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TBSテレビの 「世界ふしぎ発見!」 は、
ウソ語源を吹聴する常習犯
なんすね。
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世界の未踏の地を訪れては、貴重な映像をとらえてくるいっぽうで、
クイズとなると、なぜか、
きわめてセンスがない語源モンダイが好き
なんですよ。制作スタッフに、そういう性格の人がいるんでしょう。
Wikipedia あたりに書かれている
まったく裏付けを欠く俗説や、
俗説と呼ぶさえ、はばかられるインチキ語源説を
オクメンもなく拾ってきて、
番組のカナメとも言えるクイズの問題に採用しちゃう
んだよね。
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あたしが、今まで指摘しただけでも、
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2007年2月 「アア溶岩」 の 「アア」 の語源。
2007年6月 「ドル」 の語源はチェコの地名 (説明不足)。
2007年7月 グランドキャニオンから、
4000年前の 「馬のオモチャ」 が見つかったと主張。
※語源ではなく、英語のサイトで 「鹿」 と書かれていることを無視。
2007年11月 「ヨーグルト」 の語源。
2007年11月 「ノーメンクラートル」 と
「ノーメンクラトゥーラ」 の取り違え。
2010年9月 「玉の輿」 の語源。
2011年3月 長崎方言で凧を指す 「はた」 の語源。
2013年2月 「ペンギン」 の語源。
2013年3月 「ガラパゴス」 の語源。
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と、この通り。2008年から2009年はモンダイがなかったわけではない。
のれんに腕押し、糠に釘のような
「ふしぎ発見」 の揚げ足をとるのに絶望した
といった感じだったのでありますよ。
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「おんぶ」 関連の詳しい説明をしておきましょう。
【帯ぶ (佩ぶ)】 [おぶ]
720年 身につける。
※のち、上二段活用に転じて 「帯びる」
1543年 種子島にポルトガル商人が漂着。これが日本に上陸した最初。
1639年 ポルトガル船の日本入港が完全に禁止される。
【負ぶう】 [おぶう]
<東日本でのみ使われた 「帯ぶ」 の異形>
1770年 背中に荷物や子どもを背負う。
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■この語の方言形■
ウブ (福島)
ウブー (福島・栃木・茨城・埼玉・千葉・山梨・静岡)
ウンブ (山形・福島)
ウンブー (栃木)
オバル (青森)
オブ (岐阜・愛知・伊賀)
オボフ (山梨)
オボル (青森)
オンバ (愛知)
オンボ (秋田・伊予)
オンボル (青森)
ブ (岩手)
ブー (秋田・茨城・栃木・埼玉・埼玉・千葉)
ボー (静岡)
ンブ (山形)
ンブー (栃木)
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【負ばる】 [おばる] <方言>
18世紀 子を背負う、背負わされる。(長野・山形・新潟)
【負んぶ】 [おんぶ]
1807年 子どもを背負うこと。また、背負われること。
【負ぶる】 [おぶる]
1913年 背中に荷物や子どもを背負う。
※「おぶう」 の活用形である 「おぶって」 などから
類推で出来た逆成語。
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「おんぶ」 という語は、
【おぶ】 (帯ぶ) という動詞から、【おぶう】 という
異形を生じた東日本の方言
ということができます。
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その地域は、
愛知・岐阜より東の東海道沿いを起点に、
関東全域、東北全域
といった地域です。
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江戸中期まで、特に東日本で、
日本語の濁音の前には 「ン」 が先行して存在した
んですね。現代でも、東北弁にその現象が見られます。つまり、
【おぶう】 の実際の音は 【オンブー】
だったわけです。
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文語では、濁音の前の 「ン」 が消滅しましたが、口語には、その名残が、現代でも、しばしば見られます。
【とび】 と 【とんび】
【かば】 と 【かんば】 (樺)
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「おんぶ」 は幼児語ですが、「ン」 じたいは、もともとの口語にあったものでしょう。
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【おんぶ】 は 【おぶる】 から生じた、と考えるムキもありましょうが、
その初出年には100年以上の開きがある
ので、その可能性はないでしょう。「おんぶ」 は 「おぶう」 という動詞そのものと考えてよろしい。
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【おぶう】 という動詞は、現代人からすると、まったく奇妙でしょうが、
1799年 誹風柳多留(江戸) 「当てもなく二条通りをおぶい出し」
1869年 真景累ケ淵(東京) 「私が負(オブ)いたいが、
包を背負(しょ)ってるから負(オブ)う事が出来ないが、
私の肩へしっかり攫(つか)まっておいでな」
というぐあいに、「おぶる」 ではなく、
おぶわない、おぶいます、おぶう、おぶうとき、おぶえば、おぶえ
という活用で使われてたんですよ。しかも、明治時代初期の圓朝の落語に、しっかりと 「おぶいたい」、「おぶうこと」 と出てきている。
【おぶる】 の初出が大正2年なんだから当たり前
でさぁね。
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関西では、「おんぶ」 のことを 【おっぱ】 と言うらしい。動詞の場合は、【おっぱする】。
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現在の関西人が、まったく 「おんぶ」 を使わないのかどうか、アタシにはわからないんだが、おそらく、明治に入って、東京の山の手コトバ (武家町のコトバ) が、徐々に標準語の土台となるまでは、西日本では 「おんぶ」 は使われていなかったに違いない。
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【おっぱ】 の語源はどうもよくわからないが、【ぱっぱ】 と言うところも多いようですね。
【おっぱ】 三重・大阪・奈良・和歌山・広島県・徳島・香川・愛媛。
【おっば】 三重
【おっぱい】 和歌山
【おっぺ】 島根県
【おっぽ】 京都・大阪・青森・滋賀・愛媛・大分
【おんぽ】 滋賀
【ほっぽ】 滋賀
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【ぱっぱ】 三重・大阪・奈良・和歌山・岡山・徳島・香川
【ばっぱ】 岩手・宮城・秋田
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かなりキレイに、【おぶう】 の分布域と色分けされますね。愛知あたりを境界線とした見事な 「相補分布」 です。
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特筆すべきは、青森・岩手・宮城・秋田に、西日本と同様の方言語彙が見られることで、これは、いわゆる、方言周圏論的な分布なのかもしれません。
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つまり、「おんぶ」 という語 (1807年初出) より以前の方言口語には、関東にも 「おっぱ」 あるいは 「ぱっぱ」 のタグイの語彙があったのかもしれないんですね。
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書きコトバというのは、時代がさかのぼるほど、「公式の言語」 で書かれることが多かったので、
古い時代の口語語彙、方言語彙というのは、
どんなものがあったのか、なかなか考証しづらい
んですね。一度も文字にならずに消えていった口語語彙というのは、ひじょうに多かったに違いないのです。
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ポルトガルとの関係で言えば、
日本がポルトガル人と接触を持っていたのは、
1543年〜1639年と、100年に満たず、
しかも、【おんぶ】 という語の初出は、
日本からポルトガル人が追放された168年後
なんですね。「おんぶ」 が文字になったのが遅いとみなして、その初出を50年早めたとしても、
ポルトガルと日本の縁が切れた118年後に、
日本人が、ポルトガル語 ombro [ˈオンブロ] 「肩」 を
借用して、なぜか、東日本でのみ 「おんぶ」 として借用された
というムチャクチャなことになってしまうんですね。
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日本の昔の国学者は、ポルトガル語の ombro と日本語の 「おんぶ」 が似ている、ということで、
「おんぶ」 はポルトガル語からの借用語
などと唱えることがありました。しかし、それは、
日本語の用例を集めた辞書がなかった時代
の話であり、彼らは、時代的な考証をまったくおこなっていないんですね。というか、おこなえなかった。
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江戸時代とか、明治時代の権威ある学者が、
「お転婆」 の語源はオランダ語 「オッテンバール」
などと書いていたからといって、それに重要な意味があるわけではありません。
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彼らからしても、100年前、200年前、500年前のコトバについて、その語源説を唱えているわけですから、2013年のワレワレから見ても、
その時間的へだたりは五十歩百歩
なのでして、
昔のヒトだから、その言っていることが正しい
などと考えてはいけないのです。
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こと、日本語の語源に関しては、昔の学者のいうことは、
ほとんど 「無価値」 だと考えていい
でしょう。
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