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2017年06月15日22:32

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平安五神伝二作目 発つ鳥跡を濁す 1章−6


序章   http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1954301029&owner_id=51444815
1章ー1 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1957642461&owner_id=51444815
1章ー2 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958604276&owner_id=51444815
1章ー3 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958655792&owner_id=51444815
1章ー4 http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1959968997&owner_id=51444815
1章ー5  http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960647745&owner_id=51444815


人も寄り付かぬ山中のただ中に突如出現する寝殿造りの大邸宅。木や岩ばかりの空間の中では、人間の都からそのままそっくり持ち込んだのかと見まごうほどの場違い感がある。それが西国でも有数の大妖、白河の自宅であった。
しかしその白河という妖異は部下さえ知らぬ間に討ち取られた。

「京より持ち帰った品は全て邸内に運び入れましたね?」

総員の指揮を執っていた銀髪の麗人、白虎の化身は辺りを見回し周囲の者達の顔を伺う。者こそが屋敷の主人を亡き者にした張本人なのだ・・・が、白虎は部下にその事実を伝えても尚、悠々とした態度を崩さない。

「はい!平安京より持ち帰った、宿屋『一期一会』で回収した宝物や道具、運搬に用いた朧車も既に所定の場所に収容してあります」

また、部下も実に忠実に命じられた役目をこなしていた。
理由などただ一つ。どんな生物の間にも存在する絶対の定義・・・『それだけの実力の差があるから』に他ならない。

「・・・よろしい。それでは私の任務もひと段落、と致しましょうか」
「びゃ、白虎様・・・」

一息つく麗人の近くに肩口に切り揃えた黒髪の少女が駆け寄る。彼女の方へ振り向いた白虎の顔には困り顔に近い軽い渋面。

「烏輪殿、私としても非常に残念なお話しなのですが、私には青月殿から頂いた名が・・・」
「いいえ!私がお仕えするのは白虎様・・・貴方様であって、決してあの人間の子供ではありません!ですから、人間なぞの付けた名ではお呼び致しません!!」

白虎の不承不承な言葉に少女・・・烏輪が断固とした啖呵を切る。

「大体あの光元って子供なんなのよ・・・こんなに強く美しく気高い方に対して『白いからシーちゃん』とかふざけた名前付けるなんて・・・」

周りの近衛兵が首肯で同意し、白虎自身も苦笑するだけで否定しなかった。総意なのである。
『これだから人間って奴は』討論の始まりを予感し、白虎は口を開いて必要な要件を述べる事とする。

「現在、白河の正体が私であると知る者は烏輪殿と貴方達、親衛隊六名しかおりません。貴方方には屋敷の留守を頼みます。決して白河が不在であると気付かれないようにして頂きたいのです。部外者は勿論の事、出来るだけ身内の者にも知られないように・・・」
「屋敷の者にもですか・・・それなら、白虎様が少し実力をお示しになれば誰もが膝を折ると思うのですが・・・」

事実、烏輪達平安京へ同行した一行がこれだけ白虎に忠実なのも、道中で彼の実力を目の当たりにしたからだ。しかし白虎は首を横に振る。

「貴方は私が白河でないと知った時ひどく驚いたでしょう?仇として私の首を狙った可能性は十分に考えられます。いえ、今でも『狙った』と過去形へ出来る確信はありません」
「そんな事は・・・それは・・・」

烏輪は否定できない自分に気付かされる。今まで守ってきた主人を失ったという事実は大きな喪失感と、自分の尊厳を傷つけられたような・・・複雑な心境になる。
烏輪達の場合は元の主人の素性を知らないまま仕えていた不安定さと、すぐさま尊敬するに足る新たな主人という縋る場所を得られた事で精神の負担は大きく減った。が、烏輪や親衛隊以外のもの・・・更に古くから白河に仕えてきた者などはどうだろうか。

「最後まで白河への忠義を尽くす為、屋敷の者が反逆の狼煙を上げるかもしれません。もしくは手引きをして他の大妖を送り込み、占拠を目論むかも・・・まぁ、屋敷の占拠程度なら大した事項ではないのですよ。私が守りたいのは『白河』という名・・・西国に轟くこの名声です」

白虎が手を広げ、周囲を示す。

「白河がこの地一帯を治めているという均衡を崩し、後釜を狙って妖異同士の勢力争いが起きるのは困りますからね・・・少なくとも、今は」

いつかは故意に戦争を起こしかねない・・・そう裏に述べる主人に烏輪の背筋に寒いものが走る。

「事情は分かりました・・・しかし、それなら白虎様はあの人間の都に戻らずこの屋敷に留まるべきです。だって・・・この西国の守護を任されたも同然じゃないですか!その大役・・・残される私達だけでは・・・荷が重すぎます」

両手を握りしめる烏輪。他の親衛隊達も不安の色を隠せない。実力に心許ない自分達だけで困難に立ち向かい守れ、と言われているのだから当然だ。
押し黙る烏輪に、白虎は背を屈めて視線を合わせる。

「烏輪殿・・・貴方なら出来ますとも。白河に最も近かった存在、親衛隊隊長であった貴方以上に適任はありません」
「でも私、どうすればいいか・・・」

「私もなるべく参るつもりですし、それ以外にも連絡の手段を考えようと思います。基本的には今まで通り過ごして頂いて結構です。元々貴方は親衛隊隊長・・・白河からの呼び出しや勅令を他の者へ伝達する機会が増えたとしても、内部の者は疑う事もしないでしょう。もしどうしても主人の影姿が必要と言うならば、そうですね・・・」
白虎は被いていた黒衣を脱ぎ、烏輪の肩へかける。きょとんと見つめてくる娘に対し、華のような笑みを浮かべ一言。

「その時は、貴方が白河になってしまいなさい」



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