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2011年12月09日08:19

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贈り物

会社の会報用に書きためた文章があるので、久しぶりに日記にアップする。
ま、大した文章じゃないけど。


これまでの習いなのか、この時期になると年賀状を書かなければと気が急いてきます。

 書店には年賀状の印刷用素材のムックが所狭しと平積みされ、郵便局員はノルマの年賀はがきを売りさばくべく営業をかけてきます。でも、そうした目立つ動きとは裏腹に、年賀状が出される数は2004年をピークに年々減少しているようです(2007年の郵政民営化以降、データが公表されなくなったので実態はよくわかりません)。eメールの普及により、わざわざお金と手間をかけて挨拶状を出す必要性が薄れたことと、2005年に施行された個人情報保護法で他人の住所が機密扱いされるようになったため、気軽に出せなくなったのが減少の原因と言われています。

 そもそも年賀状の起源は、奈良時代の昔から土着的に根付いていた年始回りの挨拶行事で、相手方が不在の場合に書き置いた書状(名刺のようなもの)が始まり。それが江戸武家社会で訪問の代用として使用人などに届けさせるようになり、明治以降の近代郵便制度の確立に伴いその習慣が庶民に急速に普及していったというもの。つまり「挨拶の徴し」「挨拶の代用品」だったわけです。

 去年、年賀状離れを食い止めようと、日本郵便が制作したCMで「年賀状は、贈り物だと思う。」というものがありましたが、これはなかなか巧妙なコピーでした。年賀状を徴しや代用ではなく、それ自体を贈り物という目的にしようというアイデア。
 これが「連絡」や「けじめ」だと言ったら、「なら、eメールで十分」「だったら電話や訪問してきちんと」となってしまいます。ところが贈り物というのは出す側の一方的・個人的な気持ちの表れであり、贈られた側はとりあえずそれを喜んで受け取らなければならない約束になっているものです。さらに年賀状というのは飾ったり使ったりするものではないので、贈られて「センスが合わない」とか「邪魔で迷惑」といわれることもない。贈る側としては気軽に出すことができます。「お中元」や「お歳暮」のような扱いで、しかもお安く、相手の都合や中身を考える必要がない、まことに便利な「贈り物」というわけです。

 贈り物としての年賀状。それはつまり、贈り物が持つ儀礼的要件だけを抽出したもの、と言うことができるでしょう。同じように儀礼的要件が体現化されたものに電報があります。今や電報を緊急時の連絡に使う人は皆無でしょう。もっぱらそれは冠婚葬祭の儀礼的挨拶として用いられます。刺繍や水引などが施された数千から数万円もする電報はまさしく「贈り物」なのですが、一応形としては「通信」扱いになるので、議員が選挙区内の人に贈っても公職選挙法に触れることもなく、儀式には出席しなくても礼を失しない程度の贈り物としての体裁がある、まったく便利な儀礼ツールとなっているわけです。

 電報で不思議なのは、文面の文字数によって料金が変わること。今の通信手段ではコストは変わらないはずなのに値段を変えているのは、かつて一字一字モールス信号で送っていた頃の名残で、そんな「いかにも電報らしい」体裁を繕うために今もそうしているのだそうです。まさしく儀礼というシステムに相応しいやり方。値段は言い値であり、その設定はコストに見合ったものではなく、受け取った側にそれが高価なものであるという認識を与えるものであればいいわけです。それはちょうど、葬式の時に送られる戒名料と同じようなものと言えるでしょう。買う側がそのために出した金額が、その贈り物の「格」を決定するわけです。

 仏教が信仰心の薄れた現代においても生き永らえ、あまつさえ一部大儲けする寺院もあるのは、葬式という儀礼と結びついたおかげだと言われます。その経典のどこにも祖先崇拝や死者儀礼について書かれていないにも関わらず、葬式という生活に必要な儀式のために仏教に帰依しなければならないという形(戒名を貰うというのは仏陀の弟子になるということ)を作ったのは、存続するために仏教が開き直った結果という気がします。

 同じように、インフォメーション・テクノロジーの革命的な進歩の中で、通信としての役割を失いつつある郵便が生き永らえるためには、そうしたお手盛り経済としての儀式・儀礼と結びつくというのは得策なのかもしれません。近い将来、時代遅れとなっている郵便法が改正されたら、信書の配達の一般解放と同時に郵便料金の自由化となり、年賀状にも電報のような格の違いによる価格差が生まれる事も想像されます。販売部数の減少を販売金額で補うというのはありそうな話です。「贈り物」というコピーは、そこまで見据えて打ち出されたものなのかもしれません。
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