mixiユーザー(id:7106525)

2009年08月30日12:28

102 view

池谷裕二『進化しすぎた脳』

目茶苦茶面白かった。まったく、このような素晴らしい本が古本屋で500円で買えるとは、ラッキーだった。

229ページ
---- [start] quotation ----
 人間の記憶や思考がこんなにあいまいなのはなぜか。その原因は何か。じつはその理由はシナプスにあるんだ。僕はさっき何気なく「スパイクが来たら、物質が放出されます」と言ったでしょ。ところが、この放出は〈確率的〉なものなんだ。(中略)しかも、その確率がシナプスによって違う。
---- [ end ] quotation ----

おおっ、そうだったのか。

347〜348ページ
---- [start] quotation ----
 この実験の研究者たちは、正解と不正解を決定する因子を探そうとした。彼らは、被験者が単語を覚えている時の脳波を計測して、驚くべき事実が見つかったんだ。なんと、正解するか不正解するかは、その問題の難易度でなくて、被験者の脳のゆらぎが決めていたんだ。その単語を暗記する直前の「脳のゆらぎ」で決まっている。

 測定された被験者の脳波を見るとわかるんだけど、単語を提示するよりも、なんと約2秒も前の時点ですでに、テストで正解になる場合と、不正解になる場合とでは、脳の活動が違う。つまり、問題の内容にかかわらず、2秒前の時点で正解か不正解かが、実験者にはわかる。

(中略)

論文によれば、この脳の状態の差は、集中力とかそういう問題じゃなく、もっと純粋な脳のゆらぎに起因するようなんだ。
---- [ end ] quotation ----

ぐへっ、これは衝撃的。物事を記憶できるかどうかは、脳のゆらぎの状態によるってことか。覚えられないときは、どう頑張っても覚えられないわけか。不思議な現象の原因が解った気がする。

354ページ
---- [start] quotation ----
(学生) とすると、ゆらぎは何のために存在するのでしょうか?

これも僕の仮説なんだけど、ゆらぎがもたらす不確実性が生物には必要だと思うわけ。

 環境は絶えず変わるから、当初はAという選択がベストだったとしても、将来は損をする可能性がある。ということは、たまにはBを選んで、Aと比較しないといけない。だから、一度Aを選んだら「おれは一生Aだ」と決めつけるんじゃなくて、ときどきゆらいでBを選択することも必要だ。このように選択行動にファジー性を含有させることに、脳の自発活動が関係しているのかもしれない。
---- [ end ] quotation ----

なるほどぉ。

359〜360ページ
---- [start] quotation ----
(前略)

(学生) 本人にしか意識はわからないと思います。

 そうだよね。そもそも科学というのは「客観性」と「再現性」を重視する学問だ。となると、科学の俎上に、主観的な存在である「意識」を載せちゃいけないということになる。

 科学は万能で、あらゆる宇宙の現象を解明できるように錯覚している人もいるけど、実際には、科学研究の対象にできる現象は限られている。リンゴを放したら地面に向かって加速して落ちるような、誰にでも再現できるような現象なら研究対象になるけど、再現性や客観性に欠ける「心」とか「意識」といった問題を、はたして科学で扱えるんだろうか。

(中略)

(学生) 科学者のいうような客観なんてものは存在しないんじゃないでしょうか?時代のパラダイムやそれと共に形成される主観や客観にどうしても依存してしまう。

(学生) 客観だと思っているのも、自分の脳みそだから困ってしまいますね。

 そうなんだよ。そこがむずかしい。僕も高校生の頃とか大学へ入学したばかりの若かりし頃は、科学が大好きで、どちらかといえば科学至上主義みたいなところがあった。「科学的に説明ができないものは信じない」くらいの過激さだったのね。

 でも、最近は少し変わってきた。それにはいくつか理由があって、第1は「再現性」を重視する以上、科学が対象にできる現象はそんなに広くないという事実。第2は、もっと本質的な問題。僕がいま「科学的じゃないと信じない」と言ったよね。となると、「信じる信じないって何ぞや」という話になるわけ。「科学的なら信じる」という、その「信じる心」って一体なんですか、と。

(学生) やっぱりアレですよ……信仰(笑)。

 そう、もはや宗教だね、信じる信じないという話なんだからさ。思い切った言い方をすると、科学ってかなり宗教的なものなんじゃないかな。「科学的」というのは、自分が「科学的」だと信じて、よって立つ基盤の中での「科学的」なんだよね。そう考えると、科学ってかなり相対的で、危うい基盤の上に成立しているんだよ。
---- [ end ] quotation ----

ぐははっ。わーい(嬉しい顔)これは面白い。こういう議論、俺大好き。

「科学=宗教」とは。これは凄い。正に発想の逆転。

372ページ
---- [start] quotation ----
 そう。脳には再現性がないんだよ。二度と同じ状態にはならないんだ。

 でも、こういうことを学会とかで話すと、いろいろと猛反発を食らうんだ(笑)。そんなもんは科学じゃないと。だって、科学とは「誰がやっても再現できる」という再現可能なデータを基礎として成り立つ学問なわけで、「脳には再現性はありません」なんてこと言い出したら、これは結構、画期的というか、屈辱的というか、科学界では元来あってはならない主張なんだよね。だから、次善の策として、我々が言えることは、「『脳には再現性がない』という事実には再現性がある」という入れ子論なわけ。とりあえずは、それを主張し、他の研究者に納得してもらわないといけないなと思って、いま、僕は結構がんばっている。
---- [ end ] quotation ----

わはは。受ける。大変そうだな。ぜひ頑張ってください。指でOK

最後の「科学は役に立たなければいけないのか?」の議論も面白いが、引用は割愛する。

著者の池谷裕二先生は俺と同い年。1970年8月16日生まれとのこと。俺ととても近い。あっ、ついこの前39歳になられましたね。ウインク俺は明日です。手(チョキ)


Profile of Gaya
http://gaya.jp/myprofile/index.htm
---- [start] quotation ----
映画

S. キューブリック監督「バリーリンドン」と E. ルビッチ監督「生きるべきか死ぬべきか」などが好き。
---- [ end ] quotation ----

おおっ、「バリーリンドン」が好きなのか。あれ、長くてちょっと退屈なので、俺余り見ていません。あせあせ今度また見てみます。


心[2009年07月28日]
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1238414991&owner_id=7106525


俺は俺型[2009年06月09日]
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1192300869&owner_id=7106525
コメント:朝永振一郎『鏡の中の物理学』の伊藤大介埼玉大学教授の解説



Amazon.co.jp: 進化しすぎた脳 (ブルーバックス): 池谷 裕二: 本
http://www.amazon.co.jp/dp/4062575388


「池谷裕二 進化しすぎた脳」でぐぐれ
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&num=100&q=%E6%B1%A0%E8%B0%B7%E8%A3%95%E4%BA%8C+%E9%80%B2%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%99%E3%81%8E%E3%81%9F%E8%84%B3

「池谷裕二」でぐぐれ
http://www.google.co.jp/search?hl=ja&num=100&q=%E6%B1%A0%E8%B0%B7%E8%A3%95%E4%BA%8C
0 3

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する