ジャスティン・ヘイワードの２０１３年新作は、ほとんどの曲が追憶で占められていた。６８歳になるとは言え、彼の曲というのは、若い頃から回想を歌った曲が、最も悲しくて美しかった。昔の別れた恋人を想う曲。多くの人々の共感を呼んだのは、それが彼の歌であると同時に、人々の追憶でもあったからだろう。
彼のたくさんの追憶の曲の中から、年代順に厳選１０選してみた。
・ 曲 ミュージシャン アルバム
[番外] Story in your eyes（愛のストーリー）/ Moody Blues[ Every good boy deserves favor（童夢） 1971 ジャスティン２５歳]
傑作「童夢」からのヒット曲。それまで、哲学的なモチーフの曲が多かったのに、突然、私的な悲しみを語り出した。ハードなギターで開始するが、哀切に運命を歌った歌だ。いきなり番外にしたのは、この時点ではまだ追憶になっていないから。
「僕たちの宿命に、罪はない。深い愛に変わりはないから。音楽は、君の瞳の物語。潮が、心の痛みを洗い流す。僕らは、燃え盛る炎。灰になったら、人生を再開できる。でも、僕は君の子供たちに脅える。待ち望む朝日も、雨に変わるだろう。いずれは終わり、幕が降りたら、愛の中に永遠よりも永く隠れるんだ」
�� Nights, winters, years / Justin Hayward & John Lodge [ Blue Jays 1975 ２９歳]
ムーディー・ブルースをしばらく休んで、盟友ジョン・ロッジと一緒に出したソロ作。メロトロンを使わず、壮麗なストリング・オーケストラをバックとした。７７年に出たファースト・ソロアルバムのジャケットでは、ジャスティンと思われる男が、囚人になっている。なんとも意味深なジャケットだ。
「夜、冬、長く寂しい歳月。愛を心に、傍らを過ぎて行った日々。痛み、悲しみ、涙。君のためなら、嘘の人生を生きることもできただろう。君のところへ行きたくて狂いそう。でも朝が来るまで、僕はここにいるだろう」
�� Running water / Moody Blues [ Present 1983 ３７歳]
生ギターとともに、ゆったりと歌う牧歌的な曲。８０年代のムーディー・ブルースは、ＡＯＲ（大人のロック）として、４枚のヒット・アルバムを残したが、本作はその第２作目。
「時は急いで通り過ぎて行った。秋の海は変わりゆく。君を必要としていると伝えたい。僕たちは耐えることができる。雲より遠く旅をする。ああ、流れる川。人々が何と言おうと、僕らはいつか、愛を生きる」
�� Your wildest dream / Moody Blues [ The other side of life 1986 ４０歳 ]
アルバムもこの曲も、全米９位。８０年代のムーディー・ブルースは、本国イギリスよりもアメリカでの人気が高かった。軽快なテンポに乗せて、昔の恋人に語りかけるジャスティンは、４０歳。この歳になっても、誰よりも美しい青年だった。６８歳の今も美しいけど。
「昔々。君が僕のものだった頃。君の瞳に映った空を思い出す。僕らの身体は、純白の一日をもたらす朝露だった。星々の下で、世界は僕らのものだった。音楽が始まると、悲しみに触れる。君はどこにいるのか。僕のことを思ってくれているのか。最も不思議な夢の中で 」
�� Vintage wine / Moody Blues [ Sur la mer 1988 ４２歳 ]
もっと軽快なテンポで明るい調子の曲となるが、何とも郷愁を掻き立てられる。生ギターに乗せたメロディーの美しさに加えて、歌詞が懐かしくてたまらない。明るいのに、悲しいのだ。
「 ６３年から６９年の年代物のワイン。思い出す。あの頃、僕らは若くて自由だった。君と一緒にいた時代。伸ばした腕で、未来を見ていた。古いギターから流れる歌。ライトが照らして、ガラガラのステージ。それに満たされていた。音楽が僕を自由にしてくれた。星空をさまよい、もう一度旅に出よう。君がいてくれるなら、僕らは今だって自由になれる」
�� Forever autumn / Justin Hayward [ Classic blue 1989 ４３歳 ]
オーケストラだけをバックに、かつての彼の名曲をジャスティンが一人で歌ったアルバム。この曲は、映画の中で用いられた曲らしい。悲しみの極致といったドラマチックなバラードだ。
「 夏の太陽は色あせ、光線は弱くなっていく。冬の風はもっと冷たいことだろう。秋の空に渡り鳥が一羽、また一羽と消えて行く。彼らと一緒に飛んで行ってしまいたい。僕の人生は、永遠の秋。だって、君がいないから」
�� Hope and pray / Moody Blues [ Keys of the kingdom 1991 ４５歳 ]
９０年代になっても、ムーディーズは、精力的に活動しているのだが、９３年のレッド・ロックスでのライブを最後にしばらく休憩に入る。この時期になると、アルバムの曲は、大半がジャスティンの作品によって占められるようになった。
「ヘッドライトが壁を照らす。訪問者のようだ。呼び鈴を押す。毎日、僕は望み、祈る。それが君であるように。秋から冬へ、冬から春へ、日々が過ぎゆくだけ。心の中で、あの頃の夏の太陽は今も輝いている。君の手が顔に触れるその感じを夢に見ている」
�� Broken dream / Justin Hayward [ Views from the hill 1996 ５０歳]
ジャスティンもこの年、５０歳。ムーディーズの休止期間中に、ソロ・アルバムを出した。この曲は、その中でも最も悲しい曲。お気に入りの曲らしくて、今のライブでも演奏されている。
「幻が閉じて、夢が壊れる。朝が陽を運ぶ。日々は過ぎた。優しい夏の雨のように、涙が流れる。月光が部屋に差すと、囁きが夜の中に聴こえる。今も君を愛しているし、これからもそうだろう。どこか遠いところで、子供たちが遊んでいる。手を広げて、笑う。丘の上から陽が消えて行く。ドアを閉めて、さよならと言う。もう戻ることは、できない」
�� Foolish love / Moody Blues [ Strange times 1999 ５３歳 ]
５３歳、この歳になると、思い出も浄化されているのだろう。オーケストラをバックにしたアップテンポの軽快な曲だが、イントロが始まると、もう心穏やかではいられない。明るくて悲しい。これ以上に美しい曲がこの世にあるのだろうか。
「僕らは夏の野原を駆け抜けた。空の星々に歌い大地を讃えた。その夜、腕の中の君は僕を離さなかった。美しくて輝かしい日々。愚かな心、愚かな恋。叫んでいた怒った声を思い出す。あの頃愛していたように、今も君を愛している。危うさも疑いもない」
�� December snow / Moody Blues [ December 2003 ５７歳 ]
２１世紀になってからは、ムーディーズのスタジオ作品は１作だけだ。クリスマス・アルバムなのだが、ここでもジャスティンは、悲しみの追想を歌っている。５７歳、今の私と同じ年頃、人生の秋である。
「森に降る１２月の雪のように、あまりに早く君は行ってしまった。１０月の空、君は恋をもたらして、１１月には僕のすべてを奪っていた。秋の世界で、君の愛に触れて、太陽は明るく、歌が聴こえていた。葉が散って、君の呼ぶ声が聴こえる。時よ、悲しみをぬぐい去れ。暖かな９月に連れ戻してほしい。人生は、１２月の雪のようだから」
�� Lazy afternoon / Justin Hayward [ Spirits of the western sky 2013 ６７歳 ]
１０年も待ったけど、遂にスタジオ・ソロ・アルバムが出た。本作とともに、ジャスティンはツアーを行っているらしい。今年、ライブ・アルバムも出た。ジャケットは、沈む夕日を見る後ろ姿。彼の音楽には、いつも孤独な情感が込められている。
「もの憂い午後に、陽が沈み始める。そして思い出す。いつも真実であろうと君と誓い合った日々を。君はどんな人生を送ったのだろうか。君はあの日々を思い出すだろうか。すべての秘密、涙、言葉、嘘は、人生のために書かれて、そして永遠となるだろう」
○永遠の吟遊詩人たち／ムーディー・ブルース（２００７年５月６日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=425348013&owner_id=9666295
○蒼い貴公子／ジャスティン・ヘイワード１０選（２００７年６月９日）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=460220552&owner_id=9666295
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