人々が皆、一斉に東の空を眺めている。
んっ、きたっ。
ポツリと小さなオレンジの点がだんだん丸く大きく膨らんでいく。
ゴゴゴゴゴゴ。ご来光キター。
いやーホントに写真集で見るような見事な日の出だ。
素材が良いと写真機や撮影する人の能力は関係なく絵になるもんだなあ。
直射日光をただ見つめているだけなのに、なんだか色々体の中から蒸発していくようなこの感覚、これが富士登山のエクスタシーというものか。
これは癖になるかもしれない、リピーターが多いのも十分わかる。
負け惜しみやポジティブシンキングという気持ちは一切なく、昨年は失敗してよかったと心底思う。
もし、初めてのチャレンジで成功していたら、富士登山というものを勘違いしていただろう。
それどころか、登山全般をナメて考えるようになっていたかもしれない。
山を登るという単純な行為には、驚くほど複雑で大変な苦労の積み重ねが必要だ。
そしてそこから得られるものは何もなく、ただただ純粋に感動するだけだ。
しかしながらこの感動、日常では到底味わうことはできない。
失敗してるからこそ、余計に成功の有難さが身に染みる。
人生で一度はチャレンジしてみたいシリーズ第2弾を通して、人間として一回り大きくなったかもしれない。
そんな瞬間の感想を自分なりにまとめると
「んーそうですね、これからはアルピニストって呼ばれたいですね」
雑味が抜けきらない私である。
以下蛇足。
ガイドさんが「下山する時に6合目の山小屋でラムネを飲むのが最高なんです」と言っていたので飲んだ。
感想を自分なりにまとめると
「最高のミルフィーユ状態やー」
いまいち突き抜けない私である。
〜ルシファーちいといつのトビゲリカード占い〜
カードへの問い:アルピニストってモテるの
モテる:THE FOOL
モテない:TEATH(リバース)
年収による:ペンタクルの10(リバース)
結果:モテる
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