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2007年08月30日18:27

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「マイム・マイム♪」

  ▲インマヌーエル・アミーラン。



〓きのう、「クイズ! ヘキサゴン」 を見ていたら、

   ヘブライ語で 「水だ! 水だ!」  という意味の
   フォークダンスでおなじみの イスラエル民謡は何でしょう?


という問題が出ていました。
〓ええ、にれのやは、“語学バカ一代” ですが、雑学王ではござりません。これは知らなかった。今、Google で検索してみますと、

   “マイム・マイム” “イスラエル民謡”
        → 596件

である。どうやら、雑学が趣味のヒトのあいだでは有名らしい。
〓しかし、にれのや、“語学バカ一代” です。この問題を聞いたとたんに、すべてを悟りました。そうか、

   “マイム・マイム” はヘブライ語であったか!

〓そうなんです。



  【 「マイム・マイム」 】

〓この歌は、ソ連邦からイスラエルに移住した

   インマヌーエル・アミーラン
    (英語表記 Emanuel Amiran)
   עמנואל עמירן ‘Immanū’el ‘Amīran

が作曲した “イスラエル民謡” (Israeli holiday song) です。
〓インマヌーエル・アミーランは、1909年、当時、ロシア帝国領であったワルシャワに、

   Эммануил Пугачев
    Emmanuil Pugachov
    [ エンマヌ ' イーる プガ ' ちょーフ ]
    エンマヌイール・プガチョーフ

として生まれました。15歳のときに、革命後のソ連邦から、現在のイスラエルの地に移住してきました。当時は、イスラエルは、まだ、存在せぬまま、世界中からシオニストたちがパレスチナに移住してきている最中でした。
〓イスラエル国が独立宣言を行うのは、まだ、24年後のことです。

〓そのような状況下で、パレスチナのユダヤ人のために “新民謡” を作曲していたのが、インマヌーエル・アミーランで、その作品のひとつが、

   ושאבתם־מים 
    u-sh’avtém máyim
    [ ウシュアヴ ' テム ' マィイム ]
    (あなたがたは) 水を汲むであろう

です。1937年 (昭和12年) に、ナアン (Na’an) というキブツで 「水の祭典」 が行われた際に、Else Dublon (伝不詳。女性であろう) という人物によって振り付けがなされ、アタクシどもの知っておる 「マイム・マイム」 になったわけです。

〓この 「あなたがたは水を汲むであろう」 というケッタイな句は、旧約聖書 (ヘブライ語) から取ったものです。

   ושאבתם־מים בששון
      ממעיני הישועה׃ 

    u-sh’avtem mayim b-sāsōn
       mi-ma‘yānē ha-yshū‘āh
    [ ウシュアヴ ' テム ' マィイム ブサーソーン
       ミマァヤー ' ネー ハイェシューアー ]
    直訳=(あなたがたは)水を汲むであろう、
       喜びとともに、
       救い (救済) の数々の泉から。


    新共同訳聖書=「あなたたちは喜びのうちに
       救いの泉から水を汲む」


イザヤ書 12:3 からの引用です。あとは、この聖書の句の中の単語を組み合わせているだけです。日本では、

   マイム・マイム・マイム・マイム、マイム・エッサッサ♪

とか、

   マイム・マイム・マイム・マイム、マイム・ベッサッソン♪

なんと言って歌っていますが、正しくは、

   マイム・マイム・マイム・マイム、マイム・ブサーソーン♪

です。「エッサッサ」 は、ともかく、「ベッサッソン」 というのは、ラテン文字による

   be-sasson

という転写が原因です。2番目の s を [ z ] に読まれないために -ss- としています。
b [ ブ ] というのが、前置詞 in であり、sāsōn [ サーソーン ] が名詞 「喜び」 です。「喜びの中で」 というのは、要するに 「喜びとともに」、「喜んで」 ということです。
〓「新共同訳」 以前の日本語訳聖書では、水を汲む場所を 「井戸から」 としているようですが、מעינ 「マァヤーン」 という単語は、むしろ、「泉」 の意味で、“井戸も意味しないことはない” 単語のようです。



  【 水は2つ? 】

〓このヘブライ語の

   מים máyim [ ' マィイム ]

という単語は、奇妙なことに 「双数形」 という形をしています。
アラビア語、ヘブライ語などのセム語派、あるいは、それに近い古代エジプト語には、

   単数形、双数形、複数形

という、数に関する3つのカテゴリーがありました。
〓これは、古典ギリシャ語などにもあるもので、インド=ヨーロッパ祖語にも存在した可能性があります。

〓単数形、複数形は、英語でオナジミでしょう。「双数形」 (そうすうけい) というのは、2つのものを表す 「名詞、形容詞の変化形」 です。
〓「目、耳、手、足」 など、ニンゲンの身近なものには、2つで一対になるものがあったことから生まれた概念でしょう。

〓インド=ヨーロッパ語族では廃れてしまいましたが、アラビア語などではシッカリ残っています。

〓ヘブライ語にも双数形があり、つねに [ -ájim ] で終わります。
〓双数形を取る名詞は、

   “日”、“時間” など 「時や回数」 に関わる名詞
   “靴”、“靴下” など一対で用いられるもの
   “目”、“耳” など一対の体の器官

あるいは、「メガネ、ハサミ、ズボン」 などの “対称形” を思わせるものなどです。最後の例は、英語で 「複数形」 を取るものであり、ニンゲンの発想の共通性を思わせて愉快です。

〓そして、きわめて例外的に、

   מים máyim [ ' マィイム ] 
   שמים shāmáyim [ シャー ' マィイム ] 

は双数形の形を取っています。
〓アラビア語の 「水」 は、

   ماء  mā’ [ ' マーッ ] 水

で単数形です。

〓ところでですね、

   M という文字が何の象形か?

考えたことがあるでしょうか?
〓これは、古代エジプト語を表記していたヒエログリフの “水” にさかのぼります。古代エジプト語では、

   nt 

と言いました。nt だからと言って 「ヌト」 と読むわけではありません。母音が表記されていないので、何と発音したかわからないのです。nat かもしれないし、net かもしれない。


   フォト
    ▲表音的に用いられたヒエログリフの一覧。
     N音の表記に “水” の象形文字が使われている。

   
〓まあ、それはさておきまして、古代エジプト社会と接触したセム人 (何らかのセム語派の言語を話していた人々) は、このヒエログリフの 「水」 を借用して、自分たちの言語の m 音を表記しました。というのも、セム語では、すでにヘブライ語・アラビア語で見たように、「水」 という単語が m- で始まるのです。
〓かくして、セム人に借用されたヒエログリフの 「水」 は、やがて、地中海の海上交易、カルタゴなどの植民によって栄えたフェニキア人によって 「M」 に近い “アルファベット” となります。
〓これをギリシャ人、そして、(イタリアの先住民の) エトルリア人が借用し、さらに、ローマ人がエトルリア人から借用して、現代のヨーロッパで広く通用するラテン文字

   

となったんです。つまり、M という文字には、

   (1) エジプト人による 「水」 の象形
   (2) セム人による 「水」 の発音

が融合して伝わっているんです。


〓次に、「マイム・マイム」 を口ずさむときには、古代エジプトから、イスラエル建国までの、中東の時間を一瞬にして思い描いてみては、どうでしょうか。
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