mixiユーザー(id:809109)
2011年12月13日11:38
1627 view
「きずな」 は 「糸半」 と書いてはいけないのか。
昨日の 「ネプリーグ」。
…………………………
漢字の書き取り問題なんだけど、
「きずな」 を漢字で書く
という問題が出た。
で、名倉さんが、
糸半
という字を書いたが、正解とは認められなかった。
名倉さんは、何がいけないのか気づいたようで、
絆
と書き直してパスした。
…………………………
もう、つくづく、こんな無益な 「国語教育」 はやめるべきだ、と思うわけ。
順を追って話そう。
…………………………
そもそも、江戸時代の寺子屋では、子どもたちは、
毛筆で、草書を学んでいた
のである。だから、江戸時代に書かれた文書は、今の日本人には読めないわけだ。
文字の字体は筆記用具が決める
これは、言語学の常識だ。筆というのは角張った文字を書くよりも、草書・行書のような、運筆が変幻自在の字体を選ぶ。
もちろん、筆で 「楷書」 を書く、ということも、なかったわけではないが、「楷書」 を書くときは、ゆっくりと書かねばならない。時間がかかる。つまり、日常の用に足りないのである。
…………………………
ところが、明治時代に入って状況が一変した。問題点が２つある。
(a) 学校で楷書を教えるようになった。
(b) 一般の書物に 「活版印刷」 が用いられるようになった。
(a) の、子どもが 「楷書」 を学ぶようになったことは、必ずしも問題ではない。ただ、楷書を学ぶようになったことが、のちに起こる問題の発端となるのである。
(b) の 「活版印刷」 は大いに問題であった。
江戸時代まで、手書き文字は、筆による 「草書」 だったのだが、
「活版印刷」 の字体に選ばれたのが 「楷書」 ではなく、
『康煕字典体』 という中国の漢字字典の字体だった
のだ。
このあたりが、どうも、一般の日本人には理解しにくいことなのだ。
【レベル１】 …… 「草書・行書」 の手書き文字
【レベル２】 …… 「楷書」 の手書き文字
【レベル３】 …… 「楷書」 の印刷文字
──── 幕末 ────
【レベル４】 …… 「康煕字典体」 （こうきじてんたい） の印刷文字
──── 太平洋戦争 ────
【レベル５】 …… 戦後の 「新字体」 の印刷文字
漢字には、この４つのレベルがある。そもそも、活字や、電子文字じたいが
デキソコナイ
なので、ネット上では説明しづらいのだが、一部の文字では説明が可能だ。
【レベル２／楷書】 …… 説 緑 僧 朗 歴 蝋 亀
【レベル４／康煕】 …… 說 綠 僧 �董�歷 蠟 龜
【レベル５／戦後】 …… 説 緑 僧 朗 歴 蝋 亀
上の一連の例を見てわかることは、
「戦後の新字体」 ＝ 「もともとの楷書体」
だということだ。
…………………………
活字の鋳造というのは、在中国の宣教師たちが行ったことである。それは、キリスト教の布教のために中国語を印刷するためであった。その際、
欧米の宣教師たちは、中国人の、普段、書いている文字ではなく、
『康煕字典』 という由緒ある漢字字典を “字体の拠り所” とした
これが、すでに間違いだった。「康煕字典」 というのは、
漢字の “本源” を究めようとするあまり、
実際に使われている字体を無視して、
古代の 「篆書」 を参考にした
のである。
いうなれば、「康煕字典」 という漢字字典は、学者の “独りよがり” による、懐古趣味の産物であった。それを活字の典拠にしてしまったために、
早く言えば、“幽霊文字” が “正しい字” とされてしまった
のである。
やたらに 「正字」 に拘泥する人は、「歷」 の内部の 「禾」 であるとか、「��」 という字の 「良」 の部分の 「ノ」 の一画が重要と考えるのだが、
漢字の歴史の大部分を占める 「行書・草書〜楷書」 という
使用字体では、「歷」 の内部の 「禾」 の上の 「ノ」 も、
「��」 という字の 「良」 の 「ノ」 も書かれたことがない
のである。
「康煕字典」 を編纂した学者が、ペダンチックに、古代の字体から、余計な画を引っぱってきて、勝手にプラスしたものだ。
…………………………
つまり、日本の戦後の新字体とか、
革命後、中国で定められた 「簡体字」 に対応する 「繁体字」
というものは、
活字体として 「康煕字典体」 がはびこる前の普通の手書きの楷書体
に戻っただけなのである。
こういう例は、枚挙にいとまがない。そもそも、「辶」 （しんにょう） の点は、昔から１つであって、
正字とされる 「康煕字典体」 の 「辶」 がおかしい
のである。
…………………………
もっとも、戦後の新字体にも問題があって、たとえば、「令」
などは、楷書に戻るのであれば、下を 「マ」 にすべきだった。
実際、中国では、繁体字でも簡体字でも、この部分を 「マ」 と
しており、「卩」 のような字形は出てこない。
こうしたところまで論ずると、話は、さらにややこしくなるし、
ネットの文字では例示ができないので、軽く触れるだけにする。
…………………………
戦後の新字体の最大の問題は、
「常用漢字」 のみ、こうした “字体の先祖返り”
を行って、いわゆる、表外漢字をホッタラカシにした点なのだ。
そこで、
「康煕字典」 をバイブルとあがめる四角四面バカ
が登場するのである。
これが、昨日の 「ネプリーグ」 の正体
というわけだ。
ちなみに、「漢字検定」 では、表外漢字の字体に、新字体の字形を使ってよいそうである。これを、
「拡張新字体」
という。一時、「朝日新聞」 がこれを使用していたが、世間の風当たりが強かったようで、現在では使っていない。
…………………………
申し添えておくが、戦後の日本の新字体が、すべて、かつての手書き文字に
戻ったというわけではない。
ごく一部の例をあげるなら 「番」 のたぐいは、もともと、上の 「ノ」 が
なかった。「康煕字典体」 が残った。
あるいは、「高」 という字は、ほぼ、必ず 「��」 と書いていた。
よく、ウチの名字は 「高橋」 だ、ウチの名字は 「�盒�」 だ、という
主張があるが、これはカン違いである。
明治以降に、「高」 という活字体が登場したために混乱したのである。
戸籍の文字に何が使われているか、というのは、明治から戦前にかけては、
たいていは、役所の担当者の “書きグセ” が残ったものに過ぎない。
それを、子孫が、「ウチは代々 “�盒供� だ」 というように思い込むのである。
江戸時代なら、すべて、「�盒供� であった。
…………………………
結論を言えば、「きずな」 という字は、
「絆」 と書こうが、「糸半」 と書こうがどっちでもいい
のである。こういうところにラインを引いて、○×をつける、というのがヘンなのだ。
5
0
ログインしてコメントを確認・投稿する