ミクシーを始めたばかりの２００７年３月に、「プログレ・美声の美青年１０選」という記事を書かせていただいた。プログレが誕生し、そして今日まで継続しているのは、７０年代に２０歳前後であった才能豊かな青年たちのお陰だと思う。彼らは、美青年であったためにコマーシャルな市場でも受け入れられて活躍し、美声でメロディメイカーの才能を持っていたために、今日では古典となった名曲の数々を生み出すことができた。
１９９０年代、彼らはおおむね４０代。この時期に彼らが再び活躍してくれたことが、プログレ復興の大きな原動力ともなっている。今回の順位は、２００７年の順位と同じ並び方とし、９０年代の曲から選曲した。
・ 曲 ミュージシャン アルバム
�� Daddy / Emerson Lake & Palmer ( Greg Lake ) [ In the hot seat 1994 ]
今回、８年前に書いたランキングを再び読んでみて、グレッグ・レイクを１位にしていたことに正直言って驚いた。中年期の彼は太って男性的な容姿となり、往年の見る影もない。しかし、確かに７０年代の初頭、彼の女性的な美貌には、男女を問わず世界中のファンが魅せられたものだ。再結成ＥＬＰでの彼は、声は低くなったが、メロディーの奥深さ、哀切さは不変。この曲は、父親に帰って来てくれと呼び掛ける少年の歌だが、彼は不幸な家庭に育ったのだろうか。
�� I heard it / Justin Hayward [ The view from the hill 1996 ]
８０年代のムーディー・ブルースは、４枚ともヒットし、ジャスティン・ヘイワードは中心人物として多くの曲を書いている。プログレと言うよりも、ＡＯＲ（大人向けロック)として認知されていた。９０年代になってもジャスティンは依然として美青年だ。アップテンポの曲であっても、英国的な陰影が深い。ソロアルバムでは、個人的な思いをつづった曲が多い。「夕方の１人のハイウェイで声が聞える。引き返し、立ち止まって、不思議を感じろ。音を聴け。僕にはそう聞こえたんだ」
�� John Lennon's guitar / Barclay James Harvest ( John Lees ) [ Welcome to the show 1990 ]
バークレイ・ジェームズ・ハーヴェストは、ドイツを中心に人気を博し、８０年代に５枚、９０年代に３枚のアルバムを出している。中心人物は、ジョン・リーズ。少年のような響きの声が哀切に歌い上げる曲に、泣かされる。 自分の英雄だったジョン・レノンの思い出を歌ったこの曲は、胸に迫る。「７０年代の秋、アビーロード・スタジオで『ガラドリエル』を録音したとき、プロデューサーはビートルズのノーマン・スミス。まるで昨日のことのように思い出す。僕はジョン・レノンのギターを弾き始めた」
�� Change we must / Jon Anderson [ Change we must 1994 ]
ジョン・アンダーソン。プログレ界は、この人に、今も多くを負っている。９０年代になっても容姿は衰えることなく、美声も瞑想的な精神も７０年代のまま。９０年代に、イエスは６枚。ジョン・アンダーソンのソロ・アルバムは、８枚。そして、ジョン＆ヴァンゲリスでも１枚と、とどまることを知らず絶好調。この曲は、オーケストラと少年合唱をバックに、天上的で清冽な美しさがどこまでも感動的だ。「愛は、太陽の光を与え、夜の時間を与える。地に至り、星々に歌う。僕らは変わらなければ。もう一度生きるために」
�� If I was / Ian McDonald [ Driver's eyes 1999 ]
イアン・マクドナルドは、雌伏の後、２０世紀も末になって待望のソロ・アルバムを発表してくれた。様々な曲調の作品があり、初期キング・クリムゾン風の重厚な曲も２曲。しかし全体にはリラックスした優しい曲が多い。この曲も、繊細で自省的な彼の内面性を感じさせる。この後、彼は、２１スト・センチュリー・スキゾイド・バンドの結成へと向かっていく。「僕が詩人だったら、言葉を知っているだろうし、俳優だったら、うまく演じるだろう。画家だったら、世界を描き直して、君に絵をあげる。でも、君と歩くとき、僕は上がりっぱなし」
�� You're not the only one / John Wetton [ Voice mail 1994 ]
ジョン・ウェットンは、アルコール依存症のためエイジアを脱退。しばらく静養したウェットンの再起作。この作品からウェットン３部作が始まり、それがウェットン＆ダウンズ、２１世紀エイジアへと連なって、怒涛の快進撃を繰り広げて行くことになる。美しいメロディーの曲ばかりで、彼のメロディー・メイカーの才能は、現在に至るまで枯渇することがない。この曲もラブソングがウェットンらしいが、悲しげで、陰影に満ちている。さすがはミスター・プログレ。
�� Farewell to arms（武器よさらば） / Emerson Lake & Palmer ( Kieth Emerson ) [ Black moon 1992 ]
改めて聴いてみると、ＥＬＰの再結成第１作「ブラック・ムーン」は名曲の宝庫で、特に最初の５曲の流れはみごととしか言いようがない。キース・エマーソンのキーボードも激しかったり、壮大でドラマチックだったりして、７０年代以上の表現力だ。かつての攻撃性は薄れたものの、男性らしい熟成されたへヴィネスがある。レイクが抱いた世界に対する不安と怒りに対して、エマーソンはみごとに応えるキーボードワークだ。
�� Something in between / Kevin Ayers [ Still life with guitar 1992 ]
ロンドンのアンチ・ヒーローと言われたケヴィン・エヤーズも、イギリスを嫌ってスペインの島に移り住んだ。７０年代に９枚、８０年代に５枚を出したにもかかわらず、９０年代には１枚だけ。一方で彼はだんだんと神格化されて、未発表音源などが多数出された。この曲は、つぶやくような静かな曲で、バックはピアノのみ。センシティブな感性を示している。
�� Lean on me / Moody Blues ( John Lodge ) [ Keys of the kingdom 1991 ]
ムーディー・ブルースのもう１人のフロント・マン、ジョン・ロッジは、ジェントリーな声で、ラブソングを歌う。いつもジャスティン・ヘイワードより少し明るめの曲調だ。それが、ムーディーズの作品全体に、良いバランスをもたらしている。「僕を頼りにして。いつも一緒だ。誰かが必要なら、祈りのときも、夢を見るときも。若かった頃のように、今夜も君を抱きしめる」
�� Fermer les yeux / Fredericks Goldman Jones ( Jean-Jack Goldman ) [ Rouge 1994 France ]
タイ・フォンのヴォーカリストだったジャン・ジャック・ゴールドマン。８０年代は、ソロのロッカーとしてフランスで熱烈な人気を博した。９０年代には新境地を求めて、２人のミュージシャンとの共演作を２枚残した。本作は、ＣＤであるにもかかわらず、銀色の鉄製の重厚なケースに入っていて、しかも、鉄の表面には彫刻が施してあるという豪華なもの。エスニックな女声コーラスで始まるが、ヴォーカルが始まると、ゴールドマン特有の叙情美の世界だ。
[次点] Meet me on the mountain / Ines ( Harald Bareth ) [ Hunting the fox 1994 Germany ]
８０年代プログレ界の希望の星だったエニワンズ・ドーター。そのヴォーカリスト、ハラルド・バレスは、７０年代のスターたちよりも１０歳ほど若いはずだ。彼は医学の道に行ってしまった。しかし、女性キーボード奏者イネスは、そのサウンドの正統的な継承者となった。純正のシンフォニック・ロックである。バレスの家族とも交流があった彼女のアルバムには、バレスが参加。ファーストでは４曲、セカンドで３曲を歌っている。透明なバレスの声は、少しくぐもったようにも聴こえるが、実にノスタルジックな声質とメロディーだ。
[番外] Bambino / Banco Del Mutuo Soccorso ( Francesco Di Giacomo ) [ Il 13 1994 Itary ]
バンコの歴史は、１９８５年でいったん途絶える。８０年代バンコは、ポップ・バンドとして成功しなかった。しかし、イタリア復興の潮流の中で再結成。９１年のダブル・アルバムは、ファーストとセカンドの再現であって、プログレとしてのバンコ復活を宣言した。それに続くのが、本作であって、フル・オリジナルのアルバムとしては、本作が最後なのだ。２１世紀のバンコは、リメイクのみになってしまう。髭面で太ったフランチェスコ・ディ・ジャコモは、美青年とはとても言えないが、いつも遥かさに届こうとするよく延びる声は永遠のごとく美しいのだ。
○ プログレ・美声の美青年１０選（２００７年３月３１日）
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