▲左から、尾上菊之助、中村時蔵、尾上菊五郎、尾上松緑
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日曜日は、歌舞伎を見てまいったよ。
『旭輝黄金鯱』
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「あさひにかがやくきんのしゃちほこ」 と読む。歌舞伎の外題 (げだい) ってえのは、縁起をかついで奇数文字にする。そして、その読み方は 「判じ物」 と選ぶところはない。どんな学者でも、初めて出会った外題は読めなくて当たり前。
漢文でもないし、宛字でもない
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これが歌舞伎の外題の特徴。まあ、「判じ物」。
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1782年 (天明二年)、大坂角座で初演された、並木五瓶 (ごへい) 作、
『けいせい黄金鱐』 (けいせいこがねのしゃちほこ)
という狂言の復活にござる。登場人物はと申すと、
小田春長 (おだはるなが) = 織田信長
…… 尾上松緑 (おのえしょうろく)
小田春長 実ハ 鳴海春吉 (なるみはるよし)
…… 尾上菊之助
柿木金助 (かきのききんすけ)
…… 尾上菊五郎
が主たるところ。
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柿木金助というのは、江戸中期に実在した盗賊で、今の愛知県海部郡 (あまぐん) の生まれ。最期は、名古屋市中引きまわしのうえ、ハリツケ獄門になっている。
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この柿木金助という盗賊には、この直後から伝説が囁かれるようになった。
大凧に乗って名古屋城の天守閣の金のシャチホコからウロコを盗み取った
と言うのである。
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仮面の忍者赤影なんぞで、人が大凧で飛翔する、という趣向があるが、こういう伝説、また、その伝説を再現して見せる芝居なんぞが下敷きになっているんだろう。
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尾上菊五郎が主任となる、この狂言は、正月らしい、ケレンに満ちた、ナンともワクワクする出し物なのである。
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江戸時代らしい、イカにもタコにも古くさい歌舞伎これぞ歌舞伎というヤリトリの場もあれば、
中国の聴覚障害者芸術団の “千手観音” と
EXILE の “チューチュートレイン” を合体させたような
伊勢の新興宗教 “キンシャチ様” のダンス
があったりする。もちろん、原作にはない “イレゴト” だろう。
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ケレンに満ちた、とは、これどころではないのである。まず、
柿木金助が大凧で名古屋城の屋根に降り立つ
という場。劇場の天井桟敷のあたりから、菊五郎丈が大凧に乗って飛んでくるのである。
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舞台には、名古屋城天守の最上階の屋根の巨大なるセットが出現している。自走する、その屋根のセットは、大きさで言えば、トレーラーぐらいあるだろう。その大屋根のセットは、舞台に対して斜めに置かれ、端は舞台からはみ出ている。
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赤い大凧は、柿木金助を乗せて、劇場の客席の上空を舞う。まっすぐ屋根に向かって降りてゆくのではなく。まるで、UFOキャッチャーのごとく、前後上下に移動しながら、なおかつ、凧じたい回転するのである。まさに、風に舞う大凧なのだ。
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このあと、柿木金助は天守の屋根に乗り移り、金のシャチホコに隠された
甲賀流忍びの秘伝書 「遠霞の一巻」 (とおがすみのいちかん)
を手に入れ、無敵の妖術を手に入れる。
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さらに、その妖術をもってして、柿木金助は天守閣の金のシャチホコとともに飛び去るのである。ムチャクチャデゴザリマスルガナ……
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歌舞伎では、ひとまきの巻物を 「いちかん」 と言う。今では、本を、第1巻 (だいいっかん) などと言うが、これは明治以降の言い方であろう。重量や銭の
一貫 (いっかん)
と区別するために、巻物は 「一巻」 (いちかん) と言った。人工的に音便を避けたのである。
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さらに、柿木金助は、遠霞の一巻の妖術と、盗み出した名古屋城の金のシャチホコを使って、災害を巻き起こすのである。
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金のシャチホコに生命を吹き込んで、木曽川で大暴れをさせ、川を氾濫させるのである。
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ここが舞台の見せ所。ケレンの中のケレン。すげえ。
幕があくと、舞台に壮大な滝と、プールとが出現するのである。
滝からは、何トンの水量か、と思われるほどの水が落ちている。
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そして、
滝の中から出現する巨大な金のシャチホコと
下帯いっちょうの鳴海春吉 (尾上菊之助) が
この滝とプールでもって、ウルトラセブン対ナースの対決よろしく
クンズホグレツの戦闘をくりひろげる
のである。
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この戦闘に春吉が勝つと、幕が閉まる。そして、ふたたび、幕が開くと、
そこには、満開の菜の花が広がる春の野の景色が現れる
のだ。マジックであり、イリュージョンである。あの大量の水はどこへ消えたのか。
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1月27日 (水) まで。
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こういう大仕掛けの舞台は、国立劇場だからこそできる狂言だと考えてよろしい。これを見ないのはもったいない。あぁたの払った税金も使われているのである。
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